第一話
「ハンス、お前を追放する」
「そ・・んな」
ああ、また、始まった。もっと、スマートにいかないものかね。
「グスン、グスン、グスン」
「おい、坊主、俺のところにきな」
食事処で拾った坊主を俺の冒険者パーティー[畑を荒らされたらフランキーまで]に入れてやった。仕事を拡大しなければいけない。人手はいくらあっても足りないからよ。
そう、おれはフランキーという名の中年冒険者だ。
「フランキーさん!聞いて下さいよ!僕を追放した冒険者パーティ[ルスカスの翼]は解散しました。僕のポーターとしての働きがないので空中分解したからですよ!」
「あ、そう。大変だな」
ここで、否定も肯定もしてはいけない。俺は管理職だからな。
実際、人生の中で、冒険者であることよりも、冒険者でない期間の方が長い。俺は一つに特化したから生き残った。[畑を荒らされたらフランキーまで]って聞いたらすぐに何をするかわかるよな。
村の若い衆が一晩中、畑の番をする見張り要員だったり、畑を荒らす魔害獣や、害獣の駆除に一部、大型魔獣を狩ったこともあった。最大で、大蛇の討伐。畑の近くに巣を作って、牛を飲みこもうとして、大変な騒ぎだったぜ。
有名どころは、手柄を立てて、お貴族様のお抱えの護衛や私兵。婿入り、嫁入りと人生は続く。
いつか気付よ。ハンスよ。
☆☆☆冒険者御用達酒場
「おい、中年冒険者だ。まだ、冒険者にしがみついているなんて惨めだぜ」
「ア~ハハハ、ああはなりたくないね」
酒場で聞こえるように、コソコソ笑っていやがる。我慢だ、部下には、後で、ホローしなくてはいけないな。今日は他のパーティーを追放されたロザリーという魔法使いのパーティー入り祝いで酒場に来た。
絡まれるとは、運が悪い。
なあに、いつものことさと思ったが、今日は違った
「なあ、お前、ハンスだろ、もう一人は先週、追放された魔法使い。こんな情けない名前の冒険者グループやめて、俺ら[魔狼の牙]に加わらねえ。お前達なら、金稼げるぜ!」
不味い、奴らは勇者候補生くずれの冒険者グループ、店の護衛料と称して、自ら営業に出て、お金を取る不良冒険者、ハンスよ。お前なら、わかってくれるよな・・
「わ、私はいいです。フランキーさんの元で修行を積みます!」
「ええ、いいの?やったーざまぁからのステップアップだ。フランキーさん。俺やめる!」
(何?)ロザリーはわかっている。ハンスは知らない。ここは止めなければ・・このパーティーは新人を使い潰すって有名だぞ。
「なあ、魔狼の牙のファルコンよ。引き抜きは御法度だぜ!グハッ」
「ハハハ、みっともねえ。腹ワンパンで、ゲロ吐いてやんの。ファルコンさんだろ、フランキーのおっさん!いや、これから、ファルコン様と呼べや」
「「「ウハハハハハハハ」」」
「おい、ハンスよ。お前は今日からの魔狼の牙の一員だ。フランキーと呼んでやれよ」
「はい、ファルコンさん。おい、フランキー、お前の仕事ダサかったぜ!でも有難うよ。取りあえずファルコンさんに拾ってくれるまで日銭を稼がせてもらったことは感謝してやる」
「おい、こらからはハンスも[さん]付けだぞ]
ロザリーは「やめて下さい。どなたか助けて下さい!」と叫ぶが酒場の者は誰も助けない。
ガシガシと足蹴にされるフランキーは、思い出した。
(ファルコンは、定期的にイジメのターゲットを探して、グループ内の不満を外に向けて解消して、統率しているタイプだ。忘れていた。奴らのひいきの店を調べておくのだった・・俺は、情けないな。ハンスよ。お前、村人に感謝されて、喜んでいたのではないのか?)
