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8不幸少女と池と薬草

 森の中、木々が生い茂る道なき道を進んでいたシャーロットは、視界で揺れる光に気付き、傍に生えていた木の幹に体を隠した。

 じっと見つめる先では、枝葉の隙間から淡い光がちらちらと揺れていた。


「魔物では、なさそうですね。だとすると……水場でしょうか」


 魔物との鉢合わせがないよう一層警戒して光の先へと進む。

 視界を遮る枝をよけ、雑草を払って下り坂を進む。足の裏や痩せ細った手足にはいくつもの擦り傷ができていて、その一部から血がにじんでいた。


「おぉ、綺麗ですね……」


 木々の隙間を抜けた先のくぼ地。ぽっかりと空いた空間には、日の光を水面に移す池があった。苔むした倒木の沈む半分が遠くからうかがえるほどに、水は透き通っていた。

 幸い目に見える範囲に魔物の姿はなく、シャーロットは誘われるように池に足をのばした。


 冷たい池の水に手を浸せば、ゆらりと波紋が広がって水面の光が揺れる。

 水中に魚の姿が無いのを残念に思いつつ、シャーロットは水を両手で掬い上げ、口元へと運んだ。


「んんっ、おいしい」


 水魔法で生み出した水とは違い、ミネラルを含んだ冷たい水がのどを潤す。


「こうして飲み比べると、水魔法の水っておいしくないですね。ミネラルゼロですか?」


 それが水温故か、はたまたそれ以外の要素によるものかはわからないが、しばらくの贅沢を楽しんだシャーロットは、惜しみながらも池を離れようと立ち上がり、視界の端に映った白い花に目を留めた。


 白い花……ではなく、その植物の葉を摘み取り、腕の擦り傷に当てる。

 すうっと体内に冷気がしみ込んでくるような感覚がする。十数秒の後、葉が当たっていた部分の傷は消失していた。


「……これが薬草ですか。驚異的な薬効ですね。正直効果があり過ぎて気味が悪いのですが……まあ、知識があった分多少ましではありましたか。この際ですし全部の傷を癒しておきましょうか」


 ゲームの知識には、薬草が水のそばに生えているという情報はない。見つけたのが偶然水のそばだったのか、それともこの世界の薬草は総じて水の近くにあるのか、検証が必要だった。


 周囲の警戒は怠らず、シャーロットは治療に当たっていく。さすがに三度連続の不用心はない。

 傷に当てる度、傷口からすうっと冷気が体内に入り込む感覚があり、しばらくすると傷が治る。その繰り返しをしていくうちに、シャーロットはその不思議現象の理由に思い至った。


「薬草の魔力が体内の魔力に干渉しているのですか。いえ、どちらかというと薬草の魔力の侵入で刺激された魔力が患部に集まってくる感覚ですね。体内に入り込んだ異物を免疫システムが排除するために体の生命力がそこに集中、結果として怪我の回復速度が早まる?魔力と回復速度が関係している?であれば……」


 そこまで考えたシャーロットは、薬草を傷に当てるのをやめ、怪我の一つの部分に体内の魔力を集めた。


「変化はなし。魔力を集めるだけではだめですか。体外から入り込んだ魔力を排除するイメージで……治りませんか。んー、もう一度薬草を当てて……ステータス……ん?」


 薬草を当てた瞬間にステータスに状態異常でも出ているかと確認したがそんなことはなく、代わりに一瞬だけ魔力値が1上昇、そしてすぐに1減少していた。


「薬草の魔力がステータスに反映されて、それが消費されている?おかしくはないですね……」


 あちこちにできた傷に薬草を押し当てながらも、シャーロットは思考に耽る。ゴブリンとの戦闘時にできた傷はもちろん、既にほとんどの傷が癒えている。


(ん?薬草の魔力は体外に出ている?それに、一瞬体内で薬草の魔力が増えた気が……「薬草の魔力」?薬草、の魔力……薬効のある魔力?回復魔法を強制的に発動させている⁉薬草の魔力に引き寄せられるように、薬草の魔力に近い状態に体内の魔力の状態を変えて、その魔力が傷を癒している?治癒魔法?なら——)


 イメージは、薬草の魔力。冷たく体に浸透していくようなあの魔力を傷口に。傷に手を当てて、


「癒せ!」


 呪文と同時に手の平からひんやりとした感覚が傷口付近に流れ込んだ。


「どうでしょうか……治って、いますね。ステータスは……ん?」


〈シャーロット

レベル:1

職業 :なし

生命力:7/7

魔力 :9/28

スキル:風魔法Lv.1、水魔法Lv.1、火魔法Lv.1、土魔法Lv.1、自己治癒Lv.1

称号 :(転生者)、忌み子〉


「自己治癒……回復魔法じゃないですね。自分の傷を癒す、ですか。ゲームの知識にもありませんが、劣化版回復魔法という認識でいいのでしょうか。有用ではありますね。じゃあもう一度……自己治癒!」


 手の平から流れる魔力が傷口に集まり、傷が癒える。


「魔力消費はまあありますよね。んー、劣化版薬草?」


 自己治癒に不名誉な呼び名をつけながら、残りの傷はさっさと薬草で癒す。それから薬草の束を蔓で縛って肩から下げられるようにした。


「ついでにもう一つ検証しておきましょうか。——ウォーターボール」


 池の水の一部を切り取って浮かし、飛ばす。目標を空中に定めていたため、水球はどこにもあたることなく自由落下して池に落ちた。


「ステータス……魔力消費量は減少。こちらも土魔法と同じで既存の物質を使うか、無から新たに生み出すかで消費する魔力量が変わってきますよね。やはり攻撃は既存のものが確実に存在する土魔法か風魔法ですか」


 生成という段階を省くことで、早く、魔力消費を少なく発動できる。今後その差が生死をわけることがあるかもしれないとシャーロットは心に留める。


 検証結果に満足そうに頷いてから、シャーロットは今度こそ池を後にした。

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