9節「亜鬼人」
9節「亜鬼人」
全員が沈黙を守ったまま、山へ向かう道成を歩いていた。
その道中で会長がナリムを呼ぶ。
「ナリムよ。 少し聞きたいのじゃが」
「なんですか?」
「ちこうよれ」
会長は人差し指でナリムを呼び、手を添えて耳打ちをする。
「名無しは何を隠しておる」
「…。」
ナリムは答えるべきか悩んだ。
しかし。
「い、言えません」
「何故じゃ?」
「皆んなには関係ないと言ってましたから。 私の口からは言えません」
「なるほどのう……事情は知らぬが、主らも被害者ではないのか?」
「っ!?」
会長の言葉にナリムは驚きを見せた。
「その様子だとそうなのじゃな」
「お話はできませんが、その通りです」
「乗らされた船じゃが、主らには協力をしたい」
「え? 何故ですか?」
「ふむ……ワシはお人好しなんじゃ」
会長はナリムに笑って見せた。
その時、ノーネームから言葉が発せられた。
「止まれ」
その言葉に全員が止まり、会長がノーネームの横まで移動し、理由を聞く。
「名無しよ。 どうした?」
「あれだ」
言われたまま全員は前方を見た。
そこには森が途中で終わり、開けた草原、中央にはわかりづらく小さい時空の歪みが発生していた。
「恐らく後、数メートル近づけば鬼が出てくるだろう。 今なら迂回して戦わずに進める」
「何故戦わぬのじゃ?」
「恐らく、鬼説の鬼なのは間違いない。 俺はレベル100だが、その他はレベルが達していない。 倒せない筈はないが、消耗は少ない方がいい」
「確かにそうじゃな」
全員は納得して横の森の茂みに入り、開けた草原を回避する為、大きく迂回しようとした。
「この森の中に歪みとかないよな?」
茂みをかき分けながら進む中、リタが言葉を発した。
それに為心が答える。
「リタがそういうの言うとフラグにしか聞こえないよな」
「さらにそれを為心が言うとフラグが立ったな」
「ハハっ! 縁起でもない」
突如として為心が横の茂みから出てきた雷炎のエフェクトに吹き飛ばされた。
「マジかよっ!?」
辛うじて為心は防御態勢を取れたが、先ほどの道成にあった時空の歪みまで吹き飛び、そして転がり、迂回し回避したはずの歪みが発動してしまった。
遅れて会長が指示を送る。
「全員戦闘準備っ!! ここは視界が悪いっ! 先ほどの開けた所へ移動するのじゃっ!!」
茂みから出てきた仲間の陣形に為心も加わり魔氣のナリムを中心に囲んだ。
「為心よ。 大丈夫か?」
会長が為心を心配した。
「防御できたからまだ平気だった」
そこでリタが口を開いく。
「おいおい……ちょっと待てよこれエグいって」
心魂を発動して未来を見ていたリタは何かを目の当たりにしていた。
「どうした?」
会長が聞いた。
「もう見てればわかる……」
すると辺り一面に小柄な鬼と、足が4本で歩く昆虫の様な鬼達が1000体以上は確認できるほどの光景が広がっていた。
「もはやこれはゲームが無双に変わっとるようじゃな」
会長が冗談まじりに苦笑いを浮かべた。
ノーネームが周囲を確認し、口を開いた。
「これは全て処理しないと次へは行けない様だな」
それに対して会長が言葉を返す。
「突っ切れんのか?」
「あれを見ろ」
前後の道が魔法の様な薄い紫のライトエフェクトで扉が形成されていた。
「ちと、厳しいのう」
この緊迫する中、チームの連携が鍵になってくる事はノーネームにも理解出来た。
ここまで来ての失敗出来ない今回のこの状況だからこそ、自分が指揮を取らなければならないが、先ほど伝えた真実に皆が動揺を隠せないでいる事に不安を感じ、その不安は自分の責任だと感じ、そんな張本人の指示を受け入れてはくれないのではと感じていた。
しかし、失敗に終わるのはなんとしても避けたかった。
だからこそ、ノーネームは思いだけを口にする事しかできなかった。
「全員聞いてくれ」
その言葉に全員が耳を傾ける。
