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9不幸少女と新たな魔物

誤字報告ありがとうございます。

 池から離れたシャーロットは悩んだ末、池につながる川の脇を、川をさかのぼるように進んでいくことにした。

 川の流れてくる方向は太陽の位置からおそらく南東方向。今までの真南という進行方向からは少しそれるが、何のあてもなく崖もしくは急な斜面を探すよりはたとえ魔物との遭遇頻度が上がろうとも川の脇を進む方が良いだろうと結論付けたのだ。


「水を飲みに魔物が川を訪れるおかげか、川のそばは低い位置の枝が少なくてありがたいですね」


 所々枝が最近折れた跡を見かけながら、シャーロットは川上へ進んでいく。川のそばを進むという選択が正解だったのか、シャーロットのお目当ての崖はあっさりと見つかった。


 蛇行した川の内側に当たる川辺が、草木がまばらに生える切り立った崖になっていた。

 反対側の川辺からその様子を確認したシャーロットは、川べりの砂利部分に下り立って、渡るために浅瀬を探し始めた。


「近くにはありませんか。川幅は2メートル、深い所で1メートルくらいですかね。私の身長だとかなり深い気がしますけど、渡りましょうか?池の近くは浅い所がありましたけれど、わざわざ池の方に戻るのもどうかと思いますよね」


 それなりに勢いのある場所であるせいか、川の水は若干濁っており、深さが分かりにくい。


「ん?あれって……」


 川の中心近く。岩があるせいで浅いと思っていた部分が揺らいだ。その黒い影はゆったりとした速度で川辺へと近づいてきて、シャーロットは慌てて川から距離を取って木の後ろに隠れた。

 水をかき分けて川から這い出てきたのは四足歩行のトカゲ——


「トカゲというか、オオサンショウウオ?」


 黒くてぷよぷよした肌とのっぺりとした平たく広い頭。全長一メートル以上。シャーロットの記憶にある、写真で見たことのあるオオサンショウウオそっくりだった。


「斃しましょうか?そもそもあれって魔物なのですかね?魔物か……それとも動物?食性は?」


 ぬるりとした肌のそいつは、緩慢な動きで首を左右に巡らしてから、シャーロットのいる方向へとゆっくり歩き始めた。


「近づいてきますね。人間を食べるのでしょうか。……斃すべき魔物ね。おいしく頂いてあげますから、どうぞ殺されてください。『ステータス』……残り魔力12。——ウィンドカッター」


 突き出した右手の先から、不可視の風の刃が放たれ、オオサンショウウオに直撃する。身じろぎし血が飛び散るも、その傷は浅い。


「効き目が薄いですね。なら物理で——ストーンバレットッ」


 ゲームのシャーロットの得意魔法の一つ。ゲームでは数十個の石を生み出して前方に放つ土魔法であったが、今のシャーロットにそのような魔力はない。もちろん地面から拾った石を使う、名ばかりの風魔法である。だが、その魔法はきちんと効果があった。

 先ほど風の刃で生じた傷へとイメージ以上の速度で飛んだ石は、魔物の額部分に突き刺さった。

 ビクリ、と大きく震えたオオサンショウウオもどきは、そのまま地面に伏して動かなくなった。


「今ので斃せたのですか?かなり拍子抜けな気がするのですが……んー、ステータス……ああ」


〈シャーロット

レベル:2

職業 :なし

生命力:7/7

魔力 :2/28

スキル:風魔法Lv.1、水魔法Lv.1、火魔法Lv.1、土魔法Lv.1、自己治癒Lv.1

称号 :(転生者)、忌み子〉


「レベルが上がっていますね。斃したということですか。それにかなり魔力が減っていますね。ウィンドカッターが大体魔力消費2ですから、ストーンバレットに8くらい使いましたか?魔力の調節をミスした?威力は消費魔力が原因でしょうか?……ああ、『ゲームのシャーロットが使う強力なストーンバレット』のイメージが入ったことが原因ですかね。その再現のために弾丸である石の硬質化か速度の上昇に魔力が費やされて威力の高い魔法になったと。……練度不足ですね」


 疑問が解消して新たな問題は出たものの、とりあえず念願のレベル2になったことに喜びつつ、シャーロットは斃した魔物の下へと向かう。


「とりあえず解体しましょうか?いえ、向こう岸に穴を掘るなら、あちらで解体したほうがいいですよね。食料確保になりますし、蔓を括り付けて引っ張れば一度で運べますよね」


