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女性の敵にはパワーボム

作者: 723

(あれっ、ここは……)


 私はベッドで寝ていたはず。なのに景色は全然違う。ターミナルケア? それなら自宅では? 思い当たる節がなく目をぱちくりとさせた。


「おおっ、目が覚めたようじゃな」


 私の顔を覗き込んてきたのは白い髭を生やした優しい目つきの男性だった。服装は黒い……カンフーの服装。それと言葉が日本語じゃない。聞いたことのない言語。でもなぜか意味は分かる。


「あの……」


「とりあえずこれでも飲みながらゆっくり話そうか」


 戸惑う私に、お茶が差し出された。ついさっきまでは小児がんのせいで指先一つ動かせない体だったのに、容易に上半身を起こすことができた。


「いただきます」

  

 かぐわしい香りに誘われお茶を一口すすると、上質な味わいとほのかな苦みが伝わってきた。

ほっとしたところで、お茶を出してくれた人と顔を合わせた。

 東洋人の顔立ちで、黒髪にロング、目元には泣きボクロ。大人びた女性の色気がフローラルのように漂ってくる。あれ、どこかで見覚えがあるような気がする。でも、どこだっけ?


「お嬢ちゃん、名前は?」


「長瀬紅葉、十四歳です」


「アタシは山田妙子、よろしく」


「ああ! タイガー山田!」


 タイガー山田はリングネームだ。私が生まれる前に活躍していたプロレスラー。得意技はパワーボムとムーンサルトプレス、それからローリングクラッチホールド。パワーとスピード、テクニックと三拍子揃った名レスラー。

 病室でパパが数十年前から定期購読しているプロレス雑誌を読んでいたので、よく覚えている。タイトルマッチを制覇した記事の面影に皺を足すと確かに一致する。


「おや、紅葉ちゃんみたいな若い子がアタシのこと知っててくれてうれしいよ、ワハハ」


 この笑い方はYOU TU〇Eで見たインタビューそのままだ。間違いない。


「でも、え?、ええっ」


 大切なことを思い出したので、顔から血の気が引いた。


「そりゃ、驚くに決まってるか」とタイガー山田もとい妙子さんは頷いた。

 

 十五年前に三十●歳の若さでチャンピオンのまま交通事故で帰らぬ人になったはず。まさか幽霊⁉ 自慢じゃないけど怪談話は大の苦手だ。全身の震えが止まらない。


「失礼ですがホントにご本人ですか?」


 勇気を出して、でも怖いのでおずおずと尋ねてみた。


「そっくりさんでも家族でもないよ、足があるから幽霊でもないし」


 雰囲気からして嘘をついている感じがしない。

 それに、目が覚めたら突然違う部屋にいるとか、聞いたことない言語なのに意味が分かるとか、説明がつくのはアレしかない。そう、アレだ。


「となると、異世界転生ですか?」


 外れてたら赤っ恥でしかないけど、これしかないと本能が訴える。


「良くわかったね。なんでも最近日本じゃ、そういうの流行ってるんだって」


 どうして知ってるのと突っ込んだら負けだろうか。


「私はあんまり詳しくないですけど、アニメ好きの友達がハマってましたよ。じゃあ、私は死んだんですね」


 妙子さんは「そうだよ」とうなずいた。


 私の気分はあまり落ち込こまなかった。小さいころから病弱でいつ逝ってもおかしくなかったから。


「アタシもこの世界に飛ばされたときは紅葉ちゃん以上に驚いたよ」


 妙子さんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。暖かい。まるでママのような優しさが伝わってくる。

本物のママも優しかったけど、私が死んだ以上は二度と会えない。


「ところでどうして異世界転生なんか」


「詳しいことは旦那に聞いておくれよ」


 旦那さんというのはこの人だろう。妙子さんより少し年上だよね。


「ワシは李正(リーチェン)。生前はいわゆる中国拳法の師範じゃ。流派は截拳道(ジークンドー)。というか(リー)


「截拳道ってブルー○・リーの⁈」


 私は説明の途中にも関わらず喰いついた。だってあのブルー○・リーのお弟子さんだよ。


「よく知っとるのう。いかにも李先生がワシの師範じゃ」


 映画は全作品少なくとも三回は見たし、截拳道の文献もパパにねだって買ってもらい読み漁ったのだ。ファッション雑誌とかアイドルの雑誌とかおねだりしなかったのでママが少し呆れていたけど。


「私も截拳道やプロレスやってみたかったです」


 生来病弱だった私は、健康でたくましい人が羨ましく、まぶしく見えた。中でも格闘家に強いあこがれを持っていた。そこにはパパの格闘技好きの影響もあったけど。


「できるぞ」

 

