13節「運命を可能性へ」
13節「運命を可能性へ」
ノーネームは凄まじい斬撃を繰り返す。
しかし、斬撃をヴァイラスは簡単に弾き、そして避け、まるで遊んでいるかの様だった。
「ナリムっ! ブーストっ!」
「水浄化っ!」
魔氣スキル水浄化でナリムはノーネームのステータスを一時的に上げる。
それに対しヴァイラスは言う。
「ほう? ステータスを上げたか。 なら私も少し力を入れようか」
「なにっ!? 貴様は遊んでると言うのか!?」
ノーネームは驚いた。
そして、ヴァイラスは答える。
「……そうだなぁ……待っているって所だろうな」
「何をだ!?」
ノーネームが力一杯に両手の融合した双月で振り下ろす、しかしヴァイラスはそれを素手で受け止めて言う。
「それは……お楽しみだ」
人間の顔では表現出来ない程の笑みをヴァイラスは見せる。
「くそっ!」
『奴の掌の上だと言うのか!?』
ノーネームは捉えられていた両腕を振り解き、更に斬撃を開始する。
しかし、ヴァイラスは無様なノーネームを見て歓喜した。
「いいぞ! 私を楽しませろぉ!」
その時。
「水光弾っ!」
ナリムが光の水の玉をヴァイラスに向けて放ったが、ヴァイラスは水光弾を軽々しく交わす。
「とても邪魔だな……」
ヴァイラスはナリムに向かって手を翳した。
それにノーネームも気づいた。
「っ!?」
瞬時にヴァイラスに目掛けて攻撃を繰り出し邪魔をする。
「閃光っ!」
凄まじい速度でヴァイラスに詰め寄り、刀と融合した腕を振り下ろしたが、ノーネームの刀は空を斬り、気づけばヴァイラスはノーネームの後方へと瞬間的な移動を見せ、ナリムに雷炎を放った。
「ナリムっ! 逃げろっ!」
ノーネームは叫んだ。
しかし、放たれた雷炎の速度でナリム自身も逃げれるとは思っていなかった。
「一か八か……水壁っ!!」
魔氣スキル「水壁」は陽刀スキル「絶」程の防御力は無い為、逃げ遅れた時の大ダメージより軽度のダメージをナリムは選択した。
「きゃぁっ!!」
雷炎が着弾し、ナリムは直撃を免れたものの、後方へと激しく吹き飛んだ。
「ナリムっ!」
ノーネームはナリムの様子を確認しに行きたかったが、ヴァイラスが攻撃を仕掛けてきた。
「よそ見をしている暇が君にあるのかい?」
ヴァイラスの攻撃にノーネームは防御をするので精一杯になっていた。
「くっそ!」
『隙が見当たらない!』
ノーネームは決定打になるタイミングを探る中でヴァイラスが言う。
「私に隙があると思ってるのか?」
「っ!?」
ノーネームの考えは見透かされていた。
「甘いぞ。 甘過ぎて頬が落ちてしまいそうだよっ!!」
ノーネームはヴァイラスに言われて気が付いた。
人間ならミスはあるだろう。
感情の中で緩急があるからこそ強い面もある。
しかし、緩急があるからそ人間はミスをする。
だが、ヴァイラスは人間では無い。
データで作られた完璧な存在だった。
そのヴァイラスがミスをするはずが無かった。
「くそっ!」
『俺の考えは浅はかだった!』
「少し気付くのが遅いんじゃないかぁ?! もっと本気を出してくれないと楽しめないじゃないかぁっ!!」
ここにきてヴァイラスの力が上がり、ノーネームは後方へと押され始めた。
「なんなんだっ! この出鱈目な設定は?!」
ノーネームは間一髪で防御を取る事が出来たが、ここからヴァイラスの猛攻は更に激しくなった。
瞬間的に消え、現れては攻撃を繰り返すヴァイラスにノーネームは回避と防御を駆使してなんとかやり過ごし事しかできなかった。
ノーネームのHPは徐々に、そして確実に減っていく。
「くっ!?」
『…このままではまずい……』
その時、ヴァイラスの右回し蹴りが繰り出され、ノーネームはそれを左手だけでは防御し切れないと判断し、両腕で防御をした。
