4話(♡):元気っ娘ママアイドル書紀委員長が洗脳に負けて恋奴隷妻に志願する
「ちゅ……。ん……やっぱりひろ君相手じゃ発情しない……んんんんぅぅ!?」
僕とキスをした六花は目を開いて腰を浮かせた。
「あ……ぐうううううううっ!!」
苦しそうに目を見開くと、次の瞬間瞳に♡マークが浮かんだ。
それを見た僕はどす黒い感情が渦巻くのを感じた。僕は六花の耳元に顔を寄せる。
「六花、お前は僕のモノだ」
「あっ……ああああんんっ♡♡!!」
僕の声にも反応するのか、びくんびくんと震える六花の首からつーっと汗が流れた。
「これ、これぇしゅごしゅぎるぅ♡」
はぁ、はぁと発情する六花。六花は至近距離で僕を見つめてきた。
「あぁぁ♡好き、好き好き好き!」
そのまま僕を襲いかねない様子だ。
というか僕を押し倒してきた。
「あぁもう我慢できませんわ!好き!好きですの!私と、私と結婚してくださいませ!」
「くくくっ。だめ。僕は神代先輩と結婚するの。」
あまりの変わりように思わず笑ってしまった。口調から仕草、雰囲気、何から何まで変わってしまった。
「むぅ。では旦那さま。旦那さまとお呼びしたいですぅ♡」
「ああ、いいよ」
「旦那さまぁ♡」
さきほどまで精々おこちゃま扱いだったためか、ものすごく気分がいい。
この時は深く考えずにあっさりと頷いたが、後々少し後悔することになる。
六花は僕に抱きつき、脚をからめる。
頬同士をすり合わせ、ハートマークを浮かべた彼女は僕を誘惑してくる。
「旦那さま、六花を抱いてくださいませんか♡」
思わず襲い掛かりたくなったが必死でこらえた。
「だ、だめ。僕には神代先輩がいるから!」
「むぅぅ……。旦那さま。ひどいですわ。六花はもう貴方しか見えませんのに」
「でも、六花だって分かってるんでしょ」
「……勿論ですわ。旦那さまが心から望んでいるのであれば、私の方からその御口に、その麗しい御顔に余すことなく接吻をしていましたから……。旦那さまが心から望んでいるのは凛先輩との接吻。恋人、結婚……。はぁ……」
すっかりお嬢様口調になった六花。今までたまに感じていた不自然感に納得を覚える。
ははぁ。こっちが素だな。
「今の口調が素なんだ?」
「ええ。イブロスのアブスキル使いとして、ホモサピエンスの猿共の前で本当の私など見せたくもありませんから」
また気になるワードが出てきたけどなんだか話が長くなりそうな気がしたのでそっちは一旦スルーする。
「その、改めてなんだけど、僕と神代先輩が恋仲になるの協力してくれる?」
『恋慕』は『母性』とその威力自体は変わらない。だけど同年代の女性相手なら『母性』よりも『恋慕』の方が効く、と思っていた。六花の様子を見るとそれは正解のようだ。
でも『恋慕』は普通の女性に使えば好きになり過ぎて狂って死んでしまうほどの強烈な恋心を刻み付ける。さっきは協力してくれるって言ってたけど、嫉妬に狂って後から包丁ぐっさり刺さらなければいいなぁ。
と呑気な事を考えていると、六花は僕から離れ、青の綺麗なカーペットの上で三つ指をついて土下座をした。
「はい♡六花はずっと前から貴方に身も心も捧げると覚悟していました♡私の全てを捧げますわ♡凛先輩を正妻とした暁にはどうか私を旦那さまの恋奴隷妻にしてくださいませ♡」
こうしてなんだかあっさりと、六花は側室を自認し、僕の最初の奴隷になったのだった。
妻は神代先輩がいるからあれだけど、奴隷かぁ。
今まで僕をからかってきた過去を思い出し、ちょっと意地悪な気分になる。
「でも僕のこと異性として見てなかったんじゃないの?」
「あぁぁ!申し訳ございません。確かに六花は旦那さまに異性として魅力を感じておりませんでしたわ。で、でも信じてくださいませ、私は求婚されていたら二つ返事で快く貴方の妻になっていましたわ!」
え?
どゆこと?どゆこと?
彼女は駄目で妻は良いという謎理論を振りかざされて思考がストップした。
「はい。私はずっと前、入学式より前に旦那さまを一目見た時からお慕いしておりましたわ」
ぽっと頬を染め上げていやいやと首を振る六花。可愛い。
いやいやと言いたいのは僕の方だというのは内緒だ。
「旦那さまがその身に強大なスキルを宿していたのは薄々気付いておりました。イブロスの貴重な殿方。私は絶対に旦那さまの妻になるために旦那さまを調べ上げ、クラスの席が隣同士になるよう工作して、旦那さまが凛先輩を想っているのも気付いていたので、私を頼ってくださるよう生徒会の書記になって、なるべくずっと旦那さまと一緒にいるようにして他の女を近づけないようにして、私、今日旦那さまに私を頼ってくださって、私にしか話せない秘密を打ち明けていただいて。嬉し過ぎて絶頂しかけましたのよ♡」
僕の思っていた以上に六花さんは愛の重い女性だった。
「じゃあどうして恋人は駄目なのさ」
いや、別に六花と恋人になりたいわけじゃない……いやなりたいけど!凛先輩の次ぐらいには魅力的だなぁとは思っていたけれど!
