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きみと青が散乱する  作者: 春名七虹
巡る7月
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 買ったばかりの黒いリクルートスーツにぽつりと雨粒が染み込んで、慌てて屋根の下に避難する。


 チェーンの紳士服店で買った吊るしのスーツは、暗くて重たい色をした高校の制服を思い出させた。自分だけじゃなく周りの学生も一様に同じデザインのスーツを着ているから、そういう意味でも制服のようだ。


 就活は早めの行動が成功への秘訣である、とくにインターンは内定への近道だから絶対行くべきと、大学のキャリアセンター職員が口酸っぱく言っているので、よほど怠惰であるか、就職に興味がない学生を除き、三年の夏休みを目前に控え、大学の同級生のほとんどがサマーインターンの選考に競うように参加している。


 私もその流れに乗ったうちのひとりだ。


 博多駅近くに構えた企業のインターン面接を終え(手応えは悪くなかったと思う)、せっかく来たのだし駅前のデパートで化粧品でも見て帰ろうかと、駅の周辺をふらふら歩いているときだった。


 降り出した雨は一気に土砂降りになる。オフィスビルの軒下で、強まるばかりの雨音に耳を傾けながら、ショルダーバッグからスマホを取り出した。


 雨はすぐにやむだろうか、それともこれから降り続けるのだろうか。雨雲レーダーでも確認しようと、画面をオンにする。


 メッセージ通知が画面上部にぽっと表示され、それがとても久しぶりに見る名前からの受信だったので、天気予報を検索しようとした指先でメッセージアプリを開いた。


 花島陸。


 じゅったんのお兄さんの、りっきーだ。


 高校三年生、お世話になったときに連絡先を交換していたものの、実際にやりとりをしたことは一度もなかった。履歴のまっさらなメッセージ画面に、りっきーからの短い言葉が届いている。


〈優雨ちゃん、元気? 報告があります。動画見てみて〉


 その下には動画サイトのURLが貼られている。りっきーの指示通り、URLをタップして動画サイトに移行する。


 再生されたのは、長崎県内の放送局が発信している、夕方のニュース番組の切り取りだ。全国各地で製作された観光プロモーション動画を集めたコンテストで、縹島観光協会がつくった動画が、今年のグランプリを受賞した、という、二分ほどの内容だった。


 懐かしい、聞き慣れたアナウンサーの声が、コンテストの趣旨と、今回グランプリを受賞した縹島の動画の概要を紹介し、再生時間一分を過ぎたところでりっきーのバストアップが画面に映し出された。動画に込めた思いを話している、そのすがたは堂々としていて、やっぱりじゅったんと同じ、元町長の遺伝子を継いだ花島家の人間なのだとはっきり感じさせた。


 最後にりっきーと直接会ったのは、年末年始に帰省したときだ。年明けすぐに島で行われた成人式に参加したとき。その頃に見たりっきーとは髪型が変わっている。でもあの、都会のカフェでノマドワーカーをやっていそうな雰囲気は全然変わないから、思わず笑ってしまう。


 帰省した際に、りっきーが新しい観光プロモーション動画を撮影したことは知っている。


 というか、また、手伝ったのだ。奈織とともに。


 成人式に参加するために、高校三年の秋以来、島に帰省した奈織は、今回も動画出演を快諾した。高校生のときに作られた動画に、「本職の女優を使うのはずるい」とじゅったんが指摘していたけれど、本当にそう思う。


 画面から顔をあげると、すぐそばにあるバス停の、透明な屋根の下の壁に、口紅を手にして微笑む奈織がいた。実際の奈織の顔の何倍もの大きさに引き伸ばされたポスター。トレードマークのショートヘアと大きな瞳。


 20歳を超えてさらに美しさに磨きがかかった奈織は、CMにドラマに映画に引っ張りだこの、今、期待されている若手女優の筆頭である。


 りっきーと奈織に、グランプリおめでとうとメッセージを送った。そしてじゅったんとなーさんに、りっきーが映ったニュース番組の切り取りを転送する。


 そういえばじゅったんも、博多あたりでインターンに参加する予定だと言っていたから、この夏はたくさん会う機会があるかもしれない。同じ福岡県内に住んでいるとはいえ、私は山口県よりの北九州で、じゅったんは佐賀県よりの久留米在住なので、さほど頻繁に会える距離ではない。新幹線を使って一時間か、在来線を乗り継いで二時間かかる。それでも、ひと月かふた月に一度ほどは会って遊んでいる。


 なーさんと島を出て以来はじめて再会したのは、年始の成人式のときだった。千葉に住むなーさんは、大学が忙しいとか(実際、薬学部というところは文系の私やじゅったんからすると想像を絶するくらいに忙しそうだ)、交通費が高いとか、なにかと理由をつけて帰省をさぼる。薄情だな、と思いつつも、本当は、私たちとちがって気軽に帰ることができる距離感ではないからこそ、一度帰ってしまうと離れがたくなってしまうからだろう、と想像している。


 なーさんのことを考えていたら、着信を知らせる電子音が鳴る。


「優雨?」


 久しぶりに聞く低い声が耳に流れ込んで、胸の奥がじわりと熱をあげた。


「うん。珍しいね、なーさんがかけてくるの」

「ちょうど、暇してて。さっきの動画、永純からも少し前に送られてた」

「ええ、私、じゅったんにも同じの送っちゃったよ。なんだ、あはは」


 照れ隠しに笑いながら、空を見上げた。いつのまにか雨足は弱まり、雲の隙間から日差しが地上に伸びている。


 虹がかかればいいのに、と思った。


「なーさん、夏休みは島に帰るの? また忙しいって帰らないつもり?」









 










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