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第十二話 力の使い方

 昨晩の一件から明けた朝、征伐隊の方々は予定通り千歳をおいて何人かの集落の人間達と共に街の上流の山々へと向かい始めた。


 そして、俺達はというと……。


 「気持ち悪いのじゃぁ………」


 「………」


 二日酔いのミタモの介抱に俺は追われていた。


 「気持ち悪いのじゃぁ、おぶってくれぇぇ……」


 「ねぇ、馬鹿なのお前?

 昨日アレだけ格好つけてこれか?

 本気で言ってる?」


 「ソレの何が悪いか小童!!」


 とうとうキレ返された。

 コイツはやっぱ駄目だ、そう思ってしまう……。

  

 「説明しろよ、ミタモ?

 何で千歳に対してあんなに構ったんだ?」


 「お主に言われたくはないわ!」


 「………、てか約束の時間そろそろじゃないのか?」


 「…………」



 それから間もなくして、街中を全速力で走り千歳の待つであろうかつてのミカ様の生家へと向かった。

 そして、向こうには既に千歳が来ており不機嫌そうに頬を膨らませ遅れてきた俺達を睨む。


 「遅い……、何やってたの?」


 「いや、その……」


 「コイツが二日酔い晒してたんだ」


 「あっそ………」


 そう言って、千歳は俺達二人に若干軽蔑の眼差しを向けるもため息を吐き、改めて口を開いた。


 「それで、私はどうすればいいの?」


 「まずはどの程度の事が出来るのか妾に見せよ」


 と、あくびを欠きながら彼女は千歳にそう告げた。


 「………分かった」


 そして、呆れながらも千歳はそう返し。

 彼女は地面を両手で触れ、力を流し込んでいく。

 血管のような青く煌めいた光を放つその光景に俺は思わず関心すら覚える。

 

 力が弱いと言っていたが、別にそこまで……。


 「それでは駄目じゃな」


 と、俺の関心を裏切るかのようなミタモの発言。

 彼女の基準では、まだまだなのか。 


 「………」


 「千歳。

 お主、母上から何も教わっていないのか?」


 「教えてくれる人は誰も居ませんでしたから」


 「なるほど………。

 どれ、まず始めに手本ついでに一時的ながらこの地の問題を解決してやろうか」


 ミタモはそう言うと、何処かへと向かった。

 俺達二人はその後を追うと、渓流にたどり着く。


 「………少し穢れとるがまぁ、あやつらが解決してくれるであろう。

 媒体はこれで良いか」


 ミタモはそこら辺にあった大きな岩に手を触れ、ソレをじっと見つめる。

 そして、それから間もなく彼女から光が放たれる。

 その背後には幾本かの金色の尾が現れたのだ。


 「………っ!!」


 触れたその手に僅かな力が込められる。

 そして、ミタモから生えた尾達は激しい光を放ち目の前の大岩へと力が放たれた。

 間もなく、その岩には亀裂が入りそして……


 「嘘でしょ……」


 ミタモの身体と同程度はあろう大岩は砕けた。

 そして岩の中心からは光輝く光玉のような物が宙に浮かびながら現れたのだ。


 「代用品としてはまずまずかの。

 ほれ、千歳」


 そう言って、ミタモは光輝く玉を千歳の方へと受け渡した。

 光の玉ら彼女の両手に乗る程の大きさであり、素人目の俺でもわかる程に強い力を感じ取れた。


 「これは一体?」


 「魂玉コンギョク、妾が水の力をソレに込めたのだから……そうじゃなぁ、水玉スイギョクとでも名付けようかの」


 「水玉?」


 「ソレは妾が水の力を込めたモノ。

 この街で最も流脈が集まる場所にでも適当に奉っておけば数年はこの地の水質を保てるであろう。

 じゃがこれはあくまで代用品、本来は水晶等の宝石の類いを用いるのじゃが、妾のやったモノとはいえこれは粗悪品もいいところじゃからな。

 効果自体は妾が保証するが、あまりそう長くは保たん代物よ。

 故にコレの効果はせいぜい数年じゃ、お主がそれまでに力を得なければこの集落は滅ぶ」


 「……本当に強いんだね、あなたは……」 

  

 「妾より上の奴も居る、この程度ならお主の母でも出来たことよ。

 じゃが、お主でも恐らく出来る。

 千歳、お主の素質は十分ある。

 親の血統も良い、そして妾の姿を見ればその理由も自ずとわかるじゃろう?」


 「どういう意味?」


 「本当に分からんのか?

