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【本編完結】不幸少女、逆境に立つ ~戦闘系悪役令嬢の歩む道~  作者: 雨足怜
5.英雄の台頭

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176不幸少女と不死者の戦い2

誤字報告、ブックマーク、評価、感想、いいね、ありがとうございます。

『ぐっ⁉』


「なッ⁉ドランザ、さん⁉」


 遠くへ逃げ延びていたキドらの目の前、突如地面から数メートル上空のところに現れたドランザが地面に落下する。

 そのローブはあちこちが傷つき、また胸部は貫かれ、大きな穴が開いていた。


「大丈夫なのか⁉」


 走り寄ったキドは、けれど突き出されたドランザの腕に押しとどめられる。


『シャルをここに……早くッ』


 余裕のない声に、キドは飛び跳ねるように振り返り、その視線の先、シャーロットを抱えるミリーサが慌てて駆け寄る。


『——我は天地をすべ、さすれど神に届かず。我の手に残るはただひとかけらの虚無のみ。今、死に瀕し、この思いを継がせん。我が意思のもとに、我が魂を対価とし、かの者に力を授けん——ブレッシングッ』


 ドランザの持つ全てが、シャーロットへと注ぎ込まれていく。それは魔力操作の能力であり、修練の時間であり、そしてドランザのスキルで——


「があああああぁぁぁぁぁぁッ⁉」


 体が強制的に作り変えられるような痛みと不快感に、シャーロットが叫ぶ。口から泡を吹き、爪を地面に突き立て、大地をえぐる、


「な、シャル、ちゃん……?」


 ラナの暗い瞳にわずかな光が宿る。顔を上げたラナの視線の先では、地面の上でもがき苦しむシャーロットの姿があった。


「シャルちゃん⁉キド、何が……⁉」


「ああ……」


 はっと意識を覚醒させたラナは、慌てて視線の先で立ち尽くすキドの肩を叩く。だが、そのキドは口を開き、呆然と突っ立ったまま生返事を返す。


「何、が……」


 キドの視線を伝って見た先には、顔が、脚が、ゆっくりと砂のように崩れていくドランザの姿があった。それは、浄化されたアンデッドにおなじみの現象で——


「ドランザさんが、死ぬ……?」


 ようやく現実に追いついた思考は、その結論を叩き出す。


『フィラメル。お前の思いは確かに受け継がれた。わしも、今からそちらへ行くとしよう。……ああ、形見を守れなかったことだけは、すまなかったな……』


「……ド、ランザ?」


 額に手を当てて、ゆっくりと起き上がったシャーロット。その皮膚からはぽろぽろと魔石化していた肌の破片が落ちていく。体中の痛みは消え、だが体全体を包み込むような重い疲労が残っていた。

 軽く頭を振り、それから目の前で消えゆくドランザをみとめて、シャーロットは走り出す。ローブの裾をつかみ、シャーロットは腹の底から吠える。


 体の痛みが取れたこと、そして体を包み込むドランザ本来の——彼の生前のものと思われる魔力。アンデッドと化している現状、その魔力が存在するなど不自然で。

 だからシャーロットは、ドランザが自分を救うために、己を滅ぼすような何かをしたことを瞬時に悟ったのだ。


「なぜッ、なぜ、そんなことをするのですかッ。私のために、私のような弱い人間一人のためにッ、どうして命を投げ出せるんですかッ⁉ドランザも、ユキもッ。あなたたちはそうやって、安易に私を助ける道を選んで死を選ぶのですかッ⁉どうして、共に助かろうとする道を切り捨てるのですか……」


『……わしが持つ力——魔力以外の力を流し込んだ。渡せなかった力もあるやもしれんが、渡った力の中には確実に、魔力操作能力がある。これで、魔力量と魔力操作能力のバランスがとられて、魔力操作能力を解消するはず——いや、もうしておるか。ふむ、若いというのは、稀有なことだ。その命ある限り、自由に生きよ。そうすれば、あやつの見た道の先へたどり着くかもしれん』


