3話:元気っ娘ママアイドル書紀委員長の優しさに付け込んで『恋慕』を刻み付ける
「で、かいちゃんはママに何をお願いしたいのかな?」
あ、やばいこの威力。同い年の黒髪ショート美少女。学園の元気っ娘アイドル委員長が僕のママになった。
「お、俺は…むぐっ?!」
「めっ♪ 本当は俺なんて言いたくないんでしょ?ママ分かるよ?」
六花は僕の変態的な願望を見透かしていた。
六花は僕の後頭部を優しく包んで、安心する桃源郷に誘う。
「甘えたいんだよね?ママのおっぱいに顔埋めて安心したいんだよね?」
「……うん…………」
「ああぁぁぅぅ、か、可愛いぃ♡」
身悶えする六花。
対する僕はこれ以上進んだらマズイ、帰ってこれなくなる、と脳内で警報が鳴りまくっていた。しかし。
「ほーら♪ママって呼んで?」
美少女にこんな事言われて戻れるはずがない。
「ま、ままぁ……」
「かいちゃん♡……ううん、大事な大事な息子なのに苗字呼びなんてひどいよね……」
「ま、まま、そんな事」
六花はしゅん、となった直後ににっこり笑って僕にこう言った。
「ひろ君……だめ……かな?」
「……うぅんっ……」
ああ、もう駄目だ。
と思った。みなさん、僕はもうだめです。
僕は返答代わりに六花のおっぱいに顔を押し付けた。
「あんっ♪えへへっ♪」
あぁ……このままずっとイチャイチャしていたい。。。
けど駄目だ。僕にはやらないといけないことがあるのだ。
「六花、お願いが。あうっ」
「ママ、でしょ、めっ。ぼけなすっ!」
それは息子に使う言葉として不適切だと思う。
六花はかわいらしくぷんぷんしながら、僕の眉間にこつんと人差し指を立てた。
「六花、お願いだよぉ。このまま親子プレイしてたら僕もう戻れなくなる…」
「いいじゃん♪このままママと末永く二人で暮らそっ♪凛先輩なんてどうでも……あ゛っ?!」
墓穴を掘った、という表情がこれほど似合うものもないだろう。
六花は口を押えて目線をあっちの方に飛ばしている。
「もしかして、六花、最初から僕の相談内容分かってた?」
「い、いや流石にスキル持ちになって私を洗脳するなんて予想してなかったけども」
「でも神代先輩絡みだってことは検討ついていたと」
「……(ぴゅーぴゅー)」
いつもの六花に戻ってきてくれて助かった。と吹けていない口笛を吹く六花を見て思った。このままいってたら完全にママに甘えるダメ息子になってた。
それもアリだな。と思わなくもない自分の変態性にも呆れつつ、僕は六花に本当に相談したいことを打ち明けた。
「そう。僕、神代先輩に告白して恋人になりたいんだ」
「やっぱりそうなんだね……。うん、分かった。全力で協力するね♪」
「ちなみに『母性』を使ってなかったらどういうリアクションになってた?」
「そ、それは言いたくないよ……ひろ君に嫌われたら、私、生きていけない……」
何を言うつもりだったんだよ。
そんな僕の視線に気づいたのか。六花は白状した。
「ううぅ……。今の私はそんなこと一欠けらも思ってないからね?!だから嫌わないでっ!!」
と何度も僕に嫌わないでと念押ししてきた。どんな酷い言葉を投げつけるつもりだったんだよ。
「た、例えば『凛先輩と一回も話したことないのにいきなり告白?プークスクス』とか」
「ごはっ!?」
「『副会長の桃寧先輩たぶらかしておいて生徒会長特攻とかマジキモいんですけど~~w』とか」
「ぐべらっ!!?」
「『もしかして私も狙ってる?生徒会コンプリート狙い(笑)』」
「……あ、はい。もう結構です……生きててすみませんでした……」
「ごめんなさいいいいいいいいいいい!!」
六花は僕を抱きしめ本気謝罪をしてきたので許すこととする。
作戦会議だ。
「とにかく、神代先輩を堕としたいの!初等部からの神代先輩と仲良くて生徒会書記の六花なら神代先輩の好きな人とか、好きなモノとか、色々知ってるでしょ?教えてください!」
「え?」
「え?」
なに言ってんだこいつ。みたいな目で僕を見てきた。お前の息子だぞこら。
「う~~ん。どこから話すかなぁ」
頭の悪い息子にどう話すか、みたいな感じで頭を抱える六花ママ。
僕はそこまで頭悪くない。学園のテストだって、平均を少し下回るぐらいだし。
六花は常に学年一位だが。僕の神代先輩も常に学年一位。ちなみに桃寧先輩は平均よりちょっと良いぐらいだったりする。
「えっとね。ひろ君。通常の手段で堕とすんじゃなくて、私に使った能力使って落とした方が手っ取り早いんじゃないかなぁ?」
「そんなの分かってるよ。でも自然と心を通わせて彼氏になりたいじゃん!」
「うん、それ無理♪」
「うごごごごごご……」
「ひろ君が学園に入って2カ月。私ですら堕とせなかったのに、正攻法で凛先輩を堕とすなんてどこからその思い上がりがやってきたの?」
お前、洗脳解けてね?辛辣にも程があるのですけれど。
そりゃまぁ言われずとも分かっていたことではある。文武両道で、誰からも慕われる完璧超人。正統派美少女。170㎝を越える長身に、真っすぐで、その名のとおり凛とした目つき。
「六花はおっぱい何カップあるの?」
「えっ、え?Eカップだけど……」
推定Gカップの巨乳に制服の上からでも分かるくびれ。程よく肉のついた太もも。長くてきれいな足。そこに乗っているお尻が美しい。