 リーさんはホホホと長いひげをなでながらやさしく微笑んだ。


「本当ですか」


 うれしさのあまり、思わず身を乗り出した。


「では本題に入ろうかの。さっき神様から連絡があって、格闘技のセンスがある子を送るんで育てて欲しいんじゃと」


 神様。まあ、そうだよね。異世界転生があるなら神様がいてもおかしくないよね。


「でも病気が?」


 治っていればいいのだけれど。


「神様の話じゃ、病気を完治した以外は元の体だそうじゃ」


「う……ううっ……うわーーん」


 私の頬を熱い二本の液体が流れ落ちる。小さいころから何千回、何万回と願い続けた病気の無い体、私にとって呪いのように染みついた病から解放されたのだ。


「ワシら夫婦がみっちり鍛えてやるからの」


「……はい。よろしぐおねがいしまずっ」


「おやおや、せっかくのかわいい顔が台無しじゃないか」


 妙子さんは私の顔を手ぬぐいで丁寧に拭ってくれた。




「こんにちは」


 私は修行を積みながら農作業や狩猟に勤しんだ。普段は山奥で生活しているけれども、お金だって必要になるときもある。だからこうして街まで下りることもある。


「妙子さん、紅葉ちゃん、いらっしゃい」


 このお店はレストランで、山菜を高く買い取ってくれるのだ。

 街は、いわゆるヨーロッパ風の建物で文明レベルも産業革命よりだいぶ前だろうか。


「いやはや疲れたね。まったく年は取りたくないもんだ」


 師匠――妙子さんは少々息が上がっている。半日山を歩いたのだから無理もない。


「いつも通りいい品質です。おい、しまっておいてくれ」


 オーナーシェフは山菜を吟味すると若いお弟子さんに山菜を運ばせた。

 

「どうだい、調子のほうは?」


「おかげさまで大盛況です」


 このお店では山菜を天ぷらにして出している。オーナーシェフに調理法を教えたのは妙子さんだ。そもそも私は前世で料理をしたことがほとんどない。 


「お代、確かにいただきました」


「そういえば、紅葉ちゃんこっちにきて何年になる?」


「3年ですね」


 一応私は妙子さんの遠縁で外国から修行に来たことにしている。異世界から来たといっても信じてくれないだろうから。


「そうかい、もうそんなに経つか。すっかり大人びたね。どうだい、うちの若いもんから一人」


「紅葉を嫁に出すには、まだ、早いよ」


 十七歳というのはこっちでは結婚適齢期だけれど、地球の感覚が抜け切れていない私としては二の足を踏んでしまう。それにあっちじゃ恋愛結婚が普通だからね。


「そっか、それじゃ仕方ないか。それより何か食べていってくださいよ」


 半日山を歩いたのだからお腹がすくに決まっている。


「じゃあ、頂くかい」


「はい」




 店に入ると、昼過ぎにもかかわらず席が埋まっていた。こっちでは一日二食が普通だけれど、一部のお金持ちは三食食べている。つまりこのお店はお金持ち御用達のお店なのだ。


 街で指折りの商人、行商で来た商人、少し離れた街からここの料理を目当てに来た貴族。

 この世界には本来存在しない地球のメニューを出すお店なのだから当然人気は高い。


「おい、酒だ酒持ってこい――」


「姉ちゃん、ちょっと相手してくれよ」


 そして稀にいる、金持ちの冒険者。彼らは残念ながら品というものを持ち合わせていない。これがお金を持っている騎士なら、戦場では荒っぽくても、マナーは身に着けている。あっちの席に腰かけている一見すると淑女だけど強烈なオーラを纏っている女性とか。 

 で、普通なら店員が場を納めるところだけれど、私たちがいると話は別だ。


「あの子に任せな。――紅葉」


 師匠は店員を制止した。これは私の出番だ。山奥だと師匠と先生以外練習相手がおらず、ましてや「実践経験」を積む機会がないので、こういう荒事には私が駆り出される。


「はい」


 つかつかと冒険者六人組に歩み寄った。見たところ戦士二人とシーフ、魔法使い二人、それに僧侶だろう。こういう店に入るのだから武器を持たず服装に気を使うのがドレスコードというものだ。私も師匠も店に入る前にはきちんと着替えているし。


「なんだ嬢ちゃんが俺たちの相手してくれるのか」


 戦士Aが私の体を舐めるように見渡してくるが、はっきり言って気持ち悪い。


「手を放しなさい」


 魔法使いAがウェイトレスの手を掴んでいたので手首をつかみ引きはがす。これでおとなしくなってくれれば見逃してやるところだけれど、険しい顔をしたのでそれはなさそうだ。

 戦闘態勢に入ればいいものを、完全に私を舐めているのだろう。脚に視線を下げると機嫌を直したのだ。


「へえ、変わった服だな、太ももなんかむちっとしてて――ぐほっ」

 