「何度も申しあげているとおり、旦那さまに異性としての魅力が0だったからですわ。やはり乙女たるものの燃え上がるような恋をしてみたかったんですもの……」
いじいじとスカートを弄る六花。美少女がすると可愛いなぁ。
「でも今は違いますわ。氷見六花は貴方の事をお慕いしております。結婚相手としても、恋愛相手としても」
にっこりと微笑み僕を見つめてくる彼女に頬が熱くなるのを感じた。
照れくさくて話をそらす。
「て、っていうか、さっきからイブロスって何さ、初めて聞いたんだけど!」
「あっ!これは内緒の話だった!お願いだから現人類には内緒にしてね、てへっ♪」
不自然過ぎる元気っ娘キャラに、鈍い僕でも分かった。わざとイブロスって単語出したな、これ。
六花はウキウキと語りだした。あまりに長い話だったので話をまとめると、六花達スキル使いは現人類のホモサピエンスと人種的に少し異なる種族なのだとか。
六花達は自分たちをイブロスと名付け、呼び合っているらしい。イブロスの学者曰く『現人類から進化した新人類』それがイブロス。
で、イブロスはホモサピエンスつまり現人類にバレないよう表では現人類を立てて、裏では数十年、数百年単位で少しずつ種族の覇権を乗っ取る計画を立てているのだとか。
イブロス同士は現人類が見つけられないようにこっそりと50年前からインターネットの奥底に掲示板を立てて、現人類には公開できない機密情報を色々と交換、共有しているんだと。
なんて恐ろしい女性達だ……。
ちなみに男性イブロス、僕からしたら先輩イブロスは既に3人帰らぬ人となっており、今は始祖のおじいちゃん一人が生きている。あ、男性としての始祖ね。最初のイブロスは女性のおばあちゃん。
正真正銘の初代イブロス、神代威武子さんです。イブロスの由来は威武の子達、という意味なのだとか。神代先輩のひいおばあちゃんとして僕の中でも超有名人。世間的にも歴史や社会の教科書に載るぐらいの偉人です。イブロス関係を除けばここだけは僕も前から知っていた。
「ですから、旦那さまは貴重な貴重なイブロスの殿方なのですわ」
なるほど、僕は数少ない5人目の男性スキル使い。
しかもとびっきりのアブスキル使いだ。六花は同じスキル使いとして僕を結婚相手として囲っておきたかったんだな。イブロス同士ならイブロスの子が産まれる可能性も高いかもしれないし。
まぁ確率上がるなんてそんな話は聞いたことないけども。そもそもの実例、男性が少ないし。
「六花は僕がイブロスだから先に囲っておこうとしたと」
「その通りですが、その表情は私達の置かれている状況を全く理解しておりませんわね?もう!」
言葉とは裏腹に六花はウキウキで僕の腕に抱きつき、時折僕の肩に頭をのせたり、逆に六花の肩に僕の頭を乗せさせて頭を撫でて楽しんでいた。
「はぁ……幸せ♪ う、ううん!こほん。まず、イブロスにとって目下の難題は、種としての絶対数の少なさと、恋愛対象となる殿方の少なさにありますわ」
まず、イブロスはそもそも生まれづらい。1万人に1人と言われている。確かにいかにイブロスが個として知力、武力で現人類を大幅に上回っていたとしても多勢に無勢だ。前半の課題は分かる。でも後半は一体?
「絶対数については、イブロスの女性からは100%イブロスの赤ちゃんが産まれることが分かっているので、ここ数十年で着々と増えてきてはいるのですが……」
え?
「ええええええ!??」
イブロスの女性からイブロスが産まれる確率は現人類と同じ1万分の1って常識なんだけど!?
