10節「もう一つの真実」
10節 「もう一つの真実」
為心が雷炎を放ったすぐ後、続けて鬼に向かって飛んで行き、ノーネームが口を開いた。
「俺ももう行く……ナリムを頼んだぞ」
ノーネームは凄まじい速さでその場から消え、鬼に向かって走り、すれ違う鬼に神氣の漸減を使って出来る限りの弱体化を行い、自分が担当する鬼向かっていった。
残った会長、リタ、ナリムはノーネームを見送り、会長は左の鬼へ、リタとナリムは右の鬼へと足を向けた。
「ナリム……バフを頼む」
「はい……スキル、水浄化」
リタの足元に魔法陣が浮き上がり、リタのステータスが一時的に上がる。
「このタイミングで神氣開放とかならないかなぁ……」
リタが切実な言葉を漏らし、ナリムがそれに答える。
「そんな都合の良いものでは無いので、無いかと……」
苦笑いを浮かべつつ、ナリムはリタの後ろを付いていく。
「だよね。 あの2人が来るまでは鷹の目でもなんとかなるか……いや、なんとかしなきゃなぁ……」
「私も全力でサポートします」
「よろしく。 さぁ……始めるか……」
2人は会話をしつつ、戦闘範囲まで着き、構えに入る。
それを見た鬼が咆哮をリタに向けて放つ。
「グヴァアァァァァアアアア!!!!」
鬼も戦闘態勢に入った。
「心魂! 鷹の目! ナリムっ!!」
「はいっ!…水光弾っ!!」
リタとナリムの戦いが始まった。
リタの指示でナリムは鬼に向けて光の水の玉を放ち、そして未来を見ていたリタが動く。
「この場所だよな!!」
ナリムが放った水光弾を鬼はその場から跳躍して避ける。
しかし、着地点にはリタが待っていた。
「くらいなっ! 刻爆炎っ!!」
鬼の着地と同時にリタは連撃系スキルの使用を避け、付与スキルを使用する。
「うらっ!!」
防御態勢を取れない鬼に横から一太刀を入れ、刻爆炎スキルの爆発が鳴り響き、続けて二撃目は上段から斬り、三撃目は脚力を使い、後方回転をしながら下から上に斬り上げつつ、後ろへ下がる。
鬼は着地と同時に4足歩行の態勢になりリタに向けて口を開き雷炎を生成する。
「ナリムっ!」
「水円晶!」
ナリムはリタに水の防壁を作り。
「絶っ!!」
更にリタは絶のシールドを加えた。
そして鬼の雷炎が放たれ、リタのシールドに着弾。
「今のうちに霧を頼むっ!」
「水幻っ!」
ナリムは鬼の周りに霧を発生させ、索敵出来ないようにし、その間にリタは雷炎を後方へと滑らせ、腰を限界まで落とし、大技を繰り出した。
「心魂……光剣っ!!」
リタの持つ太刀が燃え盛る炎に包まれ、あまりの温度に眩く光り、鬼に向け跳躍し、上段から力一杯太刀を振るう。
「おらっ!!」
鬼は光剣でのスキルで燃え上がり、悲鳴を上げた。
「まだまだいくぜぇっ! 十火炎斬っ!!」
リタは陽刀スキル十連撃を凄まじい勢いで繰り出した。
その間に鬼の後方に移動していたナリムも同時に動く。
「私も加勢しますっ!! 水刃槍連斬っ!!」
ナリムは魔氣スキルの水を媒介にした刃での槍術スキルを繰り出した。
「おい! バカっ!! やめろっ!!」
リタが叫んだ時にはもう遅かった。
「え……?」
鬼は標的をリタからナリムに変えており、リタの攻撃を無視して右手の爪を鋭利に伸ばし、振り向いてナリムの胴体を突き刺した。
「クッソっ!!」
リタは十火炎斬スキルの十連撃中だった為にナリムを助けることが出来ず、スキルが終わってから遅れて動く。
鬼の伸ばされた右腕の関節に目掛けて下から太刀を力一杯に振り上げた。
しかし、鬼はもう一方の左腕に雷炎を生成しながら攻撃態勢に入っていた。
「忙しすぎるだろっ!!」
リタは鬼の右腕を斬り飛ばし、同時にナリムを右脚で蹴りながら防御スキルを使用した。
その時、鬼の雷炎も同時に放たれた。
「絶っ!!」
間一髪でリタのシールドは間に合い、ナリムを含めて守る事が出来たがしかし、中途半端な態勢での「絶」だった為にリタは受け流すことが出来ずに火花を散らし耐え続けるしかなかった。
「か、勝手なことするんじゃねぇ!!」
「す、すいません! っ!? リ、リタさんっ!」
ナリムが気づけば鬼は4足歩行の態勢になりこちらに向けて口を開き、雷炎の咆哮を生成していた。
「まじかよ……」
リタは苦笑いを浮かべた。