 むろん、触られる気は微塵もない。顔を下品に崩した魔法使いAが、チャイナドレスのスリットに手を伸ばしてきたので、もっと下品に崩してあげた。


「ほら、ここは貴方たちみたいなマナーを守れない人がくるお店じゃないわよ。帰った帰った」


 手で追い払うような仕草をしたら、怒髪天にも昇る勢いで表情が変わった。


「いい度胸してるじゃねえか」


「俺たち『Dragon knight's』を相手に一人でかなうとでも――」


「思っているわ。他のお客さんもそう思っているから黙って見てるんじゃないの」


 常連さんたちはみんな頷いている。彼らはわかっていないようだけど、ここにくるようなお偉いさんともなると、中には高度な戦闘訓練を受けている人も多数いる。そういう目が肥えている人が悠々としているということが私と連中の実力差を物語っている。


「ざけやがって」


 シーフが殴りかかってきた。普通の冒険者に比べて動きは速いけどパンチは大振りで、師匠や先生とは比較にならない。

 そもそもこの世界、格闘技術がほとんどないといっていいくらい未熟だ。大振りに殴るか、乱雑につかむか、喧嘩キックぐらいしか手段がない。


「はっ」


 なので真っすぐ打ち込むパンチにはまず対応できない。カウンターが決まった相手は三メートルほど吹っ飛び気絶している。


 ジークンドーは特定の型があるわけではなく様々な格闘技を参考にしたり自己研鑽を積む武術であり、今のパンチは完全にボクシングのカウンターである。


「この野郎」


「野郎じゃないわよ。女性よ」


 戦士Aが剣を振りおろそうとしたけど、踏み込んだ右足の太ももに空手譲りのローキックを入れてやる。


「つっ」


 未知の攻撃なので反応できず――いえ重心が乗っている足を狙ったのだからかわすことが極めて難しいんだけれど――床に倒れこんで悶絶している。


「くそっ、こうなったらぶっ殺してるっ」


 戦士Bが盾と剣を構えているけど、こいつは後回し。というかおとりに過ぎない。本命は魔法使いB、ではなくそれより実は僧侶のほうがやっかいだ。すでに呪文の詠唱を始めている。異世界だけあって魔法が普通に存在している。そして唱えているのは回復魔法ではない。


「舞い上がれエアカッタぐあっ、痛てぇー」


 魔法で出現したかまいたちが邪魔だから徒手空拳では戦えないけど、私にはこれがある。

 ジークンドーといえばブルースリー、ブルースリーといえば、そうヌンチャクである。

 詠唱を終える前に鉄製のヌンチャクを軽く振り下ろすと相手は頭を押さえてのたうち回っている。

 本気で振り下ろすと頭がかち割れてしまう。いくら何でも殺しは不味い。

 ジークンドーでもプロレスでも相手を殺すのは論外である。

 

 次は魔法使いBだ。もう詠唱が終わるのだから警戒せざるを得ない。


「飛べ、ファイアーボール」

 

(甘いっ)


 炎の球が飛んでくるが、後ろに人がいないことは把握しているので横にかわすだけだ。ファイヤーボールが直撃した壁は煤けて黒ずんでいる。これが直撃したらやばかっただろう。それなりに力量はあるようだ。しかし私の敵ではない。


「弁償しなさいよ」


「ぐほっ」


 魔法使いBの柔らかい腹にボディアッパーを軽く叩き込むと、前のめりに倒れこんだ。


「次は」


 戦士Bをギラリとにらみつける。


「う、うそだろ。あの連携で逆にやられるなんて……」


 戦士Bは座り込んでいる。戦意を喪失している相手と戦う気はない。となると後は一人。


「ちきちょう、俺たちを誰だと思って……」


 戦士Aはまだ戦う気のようだ。剣を手放し、片膝をついて立ち上がろうとしているが殺気は衰えていない。なら、とどめを刺すまで。せっかくなのでプロレス技も使いたい。


「はああっ」


 戦士Aの片足を踏み台にして左足で乗っかるとその勢いのまま頭を掴み左ひざに押し付けて固定し、右の膝蹴りを真正面から入れる、いわゆる初期型のシャイニング・ウィザードだ。


「やめてくれっ」


 戦士Aが半泣きで叫んだので、さすがに寸止めしてあげた。すると戦士Aは腰を抜かして怯え、体をブルブルと震わせている。


「す、すまねえ、帰るから許してくれ」


 戦士Bが跪いた。ぶっちゃけ弱すぎて練習にもならないけど、店を守るのが目的だからここまでにしておくことにした。




「見たことない技ばかりだけどお強いですね」


 ここでは貴重な塩をまぶした山菜の天ぷらをつまんでいると、さっきの淑女が歩み寄ってきた。年は二十代前半、長い金髪、整った顔立ちで今はドレスで着飾ってるが、だまされない。歩く姿や気配からしても普段は鎧を身に着けているだろう。


