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【本編完結】不幸少女、逆境に立つ ~戦闘系悪役令嬢の歩む道~  作者: 雨足怜
2.地下に生きるモノたち

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73不幸少女と永遠を生きる者たち

「ふふ、初めて会った時のドランザは、それはもう近寄りがたい角の立った奴でねぇ。私の話など聞きはしない。その上、ことあるごとに『神の信徒たる我がそのような教えに反する行いをするわけにはいかない』と言うばっかりでねぇ。いやあ、丸くなるまでにずいぶんかかったよねぇ」


『おい、人が感傷に耽っておるのに、くだらん話をし始めるんじゃないわい』


「へぇ、ドランザ。君、少女に殴られて感傷に耽るような変態的趣味があったのかい?それは知らなかったよ。次回からは私も君を踏んづけて罵倒しようかい?」


『やめんかいッ……なんの話をするのだったか……ああ、そうじゃ、おぬしは試練を突破したと認めよう。奈落からの帰還に加え、こやつが太鼓判を押してしまったからの』


 隣でにやにやと含み笑いを浮かべて言うフィラメルをゴミを見るような目で見つつ、ドランザは溜息交じりにつぶやいた。


「はぁ、それはどうも。つまり、もう帰っていいということですか」


「うん?もうちょっとおしゃべりしていかないかい?どうにも、私は君が気になっていてね。簡易版だけでなく、本格的に私の占いを受けてみる気はないかい?」


「簡易版……ひょっとして、すでに占っていたりしますか?」


「うん、もちろん見てみたよ。いやぁ、これほど興味を引く結果は初めてだったよ」


(……相当の使い手のようですね。エルフだという時点である程度の腕前とは予想していましたが、かなりの実力者……それこそ国一番に匹敵するレベルの占いですね。確か、ゲームの中で宮廷占い師について、儀式も道具もなしで十数秒で占いをできれば主席レベルだという話をしていましたね。つまり、どこかの国に仕えていてもおかしくない存在ですか)


 ゲームの攻略対象の一人が占いの使い手であり、星詠みという遥未来のことすら詠み取ることができる術を使うことができた。次期宮廷占い師主席と呼ばれ、そして先代の偉大な星詠み使いと比べられて自棄になりながら、主人公に時に支えられ、時に主人公を支えてお互いに成長していくシナリオであった。


 このフィラメルという男もまた、その領域に達しているのだと、シャーロットは警戒を強め、されど好奇心に従って話を続ける。


「そうですね……私もその『興味を引く結果』というのが気になるので、私に占い結果を教えるという条件で、占っていただけませんか?」


「よし、そうと決まれば早速——星よ、あまねく星界につらなる導きの光よ。かの者の先を照らし給えッ……終わったよ」


 荘厳な雰囲気とともに紡がれた呪文は、しかし特に大きな変化もなく、フィラメルはさらりと場の空気を崩しにかかった。


「ずいぶんとあっけないものですね。もっと何か目で見える現象があるものだと思っていました」


「それは実力の低い者が、魔力の変換ミスなんかで起こす光や風なんかの現象だろうね。未来視というのは神の領域に足を踏み入れる行為だからね。中途半端な術者が行うと周囲一帯が更地になることだってあるんだよ?まあ私レベルになれば、相手に気付かれないくらいあっさりと発動してしまえるものだけれどね」


『こやつはさも余裕とばかりに言っておるが、その実疲れ果てて今にも倒れ込みそうなほど疲労困憊しておるぞ?ただ、初対面の相手に見栄を張っておるだけじゃ。そもそも星詠みには膨大な魔力と集中力がいるからの』


 ドランザの言葉を聞き、改めてフィラメルの様子に集中して見れば、若干息が切れ、額に汗を浮かべ、それから体内の魔力が大幅に減少していた。


(なッ、今まで、この膨大な魔力に私は気づいていなかったのですかッ⁉……認識阻害系……早く対抗策が必要ですね)


 ドランザに言われて初めて、シャーロットは先ほどまでのフィラメルの膨大な魔力を思い出し、身震いした。強力な存在が近くにいても気が付けない。シャーロットはその事実に愕然とし、それから対抗策を獲得する決意をした。


「はぁ、そういうネタバレはいらないんだよ?……さて、占いの結果を言っておこうか」


 戦闘で吹き飛んでいたテーブルと椅子のセットを風魔法で引き寄せ、それから立ってられるかとばかりにどかりと椅子に座り込み、テーブルに両肘をついてフィラメルは真剣な表情で話を始める。


「結論を言おう。君は、今後世界を左右しうる危険な立場に追い込まれることになるよ。心当たりは……あるみたいだね。君は鍵だ。最も、選択如何で未来は簡単に変わってしまうし、残念ながら私の力でもそれ以上先は分からない。まるで靄がかかったみたいに未来が不透明になってしまっている。つまり、私をはるかに超える力の持ち主が、何らかの方法で干渉しているというわけだ。例えば……神とか、ね?」