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ノーネームが放った雷炎も為心が任された鬼と同様に、ある一定の距離まで雷炎を防御した状態のまま後方へと押され、途中で弾き飛ばしていた。
為心はそこから更に蹴り飛ばした事で鬼を更に後方へと距離をとってくれている。
ノーネームは走りながら鬼に向けて双月と融合した手を伸ばし、スキルを使用する。
「神氣! 漸減っ!!」
リタと会長が受け持つ鬼へ通り過ぎる間際に弱体化を施し、自分が担当する鬼へと向かう。
「グヴァァァアアアっ!!!!!」
鬼はノーネームを標的に捉え、威嚇し待っていた。
「一瞬で終わらせてもらおう」
そして、自分が担当する鬼にも漸減のスキルで弱体化をかける。
鬼の足元から黒い紫色の魔法陣が浮き上がり、ライトエフェクトで出来た鎖が鬼を地面へと捉え、張り付けた。
「心魂……鳴上」
双月に稲妻を纏わせ、ノーネームは脚を止めずに更にスキルを使う。
「……閃光」
今度は自分自身に稲妻を纏わせて更に加速させる。
「……夢幻刹那」
ノーネームは夢幻刹那のスキルで光の速さと成り、その場からまた更に加速し姿が見えなくなる。
鬼が気づいた時には上空にノーネームは既に双月を振りかぶっていた。
ノーネームは横回転しながら数回に渡って上段から連続で斬りつけ、鳴神の稲妻が遅れて瞬く。
地面に着地したと同時に反転し、更にまた数回に渡って下段から斬り上げ、磁場作った足場を使い、周りの空中を這う様にして凄まじいスピードで更に斬り続ける。
鬼は、物理スキル攻撃と漸減での行動不能状態に、更にHP吸収、毒、有りと有らゆる弱体化をつけられHPが凄まじい速度で減っていく。
「ギャァァァァァアアアアアアアァァァァア!」
何もさせてもらえない鬼は攻撃される度に悲鳴を上げていた。
「悪いな……娘を待たせてるんだ。 終わってくれ」
ノーネームはそう口遊み、最後のスキルを使う。
「……乱舞」
乱舞のスキルによりノーネームは鬼を激しく斬り刻み、早々に鬼はポリゴンに成り、弾けて消える。
そして、ノーネームは急ぎリタとナリムの方へ体を向け走り出した。
しかしその時、遠くに居たナリムが鬼の一撃を貰った瞬間を目の当たりにした。
「っ!? くっそ……間に合わなかったか。 閃光っ!!」
ノーネームはスキルを使い、加速し全速力で向かう。
「頼む……間に合ってくれ」
焦りを噛みしめ、唯、只管に走った。
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「さて、お主は少しワシと遊んでもらおうかの! ついてくるのじゃ!」
会長はそう言いつつ鬼の標的を受けたの確認して左へ走りリタ達と距離を取る。
そして、離れた先で構えを取った瞬間だった。
鬼は走りながら右手に雷炎を生成し始めていた。
「絶っ!!」
雷炎が放たれたと同時に会長はシールドを張り、そして着弾。
火花を散らしながら会長は角度を調整して、雷炎を後方へと受け流す。
「腕から放たれる雷炎などお手の物じゃ! うらっ!!」
しかし、気づけば目の前に鬼の姿は無かった。
「なに!? まさか!? 後ろ!?」
振り向いた時には鬼は既に真後ろで左腕を振り上げていた。
「しまっ……」
『くそっ! 絶も挽回も間に合わないっ!』
会長は回避も防御も間に合わないと判断し、振り向き様にスキルを使用した。
「十火炎斬っ!!」
鬼の爪は会長の左肩を突き刺し、貫通する。
「ぅぐっ! ぅぅぉぉおおおおっ!!!」
一度、発動したスキルは終わりを迎えるまで終わる事はない。
だからこそ、スキルの出すタイミングや、決まってる攻撃範囲に敵がいない場合は何もない所で無駄にスキルを振り回している状態になってしまう。
だが、会長は敢えて攻撃を受けた直後でスキルを発動させる事で、怯みで出来てしまう隙を消す方を優先させる為、会長は鬼の攻撃を受けつつも構わず攻撃を繰り出した。
しかし、無理矢理攻撃した事により、突き刺さっていた鬼の爪が傷口を激しく掻き回し、会長の肩は剔れ、肉片はポリゴンになって飛び、左腕が機能しなくなってしまった。
「腕ぐらいくれてやるっ!」
会長はそれでも止まらなかった。