「それほどじゃないです」


「『Dragon knight's』は王国では十本の指に入るパーティーですよ。それをたった一人で瞬殺できるなんて只者ではありませんね」


 あいつらが? とてもそんな強そうには見えなかったけど。


 目をぱちくりさせていると彼女はふっと笑った。どうやら私のレベルは自分が思っているより高いらしい。


「そういう貴女は?」


 淑女だから剣なんて持ったことありません、ととぼけられるかと思ったが、意外にもかなりの腕前であることを認めた。


「前衛三人は倒せますが、その間に魔法を使われるのがオチですね」


 嘘、ではないだろう。でもそれは一対集団なら私のほうが上というだけ。もし一対一(タイマン)ならどうだろう。


「謙遜を。貴女強いでしょ。それもすごく」


「それは買い被りというものです。自分にできるのは愚直に剣を振ることだけです」


 その剣の技量は半端ではないと見た。この機会を逃す手はない。


「一つ手合わせ願います」


「剣は宿に置いてあります。ついてきて下さるかしら」


 私は肯定と受け取ったのだが、実は少々違っていた。


「これは、どういうことです? ん?」


 宿というのが領主様のお屋敷だなんて誰が思うか! 私は怒りマークを浮かべて爆発寸前である。


「まあ、落ち着き給え。異国の民族衣装も素敵じゃないか」


 口のうまい領主様が私をなだめるけれど、これが落ち着いていられるか。


「アタシらの国の衣装じゃなくて旦那の国の民族衣装だけどさ」


 急に領主様に会うことになって心の準備もできていない上に、チャイナドレスって酷いじゃない。師匠はドレス、しかも領主様とは旧知の間柄だからいいけどさ。


「我が名はフェリア・アーノルド。アーノルド侯爵家の長女にして、王国騎士団第四師団長だ。手合わせの前に、一つ頼みがある」


 きりっとしたクールな雰囲気、こっちが素なのだろう。それに大真面目になにかありそうだ。


「実はこの周辺で若い女性が行方不明になっている事件が続発している。王の命を受けて調べた結果、あの廃城が怪しいと判明した。人間や動物とは思えぬ足跡も多数発見している」


「魔物か、あるいは魔族?」


 師匠の顔が険しくなる。百数十年前、魔王が軍を率いて世界を征服しようとして勇者一行に返り討ちにあったベタな話は聞いたことがある。


「魔物ならまだいいのだがな」


 領主様がふーっ、とため息をつく。魔物というのはゴブリンとかスライムとか知性が低い、種族全般が人に害をなす生物を指し、魔族というのは人間を会話ができるくらいの知性がありやはり種族全般が人に害をなす生物を指す。


「ホントは第四師団全員で攻めたいところだが、王都から呼び寄せるのに時間がかかる。待っている間に被害が拡大することは避けたい。なので第四師団からは調査にあたっている十名、あとはここの衛兵をつかうことになった。だが領主様から助言があってな、ときおりあの店に強者が二~三人来ていると」


 自分も頭数に入っていると知った師匠はにやりと笑った。


「いつやる気だい?」


 師匠、敬語使ってくださいよ。不敬罪になるんじゃ、と思ったらフェリア団長は軽く流した。


「今すぐにでも」


「と、なると旦那を呼んでる時間はないな。抜け駆けになるけど仕方ないだろう」


 師匠がこぶしをごきごきと鳴らしている。師匠、連れ去られた女性たちの居場所を聞き出す前に殺しちゃダメですから。


「それじゃ、いきますか」




 森の中を歩くこと約三十分、昼間にもかかわらず薄暗い古城からはいかにもナニかいそうな不気味さが漂ってくる。

 なんでもサディスティックな男爵がここで極悪非道なふるまいをやらかして、本人は死罪、お家は断絶になり、以来数十年使われていないらしい。亡くなった女性の遺体もすべて埋葬できたのかは判っていないそうだ。


「入るぞ」


 フェリア団長の言葉で全員が気を引き締める。扉を開けてみるとそこは大広間。ほこりまみれですっかり古ぼけている。それにしてもかなり暗く歩きにくい。これだけ日の光が差し込まないと……。いやな考えが頭をよぎる。


「アンデッドモンスターとかいます?」


「稀に遺体がゾンビ化やスケルトン化するし、あるいはゴーストなんてものもいるから、城にいてもおかしくはないぞ」


 ――いや~~ 帰りたい~~


 と思ってもいまさら引き返すわけにもいかない。


「スケルトンは倒せるだろうけど、ゴーストは打撃が効かないし、ゾンビは体が腐っているから勘弁してほしいね。匂いがキツそうだ」


 師匠はこいういのは平気なタイプで、現実的なことを考えている。ちなみに師匠はドレスから山道を下る際に来ていたゆるい長そでとズボンに着替えている。


「うへぇ、師匠想像しちゃったじゃないですか」


 私は顔をしかめた。……でも本当にゾンビが出てきたらどうしよう? 我慢して近づいたとしても、投げ技や関節技って効くのかな? 


「ゾンビには僧侶の浄化魔法とか魔法使いの炎魔法が効果的だ」


「でもゾンビとはいえ殺すのは気が引けます」


 私は殺生が苦手で魚はさばけるけど鳥とか猪とか解体するのは無理だ。たとえ相手がゾンビでも。


「いや、ゾンビとがスケルトンとかはすでに死んでいるのだ。倒すのは成仏させる、楽にしてあげると思ってくれ。おや、噂をすればなんとやら」


 ゆっくりとゾンビ、スケルトンがわらわら近づいてくる。


「キャーーーー」


 嫌嫌嫌怖い怖い気持ち悪いーー。

 ホラー映画なんて目じゃない本物のホラーだ。

 ゾンビなんて手は腐って落ちかけてるわ、目が飛び出ているわ。冗談じゃない。あんなのと戦えるかっ!


