アグリ・スピリット戦
昨日は更新できずすみません……久しぶりにシャルの本格的な戦闘を書いたものでして……
時間をかけた分、盛り上がる内容になっている、ハズです(戦闘終了まで書き上げられませんでしたが)。
それではどうぞ。
(氷の攻撃は厄介ではあれど対処は難しくないわけで……この攻撃が厄介ですね)
身体強化スキルに注ぎ込む魔力量を瞬間的に増やし、シャルは大地を滑るように駆け抜ける。
空を覆いつくすように降り注ぐは、液体空気。熱を奪われた空気の攻撃は、固体ではないために剣ではじくこともかなわず、今のシャルにとっては回避一択の驚異的な攻撃だった。
何よりも液体空気の攻撃が厄介なのは、狂っても敵が精霊であるから。
先ほどからシャルは相手の魔法攻撃に干渉してその制御を奪おうと試みているものの、自然を司る精霊だった頃の力を残しているアグリ・スピリット相手には、魔法の制御を奪いとることは叶わなかった。
「白竜ッ」
液体空気の攻撃は、副次的なもの。
一番の脅威は、全方位に広がる極寒の気の奔流。荒れ狂う凍結の息吹は、一瞬でシャルの体を凍り付かせるレベルの猛威を振るう。
シャルの手持ちには、それに対抗できる魔法はない。魔術もない。
ゆえに、極寒の息吹には白竜のブレスで対抗する。
迫りくる冷気の壁と、白竜のブレス。
もう何度目かわからない互いの攻撃の衝突は爆風を周囲にばらまく。
新雪が解け、吹き飛び、あるいは飛び散った端から凍り付く。
散らばる雪と氷の中、シャルはまっすぐにアグリ・スピリットへと剣を振り下ろす。
虚空を切り裂く赤黒い刃は、もはやそれを脅威と認めないアグリ・スピリットを覆う氷の鎧を襲って。
硬質な音とともに刃ははじかれ、シャルは左手をまっすぐに伸ばして己の魔力を操作する。
「――血液操作ッ」
吸血鬼への覚醒とともに覚え、失われずにシャルに残ったスキルの一つ。
自らの血を可変剣の刃に塗り付けることで届かせた血によって、シャルは氷の鎧へと干渉を試みて。
「ッ、無理ですか」
氷の鎧を割ろうと変形する血は、けれど瞬時に凍り付き、それと同時に魔力的干渉をはねのけられる。血の中に宿っていたシャルの魔力がすべて、アグリ・スピリットの魔力によってはじき出された、干渉を防がれた。
手札の一枚は無効化され、けれどシャルは動きを止めない。
素早く収納鞄に手を入れて装備を取り出す。
右手に可変剣、左手に竜喰らいの魔杖。
杖の効果の一つである竜体強化を発動し、身体強化と獣化に重ねる。
――同じ肉体の強化系の力とは言え、三つのスキルはそれぞれ異なる特性を有していた。
身体強化は、身体全般の強化。魔力消費量あたりの強化率こそあまり高くないものの、筋肉や骨、あるいは足など部位ごとの強化以外にも、目や耳を強化することで視覚――動体視力や聴覚を一時的に向上させることが可能である。
獣化は敏捷性の強化と獣耳に由来する聴覚強化に偏り、その強化率は身体強化を大きく上回る。
そして竜体強化は、力と耐久性に大きく効果が偏っており、シャルの低い防御力を向上させつつ、全身の筋肉や骨をくまなく強化する。その強化率は、身体強化はもちろん、獣化スキルをも大きく上回り、非常にコスパが優れている。
――ただし、竜体強化は杖を装備していないと発動がかなわず、長杖によって片腕がふさがるというデメリットが存在する。
三つのスキルは、同時にシャルの体を強化する。
身体強化はシャルの視覚と聴覚を。
獣化は敏捷性と聴覚を。
そして竜体強化は力と耐久性を。
そうして弾丸のごとく大地を踏み抜いたシャルは、一瞬にしてアグリ・スピリットの面前に移動する。
液体空気による全方位の攻撃の後、ブレスによる余波で体勢を崩し、続くシャルの攻撃を嘲笑うそれは、その慢心ゆえにシャルの動きに追いつけない。
「エンシェントソーン――」
シャルによって注ぎ込まれた魔力を糧に、伸ばした右手を覆いつくすように伸びるは古代に大陸を埋め尽くす勢いで勢力を伸ばしていた薔薇の魔物の成れの果て。
無数の茨は一瞬にしてアグリ・スピリットを――その氷の鎧を包み込む。
「――吸い取りなさいッ」
大地を枯らす勢いで栄養を吸い取った太古の薔薇と、熱量を奪うアグリ・スピリット。
奇しくも同類の力の引き合いになり、互いを食らいあおうと綱引きを繰り広げる。
アグリ・スピリットはエンシェントソーンを凍らせようとし、エンシェントソーンはアグリ・スピリットを覆う氷に宿る魔力を奪い取ろうとする。
ぶつかり合う両者――そこに、シャルは加わる。
「天、斬り」
空を切り飛ばすほどの渾身の切り払い。
空中に放り出した魔杖の竜体強化の効果が切れるまでの一瞬。
全身全霊の一撃が、綱引きを繰り広げるアグリ・スピリット――そしてエンシェントソーンを巻き込むように振るわれる。
「はああああああッ」
茨を切り裂き、その奥にある氷を砕かんと力を籠める。