「色々と思うところがあるのはわかる。 しかし、ここで死ぬことは今まで積み重ねて来た犠牲の命が報われない。 今は……今だけは……俺に協力をしてくれ」
「……。」
一時の沈黙が流れたが、その沈黙を会長が破いた。
「何を今更言っとるのじゃ。 この2人は出来た子じゃぞ」
次にリタが答える。
「あんたを許した訳じゃない。 けど、今はスキルを把握してるあんたが指示出せ。 こっちはその指示を待ってんだ」
次に為心が答える。
「確かに、色々思う所はある。 けど真実がとか、現実世界の事とか、この鬼説の事とか、そんなの難しく考えてるよりもっとシンプルで良いのかなって思う……」
その言葉に全員が為心に目が向く。
「……結局は、今のあたし達には鬼説が現実なんだからさっ!」
為心は今を全力で生きる事を皆に伝え、その言葉を聞きいたノーネームは呟く。
「……俺が1番浅はかだったと言うことか……」
『やはり……ただの数式のデータとはいえ、君達は人間だ……』
小さく笑みを浮かべ、そして激声で指示を出す。
「消耗戦はなるべく避けたいっ! 全員! 初手は最上級のスキルを使えっ! リキャストタイムを考えて全て一掃するぞっ!」
為心はそれに真っ先に返事をする。
「あいよっ! あたしが先に打ちかますっ!!」
そして、瞳を閉じ、意識と想いを集中し乗せる。
『ちくちゃんもうあたしは間違えない』
「心魂! 印加っ!!」
瞳を開いたと同時に紅色に染まっていた瞳がライトグリーンへと戻った。
更に為心の足元から青緑色のライトエフェクトが舞い上がり、為心自身が発光し、その場から消え、気付けば凄まじい勢いで鬼の群れ目掛けて走ていた。
下から舞い上がっていたライトエフェクトが徐々に光を増して為心を包み、光の玉へと変わり、為心はそのまま鬼の群れに一直線に飛び込んだ。
光に触れる鬼達は忽ちHPが消失し、ポリゴンになって次々と消えていく。
そして、光の玉が鬼の群れの中心部に差し掛かったその時だった。
「神氣!! 律加っ!!」
その刹那、為心を包む光が更に増して弾けたと同時に為心が宙に回転しながら現れ、双月を両方、地面へと力強く突き刺した。
「ぅぅぉぉおっ……らぁっ!!!」
その瞬間。
広範囲で凄まじい量の青緑色した稲妻が地面から激しく踊り、何百もの鬼を一瞬でポリゴンへと変え、飛び散ったポリゴンで辺り一面に幻想的な景色が広がった。
「な、なんじゃ!? あの姿は!?」
会長は驚いた。
為心の姿は、印加で変化した黒いモノリスではなく、角は額から一本に変わり、手は双月とも融合していなく、洋装も真っ白で青緑の筋が流れるとても綺麗な武装へと変わっていた。
「為心も神氣を開放してんのかよ! クッソ!」
リタは為心が強くなっている事に喜びを感じつつも、その反面では自分自身が同じ立場に立てていない事に劣等感、焦り、悔しさ、自分への怒りを感じ、苦笑いが止まらなかった。
「全員為心に続けっ!!」
ノーネームから指示が飛んだ。
その号令に合わせてリタ、会長、ナリムが為心の方に向かって走り出す。
「心魂! 光剣っ!!」
先に会長が手前の群れを一掃する。
「刻爆炎! 十火炎斬っ!!」
リタが会長の後ろから宙へ飛び、光剣で一掃した更に奥に群がる鬼に斬り込んだ。
「水光弾っ!!」
ナリムは他の群れが近づかないよう牽制していた。
忽ち辺りはポリゴンで埋まり、後方で残ったノーネームは会長達とは逆側へ体を向けた。
「俺はこっちを排除しよう」
ノーネームは構えに入り、心魂を唱える。
「心魂……累減」
ノーネームの足元から紫のライトエフェクトが舞い、更に徐々に光を増しノーネームを丸く包む。
「鬼人化……モード亜鬼人」
そう呟いたと同時に光が弾け、洋装が大きく変わったノーネームが現れた。
それを振り返り見ていた会長が驚いた。
「なんじゃと!?」
