3節「まだ見ぬ変化」
3節「まだ見ぬ変化」
NPCが運営するカフェ。
そこに、為心、ちくび、ちゃま、リタの4人が食事をとっていた。
ゲームの設定でキャラクターは空腹状態だとデバフが付き、ステータス値が低下してしまう為、食事を取らなければならない。
食事中でちくびが為心に声をかける。
「為心?」
「……。」
目の前のテーブル席からの声掛けに全く気づいていなかった。
「………? おーい! 為心さーん?」
「あ! ごめん! なに!?」
為心は呼ばれてることに今気付いた。
「どしたの?」
「いや……なんか、今だにこのキャラが人事に感じるんだよね。 まるで自分じゃないみたいな。 なんていうんだろう、違和感みたいな? ズレなのかな?」
それを聞き、ちくびも言葉を口にする。
「あ! わかる気がする! やっぱり本名じゃないからかな? なんか、定着してない感じがするよね!」
「名前にちくびを設定したあなたが言うと説得力あるわ!」
それに続きリタが言葉を口にする。
「本名とかそう言うのじゃないと思うよ」
「それはどういこと?」
否定したリタに対し、ちゃまは疑問を聞く。
「理論的に考えたんだ。 僕たちがどのようにしてここに来たかはわからないけど、ここは数字の羅列で出来たデータの世界だ。 そのデータの世界に僕たちの意識が入ってきてる」
リタは途中まで食べていたカレーにわかりやすく絵を描きながら説明する。
「そもそも僕たちの脳はデータじゃない。 でも、僕たちの脳には活動電位が存在する。 それを数値化したものならパソコンで処理できるレベルじゃない。 そのキャパが違うからアバターと僕たちの中でズレがでてるのかもって思うんだけど……」
それを聞き為心が言葉を返した。
「化学的な話しなのはわかるけど、脳波を測定する機器も付けてないし、それにこの状況ってもう化学じゃなく、御伽噺や、それこそ創作物の話しにならないか?」
それについてリタが口を開く。
「非化学的な話しの方がどちらかと言うと素晴らしい話だよね! そっちの方が面白いし!」
リタは頭の後ろに手を組み会話を続けた。
「きっと鬼説には終焉がある。 どの現実の創作物でも最終的な目標は存在したからね。 だからそれを例えるなら鬼説にも無いはずがない。 何かしらの事件があってそれをクリアすればこの世界から出られると思う。 まぁ、僕はできればこのままがいいけどね」
リタの話には信憑性があった。
そして、さらに言葉は続く。
「今噂になってる任務がそれな気はするけど。 ただここでこんな話をしても答えは出ないからな……」
考えても出ない答えにリタはもう考える事をやめ、今自分が興味ある話に変える。
「そんなことよりさっ! 結晶華の会長ってなんで名前を会長にしてんだろうね! ちょっと中二病やばくない? 僕とめっちゃ仲良く慣れそうってずっと思ってたんだよね!」
それについて為心も思うところがあった。
「確かに! 事件が起きる前のチャットの時も設定的な喋り方だったけど、今はもう箔がつくほどになってるよね! 設定にしてはやりすぎてる気はするな! 現実であの喋り方も流石にしてないだろうし、ちょっと成り切り過ぎで、やり過ぎな気はするけど……悪い人じゃないのは確かだよね!」
リタと為心の会長への弄りにちゃまが止めに入る。
「やめなよ2人とも! 他の人が会長にちくったらどうするの?」
しかし、その時。
「もう遅いじゃがのう」
「!?」
為心の座席の後ろにはその会長がいた。
「……ご、ご本人様いた……」
為心は固まった。
「ワシは38歳の中二病じゃ。 何か文句あるか?」
「い、いえ……あ、ありません……」
何故か為心の背筋は伸びていた。
そして、会長は席を立ち上がり、為心達の前にまだ来て、腰に手を置きとても偉そうに言う。
「ちなみに、会長と言う名前にしたのは他ギルドからも、どんな奴からも会長と呼ばれるのが心地いいからじゃ!」
会長は小さな身長でとても堂々と言ってのけ、他の4人は唖然とした。
その和んだ空気の中、会長は話を切り出した。
「それよりちょうどよい……」
会長の急激に変わった真剣な声のトーンに空気が締まる。
「さっきの続きを話そう。 ちょうど結晶華にも任務が入った。 おそらくこの状況が動き始めてきてるようじゃ。 そこで主らに任務を頼みたい」
会長の言葉に為心達の顔つきが真剣な表情に変わる。
そして、会長の言葉は続く。
「参考までに伝えるが、先日に他のギルドの行ってきた任務があったのじゃが……」
「そのチームはどうなったんですか?」
リタが疑問を投げかける。
「1人ロスト。 そして、1人が行方不明で帰ってきたらしい」
一時的に沈黙が続き、その沈黙に為心が口を開く。
「どうして任務を私達に?」
「ほかのメンバーだとまだロストを経験してないものも多い。 主らの方が1番適正じゃ」
「なるほど……それはわかった。 でも、そんな危険な所に頼まれて行きたいと私たちが思うと思う? 佐藤さんの枠がなくなってフォーメーションも今じゃ取れやしない」
「だからこそ……そこにワシが入る! メインタンクとしてな! それにもしもの際はワシが犠牲なろう」
「は? い、いや! そ、それはダメだ! 会長いなくなったらやばいじゃん!」
「そうならぬように頑張ろうではないか!」
会長は笑ってそう言い、為心たちは押し切られる形になった。
「明朝に出発だ準備しておけ!」
そう言って会長はその場を後にした。
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翌日。
為心達は装備を整え、ギルドホームへ向かい、部屋に入ると上座に会長が座って待っていた。
「来たか! では簡単な内容を説明しとこうかの。 まず、詳細はほとんど無い。 遺跡に眠る鬼を討伐せよとのお達しじゃ。ワシらが準備しておかなければならないのが、確認事項じゃ」
「確認事項?」
為心が呟き、会長が説明を続ける。
「うむ。 まず、HPがバイオレットまでくると回復できない事はもうわかったであろう? レッドで危険区域だと認識しとくのじゃ! それと、昨日の会話から察するに主ら心魂に変化はまだないな?」
心魂
陽刀
光剣 光の剣で一刀両断する。
双月
鳴神 斬る度に雷が落ちる。
皇矢
巻龍 竜巻を起こす。
魔氣
閼伽 全てのプレイヤーを回復する
各役職で使える決められたスキル、それを心魂と呼んでいる。
そして、ちくびが聞き返した。
「心魂に変化? というのは?」
「まだならよいのじゃ! 向こうで説明することになるじゃろう」
「わ、わかりました」
「では、早速行こうかの!」
思考視点でチーム作成ウィンドウを開き、パーティーメンバーを結成し、会長はシステムメッセージから来た任務を開き、クエストを了承し、全員は転送した。