冒険者同士の喧嘩は基本手出し無用。それでも、仲裁に入るのは、それよりも力の強い冒険者と決まっている。
「おい、ロザリーちゃんだっけ、こっちきて、お酌しな。夜は、いろいろ冒険者のことを教えてやるぜ。宿に来いよ。グヒヒヒヒ」
「ヒィ」
ファルコンは嫌らしく、ロザリーの肩に手を掛けた。
(ヤバイ!こいつは本当にやるかも。逃がさなければ)とフランキーはイスに手を掛け何とか立ち上がり。
テーブルの上にあった。アイスピックで、ファルコンの手の甲を軽く突き刺し
「いてぇ、おっさん何しやがる。決闘だ!」
ファルコンが叫んでいる間に、ロザリーを掴み。思いっきり、ドアの方に投げることに成功した。
「助けを呼んでこい!」
「はいぃーーー」
(逃げろと言えば、真面目なロザリーは逃げないだろう。喧嘩の仲裁をする冒険者はこの街にはいない。こいつらはこの田舎ギルドで最強のBランク。誰も助けまいよ。ロザリーよ。逃げろよ)
ロザリーは助けてくれる人を探しにいった。
「女を逃がしやがってよ~」
「ファルコンさんに、傷を付けやがって、お前ら100倍返しだ!」
フランキーは、リンチに遭いながら、(まあ、いいか。女のパーティーメンバーのために死ぬのも悪くない)と回想した。
・・・・
しばらくすると、酒場に、二人の女性が入ってきた。
20代前半と10代半ばの黒目黒髪の女で、年上の方は聖女服、もう一人は兵士の野営用の服と変った魔法杖を持っている。
「騒がしいわね。酒場にしても、とても騒がしいわね。ここに、[畑を荒らされたらフランキーまで]のフランキー様がいると聞いたのだけども、皆様、ご存じないかしら?」
聖女服を身にまとった20代前半の女は低いがやけに通る声で、酒場の皆に問いかけた。
もう一人は「う・・む」と無言
フランキーは酒場の床に、倒れたまま、[魔狼の牙]のメンバーに蹴りを入れられていたが、その声で暴力は止まった。
「おい、姉ちゃん。フランキー様だって、おっさんだぜ」
「この寝転んでいるみっともねえおっさんが、フランキーだぜ、仕事の依頼なら聞いてやる。どうせ魔害獣って小さな魔物の駆除だろう?」
「ねえ、ファルコンの兄貴、こいつらにお酌させましょうよ、あれ、兄貴、どうしました」
ファルコンは固まっている。
(俺は、勇者候補生で城に行ったことあるが、一度見たことある。ありゃ、SSS級の極悪コンビ、無差別セイコと鏖のアリサじゃねえか。ゲス転生勇者を狩ったこともある聖王国と王国の冒険者のトップじゃねえか?)
俺はファルコン、魔法剣士だ。村(26世帯)一番の実力を認められて、村長を通して領主に推薦状を書いてもらって、城に勇者選抜訓練に行ったことがある・・そこは未知の世界だった。
訓練をして、三日で、選抜に弾かれた。俺は、そこで、14歳の騎士見習いにボッコボコにされた。俺は当時、20歳、今から5年前だ。そいつは言った「お手合わせ有難うございました。勉強になりました」ときちんと礼をしやがった。
背筋が凍る思いがした。
まだ、「ダセー弱えー」と言われた方が安心できた。
何故なら、それが、俺と同類の強さだからだ。
俺の村では、喧嘩で勝ったら必ずそう言っていた。
強さの次元が違う。
「気にするな。お前は筋がいい。国軍に入って、きちんと訓練に励めば伍長にはなれる。それ以上は人望とか、手柄とか何かが必要だ。頑張れ」と最後、城を出るとき教官に言われた。
・・・
「なあ、おまえ、いや、お二人はフランキーに何の用があって、きた、来たのですか?」
「貴方に言う必要はないのだけれども、まあ、いいわ。フランキー様に教えを請いに来たのよ」
コクコク「うん・・うん。フランキー様のお知恵が必要・・ね」
(何だってーーーこいつはかろうじてC級の落ちこぼれじゃなかったのかよ!)
ファルコンは、何かが、価値観が、崩れる感覚に陥った。
最後までお読み頂き有難うございました。
後一話続きます。
お気に召したらお付き合いお願いします。