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【本編完結】不幸少女、逆境に立つ ~戦闘系悪役令嬢の歩む道~  作者: 雨足怜
5.英雄の台頭

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179不幸少女とオーク討伐戦1

誤字報告、ブックマーク、評価、感想、いいね、ありがとうございます。

「諸君、よくぞ集まってくれたッ」


 壇上に立つ男が声を張り上げる。アドリナシア王国王都、門から出て北へと少し進んだところに作られたキャンプ地に大勢の人が集まっていた。色とりどりの装備に身を包み、大剣を、盾を、槍を、弓を、ナイフを、棍を——様々な得物を手に、ギラギラとした剣呑な視線を壇上の男へと送る戦士たち。


 その雑多な集団に対して演説を続ける男のすぐ近くには、統一された装備を身に着ける集団が整列していた。アドリナシア王国第三騎士団の面々は、栄えある任務に胸を張って——いなかった。

 大半が貴族で構成される騎士団は、人間社会からドロップアウトした集団と認識されている冒険者に対して非常に高圧的だった。それゆえ冒険者の方も騎士団を毛嫌いし、両者の間には深い溝が生まれていた。特に、潔癖主義のアドリナシア王国の騎士たちには、その対立が色濃く表れていた。

 そんな冒険者との共同戦線において、騎士たちの士気が高いはずがなかった。


「足を引っ張るんじゃねぇぞ」


「そりゃぁこっちのせりふだ。城にこもってばかりで実戦に出ようともしない引きこもりのお坊ちゃんは、俺らの邪魔をしないように引っ込んでろや」


 騎士団最後尾に並ぶ男の言葉に、そのすぐ後ろにいた冒険者の男が唾を吐く。二人が言い合いを開始する中、男の演説は熱く、されど周りの誰にも共感されることなく淡々と続いていく。


 ちなみに、アドリナシア王国の騎士団は第一、第二、第三の三つから構成される。第一騎士団は通称近衛騎士団であり、王族周りの警護を担当するという性質上、容姿や実家の格で選ばれた者が集まる。第二騎士団は対人専門で、大規模な盗賊団の討伐や、戦争時には先陣を切って戦うのが業務である。第三騎士団——今回作戦を実行するのは、魔物討伐専門、という名前の通称「雑用騎士団」であった。王都警備や各地の犯罪者の王都への搬送護衛、魔物討伐、小規模かつ国家経済に甚大な影響を及ぼしかねない盗賊の討伐、あるいは災害救助など、その活動は多岐に渡る。

 騎士団の中でも比較的平民が多く所属する第三騎士団でさえこれほど冒険者と仲が悪く、第一、第二騎士団に至ってはもはや冒険者を自国民と見ないどころか盗賊と同一視したり、人間とみなさず「野蛮な獣」と表現したりする者さえいる始末である。

 ちなみに、騎士は騎士でも各貴族が個人的に抱える騎士にはこの手の潔癖症はほとんど見られない。


 アドリナシア王国上層部の頭の回る者はこの状態を危惧し、改善を図ろうと取り組むも、現状大きな成果は見られなかった。


「今回の討伐戦では、騎士団がオークの進路を塞ぎ、その側面方向から冒険者が数を減らし、最後に騎士団の手で叩く。全員が配置に着くまで二日とする。では、行動開始ッ」


 最後に計画を簡単にまとめ、男——第三騎士団団長は壇上から降りる。ダルそうに行動を開始した冒険者に対し、騎士団から冷笑がこぼれる。

 冒険者らが不快感をあらわにする中、そこから一組の集団が抜け出し、ゆっくりと騎士団長のもとへと向かった。


「お久しぶりです、閣下」


「む、おお、ラナ殿か。それにキド殿にミリーサ殿。息災か?」


 先ほどまで壇上で語っていた男に、ラナが声をかける。彼はわずかに瞳の奥に好奇心の光を宿し、それから三人に向かって返事を返す。高位貴族の令嬢であるラナと、それからその仲間——彼にとってはラナの部下と認識していたが——である二人に。


