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【本編完結】不幸少女、逆境に立つ ~戦闘系悪役令嬢の歩む道~  作者: 雨足怜
1.森の中の放浪者

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22不幸少女と新たな発見

「ふむ、やっぱり認識できない、と。そもそも魔力が跳ね返らないのですけれど、何が悪いのでしょうか?これ以上少量の魔力であれば跳ね返りますかね?いえ、現状の魔力放出でほんの少しも跳ね返ってこないのですから、もっと別の問題ですね」


 あれから、集落跡地付近にゴブリンがほとんどいないのを確認したシャーロットは、無人の状態が待ち伏せではないと判断して、元集落の広場に足を踏み入れた。そして、集落の中心あたりに、深くへと続く洞窟を見つけてしまっていた。

 この時点でシャーロットはゴブリン殲滅を一時中断。また、あの村人の焼死体が焼け跡から見つけられなかったことから、シャーロットは穴の奥に村人が連れて行かれたと判断。


 依然、村の危機に変わりはなかった。


「洞窟での戦闘ではまず間違いなくゴブリンに負けますからねぇ。私の戦闘経験は、遠距離魔法による一方的な攻撃ばかりですからね」


 ゆえにシャーロットは、ゴブリンの奇襲を受けない方法の取得と、近接戦闘能力の向上を喫緊の課題としていた。


「ゴブリンの場所さえわかれば、遠くから魔法を発動してアースニードルあたりで斃せばいい、と考えたまでは良かったのだけれど……探知スキル、無理でしたかね?」


 肝心の探知スキルが得られず、シャーロットの計画は暗礁に乗り上げていた。その間にも近接戦闘訓練は続けており、すでにゴブリン一匹相手ならば余裕をもって斃せるようになっていた。


「何かが間違っている。……何が?空間魔法を除けば、基本的に問題なく発動できていたものね。火魔法も、水魔法も、土魔法、風魔法も。雪や氷も水魔法で上手く行ったのだけれど……ん?『空間魔法を除けば』すべて上手く行った?んん?」


 何かが引っ掛かると、シャーロットは首をひねり、首の角度は地面と平行になり、そしてシャーロットこてんと地面に転がった。

 肩の痛みにシャーロットはそういえば、とあるスキルのことを思い出す。


「痛たた……痛い?そうです、回復魔法です!あれもできませんでしたね。代わりに自己治癒のスキルは覚えましたけれど。そういえばあれも変わったスキルでしたね。魔力を使うという点では、他のスキルと違い魔法に近いものでしたが、魔力によって現象を引き起こす前に、魔力そのものを変質させましたからね?魔力の変質?おや……」


 魔力の変質。基本四属性の魔法を使う際、必要としない行為であったため、魔法以外のスキル特有のものだと勝手に解釈して思考を放棄していたものの、他のスキルでも魔力の変質などしていない。


「魔力の変質。自己治癒の時と同じ感覚で、魔力の在り方を捻じ曲げるような……熱ッ。なに⁉」


 両手を見つめながら自己治癒の時をイメージして、両手のひらに集めた魔力を捏ねていただけのはずだった。カッと火が付いたような熱を感じて集中が切れ、魔力は空気中に霧散していった。


「魔力が熱に変換された……いえ、魔力そのものが熱を持った?質量も原子も持たない純粋なエネルギーの塊である魔力が?魔力が熱にかかわりを持つ性質に変わったということでしょうか。周囲の熱を集めたのか、熱を発し続けていたのか、それとも、魔力そのものを熱という形で感じ取ったのか……!もう一度、先ほどの感覚で、今度は空中に放出した魔力を変質させましょう」


 ぐぐ、と何となく両手に力を込めて魔力を捏ねる感覚でいることしばし、先ほどのように魔力が集まった部分から熱が感じられる状態になった。


「周囲から熱を集めた可能性は無し、残り二つは……ええい、ファイアボール!」


 ゴウッ!

 変質を試みていた魔力で火球を生み出し、眼下の川めがけて放つ。いつもと変わらない速度で進んだ火球は、けれど想定外の音と、それから破壊を生み出した。川の水を押し飛ばし、中心の底がのぞく。大量の水蒸気が立ち上り、それから流れ込む水によって空間は埋められ、元の状態に戻った。


「な、なに今の……」


 想定外の威力に目が点になったシャーロットは、しばらく爆発が起きた水面付近を呆然と眺めていた。

 しばらくして、ようやく意識を取り戻したシャーロットは、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、それから頬をつねって痛みを確認してつぶやいた。


「今のが、魔力の変質の効果?だとすれば、あの魔力の状態は、魔力が臨界状態だったというか、火魔法の爆発で火球に残っていた魔力が誘爆した?少なくとも『熱として感知できる魔力』という線は消えましたね。まさか、ゲームの登場人物がファイアボール一発で魔物を仕留めていたのもこの魔力の変質のおかげ?つまり今までは魔法使いの入り口にも立っていなかった?はははっ………はぁ」


 悲観に暮れるシャーロットだったが、彼女はすでに魔法使いとしてそれなりのステージにたどり着きかけていた。

 シャーロットは、基本四属性魔法が「基本」と呼ばれるその所以を理解していない。この世界の一般常識すら欠けているシャーロットが知らなったこの事実は、魔法使いの登竜門として、魔法使いならばその卵であっても知っていることであった。

 基本四属性魔法は、魔力の性質を変えることなく使える簡単な魔法なのである。研究者によると自然界の魔力においてこの四つの属性の魔力が多く存在しており、魔法としてイメージして発動を試みるとその自然界にあふれる大量の魔力の性質に引き寄せられて性質が変化、魔法として発動されるのだという。


 魔力そのものを変質させることで、基本四属性の魔法の威力をはね上げられる。そして、基本属性以外の魔法もまた、魔力の性質を変えることで使えるのである。この事実すら知らずに自己治癒スキルを習得して見せたシャーロットは、まさしく神に愛されたと言えるほど魔力関連の素質を持っているのだろう。


「ま、まあいいです。今はこの発見を喜びましょう。とりあえず今の状態を体に覚えさせるためにも、火魔法を繰り返し発動しましょうか」


 ボン、ボン、と川に強力な火魔法が放たれ、水しぶきが舞い、水蒸気が立ち上る。跳ね上がった威力を最初は光を失った目で眺めていたシャーロットだったが、そのうちに片頬を釣り上げ、不敵な笑みを浮かべるようになっていた。


「これで消費魔力を押さえて高威力の魔法を放つことができるようになったのですよね。快挙ですよ、快挙!この調子で探知魔法も取得してしまいましょう。多分、物質に対する、もしくは物質に微弱に含まれる魔力に対する斥力を持った状態、でしょうか。んー、基準が分からないから何度も試すしかありませんね。それに他の基本四属性に、それから新しい属性にも挑戦したいですね!」


 先が見え始め、意気揚々と実験を始めるシャーロット。

 彼女は知らない。これから十時間ほど、何の成果もないまま魔力を延々と捏ね続けるだけの作業が待っていることを。

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