腕は戦いによってかじかみ、けれどその体温低下を肉体の異常と判断する自動復元スキルが常時効果を発揮してシャルの体を癒し続ける。
万全の状態を維持するシャルは、その膂力をもって刃を押し込む。
「砕け、なさいッ」
可変剣に加わる力そのものを奪い取ることで強固な防御形態に至っていた氷の鎧は、けれどエンシェントソーンによるエネルギー奪取に加わる強烈な力を前に崩壊する。
ピシ――氷の鎧に、亀裂が走る。亀裂に殺到するように細い茨が伸びる。
砕ける――確信と共に剣を振りぬこうとして。
亀裂から漏れる極寒の息吹を感じ取り、とっさにエンシェントソーンを引きちぎって後退した。
「ッ、あああッ」
回避しきれずに凍り付いた手袋。それを砕くように脱ぎ捨て、引っ付いていた皮膚がちぎれる痛みによる悲鳴を、歯を食いしばって飲み込む。
その間も警戒を怠らないシャルの目の前で、アグリ・スピリットの氷の防御は全体に亀裂を走らせ、砕けて――
散り散りになった氷は、まるで天体を周回する輪のように、むき出しになったアグリ・スピリットの周りを回る。
氷の輪を構成する氷片はつながり、尖り、触れるものを貫く棘のある輪になる。
その数、三つ。
まるでアグリ・スピリットの殺意をあらわにしたような姿に、シャルは引きつりそうになる頬を吊り上げ、笑う。
――気圧されるまいと。
「第二形態、ですか」
その返事をするように、アグリ・スピリットは外側の輪を振動させる。
輪のあちこちに伸びる氷の棘はますます伸び、一層殺意のにじむ鋭利さを持って――高速で射出される。
弾丸もかくやといった速度で飛翔する氷の針。空気を切り裂いて迫る針ごと切り払うべく、シャルは可変剣を振りぬこうとして。
一瞬にして生成された氷の針が足の裏より生えて、シャルの足をその場に縫い付ける。
「ッ!」
自らもまた高速で接近していたアグリ・スピリット。
その周囲を回る輪の棘が一瞬にして伸びて、自身を守る茨の檻になりながら動けないシャルへと襲い掛かる。
剣を振るう間合いすらない中、シャルは足に刺さった針をへし折りながら転がるように強襲を避け、起き上がりざまに通り過ぎた敵へと剣を振りぬく。
茨の檻は、砕けながらもシャルの攻撃を吸収し、砕けた棘は空中を舞い、シャルへと殺到する。
攻勢防御。攻撃相手へと破損した防御の棘を殺到させる攻撃を前に、シャルは足を動かし、攻撃と回避を繰り返す。
雪が舞い、刃が降りぬかれ、氷が飛ぶ。
足元から氷が生えたかと思えば、極寒の息吹が吹き荒れ、ドラゴンのブレスが飛び、雪が流動して津波のようにシャルを襲う。
「ハァッ」
裂帛の気合と共に剣を振りぬく。
斬撃によって迫る雪の津波を吹き飛ばした先――体を取り巻く三つの輪すべてを震わせて突撃してくるアグリ・スピリットの姿があった。
棘の射出か、極寒の気を放つことによる範囲攻撃か、あるいは足元からの奇襲による体当たりか――
攻撃方法を予想しつつ、一瞬の起こりを見逃すまいと目を皿にしてにらむ。吹き荒れる雪が目に入ろうと瞬き一つせず、その一瞬を警戒して――
『ひゃ!?』
幼い声が、シャルの耳朶を震わせる。
聞き覚えのある声、知っている人――目が自然と、声のしたほうを見る。
吹雪から顔を守るように腕をかざした少年少女――二人の奥、吹雪の中に人影を目に留めて。
「~~~~~ッ」
シャルはすべての思考をなげうって走り出す。
魔物の姿を目にして腰を抜かしたらしいドルイドが座り込む。フィーリスはドルイドを気にしてか、あろうことか魔物から目をそらし、背後を見る。そんな二人に、吹雪の先の影――サラが近づく。
視界の端、アグリ・スピリットを取り囲む氷の輪、その棘の先に液体が生成する。
熱量を奪われたことで生成した液体空気、それは、けれど集まることなく、針の形へと変形して射出の時を待つ。
「間に、合え――ッ」
色褪せた視界の中、降り積もった雪にとらわれる足をもどかしく思いながら、シャルは全身を動かす。
拾い上げていた魔杖による竜体強化に加え、獣化と身体強化によって全力で体を強化。
ただがむしゃらにその場へと走る。
その疾走は、サラの目には光の奔流のように見えるほど。
シャルの焦燥を読み取った白竜はアグリ・スピリットの行動を止めるべくブレスを吐くも、輪の一部が茨の形態を取り、ブレスを完璧に防いで見せる。
その一撃で魔力が尽きた白竜は、ふらふらと惰性で飛行し、雪の上に落ちる。
隙をさらした白竜をしとめることはなく、アグリ・スピリットは、ただ魔法の発動を続ける。
シャルを、そしてフィーリスたちを狙う液体空気の針が回転を始める。
シャルを追って来ていた三人の前で大地に足を埋め込む勢いで踏ん張り、シャルは急停止して。
それと同時に、アグリ・スピリットによる液体空気の針が、高速で射出された。
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