 この国の中枢にいる者は決まってグレイの存在を無視する。キドがグレイの存在について言及すれば、決まってキドに冷笑が向けられる。

 まるで何も知らないことをあざ笑っているようで、あるいはただ興味がないといった様子で、そのうちキドはグレイにも挨拶をするよう求めるのをやめた。


(ああ、またこの目だ——)


 無機質な、光のない目。

 グレイの姿を一瞬とらえた騎士団長の目に現れた虚無が、キドには理解できない。

 理解してはいけないと、気づいてはいけないと、心が叫んでいた。


「ええ。閣下もお元気なようで何よりです。ところで、例の話はお耳に入っておりますか?」


 ラナが確認したいことは二つ。魔導国家からの情報と、ガーゴイルによる王都壊滅をもくろんだ男の言葉。

 ラナの質問を受け、巌のような分厚い筋肉に包まれた重装備の騎士団長は空を見上げる。


「グランドメジャスの情報と、例の実行犯の次の計画だったか。ふむ、その情報をどこで手に入れたかが問題ではあるが、さすがに前回は上層部全員が煮え湯を飲まされたからな。今回は藁にもすがる思いで……否、尻に火が付いたように駆けずり回っているぞ?」


 どこか他人ごとに思えてならない騎士団長の言葉に、ラナはわずかに不快そうに顔をしかめる。第一騎士団団長にしてこの国の騎士総長である男は、目の前の第三騎士団団長の政敵派閥に属していた。

 つまり、第三騎士団団長にとっては、先のガーゴイル襲撃の失態に加えてさらにやらかしが待っているというのはうれしい情報でしかなかった。


 この貴族の権力闘争の泥沼が、国という組織そのものを破滅へと引きずり込んでいこうとする闇が、ラナは嫌いだった。


 ちなみに、彼がラナに対して丁寧な対応をするのも、所属する派閥の上位にラナの実家が存在するからだった。


「そうですか。……それは何よりです。情報源は明かせませんが……私も、この国の一国民として先の計画には腹が立っておりますので」


 あわや王都壊滅というところまで迫っていたガーゴイルの王都襲来。それはシャーロットの活躍と、フィラメルが命を持って止めることに成功した。それと同等か、それ以上の脅威が再び王都に迫っている可能性があり、今度も王都壊滅を免れることができるかわからない。

 その危機というのも、あの男の言葉を真剣に考えるならばの話だったが。


「ええ、そうでしょうとも。社会に揉まれた経験のない若造は口をそろえて冒険者を罵倒するのが残念でなりませんよ。きっと彼らの目には、あなた方のような正義感あふれる存在が映っていないのでしょうな」


 それでは、と忙しそうにテントへ入っていく騎士団長の後姿を眺めながら、キドはふぅと息を吐いた。

 少しでも過去が変わっていれば自分が所属するかもしれなかった「騎士団」という職業。その上位の人間と顔を合わせる瞬間は、いつだって自分の選択ミスを突き付けられているようで不快だった。


「キド、行くわよ?」


「ああ……」


 後ろ髪をひかれるような思いでテントから視線を振り切るキド。そんな自分に今この時も無機質なまなざしが向けられていたことに、キドが気付くことはなかった。





「隊列、進めッ」


 重装備に身を包んだ騎士団の隊列が、森の手前の草原に迫る。第三騎士団副団長の号令に従い、騎士団はツーマンセルのペアを組み、ペア同士で一定間隔を開きながら森へと進んでいく。


 それと同時に、冒険者もまた騎士団の進路を左右から挟み込むような形で森へと入っていく。


「……お姉さま」


「何かしら?」


 ひどく淡泊な声がラナの口から響く。リヒターがキドの姿を見つけてしまい、気が付けば一緒に行動することとなっていた「クソッタレ」と「黒ウサギ」の面々。ラナとルナの姉妹は居心地が悪そうに——正確にはルナが居心地悪そうに、隣を黙々と歩くラナに声をかける。だがその返答はひどく冷たいもので、ルナは言葉に詰まって顔を地面に向ける。