「ファイヤーボール」


 魔法使いさんGJ。よしゾンビは任せた。私の獲物はスケルトン。でもなるべく近づきたくないし触れたくないので足の裏で攻撃する。


「成仏して下さい。ドロップキック、ドロップキック、ドロップキック、ドロップキック、ドロップキック」


 次々に肋骨と背骨を粉砕し、足元に崩れていくスケルトン。と、思ったら耳を引っ張られた。


「こら、アンタはヌンチャクがあるんだからゾンビをやりな」


「師匠、ずるいです」


「仕方ないだろうがアタシは素手なんだから」


「はーい」


 渋々、ヌンチャクを取り出し、成仏してねと心で詫びながら脳天を叩き割る。うわぁ、腐った脳みそが飛び出した。見た目も気持ち悪いし、腐肉臭は鼻が曲がるほどキツい。

 気休めだけど息を止めてヌンチャクを振り回すのであった。




「こんな短時間で全滅させるなんて、やっぱり二人とも強いな」


「このくらいは軽い軽い」


「ゴホッゴホッ……師匠、酷いです」


「じゃあ、二階に行くぞ」


 フェリア団長とそのお仲間さんは士気が高いけど、私はもう戦意喪失寸前だ。頼むからもうゾンビは勘弁してっ。


「安心しろ。ゾンビには階段を登るだけの脚力がないからな」


「ホント! さあ行きましょう。すぐ行きましょう」


 これで俄然やる気が出た。松明片手に階段を一段飛ばしで駆け上がり、その先のダンスホールにいたのは、いたのは?何?あれ? 魔法使いなのに半透明でふわふわ浮いてる? 私は腰を抜かしそうになった。


「ゴーストだな。ここなら日の光が差し込まないから昼間でも活動できるからうってつけだ。打撃が効かないから魔法の出番だ。さっきゾンビを紅葉殿が倒してくれたから浄化魔法が温存出来てよかった」


「なら、さっさと倒してよー」


 今の私に能書きを聴いてる余裕なんて微塵もない。ただただ悲鳴を上げるだけだった。




「ほら、終わったぞ」


 浄化魔法で全滅させてくれたのはいいけど、こんなのがまだまだ続くの?


「わたしおうちにかえる~」


 戦力外ということでどうでしょう。 


「ダメに決まってるだろう」


 師匠に軽く蹴っ飛ばされた。うう、ほんのお茶目なジョークなのに。


「実体があれば倒せるのに」


「あるぞ」


 フェリア団長が指指した先には包帯をぐるぐる巻いた連中がぞくぞくと歩いてくる。


「ミイラ?」


「マミーだ。剣でも切れるし拳も当たれば効く」


 ストレスを発散させるかのように生き生きと飛び出して剣を振るうフェリア団長。当てる瞬間だけ力を込め、あとは力を抜き素早く動く様を見るとさっきの冒険者たちとの格の違いを感じる。ちなみにマミーは倒されると包帯だけになる。いったいどんな理屈なのか。


「それじゃ私も。誰か松明持ってて」


 実戦は六秒以内に終わらせる、というジークンドーの思想に基づき、速攻で相手を倒す。


 マミーは私より二十センチ以上背が高い。ボディブローで相手を前のめりにし、首相撲からの飛び膝蹴りでKO勝利。このあたりはムエタイの影響だ。

 続いてカーフキックで相手のふくらはぎを痛めつけ、倒れたところに顔面正拳突き。

 これで包帯の山が二つできる。これ持って帰って売れないかな、などと思ってしまう。だって生地を作るのって面倒なのよ。


「こっちも負けてらんないね」


 し、師匠……。マジですか。


 やりました、ジャーマンスープレックスを。きれいな弧を描いてマミーを後頭部から床に叩きつける。師匠自身は頭を床に着けていないのでノーダメージ。


「なんなのあれは」


 プロレスの大技を初めて目にする僧侶さんが度肝を抜かれている。

 

「それじゃ私も」


 敵は残り一体。練習もかねてじっくり相手をしてあげよう。


 左ボディブロー、右アッパーの連打で前のめりに倒れたところを上下逆さまにして持ち上げ、両膝で挟み頭から落ちる。本来パイルドライバーは相手の頭を脚で保護して落ちるので、頭が床に触れずけがをさせないのだけれど、相手を成仏させるのが目的なので遠慮はしない。