ノーネームは二本の角を生やし、双剣は腕と融合し、赤紫の筋が流れる黒のモノリスで武装され、為心の印加での同じ状態の姿に変わっていた。
ノーネームは鬼の群れに向けて片腕の双月を翳し剣先で高エネルギーを溜める。
剣先のところから重低音から高低音へと変化する収縮音と同時に赤紫色のライトエフェクトの稲妻が走り、炎の玉が生成された。
「雷炎」
その一言に合わせ、ライトエフェクトの玉は鬼の群れに向けて凄まじい音と共に放たれ、着弾し激しく爆発する。
その爆風と衝撃波で辺りの鬼はポリゴンになって次々と弾けていく。
「もはや鬼じゃん」
リタがノーネームの姿を見てそう呟き、それに対してナリムが説明する。
「あれは鬼ですよ?」
「は!? 鬼?」
リタは驚き、ナリムが続ける。
「ノネムさんの心魂の累減と、為心さんの心魂の印加と律加は鬼説のステータス設定を調整できる心魂なんです」
その言葉にリタが聞き返す。
「調整? 調整してなんで鬼になるんだ?」
「鬼説の私たちの設定は鬼人です。 鬼の血と人間の血が50%の割合の設定になっています。 累減は人間の血を減らす事で亜鬼人に成る事ができ、印加は鬼の血を上げる事で亜鬼人に成れるんです。 だから使えるスキルも鬼と同じ雷炎が使う事が出来ます」
ナリムが為心の方を見て言葉を続ける。
「しかし、印加は鬼の血が上がるので暴走します。 それを調整するのが神氣で手に入れた律加です。 ステータス調整で自分の持つステータスポイントを割り振って調整できます。 それに対して累減は人間の血を減らす事で鬼の血の比率を上げ亜鬼人になります。 だから印加とは別に暴走はしないのです」
「なんじゃと!? それではただのチートではないかっ!」
ナリムの言葉に会長が驚きとともに会話に入って来た。
その発言にナリムが言葉を返す。
「累減や、印加がチートなら会長さんの起死回生の神氣も十分チートですよ」
「あ……忘れておった……ワシ、ピンチになればなるほどステータス上がるんじゃった!」
頭の後ろを左手で掻きながら恥ずかしそうに笑っていた。
「はぁ!? なにそれ!! 俺に勝ち目ないじゃん!」
リタが決闘の時の話を持ち出した。
「そうじゃぞ! だから勝負を挑んだのじゃからのう!」
会長は可愛く笑って見せた。
「もしかして……俺って……今1番弱いんじゃね?」
リタの劣等感は増える一方だった。
右側では為心が、左側ではノーネームが凄まじい音を立てて鬼を一掃していく。
「閃光! 乱舞っ!!」
「鳴神……夢幻刹那」
亜鬼人の状態からのスキル使用で為心とノーネームの姿を目で捉える事が難しい程に凄まじい勢いで鬼達は忽ちポリゴンになって消えていく。
それを見ていたリタが声を漏らす。
「こっちは3人で丁度なのに、お二人さんは1人で丁度ですか……あぁ嫌だ嫌だ……スキルのマウントが凄い……」
その嫉妬の発言に会長が言葉を返す。
「まぁ、そう言うなリタよ! ワシらだっ……」
「会長っ! ナリムっ! 危ないッ!!」
会長が言葉を言い終える前に、未来を見ていたリタが飛んでくる雷炎に気づいた。
「絶っ!!」
シールド発動と同時にリタは雷炎を受け止める。
「グッ……ぉぉおらっ!!!」
雷炎とシールドの接触で凄まじい音と火花を撒き散らしながら、リタは角度を変え、雷炎の軌道をずらし、後方へ受け流す事に成功した。
「すまぬ! 助かった!」
「ありがとうございます!」
「いや、そんなことよりあれを見ろ!」
会長とナリムが礼を言い、リタに言われた方向を見て確認し、会長が鬼を見て呟いた。
「また奴らか……しかし今回は数が多いのう」
そこには以前に2回に渡って戦った鬼、歪な石の鎧で武装され、筋肉組織は赤く発光したボス級の鬼、4体がこちらに向け歩いてくるのを見てリタが口を開く。
「数のバランスが悪いな……俺達もあの時よりは強くなったとはいえ、これは流石にきつい」
その言葉に会長が返す。