「だーッ、ラナさん。もう少しルナにやさしくしてやってくださいよ。こいつ、昨日からお姉さまに会ったら何を話そうなんてけなげに考えてたんすよ⁉」


「なッ、リヒター!」


 姉の前では途端に口下手になるルナが、珍しく声を張り上げる。ふうふうと息は荒く、その頬は紅潮していて、恥ずかしがっていることが手に取るようにわかった。


「リヒター。その口調はどうした……?」


 普段とは少し様子の違うしゃべり方を疑問に思ったキドが話に割り込む。


「どうすか?敬愛する兄貴に学び、俺はこの兄貴の口調を身に着けたんすよ!」


 ふふん、と胸を張るリヒターに対して、キドは頭を抱える。自分はそれほどまでに頭の悪そうなキャラだったのかという思考に苛まれ、そんなキドをグレイが全力でからかいに行く。


 もはやオーク討伐戦の空気感はどこかに消え去っていて、けれどこの場に居合わせる全員が、決して気を抜いていなかった。

 ここはCランク以上が平然と闊歩する準魔境とも呼べるような森。気を抜けば死が待っているのは明らかだった。


「ッ、警戒!」


 グレイの声に、即座に全員が戦闘態勢に入る。

 背中合わせになって周囲へ視線を向ける。じりじりと緊張感が高まり、鼓動が早くなる。

 ジワリと手汗が噴き出し、のどの渇きを覚え——


「ッ、トレントだッ」


 ゆらりと、風がないのに不自然に揺れる枝。それを見抜いたグレイが吠える。すぐさま彼の視線の先へと体を向けたラナの魔法が放たれ、続いてルナの弓が飛び、鞭のようにしなってグレイへと伸ばされた枝をはじき飛ばした。


「こっちも!上位!」


 突然のミーシェの声に、けれど同じパーティーのリヒターとルナは瞬時に反応する。戦い始めたばかりの個体の相手を「クソッタレ」パーティーに任せ、ミーシェが見つけた個体へとひた走る。

 ミーシェのスキルによる魔力視によって存在を見出されたCランクのヒュージトレントは、その枝葉をざわざわと揺らしながらミーシェへと迫る。


「やらせるかッ」


 ぶぅん、と大剣が風を切り裂きながら進み、伸ばされた枝を断ち切る。けれど焼け石に水で、あとからあとから枝が伸び、三人へと襲い掛かる。

 ミーシェはナイフで攻撃をさばき、リヒターは大剣で断ち切り、あるいは大剣の腹を滑らせて攻撃をそらす。ルナは数本まとめて矢をつかみ弓を引き絞り、風魔法を併用して放つ。


「風よ、道をなせ——インパクトシュートッ」


 ありえないような急カーブを描いて前衛二人を避けて進む矢が、リヒターとミーシェに迫っていた枝を、矢一本で数本断ち切っていく。風魔法で速度が強化された矢が攻撃をさばいているうちに、リヒターはさらに一歩前に出る。


「火よ、我が剣に宿りて敵を撃ち滅ぼせ——ファイアソード」


 ゴウ、とリヒターの握る大剣を炎が渦を巻いて取り囲む。それは大剣を包み込み、一回り大きな剣を作り出す。


 わずかに姿勢を低くして溜めに入ったリヒター。火という危険を真っ先になくそうと、放射状にばらけていた枝による攻撃が一斉にリヒターへと向く。その攻撃を前にリヒターはひるむことなく、それどころかにやりと頬を釣り上げる。


「やっちまえ!」


「火よ、道となりて我が敵へ導け——ファイアロードッ」


 ナイフを振りながら魔力を練り上げていたミーシェが魔法を唱える。リヒターの前に地面から噴き出した火の壁は一直線にヒュージトレントへと迫り、それから壁が横に二つに分かれ、左右を火の壁が守る炎の道がリヒターの前に出現する。