 ピクリ、と体をゆらしたドランザは、それから顔を動かしてシャーロットの方をじっと見つめる。


「神、ですか。まあ、私にもいろいろと事情はありますし、その面倒ごとというのにも心当たりはあるのですが……干渉、ですか」


(神が世界に干渉している?干渉できるのであれば、なぜ私をこの世界に送ったのでしょうか?……すぐに思いつくのは三つの可能性。一つは、私の行動次第で、神は直接干渉に踏み切ることにしている。二つ、私がこの世界に来た後、何らかの事情で神が直接干渉しなければならない事態に陥りつつある。例えば、暴走主人公でしょうか?そして三つ目、干渉している存在が、神ではない第三者である。……つまり、人間を滅ぼす側などの存在が未来に干渉して確実に人類を滅亡へと追い込もうとしている、と。……んー、わかりませんねぇ)


「君は、君自身のルーツを知るべきだ。それがきっと大きな力になる。それにしても、君ほど変わった存在には初めて出会ったよ。過去を見通せない存在、ねぇ?まるであるタイミングから突然この世界に現れたかのような……いや、過去が重なって見えているのかな?ふーむ……これほど早く遭遇できるとは思っていなかったからなぁ」


 ルーツ、とシャーロットは心の中で繰り返す。それは、「シャーロット」のものか、それとも地球にいたころの自分のものか——


「……ん、何か言いましたか?」


思考に耽っていて最後の方を聞き逃したシャーロットは、やけに小声だったフィラメルへ顔を向ける。


「いいや、ただ、君が非常に興味を引く対象だと言っただけだよ。ねえ、ドランザ?」


『わしは知らんぞ?人類の滅亡なんぞに興味などないわい。全ては、神の御心のままに』


「はぁー、頭が固いねぇ。ま、それがドランザのいい所でもあるんだけど、さ」


「……では、私はそろそろ行きますね。色々とありがとうございました」


 骸骨男のドランザが割れたカップを拾い集め、床に開いた穴を補修し、テーブルへと戻って来る。

 それを潮時の合図と見たシャーロットは二人に軽く挨拶をして、出口へと歩き始めた。


 ひらひらとだるそうに手を振るフィラメルと、ボロボロのローブをはためかせ、ツンと顔を背けて見せるドランザに見送られながら、シャーロットは今度こそ遺跡を後にするのだった。



『あやつが、おぬしが探しておった『星詠みの時』の鍵か』


 シャーロットが立ち去った地下の遺跡。そこで湯気のたつ紅茶をすするフィラメルにドランザがぽつりとつぶやく。


「そうみたいだね。さて、君から連絡が来た時には驚いたけれど、実に有意義だったよ。何せ、残りの時間が少ないにも関わらず、未だにロクな情報を得られていなかったからね。せいぜいいくつかの国の上層部がきな臭いってことくらいだよ」


『国のトップが腐っておるか……今回の大試練はどうなることかの』


「さあねぇ。全ての鍵をあの子が握っているとは考えづらいし、未来を見る限り間違いなくあの子は巻き込まれただけなんだよね。でも、何らかの心当たりがあると来たわけでしょ?」


 ひらひらと片手を振り、わけが分からない、とフィラメルは愚痴る。


『おぬしがそれほど苦戦している姿を見るのは久しぶりで滑稽でもあるのだがな。すでに人の生を捨て、リッチに成り下がった身じゃ。今更人類がどうなろうと、わしの知ったことではないわい』


 ドランザの言葉を聞き、フィラメルはぱっと表情を改め、それからニヤリと口の端を釣り上げる。


「へぇ、興味がない、ねぇ?わざわざ私に連絡をよこしたのに?……それに、君、あの子が献上品のスクロールを使う所を、黙って見ていたでしょ?あの子は空間魔法の類だと結論を出していたみたいだけれど、あれってただの隠蔽魔法だよね?つまり、君はあのスキルが必要になる時が訪れたと、そう思ったわけでしょ?」


『……さぁな。ただ、未来は神のみが知っておればいいのじゃよ』


 遠くをながめるドランザの目にはぽっかりと闇が浮かんでいたが、けれどその目は確かにここでないどこかを見つめ、懐かしんでいた。


「そういえばさ、ドランザ。君、ずいぶんと遠慮容赦なく魔法を放ったわけだけどさ。大丈夫だったのかい?」


『ん、何がじゃ?』


 心底不思議そうに首を傾げるドランザに、フィラメルはあちゃぁと頭を抱えながら告げる。


『ほら、ここにはアレが置いてあったんでしょ?聖域結界装置が、さ』


 フィラメルの言葉を聞き、ドランザはさぁと顔を青ざめさせた。最も、皮膚も肉もない彼には変化など一切見受けられなかったが。


『しまったッ、奈落から魔物があふれかねんではないかッ。……クッ、今から奈落で掃討せねばならんのか……なんと面倒な……ッ』


「まあ、頑張ってよね」


『おぬしも手伝わんかいッ。こうなる可能性を知っておってわしを止めなかったのじゃから、連帯責任というものだろうよ』


「はぁ、言わなければよかったよ……すでに外へ移動しつつある魔物の方は、あの子に任せてしまおうか。私たちは残りの大物を担当しよう。それでいいかい?」


『うむ、度重なる試練を与えるというのは気が引けるのだが……仕方あるまい』


 シャーロットに訪れる災難を詫びながら、二人は今回の後始末をつけに奈落へと降りていった。

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