「仕方がないのう。 主はまだ心魂しか無いし、ワシが1匹相手するしかなかろう」
鬼4体に対し、リタとナリムがペアで他1人ずつでの振り分けがイメージされていた。
それにナリムも賛同する。
「それしか無いですね」
そこへ、粗方一掃し終わった為心とノーネームが戻り、ノーネームの姿を見て為心が言葉をかける。
「なるほどね。 律加を開放した今だからわかる……あたしが陽であんたが陰って所か」
「まぁ、そんな所だ」
為心はノーネームの決闘を思い出し、呟いた。
「あの時、あたしのスピードを上回ったと思ったが、あんたの神氣の漸減は相手のステータスを下げられるんじゃないか?」
「その通りだ」
「やっぱりね……あの時、あたしが遅らされたと言うことか。 通りで負けた訳だ」
その会話に会長が割って入ってきた。
「ちょっと待てっ! 相手を弱体化できるのか?」
「そうだ」
「ならあの4体の鬼もなんとかなるかも知れんのう」
「とりあえずはあれを倒せばおそらく終わりだろう」
為心が補足を入れる。
「忘れてないと思うが、形態変化する前に倒さないと流石に厄介だぞ」
そこに会長がノーネームに確認する。
「名無しよ! 為心の担当以外の3体に同時デバフは可能か!?」
「3体同時だと効果が分散するがいいのか?」
「ないよりマシじゃ! 頼む!」
戦略を改めて確認する。
「名無しと為心が鬼を2体を吹き飛ばし、為心と名無しはその2体を早めにケリをつけて欲しい! それぞれが距離を離して戦うのがよかろう! その後、わかりやすい様に為心はワシの加勢で名無しはリタの加勢でどうじゃ!?」
その提案にノーネームが答える。
「それが良さそうだ。 構えろ為心」
「わかってるよ……調律……雷炎!!」
真ん中2体に向けてノーネームは左手の融合した双月を翳し、為心は右手の双月を翳した。
2人の剣先から雷炎を生成する音が重低音から高音へと鳴り響き、ライトエフェクトが激しく乱気する。
「まだだ……」
その間、鬼はこちらへ向けて歩いてくる。
「まだ溜めろ……」
さらに雷炎のライトエフェクトは光を増し、今までに見たことのない大きさまで膨れ上がっていた。
「今だっ!」
「あいよっ!」
凄まじい発射音と共に雷炎は鬼目掛けて放たれた。
そして、空かさず為心はその場で限界まで屈みステータス調整する。
「脚力……調律………それじゃ、あたしはお先に……」
神氣、律加の力で脚力にステータスを上乗せし、為心は急激な加速に抵抗が出ない様にさらに屈み、地面すれすれまで態勢を落とした。
「……行くぜっ!!」
そう言葉を口にした瞬間。
為心がいた地面はめくり上がり、姿は消え、気づけば為心自身が放った雷炎の後方を飛んでいた。
「俺も行く。 リタそして会長、なんとかもたせてくれ」
ノーネームがそう言葉をかけ、それにリタが言葉を返す。
「なんとかしてみるけど……正直、早く来てくれた方が助かる。 よろしく」
会長は腰に手を当て堂々と言葉を返した。
「ワシはピンチにならなければ勝てんからのう! 早過ぎると困る!」
「フっ……ナリムを頼んだぞ」
ノーネームは頼もしい仲間の台詞に笑みを浮かべて為心の後に続いた丁度その時だった。
為心とノーネームが飛ばした雷炎が鬼に着弾し、2体の鬼は防御態勢を取ったそのまま後方へと飛ばされる。
しかし、鬼も雷炎の起動を上手くずらし、自分の後方へと飛ばした。
「ぅぅぉぉおおおお……っらぁぁぁああああ!!!!」
鬼は雷炎を飛ばした事で隙ができ、そのタイミングで雷炎の後方から飛んでいた為心は鬼に目掛けて蹴りを繰り出した。
為心の蹴りは鬼の溝内にめり込み、鬼をまたその場から数メートル後方へ立て続けに飛ばし、為心は地面に着地したと同時にスキルを発動する。
「閃光っ!!」
為心は印加での亜鬼人状態に律加での脚力上昇、そしてスキル閃光を合わせて飛ばされた鬼より早く後方へと回り込む。