「えげつないことするね」


「師匠のほうがよっぽどですよ」


「どっちもどっちだろ」


 フェリア団長の部下がポツリとつぶやいたけど私は聞かなかったことにした。そう、()()()は。




「今のところ、アンデッドモンスター系ばかりだな」


「ということは女性たちをさらったのもアンデッドですか?」


「となるとヴァンパイアか」


「そんな魔族が出てきたら、シャレになんないぞ。それにこれから出てくるモンスターがアンデッドとは限らない」


 フェリア団長の指摘はもっともだ。けどこれってフラグだよね。

 そして三階にたどり着くとそのフラグは見事に当たったのだ。


「マジか……」


 扉を開くと謁見の間。光魔法が煌々と輝いている。居並ぶは黒いマントに身を包む細身で高身長の男性――ヴァンパイアが六体。


「終わった」


「無理です、逃げましょう」


 第四師団の精鋭たちが逃げの一手を選択している。ヴァンパイアはそのくらい強いのだ。 

 そして玉座に座っているのはさらに格が違う相手。

 そいつが口を開くと牙が妖しく光った。

 絶対光魔法を調節したよなコイツ。


「我はヴァンパイアロード。闇を支配し闇の王。男どもは血しぶきを上げ闇より暗き世界を永遠に彷徨い、女性たちには我らに生き血を捧げてもらおう」


(わざとマントを翻して、中二病かっ)


「ここはアタシらと団長さんに任せな」


 軍の精鋭と比べても、私と師匠そしてフェリア団長は飛び抜けて強い。そのことを彼らはわかっていなかった。


「団員は僧侶以外全員退避、領主にこのことを伝えろ」


「逃がすと思うか……ぐわっ」


 逃がさないのは私の方。低空飛行で飛んでくるヴァンパイアAの顔面目掛けてヌンチャクを投げつけると昏倒した。


「これは宣戦布告がわりよ」


「ふっ、舐めた真似を。小娘が。この世に生まれてきたことを後悔するがよい」


 ヴァンパイアロードのセリフが終わると同時にヴァンパイアB~Fが一斉に、翼を広げて文字通り私に飛びかかってきた。




 そして数分後。


「い、痛い痛い、や、やめてくれっ」


 ヴァンパイアロードにサソリ固めをがっちりと決めてやった。足首、膝、腰を締め上げてるので悲鳴が上がっているけど緩めるわけがない。そしてプロレスでないからロープブレイクもないし、助けがくることもないだろ。


「そうそう、しっかりと腰を落とすのが肝なんだ」


「お前ら鬼か悪魔か」


 魔族に悪魔呼ばわりされる筋合いはない。今の発言に不満があることを体で教えてあげた。


「ふんっ。思い切り練習できると上達しますね」


「悪かった。許してくれっ」


「アタシも()()したいな」


「「ひえぇっ」」


 半殺し状態のヴァンパイアたちが隅っこでおびえている。

 やはり師匠がヴァンパイアCを絨毯を敷いただけの石畳にボディスラムで叩きつけたのがやりすぎだったのだろう。さすがヴァンパイアだけあってそのくらいでは死ないけど。

 それとも私がヴァンパイアBの側頭部にハイキックを叩き込んたのが効いたのだろうか。

 最後の方は手加減してヴァンパイアFにスリーパーホールドで気絶させただけなのにそんなに怖がらなくても。


「そうだな、もう一回弓矢固めの練習がしたいな」


 師匠がヴァンパイアEを一瞥すると、ひれ伏して命乞いをした。気持ちはわかる。いや~アレは実にエグかった。ヴァンパイアEの背骨がボキッといってたし。回復魔法がなかったら再起不能だよね。


「降参だ、降参」


 私の下から何やら声が聞こえるけど気のせいだろう、きっと。


「それで、さらった女性は無事か。どこにいるんだ」


 一番のやりすぎはフェリア団長だろう。仲間がやられて気が動転しているヴァンパイアDを一刀両断にしたのだから。

 殺すのはやりすぎと非難したら、ヴァンパイア相手に手加減できるアンタらは化け物だと反論された。なんで?


「無事だ。血を吸う以外は何もしていないからな。それで地下にかくまっている」


 僧侶が「行きます」と駆け出した。まだ回復魔法が残っているし、僧侶さんは同じ女性なので、連れ去られた女性たちも、身なりが多少悪かったとしても嫌がらないだろう。


「で、こいつらどうするの?」


 略取誘拐と監禁、それから傷害罪、ってここは日本じゃないから。異世界には異世界のルールがあるだろう。


「とりあえずこっそり王都に連行して、魔族のこといろいろ聞き出すから。そのあとの処罰は国王の胸一つ。でも確実なのは国民に知れたら大騒ぎになるだろうってこと」


「まあ、そんなところだろうね」


「これで一件落着か」


 この時私も、師匠も終わったと思っていた。でもそうじゃなかった。

 私も、師匠でさえもこれがリングの上でなく実戦ということを本当の意味で分かっていなかったようだ。


「待ちな!」


 声の主は全身を緑の鱗で覆われた、やや胴長短足で二足歩行の生物。顔は完全に爬虫類。四肢はプロレスラー並みに鍛え上げている。それに強者としての風格がある。ヴァンパイアロードなんか一ひねりだろう。