一太刀目からの遠心力を利用して前方回転し、二撃目、着地と同時にまた跳ね上がり、横回転をしながら三撃目、四撃目、五撃目、地面に足が着いたと同時に横に払い斬りし、六撃目、鬼の胴体に対し、下から斜めに上に斬り上げ七撃目、上段から斬り伏せ八撃目、そこから跳躍し、前方に後方回転しながら鬼の後頭部に9撃目、着地し振り向き様に遠心力を利用した横斬りに更にスキルを上乗せする。
「心魂……光剣っ!!」
燃え盛る太刀の刀身に、更に眩い光が激しく輝き、10撃目の最後の攻撃が鬼に振り抜かれた。
「くぅらぁえぇぇえええっ!!!!」
見事最後の一太刀は鬼の背中に大きく傷痕を残した。
しかし、鬼も攻撃に転じ、そのまま後ろ蹴りが飛び、会長はその攻撃を防御する為に左手を使おうとした。
「うぐっ!」
左手に痛みが走り、防御が出来ない事に気づいた。
「しまっ…」
鬼の蹴りをまともに受けてしまい、激しく吹き飛び転がった。
「……クソ……しくじってるのぅ」
会長は起き上がろうと、鬼を見た時には鬼は4足歩行でこちらに向け大きく口を開き雷炎を生成していた。
「この展開はワシにとって……」
会長は口遊つつ、動かない左手を庇いながら力なく起き上がり、雷炎を前に立つ。
「……チャンスになってしまうのう」
そして、会長は笑った。
「さぁ……来るのじゃ……いい感じにこっちのHPは削れとるぞ」
その言葉に合わせるかのように鬼の雷炎は凄まじい音を奏でて放たれ、同時に会長はスキルを使用した。
「神氣! 起死回生!」
鬼の雷炎が着弾し、激しい爆発と眩いライトエフェクトが入り乱れたその時だった。
「雷炎っ!!」
鬼に向け青緑の稲妻を纏った雷炎が鬼に向かって放たれていた。
鬼は気づく事も出来ずに青緑色の雷炎と共に後方へ吹き飛んだ。
「会長っ! 大丈夫か?!」
現れたのは為心だった。
息を切らし、必死に爆発で舞った煙幕の中にいる会長に呼びかけたが返事はない。
「く、クソ……ま、間に合わなかったのかよ……」
為心が顔を下に向け、力一杯に拳を噛み締めた。
「……お決まりの展開じゃろう?」
煙幕の中からようやく声が聞こえ、オレンジ色のライトエフェクトが激しく舞っと同時に風圧で煙幕が掻き消され、中から笑った会長が現れた。
「か、会長……よかった!」
為心は安堵を表情に浮かべた。
「心配かけたのう。 まぁ、見ておれ、すぐに終わらせてやる!」
会長の傷は全て回復し、全身から陽気の様なオレンジ色のライトエフェクトが揺らぎ、鬼に向け歩き出す。
「会長! あたしもてつだ……」
為心の言葉が言い終える前に会長は凄まじいスピードでその場から消え、気づけば起き上がろうとする鬼に斬りかかっていた。
「仕返しじゃ! 刻爆炎! 十火炎斬っ!!」
鬼に向け、宙を飛びながら前方回転で一太刀入れ、刻爆炎スキルの爆発音が激しく鳴り響き、鬼は一太刀で更に後方へと吹き飛んだ。
「ワシのステータスが上がり過ぎてるのかのう! 面白い程に吹き飛ぶのう!」
地面に着地し、力一杯に踏み込み、鬼に向けまた更に前方回転して二撃目を入れた。
「あと、八撃……付き合ってもらうぞ!」
会長のあまりの強さに鬼は為す術なく、HPは凄まじい速度で削れていく。
その後、残りの七撃の攻撃が終わり。
「付き合わせてしまい悪かったのう! これでラストじゃ……」
会長は力一杯に踏み込み、両手を真上に上げた。
「心魂! 光剣!」
刀身が激しく燃え盛り、そして眩い輝きを放ち、上段から斬り伏せて告げる。
「散れ……」
その言葉に合わせて鬼はポリゴンなり、弾けて消えた。
「待たせたの為心よ! リタの所へ向うとするかの!」
「その前に何今の? あたし知らないんだけど」
戻ってきた会長に為心は少し不貞腐れながら聞いた。
「何がじゃ?」
会長は惚けた表情を浮かべる。
「あれ神氣でしょ?」
ちょっと可愛い為心に会長はちゃんと答えてあげることにした。
「お! そうじゃった! 主にはまだ見せてなかったかっ! そじゃ! 神氣じゃ! しかし主のと違って、ちと扱い難いじゃがのう!」
「めっちゃ強いじゃん! なんなの!? 心配して損したよ!」
そう言いながら為心はスキル律加での亜鬼人を解除した。
「しかし、ワシは為心の方が羨ましいんだがのう。 ステータスを割り振れるんじゃろう? ヴァイラスなんか簡単に倒せるのではないかの?」
