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第十話 宴の夜に

 その日の夜、至れり尽くせりの宿の対応に加えて夕食の際には宴も同然の豪華な食事が俺達に提供された。

 愛娘に対する溺愛の影響なのか、彼自身の器の大きさが物語るのか……。

 

 そして、この地の名産品である至高の酒も当然振る舞割れる事になり、ミタモはこれ以上ない程に喜びの雄叫びを上げていたのである。


 はしたない感想以上に、とうとう獣としての本能に刺激されたかとすら感じた。


 「かぁぁ!!

 最高じゃァァ!!」


 盃どころか酒瓶に手を付けそのまま口を付け飲み干す女狐の様子に、征伐隊の方々は引いている様子。


 正直恥ずかしい、が……。

 こうなったらどうにもならない、諦めて目の前の料理を堪能しようと思う。


 昼間のミタモは千歳の父親を怪しい人物だと疑っていたようだが、酒も食べ物も毒が入ってると疑いそうかと思ったらそうでもない。

 むしろ男と変わらないくらい、がっつり食べているくらいである。


 「楽しんで貰えて何よりです、神畏の皆様方。

 我が領地の酒も是非とも堪能して貰いたい」


 そう言って、今宵の夕食の席には千歳の父親である秋重殿本人も相席し皆に酒を勧めていたのである。

 気前の良く、優れた人格者だと疑う余地もないくらいには……。


 「ミタモ殿でしか、どうですこの地の酒は?」


 「ああ無論だとも、とても満足しておるわ。

 この前寄った村で出された酒からは僅かに淀んだモノを感じたが、コレにはそんな淀みを感じはせん」


 「今宵の夕食には二十年モノの酒を提供しておりますからな。

 長きに渡る熟成の末、この世のモノとは思えない美味なる代物へと仕上がっておりますのでね。

 そこらの酒とは比べ物にはなりませんよ?」


 「ほう、そうかそうか?

 なるほど、確かにコレは美味い!

 妾はとても大満足じゃ!」


 「有り難き御言葉です」


 「秋重と言ったな?

 ミカ殿は元気にしておるか?

 あやつはこの地の水を管理するモノ、以前一度会った事はあるが、この酒を貰ったからには一度御礼をせねばならんな?」


 「ソレは勿体ない御言葉。

 ミカ殿もとても喜んでおります……しかし、そのミカ殿はこの地の管理でとてもお忙しい身ですので……。

 時間を設けるのは例え私でも最期に顔を合わせたのはいつの日だったか……」

   

 「ほう、ソレは残念じゃな……。

 いつかの約束事を果たそうかと思っていたものを……」


 「約束ですか?」


 「他愛もない契りよ。

 確か、この地が再び栄えた時に共に盃を交わしましょうというもの……。

 何百年と昔のことじゃがな……、顔を見れないのは残念じゃが集落の繁栄は誠の事実。

 あやつも成長したものよ、以前は『無理です絶対に無理です!私にはできませんのでどうかお引き取りを、何卒何卒!』等と抜かしたものよ」


 「ほう、以前にそういう事が……。

 私の知るあの方からはそんな面影はありませんでしたよ?

 なるほど、ソレはソレは……」


 そう言って、秋重殿も酒を飲む。

 それから間もなく一息つくと空になったミタモの盃を見やった。

 次の一杯をどうか?と手振りで酒を勧めると、その意を汲み取りミタモは秋重に盃を向けた。


 「全く……。

 ミカがこの場に居らんのが惜しいものやのう……」


 そう言って、満たされた盃を飲み干し今宵の酒を堪能するミタモであった。



 豪華な夕食を終え、ようやく一眠りかと思ったが上手く寝付けず目が冴えてしまった。

 仕切りとなってる壁の向こうからは、いつもならミタモのイビキや寝言が聞こえてもおかしくはない。


 しかし、今日は珍しく聞こえなかった。


 ふと気になって仕切りの向こうへとそっと覗いてみると、そこには誰も居ない。

 恐らく厠へ向かったのだろうか、まぁ怪異とはいえミタモは半妖である。

 人と同じく用は足さねばならない身なら、多分そうなのだろうと勝手に納得。


 そして、何故か自分も釣られて厠へ行きたくなった。


 「漏らす前にいくか……」


 そして用を足し終え厠から出ると月明かりの向こうで、宿を抜け出した誰かの後ろ姿を偶然見かけた。

 いや、本当に偶然か?


 俺の見間違いで無ければアレはミタモだ。

 一体アイツは何を考えて……。


 とにかく、アイツをあのまま放置しておくと連れの俺にまで責任が追及され兼ねない。

 仕方なく俺は彼女を連れ戻す為に、あの後ろ姿を追うことに決めた。


 「………」


 ミタモを後ろから尾行し、その行方を探る。

 酔いが回って少しふらつきながらも何処かを目指し歩く彼女。


 一応女であるにも関わらず人で夜道を出歩く不用心さに思わず心配しそうになる。

 そして、その行方を追っている内にミタモは集落を外れた森の中へと、更に奥へと向かっていく……。


 え、これ本当に大丈夫?

 寝ぼけて、いや酔っ払っての凶行なのか?


 コレは早々に引き留め、連れ返すべきかもしれない。

 

 その時だった。


 「こんなところで何をしているのです、緋祓遥?」


 後ろから声を掛けられ振り向くと、こちらを明らかに不審そうな目で見ている千歳がそこに居たのであった。


 「千歳……、どうしてここに?」


 「どうしてって……ソレは私の台詞です。

 こんな場所で隠れて何を?」


 「いや、その……ミタモを追ってたらここに……」


 「ミタモを追ってたら此処に?

 本気で言ってますか?」


 「いやいや本当本当、信じてくれ。

 何なら俺の後を付いて行けばいい……。

 てか、千歳もどうしてこんなところに……」


 「それは……その……えっと……」


 千歳は何処か挙動不審で視線を逸らした。

 暗い中でも目は既に馴れ、コイツの表情くらい森の暗闇だろうとなんとなく読めてくる。


 何か後ろめたい事でもあるのか? 


 「いや、今はとにかくミタモを追うか……。

 勝手な事をされたら、アイツはともかく俺まで言われるだろうからな……」

 

 そう言って先に進む俺、そして……


 「ちょっ、待ってよ……!

 置いてかないでよ!」


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