「リザードマン?」


 私はそんなに異世界とかファンタジーものとかRPGとかには詳しくない。思い当たるとしたらそのくらいだ。


「フン。高貴なる血のワシを、そんな下等生物と一緒にするな」


 口から火を噴き、隅っこで固まっていたヴァンパイアたちを甚振ってみせる。


「熱い、熱いっ」

「熱っ」

「ぐわぁああ」


「がはは、見たか。リザードマンなんかにこんなマネできんだろう」 


 たしかに危険極まりない雰囲気が漂っている。けど強さよりその不遜な態度のほうが心に強く残る。


「ま、まさか、ド、ドラゴニュート⁉」


 フェリア団長がはっとした顔をする。一瞬で顔から血の気が引いて唇を震わせる様からもこいつのヤバさがうかがえる。


「ほう、ワシの先祖を知っておるのか。さもありなん。何しろドラゴニュートは亜人族最強。その(いさお)しは百年以上も語り継がれて当然のこと」


「そんなに強いの」


 私の問いにフェリア団長は「本物なら」と大きく頷いた。


「『その鱗を切り裂く剣なし。その鱗を貫く矛なし。その炎を防ぐ盾なし』って、言い伝えがある」


 拳も蹴りもヌンチャクも効きそうにないし、そもそも下手に近づいたら丸焦げか。


「倒す方法は?」


「冷却魔法。それも最上位の」


 うん。参考にならない。

 打撃がだめなら関節技や締め技は? でも炎があるから不用意に近づけないし、グラウンドに持ち込めたとしても腕菱逆十字やアンクルホールド、あるいは三角締めを決めても強引に力で私を持ち上げるんじゃないか。

 

「少し聞きたいことがあるんだけれど」


 今は作戦を考える時間が欲しい。それにこいつなら話に乗ってくれそうな気がする。


「何だ?」


「ゾンビやスケルトン、ゴーストは元々いたとして、マミー、ヴァンパイア、ヴァンパイアロードがどうしてここにいるの?」


 予想通り、会話に付き合ってくれた。ありがたい。


「ヴァンパイアは食事だ。あいつ等貴族気取りのくせに血を飲むなんて野蛮にも程がある。おまけに、こっそり山奥で女性の血を啜ってたのに食糧不足になって山から下りてきた田舎もんだ。マミーはヴァンパイアの配下だ。おつむも悪いし不器用だから単純な力仕事しかできん」


 じゃあ、スリーパーホールドは? いやダメだ。決めようとしたら私を壁にぶつけるだろう。


「それで、なんでドラゴニュートなんて大物が出張ってきたわけ」


「魔族を目撃した人間の口封じだ。こいつらが飼育している人間は放っておくが、好き勝手暴れるじゃじゃ馬は殺処分だ」


 ドラゴニュートが親指を立てて首をかき切る仕草をした。こいつ本気だ。これだけの力量の相手が殺しに来るなんて初めてだ。殺さないどころか死なない自信はない。


「それはお生憎様。私達丸焼けになる趣味はないから」


 と口撃したものの、実際のところ炎を吐かれたらジ・エンドだ。


「安心しろ。そんなもったいないことはしない」


「? どういう意味」


「お前たち三人は、剝製にして飾ってやるからなっ」


 私目掛けてまっすぐ頭から突進してきた。あれだけの巨体で脚が短いから重心も低い。なるほど狙いは内臓破裂か。剝製にするならなるべく外傷は避けたいのだろう。それで素手なのか。ほとんどの人間は一撃でKOだろう。だけどこれで私に勝機が見えた。

 脚を肩幅まで広げ、重心を落とし、両手を少し広げて構える。師匠に目で合図を送ると私の意図を察してくれたようで小さく頷いてくれた。


「ここで引くわけにはいかん!」


 フェリア団長も何かを察してくれたようでワザと啖呵をきり剣を目玉に突きさそうとするが、あえなく額で受け止められ、勢いが止まらない。ガキンという金属音に近い高音が響く。一体何でできてるんだ、この皮膚は。


「がはは、甘い甘い。お前もワシのコレクションに加えてやるぞ」


 でも牽制になったのは確かだ。そしてこのチャンスを逃す師匠ではない。

 ドラゴニュートに横からタックルを仕掛ける。フェリア団長に気を取られ不意を突かれたのでよけきれない。


「何っ」


 この世界にタックルはないはずだし、鍛えられたプロレスラーの肉体から繰り出される、極限まで磨き上げた技術のタックルだ。化け物と恐れられるドラゴニュートでさえ足が止まる。倒れないだけでも大したものだ。


「うぉぉぉっ」


 私が頭を押さえつけ前屈みになった時点で勝利は決まった。

 両膝で頭を挟み、両手を相手の胴体の前でクラッチし、頭上まで高々と持ち上げる。持った感じでは百キロはあるだろうが三年の訓練は伊達ではないし、師匠が脚をもってくれている。