「……ぉらっ!!」
その速さはまるで瞬間的な移動だった。
今度は飛んできた鬼目掛けて下から蹴り上げ、鬼を遥か上空へと飛ばす。
それを見ていたリタが言葉を漏らす。
「やっぱり為心のバトルセンスはすげぇよな……」
それに対しナリムが聞き返す。
「何故ですか? 空中に上げては戦えないのでは?」
「唯一、双月だけが空中で戦えるスキルがあるけど、それでも普通のゲームじゃ自らの操作で空中に鬼を飛ばすなんてできない。 そもそもできるかどうかも定かじゃない。 なのにだ。 その選択を選んでしまう程にアイツは鬼説を現実と認識しているんだよ。 そして、それを当たり前の様にやってしまうアイツはやっぱり凄いんだよ」
その言葉に会長も口を挟む。
「ヴァイラスと戦った時も唯一、為心だけが一太刀を入れたからのう。 彼奴無しでは戦えんじゃろう」
リタも会長も為心に一目置いていた。
それを聞いたナリムも為心への印象が変わっていく。
そして会長が話を切り、場を集中させる。
「さて……ワシらもやるかのう……人の事を気にしてる場合ではない。 下手すれば死ぬかもしれんのじゃからな」
会長はそう言って鞘に納めていた刀を取り出し、戦闘態勢に入り、それを見てリタもナリムも準備をする。
「会長やられるなよ」
そうリタが会長に言葉をかける。
「リタよ。 それはフラグか?」
会長は笑ってリタに聞き返す。
「心配してんだよ。 人の優しさをなんだと思ってんだ」
「では有難く頂戴しよう」
そしてリタがナリムに口を開く。
「ナリムサポート頼むわ……あんた無しじゃ今の俺は弱すぎる」
「任せてください。 全力でサポートします」
3人は鬼に向かい歩き出した。
そして、鬼を宙に上げた為心はその場で屈んだ。
「これで終わらせるっ!」
力一杯、脚に意識を集中させ、凄まじい速度で跳躍した。
為心の踏ん張った地面は反動で大きく剔れ、さらに鬼に到達する前にスキルを発動する。
「心魂……鳴神……」
双月に青緑の稲妻が纏う。
「更に……調律……」
双月に纏った稲妻が激しく瞬く。
律加の力を使い為心は、脚力に回していたステータスを全てをスキルに転じ、空中に飛ぶ鬼を通り越して更に先の上空まで来た時に、もう一つのスキルを発動した。
「……夢幻刹那っ!!」
その時、足裏に稲妻が纏い、夢幻刹那の磁場で足場が発生、為心は空中で急停止し攻撃に移る。
「くらえぇぇっ!!!」
為心は、凄まじい勢いで飛んでくる鬼に向かって、衝突力、引力、印加での鬼血の上昇、律加での攻撃力転換、閃光、鳴神、そして夢幻刹那で、バフ、環境、設定、有りと有らゆる状況と物を使って最大の攻撃を放つ。
「仲間が待ってんだっ!」
為心は凄まじいスピードで鬼に一太刀を切り込む。
スキル鳴神で斬撃と共に青緑の雷が落ち、そして磁場を足場に空中で切り返す。
「もう誰も犠牲にしないっ!」
為心は何度も切り返し、二太刀目、三太刀目、四太刀目と目で捉える事が難しい速さで鬼を斬り続ける。
「もう間違えないっ! もう迷わないっ!! もう……」
為心は360度、有りと有らゆる方向から、何十回と凄まじい速度で鬼を斬り続け、斬りつける度にスピードは更に上がり、為心の姿はもう捉える事も出来ない。
そして、最後に空高々に上がり、磁場で作った足場を踏み台にし、力一杯に蹴った。
「……誰も悲しませないっ!!」
為心は最大級の攻撃に、更に遠心力を加えて取っていた最後のスキルを繰り出した。
「……乱舞っ!!」
凄まじい回転と速度で為心は鬼を稲妻の様に斬り抜いた。
そして、地面に着地し、双月を鞘に納めたと同時に鬼はポリゴンになり空中で弾けて消える。
「早く、会長の所に……」
為心は戦いを終え、リタと会長のいる場所に向かおうと体の向きを変えた時だった。
「嘘だろ……?」
為心の視界には、遥か遠くで会長が倒れ、鬼がとどめを刺そうとしているのが見えた。