「六花、髪綺麗だよね」
「えへ♪ありがと♪」
六花はショートカットだけど、凛先輩は腰元まで届く黒のストレートロングだ。前髪も綺麗に整っていて、思わず触りたくなる。
「ねぇひろ君♪」
「ん?」
「私洗脳されてなかったら、思い切りぶん殴ってたと思うよ♪ぼけなすっ♪」
にこにこ笑顔のまま優しく頭を撫でてもらった。えへへ。
まぁちょっと(?)当てつけもあって六花と凛先輩を比較してしまったけど、
六花も間違いなく学園で5本の指に入る超美少女だ。けど、凛先輩は僕の片思いフィルターを外しても絶対学園で一番の美貌だ。
「そんな神代先輩を正攻法で堕とすのは、やっぱり無理だよなぁ……」
「だから私を足掛かりに凛先輩を堕としに行くものだとばかり思ってたよ……」
「そりゃ、そのつもり……なんだけどさ」
「大丈夫♪大丈夫♪私に全部、まっかせなさーい♪」
片方の腕を袖まくりして曲げて見せた。本当に大丈夫かなぁ。
そういえば、この『母性』。僕を本当の息子以上に僕を愛してくれるようになるスキルなんだけど。異性愛まで芽生えなかった気がする。
「ねぇ六花ママぁ……」
「♡♡♡。なぁにひろ君♡♡」
明らかにきゅんと来ている六花ママに聞いてみた。
「僕と付き合ってください」
「……。……」
六花ママは固まる。え、嘘やろ。この流れで振られるなんてまさか。
「え、えっと。えっとね。ひろ君はこの世のなによりも可愛くて尊い同じイブロスとは思えないほど素敵な存在だと思っているの!だからイブロスであるママがお付き合いするなんてとっても考えられないっていうか。ぶっちゃけ異性としての魅力はゼロだからお付き合いは無理っていうか。いやでも大好きなひろ君のお願いを断るなんてあり得ないし」
六花ママはにっこりと満面の笑みで答える。
「うん、いいよ♪ママと付き合おっ♪」
「ばかぁああああああああああああああ!!!」
僕の叫びは視聴覚室の防音機能にかき消されていった。
っていうかイブロスってなんだよおおおおおおおおお!
「もう……拗ねるのやめようよ~。ママが悪かったよ~。ひろ君の気持ち、よく分かるよ?」
「……ふん」
一日に4回も振られる男の気持ちが分かってたまるか。
六花に背中を向け拗ねていると。六花は僕を後ろから抱きしめてきた。
柔らかい感触が背中に当たる。
「はぁ……。悪かったってば。でもひろ君、本気のお願いだったら私受け入れてたよ? 確かにセックスは愛撫をしっかりしてくれても全く濡れなくて挿入できないと思うけど、でもそれは親子の愛情でカバーしてみせるから!」
それもう生理的に無理レベルじゃねーか。半分レイプしろって言われてるじゃねーか。
「……もしかしてさっき散々、おっぱいに顔を埋めてたけど、濡れなかったの?」
「いや、全く。息子に甘えられて濡れるとか変態だけでしょそれ」
思わぬところで僕の変態性と六花ママの常人性が明らかになってしまった。
六花は真剣な顔をして僕にずいっと近づく。
「ひろ君、覚悟きめよっ?」
「……はて、覚悟とは?」
「ママ、分かるよ。まだ能力隠してるでしょ」
ぎくっ。
そう。この洗脳能力は『母性』だけではない。具体的にはまだ後4段階も残っている。
「な、なぜそれを……」
「我が子の隠しごとをママが分からないわけないじゃない♪」
「まぁ息子ではないんだけども」
「今更それ言うの?!」
と少し揶揄ったところで、割と真剣に悩む。
「これ以上の洗脳はアブノーマルスキル持ちでも心が持つか分からなくて……」
と、不安と吐露すると、六花は嬉しそうに、事もなげにこう言った。
「じゃあ、六花ママで試してみる?」
「で、でもこれ以上は廃人になる恐れがあるんだぞ?!」
「いいよ。だってひろ君相手に発情しない自信あるし。ふふん」
あ、これ煽られてるな。
そう分かっててもムッとした。このスキルを馬鹿にされると凄くイライラする。
このスキルは僕にとっての生命線。六花の言う通り、顔も身長も学力も性格も何もかもダメダメな僕の、唯一のアイデンティティ。そのアイデンティティを馬鹿にされると居ても立っても居られない。
「はーい♪それじゃあママはどうすればいいのかな~♪」
「……いいよ。じゃあ横になって寝てて」
「はーい♪」
じゃれつく六花を離し、六花は何の警戒もなく、仰向けになった。
あまりに無警戒過ぎて少し驚く。
「六花、ほかの人とこう言うことしたことあるの?」
「はじめてに決まってるじゃない。愛する息子のためなら、全然恥ずかしくないよ♪ほぉら♪どうぞ♪」
六花が僕を気遣ってなのか、両腕を僕に突き出し、おいでおいでと招く。
僕は無言で六花の上にまたがり、両耳の横に手をついた。
「ふふふっ♪ひろ君に何されちゃうのかなぁ~。次は『発情』とか?」
「ちがうよ。ごめんね。」
僕はヘタレだから、六花にここまでお膳立てされるまでできなかった。というのもある。でももう一つ理由があった。
「六花、次の洗脳の発動条件は、キスだ」
六花は目を見開き、納得したようにゆっくりと目を閉じた。
「これは親子同士のキスだよっ。ファーストキスは別物、ね?」
どこまでも優しいママに、くだらないプライドを捨てきれない僕は静かに唇を重ねた。
「『恋慕』」