「はああああああぁぁぁッ」


 荒れ狂う炎をまとった大剣の柄を握りしめ、リヒターは全力で前へと駆ける。横からの攻撃はミーシェの火魔法が防ぎ、上からの攻撃はルナが撃ち落とす。仲間に守られながら、ついにリヒターはトレントの幹に手が届くところまでたどり着き、その大剣を振りぬく。


「うおおおおぉぉぉッ」


 幹にぶち当たった大剣が表皮を焦がし、火で包み込む。木片を舞い散らしながら、リヒターの大剣が幹の奥へと入り込んでいく。ズズズ、と大剣が幹の半ばまで入ったところで、トレントの体がひと際激しく燃え始める。


『~~~~~~ッ⁉』


 渦を巻く火柱が空へと昇る。断末魔の絶叫を上げ、トレントはその身を焦がし、炭となっていく。トレントは朽ちた木が魔力によって周囲の生命力を吸い取って活動しているアンデッドの一種とされる魔物で、それゆえ体内の水分は少なく、火魔法にめっぽう弱かった。とはいえ、火魔法によって斃すと素材が得られず、基本的に冒険者はその幹の中央付近にある魔石を砕くことによって魔物を斃す方法を選ぶ傾向にあった。


 彼ら冒険者が魔物を斃すのは、それによってお金を稼ぐためであり、魔物討伐によって魔物の存在しない平和な世界を目指そう、などと大層な夢を抱く冒険者はごく少数だった。素材回収のためであれば、苦戦も辞さず、そしてその点でいえばこのトレントという魔物は不人気な魔物であった。


 もっとも、このオーク戦においてトレントの死骸を持ち運ぶような余裕はなく、素材を気にする必要はなかった。周囲への延焼にさえ気を付けていれば火魔法を使える。火魔法を使っても構わないということから、高い単発の火力を誇るリヒターがいる「黒ウサギ」は、騎士との合同戦という面倒な今回の討伐戦への参加から逃れられなかった。


「——クリエイトウォーター」


 空に浮かんだ巨大な水球が破裂し、燃え盛るトレントを消火する。強敵を斃したことに喜ぶばかりのルナたちに、ラナは冷たい視線を送っていた。

 そう、6級冒険者であるリヒターたち「黒ウサギ」にとって、Cランクのヒュージトレントは強敵に値する魔物だった。


「……これからしばらく戦闘が続くのよ?魔物をおびき寄せるような行為は慎みなさい」


 吹きあがっていた炎は収まり、発生した水蒸気が空へと立ち上っていく。やがてその煙も消え、周囲に静寂が戻った。


「すみませんっした。以後気を付けるっす」


 大声とともに勢いよく頭が下げられる。

 暑苦しいリヒターの返事に一歩引き、それからラナは、どうにかしなさいとでも言うようにキドをにらむ。キドはさっと視線をそらす。

 ラナのため息が森に消える。


「……そうね、次から気を付けなさい」


 どうにもやりにくいと思いながら、ラナは森の先へ視線をそらした。


 ちなみに、ラナたちが相手をしたトレントは、近づいたミリーサの一撃によって幹の半ばからへし折られていた。衝撃を内部へと届かせるミリーサの一撃はDランクの魔物の耐えられるものではなく、たった一撃で倒された。破壊痕の残る逆側の樹皮が幹内部を伝わった衝撃によって吹き飛んでいるあたり、明らかに過剰な攻撃であった。


「おおぅ……」


 「クソッタレ」パーティーが相手にしたトレントのなれの果てを見て、リヒターは上ずった声を出した。ふふふ、と微笑みを浮かべるミリーサの蠱惑的な表情を見て、リヒターはくるりと首を巡らし、顔をそむける。どうしてか強い危機感を抱いた。


 トレントとヒュージトレントの違いは、基本的に攻撃に使用する枝の数と、その幹の大きさと頑丈さである。果たして自分は火魔法無しにヒュージトレントの幹をへし折ることができただろうか、とリヒターは想像する。


 首を振る。

 力が、技量が、足りなかった。

 火魔法を使ったとしても、リヒターにはヒュージトレントが倒せるとは思えなかった。


 まだまだ4級冒険者との間に立ちふさがる壁は厚かった。

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