 足が崩れ去り、地に落ちる体。それを抱きとめ、胸に抱え、シャーロットは叫ぶ。助かる道を必死で模索しながら、けれどそれよりも早く腕の中でドランザの体が崩壊していく。

 それは、フィラメルの時の焼きまわしのようで、けれど目の前に脅威がいないからこそ、自分自身が滅びの原因であると突き付けられているからこそ、その事実がシャーロットに重くのしかかる。


「そんなことをッ、そんなことを聞いているんじゃないんですよッ⁉あなたが、人類を救えばいいでしょう⁉あなたが、世界と戦えばいいでしょう⁉神に遊ばれる凡人の私ではなく、あなたが立ち上がる可能性があったはずでしょう⁉その未来を見て見ぬふりして、私に押し付けて、どうして一人死んでいくのですか⁉あなたは、フィラメルさんが死んで、一人置いて行かれたことをあれほど嘆いていたではないですかッ」


『ここが、岐路だと思うのだ。死した『生者』の終着点は、ここでよいのだ。ああ、世界はこんなにも——』


 サラリ。

 シャーロットの言葉に応えることもなく、その頭蓋の一対の空洞は、はるか虚無を見据え、ぽつりとつぶやく。頭蓋骨のかけらとなっても、最後にドランザが笑った気がしたのは果たして——


「ああああああああああああぁぁぁッ⁉」


 砂となったドランザの体と、それからあちこちが破れたローブ、傷だらけの杖を抱きしめる。シャーロットの慟哭が、森に響き渡った。


「……つまらん。一人救うために、自ら滅びかけの命を賭したか。理解に苦しむ」


「ッ!」


 少し離れた木の上。フードで顔の上半分を覆った男が枝の上で胡坐をかき、シャーロットたちを見下ろしていた。


「…………まだ何か、用ですか?」


「いやなに、リッチ野郎と最後まで戦おうと思ったんだがな。あいにくと死体になっていて……ところで、占術の使徒の霊核を知らないか」


「条件があります。そこにあるすべてをそのままにして、霊核とやらだけを持ち帰ること」


「ん?構わんが……弔い合戦はいいのか?受けて立つぞ?」


「必要ありませんよ。これは、彼が選んだ道です。私には……命を救われた私には、ドランザの選択を否定する権利などありませんよ。場所は、朽ちた聖堂の奥にある墓、その前です」


「了解した。では、また会おう。次は王都で……血を分けし同胞の子孫——半端者よ」


「……………」


 一瞬で男は姿をくらませ、ただ静寂だけが残る。

 ふらりと立ち上がったシャーロットは、男が先ほどまで座っていた木まで進み、拳を振りぬく。


 ドゴッ。


「ふーッ、ふーッ」


 拳が木の幹に突き刺さる。

 ——親しい者の死は、重い。


 拳に木片が突き刺さり、幹を伝って血が流れ落ちていく。真っ赤な鮮血は幹を流れ、草木を染める。


「ああああああああッ」


 もう一度、けれど今度は幾分か弱い音が響く。幹にあたるはずの拳は、手のひらの中にすっぽりと納まっていた。静かに近づいていた、グレイの掌の中に。


 ずるり、とグレイの手の中に血痕を残しつつ、拳は重力にひかれてだらりと下へと滑り落ちる。下を向くシャーロットは、そのまま無言で歩き出し、地面に放り出したローブと杖と、それから灰のように軽い砂をかき集める。


「——収納」


 それらすべてを収納に放り込み、シャーロットは今度こそ一言も声を発することなく、キドたちに背を向けて歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この流れでドランザが頑なに渡そうとしなかった霊核をあっさり渡すのが訳わからん 何やら過去のやらかしで後悔してる割には絶対にろくなころになりそうに無いの分かり切ってる状況なのに
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