しかし、ヴァイラスは右足を軸に使って体を翻し、左足で踵落としを繰り出した。
ノーネームは焦っていた為に、ミスをした。
両腕を防御に使った事で、ヴァイラスの2撃目を見事に受けてしまい床へと激しく叩き付けられ、そして跳ね上がる。
更にヴァイラスは踵落としからの遠心力を使い、3撃目の右の蹴りを浴びせ、ノーネームは凄まじい速度で吹き飛び壁に埋まった。
「こんなものか……拍子抜けとはこう言う時に使う物なのかな? 私は期待していたのだがなぁ……そろそろ飽きが来てしまった。 とても残念だよ」
ノーネームの光景を見てヴァイラスはそう呟いた。
そして、周りの状況を確認し、為心を見て言葉は続いた。
「……ほう……鬼を倒したか……」
ヴァイラスは鬼説のラストボスである鬼絶王の側近として用意されていた鬼のデータと拐ってきたプレイヤー二人を融合させ、作り出した産物だった。
「いいぞ……為心と言ったか……いい表情だ……やはりあっちの方が面白そうだ……」
ヴァイラスは為心とリタがちゃまを囲い、愁いと言う感情を見て喜んでいた。
「唯一、私に傷を負わせた者よ。 そろそろ君が欲しくなってきた」
ヴァイラスは為心を待ち、為心もヴァイラスに気づく。
そして、リタは会長のところへ、為心はヴァイラスの手前で止まり、話しかける。
「あんたはこの状況を楽しんでいるのか?」
そして、ヴァイラスは答える。
「あぁ……今の君は最高の表情だ。 その覇気が無いにもかかわらず鋭い眼光……素晴らしい。 それはなんと言う感情なのだ?」
「言うなら言葉にならない感情が正しいかな」
「……なるほど……」
一呼吸置いてヴァイラスは聞く。
「……君は怒りの先に何を見た?」
「……人生でこんなに感情を壊されたのは初めてだ。 自分でもあんたを目の前にして激情するとそう思ってた。 でも不思議なぐらい……」
為心は自分の掌を見てそう伝え、そしてヴァイラスを見て言う。
「今はめっちゃ冷静だ」
その言葉にヴァイラスは笑った。
「やはりっ! 君かっ! 君なのか!? 私に本当の楽しさをくれるのは君だったかっ!! 何という運命かっ! これを運命と呼ぶのだなっ!!」
「運命ねぇ……あぁ…そうだな。 あたしがあんたに死を教える事が出来ればだがな」
「…フフ……では、精一杯に私を楽しませてくれたまえ」
そして、為心は準備をする。
「神氣……律加…」
為心が丸い光に包まれ、そして弾けたと同時に真亜鬼人の状態変異し、言う。
「……始よう…」
2人の間で沈黙が流れる。
「…。」
「…。」
その瞬間だった。
2人とも同時に、そして激しい衝撃音と共に消え、2人が居た地面は大きくクレーターを作り、気づけば空中で幾度となく斬撃の音だけが響く。
フィールド全体のあちこちで衝撃音が鳴り、途中壁を伝い旋回し、そしてまた消える2人。
為心は絶えず律加のスキルでありとあらゆるステータスを微調整し、ヴァイラスと対抗していた。
その中で、防御、攻撃、フェイント、回避、頭の中で処理しなければならない情報の多さを為心はゼロコンマの世界で計算し行う。
そして、フィールドの真ん中で凄まじい衝撃音と共に為心の攻撃をヴァイラスは受け止め、鬩ぎ合いになり、ヴァイラスが為心に向かって歓喜する。
「いいぞっ! 素晴らしいっ!! 先程の奴とは大違いだっ! 君を殺したいっ! しかしっ! あぁ! もったいないっ!! これは! これは何という! 何という感情なのかぁっ!!!!」
「そりゃぁどうも……」
為心の感情の無い返答にヴァイラスは聞く。
「君は楽しくないのか?」
「全く楽しくないね。 どうしたら楽しいってなるのか意味わかんないけど……でも、体の中の憤りが煮えたぎってたのに今は凄く冷てぇんだよ」
なぜか為心のその言葉にヴァイラスは怒りを感じてしまった。