 それなりの長さの蔓を調達し、片方の端に死体を括り付けて川に浸した。それから水中に魔物がいないことを確認して、蔓を持ち、渋柿や薬草を頭上に持ち上げて川を渡った。


「あとはこっちに死体を引き上げて、と。さて、解体しましょうか」


 相変わらずの刃物なし、木の枝だけで肉や皮を引きちぎり、関節を力技でへし折る杜撰な解体方法である。とはいえ今回は内臓を傷つけないように慎重に腹を裂き、内臓は川に流した。


「居住空間の近くに埋めて、またあの狼に来られたら厄介ですからね。……ん?これって……魔石ですか?」


 心臓らしき臓器を胴体から取り除くとき、手に当たった固いものを取り出し水で洗った。半透明の水色の石は、ゲーム知識と照らし合わせれば魔物の体内からとれる魔石だろう。


「魔石が取れたということは、この子は魔物だったのですね。まあどちらにせよおいしく頂きますけれど」


 町などでは魔道具を動かす燃料として売れる魔石であるが、この場で使い道はない。とはいえかさばらない売れるものなので、シャーロットはひとまず保管しておくことにして解体を続けた。

 手足と、しっぽ、胴、頭に引きちぎって分け、頭も川に流した。食べる6か所は適当な葉っぱで包み、蔓で縛って水中に沈める。

 後は体と川辺の血を川の水で流して終了である。


「さて、寝床を作らなければ。時間がありませんね……けれど魔力もないのですよねぇ」


 すでに太陽は西にあり、夜が迫っていた。シャーロットはとりあえず場所選びをしようと崖を見て歩き、直径1メートル、奥行き3メートルほどの横穴を見つけた。幸い、川からそれなりに高い位置にあるので雨天時の増水にも対応できそうだった。

 穴の前は小さな広場があり、そこに生えている木の枝で対岸からは見えにくくなっていた。川、木、広場、穴という並びである。


「これってあの魔物の住居ですかね?あのネトネトな皮膚で寝そべっていたと思うと寝転がりたくはないのだけれど……表面の土は入口を隠すカモフラージュとして外に出しましょうか。今日からしばらくの寝床はここですね。後は木の枝あたりで入口を自然に見せるのと、蔓と木片で鳴子作りですね。急ぎましょう」


 少しずつ薄暗くなっていく中で、シャーロットは急いで寝床を整え始めた。

 崖の所から少し川辺を進んだあたりにある木から拝借した枝で横穴の入り口を隠す。風魔法で切り落とした枝を運ぶ重労働だが、安全のために妥協はできない。

 運んだ枝の半分は、横穴の入り口前の広場に一本だけ生えている木に、蔓で縛り付けておく。残りは入口にかぶせるように置き、完全に穴を見えなくしてしまう。


「重い。疲れ……て、ない?あれ?昨日はくたくたで初めの木の上でもすぐに眠れたくらいだったのですが、今日は疲れていませんね。朝は疲れが抜けて体が軽くはあったけれど、昼頃のゴブリン戦からかなり体が重かったはずなのですが……薬草にそんな効果はないはずですし、まさか自己治癒?可能性はありそうですね。自己治癒はパッシブで疲労回復効果があるとか?劣化版薬草なんて言ってごめんなさい……いえ、まだその可能性はありますか」


 今の時点では結論が出せない自己治癒については脇に置いておき、次に蔓と流木を風魔法で削った板で鳴子を作る。風以上の振動で木片が弦から落ちて音が鳴ればいいので、そこまで難しい作業ではなく、木片どころか先端がねじ曲がった短い流木を引っかけるだけの形で数が水増しされた。

 そのせいで音があまり響かないので、明日にはもう少しきちんと形にしておこうという結論になった。


 そして、横穴の床の土をかき出す件については、諦めることになった。魔力不足の上、時間切れであった。


 薪を拾うのを忘れていて、既に闇に包まれた世界で川辺の方を恨めしく見ながらも、シャーロットはオオサンショウウオもどきの肉を食べるのを泣く泣く諦めた。

 横穴の天井に蔓の先端をねじ込んで干していた渋柿を胃にねじ込み、口直しとして薬草を咥えた。


「おやすみなさい」


 穴に体を横たえて眠りについて、シャーロットの森の二日目は終わった。

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