「いくら皮膚が固くても、これは耐えられないでしょ?」


「女性たちの恨み、晴らさせてもらうよ」


 ドラゴニュートにも脳みそはあるはずだ。脳みそがある以上、衝撃が加われば脳震盪を起こす。


「どうするんだ?」


 フェリア団長もドラゴニュートにとっても未知の技だ。ここは格好よく決めようじゃないか。


「ま、まさかっ」


 どうやらドラゴニュートは私たちの狙いに気付いたようだけどもう遅いっ。


「「パワーボム!」」


――剝製にして飾ってやるから


 その暴言に対する怒りを込めて、後頭部から思いきり叩きつける。

 絨毯が敷いてあるが床は石畳。ゴツンと鈍い音が謁見の間に響く。これは普通の生物なら即死レベルの一撃だ。さしものドラゴニュートも泡を吹いて倒れている。

 殺すのは私の主義じゃないから止めは刺さない。せめてこの一撃が剝製になった女性たちへの供養になればいいと思う。


「危なかったな」


 師匠は女性の敵を倒したのですっきりした顔をしている。


「素手でよかったです。剣とか振り回されてたらやばかったですよ」


 勝ったのは相手が本気をださずタックルを選択したからだ。なので反省点は多い。


「それと炎を使わせる気を起こさせなかった、アタシらの美貌のおかげかな」


「アハハ、そうですね」


 お世辞でなくアラフィフのいい女を体現しているのだ、我が師匠は。


「な、な、なんでフツーにしてるんだ、アンタらは」


 フェリア団長が何やら呆れかえっている。けどこのくらいの勝利で浮かれるほど未熟じゃない。


「勝っただけなのに?」


「別に世界チャンピオンになったわけでもあるまい」


 フェリア団長はわなわなと震えている。


「人間のカテゴリーなら世界チャンピオンだよ! 間違いなく!」


「そうなの?」


 やっぱこの世界、格闘技は発達してないみたいだ。でもな~。そうなると、次の目標どうしよっか。


「じゃあ、次は男の世界チャンピオンでも倒すか」


 師匠、ナイスアイディア!


「あのなあ、素手なら男でも敵わないって」


 それはおかしい。だって……。


「私より先生の方が強いって」


 フェリア団長は目をパチクリさせるとしばし自分の世界にダイブしていた。 


「は? 先生ってこの人とは別の指導者か?」


 あ、戻ってきた。よかった。


「ああ、アタシの旦那だ。もう六十過ぎてるけどアタシや紅葉より強いぞ」


「はは、嘘だろ、こんなのが三人もだなんて。どうなってるんだこの街は……」


 フェリア団長の口は空いたまま塞がらなかった。




「なんと、オレンジが爽やかで美味なことでしょう」


 フェリア団長も今日はドレスを着こんでかしこまっている。初めて口にするシャーベットに感動しつつも、侯爵家の令嬢として言葉遣いに気を使っている。


「こちらは濃厚な甘さとメロンの甘味がハーモニーを奏でておりますわ」


 私も師匠も気を使っている。なにしろ目の前でパフェを堪能しているのは他ならぬ王妃様なのだから。


 なんでこんなことになったといえば、褒章をもらうところまで話が遡る。


「攫われた女性たちを救い、ヴァンパイア五体に、ヴァンパイアロード、そしてなによりドラゴニュートを生かしたまま捕らえたのだ。褒章は思いのままだぞ」


 と、国王陛下が懐の広いところを見せても、文字通り受け止めたりはしない。「じゃ、国全部」などとアホなこと言ったらお尋ね者になるし、金貨百万枚を欲したら「それはいくらなんでも無理」となり国王陛下のメンツをつぶしてしまう。

 この国において妥当な線だと爵位と領地なんだけど、領主になったら修行どころじゃくなる。

 何が欲しいと問われたら、リングコスチュームと甘いもの♡

 そこで私と師匠が要求したのは「冷却魔法」の使い手とそれなりの現金である。

 フェリア団長のご実家アーノルド侯爵家のコネを使い、新鮮な果物と牛乳、小麦粉などを用意し、師匠が試作を繰り返した。

 「冷却魔法」を使ってくれる魔法使いには宮廷料理人の女性を指名した。もちろん、私たちがこっちにきたら食べられるように。というわけでレシピを伝授プラス試食に参加。

 で、包み隠さずコトを進めていたものだから、王妃様の耳に入り試食に飛び入り参加。心臓に悪いけど断れないので、フェリア団長を盾にしたのだ。

 まあ王妃様とコネができたし、こっちの世界では初のパティシエを育てたし、めでたしめでたし。なんて気にはなれない。

 リングコスチュームを作るのに難儀しているのとは別。

 ドラゴニュートのあの言葉がどうにも頭に残るのだ。

 

――魔族を目撃した人間の口封じだ

 

 魔族を。となると魔族の上層部から命を受けたとも考えられる。それは誰? まさか――魔王か

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