「なんだと? お前は私を見てないとでも言うのか?」
「あたしも、あんたと闘ってわかった。 あたしはあんたに憤りを感じてないのかもしれない。 多分この憤りはあんたの先にある者に対する憤りだ」
「貴様は私を愚弄すると言うのか?」
「とんでもない。 あんたを許せる筈がないだろう」
「私だぞ……この私が……私が! この惨状を作ったんだぞっ! 恨むべき相手は! 今! この! 私だぞ!」
ヴァイラスは為心の思い通りにならない感情を見て苛立ちを見せていた。
「そうかもな。 だが……所詮はあんたも被害者だろ?」
その言葉にヴァイラスは一番の驚きを見せた。
「っ!? な、なんだと? 今……貴様はなんと言った……?」
為心はもう一度言う。
「あんたは結局、創造者のままに操られている可哀想な奴だって言ったんだ」
「……ふふ……」
ヴァイラスは笑い、そして言葉を続ける。
「面白いぞ……今までに味わったことのない感情だ。 確かに私はお前に今気付かされた。 この被害者である事に私は怒りを知ったぞっ!! お前はやはり最高だ! 感謝すら覚えるぞっ!!」
「それは良かったな」
そして、ヴァイラスは為心に聞く。
「お前は何を待っている? この悠長な会話もそうだが……先程の男の刃に対して、お前の刃には殺気が感じられない。 私を殺す気が無いのか?」
「ご名答」
「知りたい。 知りたいぞ。 お前は次に何を教えてくれるのだ?」
「本当だったらあたしは戦場であんたと戦はしてなかったんだ。 まぁ、そう言われただけなんだけどな」
「どういうことだ?」
「運命はあたしを戦場に呼んでなかった。 この力はあたしのじゃない……借り物だ」
「だが、お前は今ここにいるじゃぁないか」
「そうだ。 あたしは今ここにいる。 戦う筈がなかったあんたと戦っている。 その意味があんたにわかるか?」
「…。」
ヴァイラスは答えられなかった。
そして、為心の言葉を待つ。
「あたしはもう1人じゃないんだよ。 仲間が運命を可能性に変えるんだ」
その言葉にヴァイラスは自分が拍子抜けた事を実感した。
「……呆れたぞ……待たせて、期待させて、出た言葉がそれか……それなのか」
「……そうか……あんたにはまだ早過ぎたか」
そう言って為心は笑った。
「っ!?」
その瞬間だった。
「光剣っ!!」
ヴァイラスの後方からリタが斬りかかる。
しかし、ヴァイラスはそれを瞬間的に回避し、リタの後方へと移動する。
「そんなものが私に当たる訳がないだろう」
ヴァイラスは芸の無い攻撃に呆た感情から怒りに変わり始める。
「神氣……刻溜残」
リタがそう口遊んだその瞬間、ヴァイラスは何もない空間から斬撃を受け、更に激しく燃え上がった。
「なっなぜだっ!?」
ヴァイラスの回避した場所はリタが光剣スキルを発動して通ってきた剣筋の道だった。
そして、リタは振り向き、瞳に蒼いライトエフェクトを淡く立たせ、鋭い眼光でヴァイラスに言った。
「てめぇがそこに逃げる事はわかってたんだよ。 覚悟しろ。 前回の借りだけじゃすまさねぇぞ」
「くそっ! この私が攻撃を受けただとっ!? 殺す殺す殺す殺す……殺すっ!!!」
ヴァイラスは右手を大きく振り、自分に取り巻く炎をかき消した。
そして、次に為心が動いていた。
「閃光っ!!」
為心がヴァイラスに向けて斬りかかるが、為心の斬撃は空を斬り、ヴァイラスは瞬間的に為心の真後ろへと移動し、反撃に転じた。
「もう死ねっ!!」
為心の後方からヴァイラスの手刀が迫るその瞬間だった。
「絶っ!!」
凄まじい衝撃音が鳴り響いたと同時に会長がヴァイラスの攻撃を受け止めスキルを使う。
「心魂! 挽回っ!!!」
更に凄まじい音と共に、眩い光が発散し、ヴァイラスは激しく吹き飛び、間一髪で受け身を取り態勢を立て直す。
「こんな……屈辱は初めてだ……」
