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小一時間、久家さんの思い出話に耳を傾け、高校生の彼が写った何枚かの写真を渡し、出張所を出たときには、見上げた空は一面、オレンジ色に滲んでいた。秋の夕暮れ。
じゅったんと別れ、暖色に染まった道を歩く。まっすぐ家に帰ろうとすればわずかな距離しかないのに、私の足は自然と帰路から遠のいていった。宛て所なく歩き続ける。水平線の向こうに、大きな太陽が少しずつ隠れていく。
気づけば学校に戻ってきていた。校門から出てくる人影を見つけて、声をかけた。
「朝陽」
奈織に倣って、呼んでみる。振り向いたなーさんは、ひどく驚いた顔をしている。
「本名呼ばれて驚かないでよ」
「優雨にそう呼ばれたの、いつぶりかって考えてた」
「なっちゃんだと思った?」
「あいつ、いま家で夕飯作ってるって言ってたから、ちがうのはわかってた」
「いま? どうして知ってるの?」
「『ロールキャベツがおいしくできた』って2分前にメッセージ届いたから」
「なっちゃんとメッセージのやりとりしてるの?」
「たまに。暇過ぎるのか、どうでもいいこと送ってくる。たいていメシか海外ドラマか映画の話。言うておまえもだろ?」
「まあね。いつまでいるんだろうね、なっちゃん」
「さあな」
「朝陽」
「ん」
「朝陽のこと、『朝陽』って呼んだの、いつぶりかな」
「知らないけど。ところでなんで『なーさん』なんだっけ」
「覚えてないの?」
「まったく」
「私も」
「まじかよ。優雨も永純も意味わかんねえあだ名で呼び続けるから、百合岡先生とか、たぶん俺の名前、『な』がつくと勘違いしてるよ」
「そんなまさか」
ひとりで戻ってきた道を、ふたりで並んで歩く。わざとゆっくりと。
彼はいつもより歩くペースが遅い私に気づいているけれど、何も言わず、歩調を合わせる。
「奈織が帰ってきて、うれしい?」
尋ねながら、意地悪な質問だと思った。
「芸能活動とか、事情はさておき、とりあえず当人は元気そうでよかった、と思ってる」
「そうだね。元気そう。モデルはじめてから結構痩せたけど、さらに痩せてるよね」
「それはわからんけど。髪は短くなった」
「うん。ばっさり切ってイメチェンしたの、高一の頃だよね。ずっと雑誌とかドラマとかで見てたけど、ショートヘア、かわいいよね。似合ってる」
何も言葉を返さないなーさんに、大人しく認めてしまえばいいのに、と呆れる。
画面の向こうの芸能人に黄色い声をあげるみたいに。ひさしぶりに顔を合わせた友人が様変わりしているのを褒めるみたいに。じゅったんみたいに。
他意なく。下心もなく。「かわいい」と言ってしまえばいいのに。
誰よりもそう思ってるくせに。
なーさんにはどうせ、そんなことできやしない。柄じゃないとか、つまらないことを考えているのだ。




