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1プロローグ

新作です。

ある程度は書きあがっているので、当分毎日投稿が続きます。

どうぞよろしくお願いします。

「やあ、不幸少女さん」


 ふと気が付くとその少女は視界一杯が真っ白な空間にいた。右も左も、目を凝らしても果てが見当たらず、唯一の例外は正面で不名誉なことを言ってくる少年のみ。

 瞬きの一瞬、視線をそらした一瞬で服装が、顔が変化する超常現象を見せられて、少女は目の前の存在が神と呼ばれる存在だとなぜか腑に落ちた。


「君は死にました。ドンドンパフパフー。いやぁ“よかった”ねぇ。君が望んだ死が訪れたよ。もちろん、新たな生と一緒にね♪」


「……ああ、輪廻転生ですか」


「うん?違うちがう、異世界転生ってやつだよ。ああ、君はその手の話になじみがなかったね。要は記憶を維持したまま別世界に生まれ直すということだよ」


「な、んで……」


 少女が頬を引きつらせるのを見て「いやぁ、その顔が見たかった!」などという不愉快極まりないことを言う神。怒りと困惑に支配されて思考が空回りしていた少女の頭の中に、パチンという指を鳴らす音が浸透して、それから少女の脳内を渦巻いていた負の感情がスッと波が引くように消え去った。


「落ち着いた?まあ君の転生は決定事項だから変更できないよ。恨むなら君の前に転生した子を恨むといいよ」


「どういう、ことですか?私以外にも生まれ変わる人がいるのですか?それに、私がその人のせいで転生することになったってどういうことですか?」


「もちろん説明するよ。まず、今から君が転生する世界は乙女ゲームの世界だよ。正確には、乙女ゲームという形で地球の人々に啓示を与えて、滅びる世界を救える知識を持った存在を転生させる予定だったんだ。直接干渉することができないからこうも回りくどい方法を選択したんだよ」


 容姿が変わり、時にいわゆるゴブリンのような深緑の醜悪な外見になり、それから深紅のうろこをもったドラゴンに変化し、純白の巨狼に変化し——と絶え間なく外見が変貌する神に若干引きながら、少女はその内容をかみ砕く。


「……つまり、ゲームをプレイした人を転生させることで滅びの運命を回避させようと。けれど私、自慢じゃありませんが人生一度も電子ゲームの類はしたことがありませんよ?予定だったってつまり、間違えて私を選んでしまったということですか?」


 乙女ゲーム。少女が友人から聞いた話によると、優れた男性をプレイヤーが女性としてものにするゲーム。少女からしてみれば、ゲームとはいえ世界の滅びを平然とシナリオに組み込む行為が理解に苦しむと思っていたけれど、本当に存在する世界の未来というなら納得できなくもない、と無理やり自分を納得させ、それから不快そうな目で神を見つめる。


 自分を選んでしまったという神様のミスのせいで計画が根底から崩れている気がしていたが、これは崩壊待ったなしなのではないだろうか、と少女は勝手な思いを馳せる。


「いや、君の前にも転生させたよ。けれど問題が発生してねぇ。その子、ゲームのプレイヤーの中でもストーリーを最も詳細に暗記していた子でね。この子なら世界を救ってくれるんじゃないかと思って、元々魂の枠を開けていた子に転生させようとしたんだ。けど、ゲームの主人公に対する熱中具合が異常だった。曲がりなりにも神である僕の術を捻じ曲げて、主人公の女の子に宿るはずだった魂を飲み込んで転生してしまったんだよ」


「それは……まずいのですか?」


「まずいなんてものじゃないよ。悪夢だよ。魂を取り込んだ彼女は、その行為をもって魂を取り込む術をスキルという形で会得してしまったんだ。今後次々に魂を取り込んでいけば、肥大化した魂の欲で世界が滅びるか、魂の絶対数が変化して複数の世界を維持している転生システムが崩壊、最悪の場合僕が上位神に消されて僕が受け持つ世界すべてが破滅するよ」


「……はぁ。とんでもない大事ですね。ご愁傷さまです?それならなおさら、私を転生させている場合じゃないのでは?」


 転生がやめになるかと淡い期待を抱いて少女は上目遣いで見つめてみるが、神は首を横に振るだけだった。そんな危険な世界になんて絶対に転生したくないのだけれど、と少女は必死になって神を拝み倒す。


「まあ、その子については対処を始めていてね。とはいえ、そちらの対処ができたとしても、本来の滅亡の原因はそのままでね。教訓を得た僕は、ゲーム内容を知らず思い入れがない存在にゲームの知識を植え付けて転生させようと思い至ったんだ。それが君だね」


「はぁ、つまり私の前に転生した存在の自己中心的な行いによって、世界を救うために私は転生する羽目になった、と。理解に苦しむというか……理解したくもありませんね」


「そういうことで。じゃあ君にゲームで得られる知識を与えよう!」


「ちょッ⁉何を……うっ」


 脳裏にあふれこむ膨大な情報が頭痛を引き起こし、少女は頭を抱えてその場にうずくまる。下を向けば足元など存在しないという不思議な状況が目に映るのだが、少女はそれどころではなく、急激に増えた情報に自分が塗り替えられていくような不快感からくる吐き気を必死でこらえていた。


 乙女ゲーム『彼方の薔薇に願いを込めて』。貧乏男爵家に生まれた少女が、魔物あふれる剣と魔法のファンタジー世界に訪れるいくつもの危機を乗り越え、攻略対象と幸せになる学園恋愛もの。

 敵対キャラであるいわゆる悪役令嬢にもハッピーエンドが組まれている場合が存在し、ご都合主義的展開を含みながらも少女たちが成長していくシナリオに胸が打たれる女性が続出したという。

 神様、この情報はいらないのではないだろうか、と少女は現実逃避気味に考える。


「あぁ、君が転生するのは悪役令嬢のシャーロット・ヴァン・ガードナーだよ。公爵令嬢、勝ち組だねっ!それじゃあ、世界を救うために頑張ってね!」


「なッ⁉……ふっ、ざけるなあぁぁぁッ」


 神の暴露に少女は心の底から叫び声を上げる。

 最後に爆弾を落とした神の、ケラケラと癇に障る笑い声を聞きながら少女の意識は闇に沈んでいった。



「これでは、邪神と呼ばれても文句は言えないね」


 少女の魂が下界へと降りていった後。神域に佇む神は独り言ちた。


 シャーロット・ヴァン・ガードナーは「不幸少女」だ。

 その人生には数多の死の可能性が存在しており、彼女はこれからいばらの道を歩むことになる。


 神が手ずから転生させるということは、神がその魂を寵愛するということに他ならない。祝福ではなく、寵愛。祝福は、その存在に些細な導きを与えるもの。

 だが、寵愛は、それも「魂そのものに刻まれた」寵愛は、その魂を強制的に「神が認識する」幸運へと導き、周囲のすべての人間から幸せを奪い去る。

その「超幸運体質」とのバランスをとるために、シャーロットは不遇の道を歩むことになるのだ。

 「死亡フラグ」満載なシャーロットの人生について聞かされた一つ前の転生者は、それゆえに神の術を捻じ曲げたのだ。


「その説明を一切せずに、あの少女を送り出したわけだからね。たとえ失敗を繰り返さないためだとしても、これは邪神に連なる行いだね」


 されど、あの魂。

 日本にて邪神の目に留まってしまっていたかの者であれば、予想しえない道を切り開くのではないか、そんな淡い未来を期待して。


「願わくば、彼女の人生に幸多からんことを」


 いくつもの姿に移ろい続ける超常の存在たる神は、虚空を見つめてつぶやいた。

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