『高慢と偏見』はどういう話なのか②婿候補の皆さん
というわけで、今度は婿候補の皆さんのご紹介です。
①ビングリー(年収5000ポンド)
初登場時の描写は「好男子で紳士らしく、晴れ晴れとした顔をし、くつろいだ気取らぬ態度」(p.20[富田彬訳/岩波文庫版・上巻 以下同])。
父親が商売で財を成し、ジェントリ階級入りした好青年。
優しそうなイケメン。
ベネット家の近くのネザフィールド・パーク館を借りて、姉妹と友人のダーシーとやってき来ました。
姉の方は既婚で、未婚の妹はダーシーの妻の座をわりと露骨に狙ってます。
美しくて人の良いジェーンに惹かれるも、ダーシーと妹に阻まれてロンドンへ去ることに…
ダーシーがジェーンとの結婚を反対したのは、
・ジェーンは、ビングリーのことを真剣に愛している風に見えない(ジェーンはビングリー大好きなのだけれど、慎み深い性格すぎて伝わってなかった模様)
・ビングリーのような優しい(柔弱とも言う)性格の人間が、ベネット夫人とか三女四女五女のようなクソ娘がぞろぞろくっついてくるジェーンと結婚したら、後々死ぬほど面倒なことになるのであかん
・ジェーンの母方の叔父が商売をしているので、家格を考えると微妙…
というおせっかいから。
「あ、これ結局ジェーンと結婚するやつやろ」って思った皆様、正解です。
②ダーシー(物語終盤で28歳/年収1万ポンド)
初登場時の描写は「立派な背の高い容姿と、うつくしい目鼻立ちと、品のいい態度」(p.20)。
友人のビングリーの引っ越しでくっついてきた青年。
ビングリーとはどこで友達になったのかはっきりとは書いてないですが、パブリック・スクールか大学かどっちかやろなあという感じ。
爵位持ちの親戚がおり、ペムバリー館という大邸宅を所有。
明らかに高スペックです。
けれど、田舎の社交の洗練されてなさに辟易して、見下しまくっていたので、速攻「お高くとまってる気に食わないヤツ」扱いされたのは残当……
なんだかんだでエリザベスが気になるようになるけれど、はっきり自覚した頃には、ウィカムに色々吹き込まれたエリザベスはダーシーは悪人だと思いこんでおり、ダーシー渾身のプロポーズも「だが断る」と却下。
色々あって誤解は解けるんですけれど。
ダーシーの本邸、ペムバリー館のモデルはチャッツワース・ハウス(デヴォンシャー公爵家所有)だそうで、写真を見たらめちゃくちゃ風光明媚なカントリーハウスです。
コロナ収まったら行ってみたい…
③コリンズ(25歳/年収2000ポンドのベネット家の地所を相続する予定)
初登場時の描写は「背の高い遅鈍そうな二十五歳の青年」(p.106)。
遅鈍そうなって、すげえ表現やな…とびびりました。
ダーシーの叔母、レディ・キャサリンが後見人となっている牧師。
ちなみに牧師は、教会が任命するのではなく、大地主が任命権を持っているようで、牧師になると牧師館に住めるし禄もつくしで、土地を分けられない親戚や、目をかけている人に権利を与えたりしているようです。
ジェントリ階級のおまけという感じでしょうか。
そういえばオースティンもブロンテ姉妹も牧師の娘ですね。
コリンズの話に戻すと、ベネット氏から言うと、不仲だった弟の息子。
大卒だけど、からっぽ美辞麗句をだらだら垂れ流すしかない真面目系クズ。
後見人にそろそろ結婚しとけと言われて(その言い方がエグいんだけど、コリンズ全然わかってないのでそのまま言っちゃうシーンに腰が抜けました)、5人姉妹のうち、誰かと結婚したらちょうどええやろ…ということで、自分が相続する予定のベネット家にやってきます。
速攻ジェーンに結婚を申し込むけれど、ビングリーがジェーンに結婚を申し込む寸前と思っていたベネット夫人に断られ、次にエリザベスにと言い出して、エリザベスに秒で断られます。
ベネット夫人はエリザベスにコリンズと結婚しろとプレッシャーをかけてくるし、コリンズも令嬢特有のもだもだやろとしつこくエリザベスに求婚したりしてマジうざかったりするのですが、美人じゃないので婚期が遅れていた(27歳)ご近所のシャーロット・ルーカスが巧いことコリンズを「生活のために」かっさらってくれて事なきを得ました。
つうか、美人じゃないので嫁ぎ遅れってほんとに書いてありますからね…びびるわこんなん…
いくらコリンズがアホとはいえ、27歳喪女なのにすげえな…と逆にびっくりですが、なにしろ「ただ結婚ということが、常に彼女の目的であった。高い教育を受けた財産のない若い夫人にとっては、結婚が唯一の恥ずかしくない食べて行く道であった」(p.198)ということらしく…
シャーロットは長女なんですが、弟達も老嬢となった姉を抱え込まずに済んで一安心、妹もこれで良家に嫁ぎやすくなったと一安心ということで、弟妹の人生もわりとかかってたようです。
エリザベスはこんな馬鹿と結婚するとか無理ゲーやろと思いますが、後で新居を訪問したら、シャーロットは巧いことコリンズをスルーしながら牧師館で落ち着いて暮らしていて良かった…ってなります。
というか、このへんの展開、生活のために結婚しなければならない社会って、マジ過酷…となりました。
なろうの異世界恋愛でも、「令嬢なのでとにかく結婚しないといけない」という設定の作品は多いですが、『高慢と偏見』の描き方はめっちゃシビアで、本物はやっぱ違うわ…と思いました。
④ウィカム(ダーシーと同世代)
人当たりのよいイケメン士官。
初登場時の描写は「彼は美の精粋をあつめ、顔はきれいだし、姿はいいし、それに実に感じのいい応対ぶりを示した」(p.117)というもの。
下巻で、顔ならダーシーよりウィカムよねとエリザベスの叔母が言う場面があります。
父親はダーシーの父に仕えた執事で、ウィカムもダーシーの父に可愛がられており、牧師館の権利を遺贈されてたのだけれど、牧師なんかやりたくないと断って多額の現金をもらいます。
けど、速攻使い果たして、しれっとやっぱ牧師やりまーす!とか言い出したり、ダーシーの妹(16歳)と遺産目当てに駆け落ちしようとして(未遂)、ダーシーと鬼ほど揉めている人。
ダーシーに不当に遺産を奪われたとエリザベスに告げたりするし、要は話を盛るのが巧いだけのガチのクズ。
最初はエリザベスに接近するけれど、ベネット家の資産状況などを知って、別の小金を持っている女性に鞍替え。
でも、その人とは結婚まで行かず、結局ブライトンで再会したリディアと駆け落ち。
結婚するならまだしも、要は借金溜まってバックレたかったからついでにリディアも連れてった…くらいの流れだったという最悪展開をキメてくれます。
妹が駆け落ちをやらかしたとかおおっぴらになったら、姉達の結婚は激しく無理ゲーになるので、ダーシーがウィカムの借金を精算し、士官株を買ってやり、無理くりリディアと結婚させました。
ダーシー乙……ほんと乙……
というわけで、ジェーンはビングリーと、エリザベスはダーシーと結婚してよかったよかったとなって終わります。
シャーロットもコリンズとレディ・キャサリンを巧くスルーしながらしぶとく生きていってほしい所存。
リディアとウィカムはあんまり面倒かけんといてや…