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【本編完結】不幸少女、逆境に立つ ~戦闘系悪役令嬢の歩む道~  作者: 雨足怜
4.少女の決意

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143不幸少女と侵入

 素早い侵入を決断したシャーロットは、魔力反応を感知するであろう魔道具から逃れるために、土魔法で地面に穴をあけた。


(さて、どれだけ体調を維持できるか……そこが鍵ですかね)


 魔法を使って魔力を消費することで激しくなった手足の痛みを抑え込み、シャーロットは連続で魔法を行使してトンネルを掘っていく。

 空気と同レベルの微弱な探知魔法の魔力は魔道具には感知されず、シャーロットは魔道具の警戒網ギリギリのところを最短ルートで掘り進める。


 これも、ゲームで得た知識であった。魔力を検知する魔道具は、一定以上の魔力にしか反応せず、それは最低でも小動物レベルであった。極小の魔力を薄く展開した探知はその感知範囲には該当せず、シャーロットは波打つ鼓動を抑えながら進んだ。


(ッ、地中にも金属板が張られていますか。これを壊すのは魔力が……いえ、仕方がありませんか)


 シャーロットは魔力が周囲に散って魔道具に引っ掛からないよう、大量の魔力を慎重に操作する。


(金属よ、形を変えろ)


 土魔法によってシャーロットは地中深くまで刺さっていた壁に使われる金属板に穴を開ける。分厚い金属は柔らかく波打ち、シャーロットの通り道を作る。


 きっとこの光景を一般的な魔法使いが見たら卒倒するだろう。何せ、土魔法では金属の変形はできないと教えられているのだから。鍛冶師や錬金術師は自らの地位を引き上げようと、そして国は彼らの地位を盤石なものにしてさらなる技術を得ようという、国の思惑であった。魔法使いたちはみな、水晶や金属といった素材は神が人間に与えた神秘であり、その加工には一定の職業に就いた上でそのための技術を学ぶ必要があると教えるのである。


 とはいえ、彼らの教えが百パーセント間違っているわけではない。実際、金属などの加工は、鍛冶師や錬金術師の方が普通の魔法使いの土魔法より少ない魔力で効率的に行えるのである。魔力を多く消費して変形させる必要がある金属では、その差は計り知れないものであり、一般的な魔力量の魔法使いでは不可能であるというのもまた事実であった。

 だが、それも魔力操作と土魔法への適性によって変わりうる。土魔法の適性が高いシャーロットは、比較的少ない魔力で金属を変形させることができていた。


 また、シャーロットはこのことがかなり異常であることを知らない。大図書館で一般常識の獲得を進めているとはいえ、まだまだ穴は大きかった。


(ふぅ、かなり疲れますね。体が万全であればそれほどでもなかったのですが……さて、捕虜を捕らえる場所……普通は地下、ですかね?)


 魔道具と見回りの人員をさけながら、シャーロットは少しずつ入り組んだ要塞の中を進んでいく。


(かなり古い気がしますね。ところどころにひびが入っていますし、蜘蛛の巣がかかっていて、ほこりっぽくて……それにこれほど魔道具が充実しているとは思いませんでした。どうなっているのでしょうかね?)


 先ほどから回避している見回り。彼らに対しては砦の中に設置された魔道具には反応していなかった。つまり、彼らが魔道具を阻害するもの——おそらく魔道具を持っているということ。そして、そのようなものを下級人員に配ることができるレベルの資金や技術に、彼らが反逆、離反しないと考えるほどの組織力があるとシャーロットは判断する。


 また一つ、シャーロットは魔道具を避けて進む。先ほどからあえて感覚をランダムにし、それから「明らかに魔道具とわかる状態」「よく観察すれば魔道具が隠されていると分かる状態」「慎重に観察してようやく魔道具が隠されているとわかる状態」の三つを使い分け、侵入者の神経をすり減らしに来ていた。

 シャーロットの探知魔法は、それら一切を無効化してしまっていたが。


 だが、巡回は確実にシャーロットの行動を阻害していた。見回りに接触しそうになるたびに、シャーロットは進路を変更し、あるいは無人の部屋に隠れ、それから土魔法によって天井にもぐりこんでやり過ごす。確実にシャーロットの魔力と体調に疲労が蓄積されていった。


(ここですか。見張りは……いない?)


 潜伏スキルと探知の併用、そして土魔法の使用。魔力消費によって重い体を引きずりながら、シャーロットはついに目的の場所へとたどり着いた。


 頑丈な金属製の扉に、防音。

 普通の人員が近寄らないような建物の奥に、その場所は位置していた。


(……土よ、変形せよ)


 いくら頑丈な扉を設置しているからといって、その扉を取り付けた壁はただの石であり、シャーロットはそこに静かに穴を開け、中へと侵入する。


 むわ、と悪臭がシャーロットの鼻を刺激し、わずかに眉をひそめる。血と、排泄物と……悪意の匂い。覚えのあるその悪臭に、シャーロットの心は冷え切っていく。


(へぇ、拷問も普通に行いますか。この組織にとって、さらった人間は商品ではないということですかね?それとも、何か別の価値があるのでしょうか……やはり従順な兵士?実験動物?後は……)


 遠くから響く絶叫と、哄笑。鞭のしなる音、何かの金属音、それから、捕らえられた者たちの口から洩れる呪詛。重く、まとわりつくような腐った空気がはびこるその奥へ、シャーロットはゆっくりと進んでいく。


 通路の左右に設置された檻。何もないその牢屋に入れられた者たちは、年齢も、性別も、体格も、何も共通点は見られなかった。

 狂ったように何かをつぶやく者。自分の先を思い恐怖に震える者、すでにまったく身動きを取らない死体。


 彼ら彼女らに目を向け、だがシャーロットは何の感情もわかず、ただ淡々と前へ足を進める。


(こんなものですか。もっとおぞましい実験でもされているのかと思いましたが、さて、何が目的なのでしょうね?)

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