 妾達怪異は、強い力を持つ程に人間の特徴が現れその姿形が似てくるのじゃ。

 大半が人間の魂の力が集まって出来た怪異であるが故に、人間の魂から生まれたからこそ人間に似てくるという訳じゃな。

 このくらい、基礎の基礎じゃぞ?」


 「そうなんだ……、初めて知ったよ」


 「そうか、まぁとにかく。

 お主の姿は人間に限りなく近い、妾程度でなければ見分けがつかんくらいにはな。

 じゃから、怪異としての素質はかなり高い。

 あとはその力の制御、そしてあとは………畏れを得ることじゃ」


 「畏れ……」


 「そうじゃ。

 畏れというのは、怪異が力を得る為に必要なモノ。

 妾達怪異が魂の力を外部から摂取する為の、第二の食事とでも言えばいいか。

 畏れを得るために必要な要素は二つ、恐怖と信仰。

 このどちらか、あるいは両方が必要。

 お主の母が、守り神としてこの地の民から信仰を集めていたようにな。

 一応、他にも方法はあるにはあるが……」


 「他の方法?」


 「簡単な話じゃ、直接魂を食らえばいいんじゃよ。

 要は生贄があればいい、大多数の人間から微量の魂の力を分け与えてもらうよりも、直接一人の人間を食らった方が効率が遥かに良いんじゃからな。

 加えて、人を食らえばその余波で周りの人間から恐怖によっての畏れを集められる。

 コレは魂の力が弱い怪異程に出やすい傾向であり、ある種の飢えによる禁断症状とでも表現出来るかの」


 「っ!!

 えっ……それじゃ……私もいつか……」


 と、そんなミタモの話を聞き千歳は青ざめ口を抑えた。

 力の弱い自分が彼女の聞いた話のように人間を喰らってしまうとでも思い込んだ模様である。

 まぁ、確かに可能性は限りなくゼロに近い話ではあるだろうが……。


 「落ち着け千歳、お主はそうはならん。

 現に多少力を行使しても尚、人としての姿や人格を保っておる。

 許容範囲をわきまえればそうすぐには、禁断症状が出ることはあり得ん」


 「そう、うん……分かった」


 「じゃが、己の力の使い方を誤ればそうなる可能性もあり得る。

 安易に教えなかった、お主の母にもそういう考えがあったのかもしれん。

 じゃが、今のお主のやるべきことは己の力の使い方を覚えること。

 わかっておるな?、生半可な覚悟でやればお主ばかりか周りへ大きな被害が及びかねん」


 「………はい」 


 「妾達がここに滞在する期間もそう長くはない。

 せいぜいきっかけでも掴めれば良いな。

 まずは手始めに、自力でソレを奉るに相応しい場所を見つけてみよ」


 「どうして?」


 「わざわざ力の通りが悪い場所で、無理に力を込めるのは無駄な労力。

 さっさと行くぞ、千歳……。

 小童は、ほれ」


 そう言って、俺には一振りの刀を投げ渡す。


 「他のことは任せたぞ。

 では行くか、千歳」


 そう言うと、欠伸を欠きながらミタモは千歳を連れてこの場を去っていく。


 「………全く、面倒なことを押し付けやがって」


 頭を抱えながら、俺はミタモから渡された刀を引き抜く。

 これまでの一連を眺めていた不届きな輩が、俺達を囲み監視されていたのである。

 長の娘に対しての護衛にしては、わかりやすい程殺気を感じる。


 征伐隊の方が、そこら辺の気の扱いは上手い。

 三流かそれ以下、多分寄せ集め……。


 「隠れているのは分かってる。

 出てこい、俺が相手になってやるよ?」


 俺の声に反応し、現れたのは数人。

 一、二、三……六人か……。

 そして、そいつ等の足元には怪異らしき者まで……。


 つまり、神畏……。


 「我々を甘く見たようだな、小僧?

 連れも無しにこの数を相手に出来るとでも?」


 「はぁ……。

 俺はな、この地に来るまでに少し面倒な怪異と一戦やりあったんだ。

 大きな猪の頭をした、俺の体格の倍はあろうかという、それなり強かった怪異だ」


 「それが何だ?」


 「なるほど、ならお前達じゃないんだな。

 いや、違う……二人くらい知ってるような反応……」


 心当たりのある、二人の男が構えた武器を震わせカタカタと足腰が子鹿のようになった。


 「ハ…ハッタリに決まってる、アレを倒せる奴が居るわけない!!

 俺達が、やっと思いで追い払うので手一杯だった奴を……」


 「そうか、そうなんだな……。

 なら話は早い」

 

 思わず笑みが溢れ、顔がにやける。

 そして引き抜いた刀の切っ先を奴等へと向けた。


 「ここ最近何もなくて身体が鈍ってたんだ。

 準備運動相手には丁度いいか」


 「舐めた口を……。

 怪異を連れてない神畏などただの人間だ」


 「なら、お前等はただの人間以下だな。

 さっさと来いよ、全員まとめて相手してやる」


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