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5不幸少女と魔法訓練

「んんー、全然寝た気がしませんね」


 朝日が差し込む森のとある木の上。

 魔物の夜襲を幸運にも回避したシャーロットは、初の樹上での睡眠でこわばった体を伸ばしていた。


「昨夜の一件は良い教訓になりましたね。夜が来る前に血の匂いを洗い落とすこと、それから戦闘技能向上。とはいえまずは寝床を確保したいですね。やっぱり木の上は落ち着きませんし、落下死なんて笑えませんからね」


 ひょい、と枝の上から飛び降りたシャーロットは、体の軽さに首をひねった。

 軽くその場でジャンプを繰り返し、腕を振り回し、それから違和感の正体に思い当たり、おーと感嘆の声を上げた。


「やけに体が軽いわね。一晩で疲労が抜けきりましたか。それに明らかに昨日の朝よりも体が軽いですね。……筋肉がつきましたか?骨と皮の手足に、たった一日で筋肉が付いたなんて、一体どのようなホラーですか……んー、『ステータス』」


〈シャーロット

レベル:1

職業 :なし

生命力:7/7

魔力 :26/26

スキル:風魔法Lv.1、水魔法Lv.1、火魔法Lv.1

称号 :(転生者)、忌み子〉


 若干生命力と魔力の値が延びているが、他に変化はなし。腕を回し、両足跳びをし、としばらく思考に耽っていたシャーロットはまあいいかと思考を切り替え、これからすべきことを考え始めた。


「とりあえず土魔法の習得でしょうか。ゲームのシャーロットは火、水、風、土の基本四属性を使っていましたし、私も土魔法を習得できるはずです。後は……強くならないといけませんよね」


 水魔法で生み出した水で渋柿を胃に流し込んだ。改めて食べてみれば、柿の渋みは村で出されていた雑草汁の青臭さと大差ない不味さだった。

 どうやら昨日は柿だからおいしいだろうというバイアスと、空腹というスパイスで食えたものじゃないと感じただけらしく、この世界で揉まれたシャーロットの味覚にとってそこまでの脅威ではなかった。


 そこらの枯れ枝を拾い集めて小さな焚火を用意して、シャーロットは昨夜の教訓を生かして頭から水をかぶって消臭を試み、風邪をひかないように温まる。

 若干湿っているボロ布を着なおしたシャーロットは、焚火のそばで土魔法の習得を始めた。


「さて、土魔法……地面に凹凸を生み出せばいいでしょうかね。イメージは足を引っかけそうな小さなコブ。——土よ、盛り上がれ!」


 シャーロットの体内から放たれた魔力は、視界の先、地面の直径十センチほどの部分に集まり、それから霧散した。地面に触れて凹凸を確認するも、発動前と変わらず平らなままだった。


「土魔法も一発とは行かなかったわけですか。一度で成功した風魔法と水魔法は適性が高くて、習得に時間がかかった火魔法と土魔法の適正は他二つより若干低めなのかしらね。もしくは、イメージ不足でしょうか。他の方法で……」


 木の棒で削った地面の土を両手の平にのせ、シャーロットは目を閉じて再びイメージを固める。


(手の上に乗った土が丸い塊になるように——)


「土よ、固まれ!」


 カッと目を見開いて唱えたシャーロットの目の前、手のひらから出された魔力は土の中へと吸い込まれていき、凸凹な土塊を作り出した。


「おや、成功しましたね?土魔法の適正も高いのでしょうか……いえ、発動方法の問題な気がしますね。風、水、土については魔力を放出する手の平のすぐそばで発動を試みたけれど、火魔法は手の平から離れた床の上の木片に火をつけようとしましたよね。それに、魔法を習得した後も失敗が続きましたけれど、手のひらのすぐ上に火の玉を生み出すのは一発で成功したのですから……放出部分から遠いほど魔法は失敗しやすい。理由は魔力の霧散、かしらね」


 火魔法使用時の失敗の苦い記憶は頭を振って追い出し、シャーロットはステータスに土魔法が表示されるまで同じ方法で土塊の作成を続けた。

 単純にシャーロットが魔法の発動を繰り返し、魔力操作能力が上昇したという理由もあったのだろう。それからはすんなりと土魔法を使えるようになり、ある程度細かいサイズの調整なども出来始めていた。


「土よ柔らかくなれ!」


 呪文と同時に、地面に付けた手の先10センチメートル四方がぼこぼこと膨らんでみせる。シャーロットが木の棒を押し当てれば、軽く力をこめるだけでずぶずぶと先端が沈んでいった。

 ちなみに呪文とは魔法のイメージ補強のために発動時に発する言葉のことを指し、一つの魔法と呪文を関連付けて体に刻み込むことで発動速度を格段に早めることができる、魔法使いの戦闘技能の一つである。


「よし、洞窟作りはこの方法でいいでしょう。魔力消費も少ないですし、文句なしの出来ですね」


 土を柔らかくすることに効果をとどめて魔力消費を極限まで抑え、手作業で掘り進めて洞窟を作る。「魔力放出部分からの距離」と「効果の限定」という二つの観点を工夫し、シャーロットの魔法行使力は格段に向上していた。

 唯一の問題は洞窟の強度的側面だが、地面の土掘りでしか試していないシャーロットがそのことに思い当たることはなかった。


「さて、寝床作成の見通しは立ったわけですし、程よい斜面を探しついでにレベル上げをしましょうか」


 昨夜の経験から、シャーロットは意欲的に経験値稼ぎに乗り出した。死の恐怖に歩みを止めるという選択肢は、彼女の中には存在しなかった。


 シャーロットは村の南側にある森へ入り、そこから真南の方向へと進んでいた。ゴブリンとの戦闘後、一目散に駆けだしたので現在位置が村からどれほど離れた場所なのか予想がつかない。追っては来ないだろうが、念のためさらに離れておこうと今日も南方面へと歩き始めた。

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