ヴァイラスは口から滴れる血を拭いながら立ち上がり、そう呟いた。
そして、為心はヴァイラスに向けて言う。
「どうだ? 可能性に変えられた気分は?」
「なんだと?」
「1人では届かない運命でも、仲間が運命を可能性に変えてくれた。 これがその証拠だ」
更に為心は言葉を続ける。
「ヴァイラス……お前はここで終わる」
「…ク……クックククク…」
ヴァイラスは笑っていた。
「そうかっ! これがっ! 危機ッ感っ!!」
ヴァイラスは余りの嬉しさに身体を限界まで翻し、興奮を体で表現し言葉を続ける。
「……では、お礼に私も本気を出そうではないか」
ヴァイラスはそう言って深く構える。
「ようやくワシも責任を果たせそうじゃのう」
ようやく始まる最後の戦いに向けて会長も構えを取る。
「ぜってぇ殺してやる」
リタも構え。
最後に為心も構えて言う。
「本当の戦いだ……行くぞっ!!」
その言葉と同時に会長が凄まじい速度でヴァイラスに上段から斬りかかる。
しかし、ヴァイラスは身体を横に軽々しく避け、会長に目掛けて手刀を繰り出した。
だが、気づけば既に為心がヴァイラスの腕目掛けて刀を振り上げていたのに気づき、ヴァイラスは会長への攻撃をやめ、後方へと瞬間的に下がる。
「刻爆炎っ!」
しかし、そこにはリタが待っていた。
ヴァイラスは身体を翻しリタの攻撃を避けた。
「…刻溜残…」
だが、リタは既にヴァイラスの逃げる方向に斬撃を残していた。
「くっ!?」
ヴァイラスはリタの攻撃をもらってしまいながらも、リタへと反撃する。
「絶っ!!」
しかし、ヴァイラスの攻撃を会長が阻止し、更に為心が同じタイミングでヴァイラスの後ろから斬りかかる。
「乱舞っ!!」
為心の攻撃にヴァイラスは擦り傷は追うものの瞬間的にその場から後方へと移動する。
「光剣っ!!」
同じタイミングでヴァイラスが消えたと同時にリタは誰も居ない場所へと攻撃を放つ。
リタは鷹の目のスキルでそこにヴァイラスが現れる事を理解していた。
見事にヴァイラスはそこに現れ、リタの攻撃は成功し、光剣スキルの炎でヴァイラスは燃え上がるが、そんな事は気にせずにリタに回し蹴りを浴びせ、攻撃を予測していたリタは防御をとり、重傷を回避する。
更にヴァイラスは簡単に炎を掻き消して瞬間的に会長の真後ろへと移動し、下段の回し蹴りを繰り出し、会長の体勢を崩し、そのままの遠心力で二撃目の回し蹴りで会長吹き飛ばした所で為心が斬りかかってきた。
だが、ヴァイラスはそれも易々(やすやす)と受け止めて言葉を綴る。
「ハッハハハハッ!!! 楽しいぞっ!! こんなにも危険とは楽しい物なのかっ!!」
ヴァイラスは今の状況に喜んでいた。
今までに味わったことのない初めての感情。
ヴァイラスにとって感情はインプットされているものの実際に数々の感情を経験したことは無かった。
しかし、今ヴァイラスはここでしか感じることの出来ない感情に興奮していた。
「夢幻っ…刹那っ!!」
そして、為心がヴァイラスの目の前から高速で移動した為に姿は消え、ヴァイラスも為心を追う。
あまりの速さにフィールドのあちこちで斬撃の音だけが鳴り響く。
「会長大丈夫か?」
リタが会長へ声をかける。
「あぁ……まだ行ける。 しかし、あのスピードにはついて行けそうにないのう」
為心とヴァイラスの攻防を見て会長はそう呟き、それにリタは答えた。
「……いや……更に記憶を支払えば行ける」
母、父、兄妹、友人など、そして、大切な思い出。
しかし、記憶を消す事は自分が自分で無くなる感覚だった。
今までに培ってきた財産。
自分自身を形成してきた記憶が、消えると言う事は恐怖という感覚だった。
しかし、彼らは意を決して戦う力の為に記憶を消し続けるしかなかった。
そして、リタは為心とヴァイラスが攻防を繰り返す戦場へ向けて深く構えた。
