6節「裁断」
6節「裁断」
3人はギルドホームに転送し、会長は上座に腰掛け、リタは放心状態のまま、近くの椅子に座り、為心は床で気を失っていた。
その中、会長が口を開く。
「すまな…」
「謝るな……」
リタが遮り、言葉を続ける。
「あんたの所為じゃない。 僕が……僕が弱かっただけだ」
「いや……ワシも、謝って楽になろうとした……もう何も言えん」
また、しばらく沈黙が続いたその時だった。
「……ちく…ちゃん……っ!! ちくちゃんっ!!」
為心が目覚めた。
しばらく頭の中を整理し、為心は思い出した。
周りを見て状況を理解し、力なく立ち、崩れる様に椅子に座って口を開く。
「あの後……どうなった」
会長が説明する。
「為心よ………主のお陰で助かった。 しかし、ちくびとちゃまは……」
その後の言葉は重く、軽々しく口には出来なかった。
「ワシの責任じゃ。 2人とも責めても良い……いや、むしろ責めてくれ……」
沈黙の後にリタが口を開く。
「会長……俺……結晶華抜けるよ……」
そう言ってリタは座席を立ち出口まで行き、足を止め一言、言い残す
「今までありがとう……」
会長は声をかけられなかった。
かける言葉も、責任も何も会長には残されていなかった。
残った2人はしばらく沈黙が続いたが、会長がその沈黙を破る。
「為心よ。 あの状態は覚えておるのか?」
為心は少し悩みながら答える。
「な、なんとなく……」
さらに言葉は続いた。
「でも、頭の中で響いてた感情は覚えてる」
「感情?」
「殺意、怒り、愁い、破壊。 頭の中にはそれしかなかった……」
「……主に確認するが……リアルの名前は思い出せるか?」
「リアルの名前?」
為心は考えたがしかし。
「っ…!!」
「なるほどのう……あれは主の心魂じゃったか……」
「あたしの心魂?」
「ステータス画面からスキル一覧を見てみよ。 詳細が乗っとるはずじゃ」
為心はすぐに確認をする。
心魂スキル 印加
詳細 増幅
「…印加……詳細は…増幅…?」
「詳細はそれだけか?」
「それだけだ……」
「鬼説は謎が多いのう……」
会長は席を立ち上がり、近くの窓辺に移動して外を眺めながら言葉を続ける。
「しかし、為心よ。 その力は危険かも知れん。 主が、鬼をほぼ一撃で倒した後に、ワシは主と目が合った……その時に感じたのは……」
外を眺めていた会長が為心に向き直り、為心の緑に戻った目を見て言う。
「ヴァイラスと同じ悪寒、そして鬼そのものじゃった」
「……あたしが……鬼…?」
「もう一度言う。 その力は危険かも知れん。 上の報告会には一応伏せておくが、その力は無闇に使うでないぞ」
「……。」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
日差しが気持ちいい気温、ゆっくりと流れる雲、目の前には噴水が緩やかに音を立て、近くでは鳥の囀りが聞こえている。
「……ちくちゃん」
どこに行く当てもなく、会長に心魂についての詳細を聞いた後、おぼつかない足取りで為心はちくちゃんと待ち合わせをしていたいつものベンチに座っていた。
そして、隣にいつも座っていた仲間がいない違和感を感じ、為心は一言呟く。
「あたし1人になっちゃったよ……昔は皆であんなにたのし…か……」
昔の思い出に浸ろうと記憶を思い出そうとしたその時。
「……昔? 楽しかった……? な、なんだよこれ……な、なんで……」
思い出の記憶が消え、思い出す事さえできなくなっていた。
その事実の衝撃に為心はベンチで膝を抱えて顔を埋め歯を食いしばり呟く。
「思い出す事さえ……させてくれないのかよ……」
為心は鬼に対し、ヴァイラスに対し、この世界に対し、怒りを抑えられなくなった。
この世界に涙の設定は存在しない。
泣くことのできない涙を心で流し、為心は決意する。
「……殺してやる……」
その時、為心の目はライトグリーンから紅色に染まる。
「あたしが……この世界を終わらせてやる」
為心は決意と共に転送を使ってギルドホームへ移動し、会長が居る部屋の扉を力強く開けた。
「話がある」
為心はそう口にし、会長の目の前まで歩き出す。
「主、その瞳はどうした?」
「そんなことはどうでもいい。 あたしは結晶華のクランを抜ける」
「何をするつもりじゃ?」
「あんたにはもう関係ない」
「そうか……確かにワシが咎められる義理ではないのう」
「世話になった」
為心はそう言い残しその部屋を出る。
残された会長は席を立ち、ギルドホーム全体を見渡せる窓辺に向かい呟いた。
「ワシも責任を果たさなきゃいかんのう……」
そして、メッセージ画面を開き、時期会長を選び始めた。
「……ラド、エネ、深緑、はち……さて……誰にするかのう……」