「うふふ。これも内緒のお話でしたわ。学園の猿共には絶対内緒ですわよ♪イブロスの女性は生涯で最低二人は産みます。一人は表用。これはスキルケンサ―を偽装し一般人に紛れ込ませます。イブロスの3歳児は現人類の15歳相当の知能を持ちますから偽装も簡単です。そして、もう一人は政府に内緒で妊娠出産子育てをするんですの」
「じゃ、じゃあそれで産まれたイブロスの女性ってどこにいるの?」
「国籍も住所もない女性がかくまわれているんですの。第二悠遠学園とも言われているのですが……おっとこの話をすると流石に長くなってしまいますわね。とにかく政府が把握しているよりもイブロスはずっと多いんですの。ただし、男性イブロスは政府の把握数と同じ、歴史上4人。存命なのは1人だけ。あら」
5人目が目の前におりましたわ、とおどけた様に僕を見つめる。
旦那さまは絶対に政府に見つかってはいけませんわね。見つかったら何をされるか。
と、くすくす恐いことを言ってくる将来の嫁(予定)。
「じゃあ別に六花の結婚相手僕じゃなくても良くない?僕以外の男性でもイブロスが産まれるなら絶対数の問題はクリアじゃないか」
「いいえ、旦那さましかあり得ませんわね」
そうはっきり断言されるとちょっと照れる。いやまぁちょっと言わせたかった感もあるんだけどさ。
「もう一つの問題。こちらの方が大問題でしてよ」
「恋愛対象となる殿方の少なさ……か」
「ええ。イブロスからすれば異性としてのホモサピエンスなんてゴミ。映す価値なしですわ」
「ええ?それ、六花だけの話じゃないの?!」
僕は今までの話の流れで六花だけが特別現人類嫌いなのかと思っていた。が、それはどうやらイブロス全体の傾向としてそうらしい。
「で、でもイブロスの有名人がテレビやネットでイケメン見てうっとりしてたり、ラブラブな結婚式開いたり、っていうか身近なクラスメートだってそこらでイチャイチャしてたりリア充してたりするじゃん爆発しろ!」
「後半は大分私怨が入っていた気がしますわ」
苦笑する六花。
「でもこれからは私とそういうこと、いっぱい、いーっぱい、できましてよ?ちゅっ♡」
頬にキスされる。
「あ、赤くなってますわ♡かわいい♡♡」
「い、いいから先、先話して!」
「あぁん♡、はい、旦那さまのご命令でしたら嬉しいですわ♪」
別に命令ってわけじゃないんだけどな。
六花はこほんと咳払いする。
「それでは、イブロスにとって異性の現人類で発情するというのはドラゴンカーセックスで興奮するより難しいんですの」
いきなりぶっこんできた。レベル高いなおい。
「旦那さまがおっしゃっていた全て。あれ本気でイブロスが猿にときめいていたように見えましたの?」
とうとう猿呼ばわり。ひ、ひどい。
「だ、だってどう見たって」
「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな、ですわ」
「雑にお嬢様口調入れるな」
「どうどう。あんなの演技に決まってるじゃありませんか。イブロスはホモサピエンスと繋がらないと絶滅してしまうのですから。現状素直な思いを現人類に吐露したら私達は一瞬で殺戮されます。多勢に無勢、お先真っ黒ですわ」
手を上げ白旗の意を示す六花。
「性交渉はどうしてるの?でも、赤ちゃんは欲しいよね?」
六花は途轍もない嫌悪感を隠そうともせず、うえぇぇと綺麗な舌を出した。その舌舐めたいげふんげふん。
「ほ、ホモサピエンスの男と同衾なんておぞましくて考えたくもありませんわ。ですが、みんな赤ちゃんは欲しいです。大切な大切なイブロスの子なのですから。」
六花は心底嫌そうな顔をする。
「おおよそのイブロスの女性にとっては、夫とは唇を合わせるだけのキスが限度ですので、嫌々、夫の精液を人工授精して孕むのですよ。私はキスも人工授精も絶対に嫌ですわ」
「じゃあ裏では……」
「ええ、イブちゃんねるでは毎日イブロス同士で慰め合ってますわ。『【来世に】夫を性的に愛したい【期待】』スレは100万を突破してますの」
にわかに信じがたい事実に僕は思わず眉をひそめる。
だってあんなに目の前でリア充どもがイチャイチャしてたのに。
「ええと、そうですわね。例えば旦那さまにとって、アウストラロピテクスの女性と同衾できまして?」
「アウストラロピテクスて……猿人じゃん……」
「そーいうことですわ。旦那さま、今の旦那さまなら人類の女性に種付けするのは相当困難ですわよ。思い浮かべてみてくださいませ」
そう言われてスキルを持っていない女性を思い浮かべてみる。
…………う、うわぁ、全然興奮できない。まじかよ。
前までなら綺麗だなーと思っていた女優さんとかや〇てぇなーとか思ってたグラビアアイドルさんを思い浮かべても、全然興奮しないし綺麗や可愛いとすら思えない。
なんというか、可愛い犬とか、猫とかを見るような感じ。キスするとしてもペットにキスするみたいな、いやでもキスですら本当に愛してるペットじゃないと無理だ。
うーわ、キッツ!イブロスの女性、地獄じゃんこんなの。
天はイブロスに何物与えるんだってぐらいのチートな才能と美貌の、天才集団だと思っていたのに、蓋を開ければ彼女達の異性関係は絶望的なまでに悲惨だった。