「試してみる」
リタは感覚で纏まった記憶を一気に消したその瞬間、リタの体は淡く発光し、ライトエフェクトが激しく舞った。
そして、凄まじい速度でリタの姿は消え、地面にクレーターを残してヴァイラスに斬りかかりに行く。
「ほう……行けるもんじゃのう。 ならワシも参加するかのう」
リタはヴァイラスと為心の速度に混じり、攻防に見事に参加していた。
そして、会長もリタと同様に記憶を消し、戦いに参加する。
1人では補えない攻防を3人で埋め合わせ、ヴァイラスに漸く攻撃が与えられる状態だった。
それでも3人のHPは少しずつ確実に減らされる。
しかし、ヴァイラスのHPもかなり減り、3人は終わりが垣間見えた気がしていた。
「おらっ!」
『あと少し』
リタは一撃一撃に力を込める。
「絶っ!!」
『あともう少しなんじゃ』
会長は早る気持ちを抑えながら慎重に的確な行程を選ぶ。
「くぅらぁあえぇぇえええっ!!!」
『あともう一歩っ!!』
3人にとってこの瞬間がとても長く感じていた。
しかし、最大限の丁寧が必要だった。
垣間見えた終わりを見逃さない為にも、確実に手にする為に、3人は慎重に、そして確実に的確な攻撃を選ぶ。
「光剣っ!!」
そして、リタがヴァイラスが現れる空間に力一杯にスキルを放ち、ヴァイラスは見事に攻撃を受け、燃え上がりながら後方へと下がり、ヴァイラスはHPが残り僅かにも関わらず笑って言った。
「クっククク……認めようじゃないか…」
ヴァイラスは炎をかき消しながら言葉を続ける。
「お前らは確かに強い。 私を本当に殺すことのできる力を持っているようだ」
会長は構わず斬りかかろうと構える。
「後もう少しなんじゃっ! 話の暇は与えんっ!!」
「会長待ってっ! 何かがおかしいっ!!」
為心はヴァイラスの言葉の違和感に会長を止めた。
「何故止めるっ!? 構わず強行突破すればよかろうにっ!」
リタも違和感を拭えず可能性の話をする。
「データ(じぶん)が消えるってぇのに余裕がありすぎる。 何か俺らは見落としてるはずだ」
「なんじゃとっ!?」
ヴァイラスは笑みを浮かべて答える。
「ご名答! そしていい判断だ。 私はもう既に勝っているのだよ。 計算と準備をする時間は多いにあった。 君たちが先程の鬼を殺した事で全て揃っていたのだよ」
その言葉にリタが気づいた。
「まさかっ!」
為心がリタに聞く。
「どう言う事だリタっ!」
「さっきの鬼達はプレイヤーとの融合だった……それが前段階の実験だとしたら……」
更に会長がリタに聞く。
「前置きはいい! もっと分かるように話すのじゃっ!」
その時、ヴァイラスは手を上にあげて指を鳴らし言う。
「本当の終わりはここからだ」
その瞬間、ヴァイラスの上空で空間が歪み亀裂が入った。
「ハッハハハハハハハハっ!!!」
ヴァイラスの上空で亀裂が更に割れ円型に形を変えた。
その漆黒色のゲートの奥から赤色の数字の羅列がヴァイラスに向かって円を描くようにゆっくりと巻きつき始める。
腕、脚、顔までもが数字の羅列で埋め尽くされ、ヴァイラスの姿は見えなくなり、赤色の発光が徐々に強まり、そして目が開けられないほどの凄まじい輝きを放ち辺りを真っ赤に染めあげたのを見て会長が言葉を漏らす。
「い……いったい……何が起きてるのじゃ……」
そこでようやくリタが答えた。
「おそらく……奴は鬼説のラストボス「鬼絶王」のデータを……自分に融合させてるんだ」
その言葉に会長が驚いた。
「なっなんじゃとっ!?」
その時、ヴァイラスの輝きが更に発光し弾けた瞬間だった。
そこには黒の鋼鉄で出来ているかの様な真っ黒の細い腕と脚。
更に顔は武装され、背中には歪な羽。
ヴァイラスの原型はどこにも存在していなかった。
「さぁ……これからが本番だ」