「……。」
その言葉に為心は返すことが出来なかった。
「なんじゃ?」
「いや……足りない……」
「どういうことじゃ?」
「律加だけじゃ……まだ足りない。 これじゃまだ奴に届かない」
「為心よ……」
「ん?」
「主は一人か?」
「……」
「そりゃそのままでは届かないじゃろうな」
「どういうことだ?」
「そのままの意味じゃ」
会長は笑顔を見せ、言葉を続けた。
「そんなことより。 リタの所へ向かうかの」
会長達がリタの方へ足を向けたその時だった。
遠くの方で光の柱が天から降るのを2人は目視した。
「あれは!!」
為心が見覚えのある光景に驚いた。
「あれはなんじゃ?」
会長は為心に聞く。
「あれはノーネームの漸減だ。 もうリタの所に着いたってことか」
「ならワシらも向かうとするかの」
2人はリタの方へと向かった。
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ナリムを守る為にリタは雷炎を受け止めているのに、鬼は更に雷炎の今度は咆哮を溜めていた。
「ま、まじかよ……」
リタは焦るから苦笑いを浮かべる。
「クッソっ! どれも積んでんじゃねぇかっ!! こういう時に神氣があれば……クソ……あぁ! 無いもんはしょうがねぇ!!」
リタは数ある未来を見ていたがどれも致命傷だったが、その中でも最もな最善を選択する。
「ちっ……これが、いくらかましか! ナリムっ!!」
「は、はい!」
「バフが切れる! 今すぐにバフをかけろっ! 早くっ!!」
「はい! 水浄化っ!!」
リタの足元に魔法陣が浮き上がりリタの体を光が淡く包み、一時的にステータスが上がり、リタは絶のシールドの角度を変え、手咆の雷炎を滑らせて受け流す。
「おぉ…らぁっ!! からの……」
リタは態勢を限界まで低くし、力一杯踏み込みこんで鬼に向かって一直線に飛んだ。
真正面から鬼目掛けてただ突っ込むその光景にナリムが驚いた。
「リ、リタさん?!」
ナリムの声も届かずリタは咆哮を構える鬼の目の間にまで迫った。
「どうせ致命傷なら! てめぇも一緒だ!」
リタは0(ぜろ)距離でスキルを展開した。
「くらいな! 絶っ!!」
発動と同時に雷炎が放たれ、辺り一帯は凄まじいライトエフェクトと爆発、更に目を背けてしまうほどの爆風と土埃が舞い、ナリムはリタがどうなったのか分からなくなった。
しかし直ぐに、土煙からリタが飛んでくる。
「っ!? り、リタさんっ!!」
それをナリムは受け止め、2人とも後方へと激しく転がった。
「リタさん! 大丈夫ですか!? リタさん!!」
服は千切れ、リタは相当なダメージを負い、弱っていた。
そして、リタはナリムに言葉を押し出すように言う。
「バカっ……次が来る……に、逃げろ……」
その言葉を聞き、ナリムが鬼を見た時はもう既に鬼はこちらに長い爪を伸ばし、一直線に飛んできていた。
「間に合わないっ!」
咄嗟にナリムはリタに覆い被さり目を瞑った。
「くそ……届くか? いや……やるしかない」
ノーネームは鬼に向け融合した双月を伸ばし、スキルを使った。
「神氣! 漸減っ!!」
鬼の上空から、一筋の光が凄まじい勢いで衝撃音と共に落ち、光の範囲に入った鬼の動きが遅くなった。
「届いた……しかし、俺が間に合わなさそうだ……」
ノーネームはそのまま鬼に向かって一直線に飛んだ。
「閃光!」
ノーネームが閃光使って空中で更に加速し、鬼に目掛けて一太刀入れた時だった。
「……チッ……やはり間に合わなかったか……」
ノーネームの亜鬼人化が解け、元の状態へと戻ってしまったが、ノーネームは止まらずに二撃目、三撃目と鬼を斬り刻んだ。
「さすがにこの100レベルエリアだと累減無しでこんなものか」
ノーマル状態での攻撃に鬼のHPの減りは微量だった。
『今のナリム達を庇いながらだときついか……』
ノーネームはスキル漸減を解除する。
「解。」
そして、鬼に一太刀入れ、ナリムとリタとは反対側へ移動し、標的を自分へと向けた。
「よし……ついて来い」
ノーネームは鬼を連れその場から離れる。
それを見ていたナリムは口遊んだ。
「ノネムさん……すいません」
状況把握出来てないリタがナリムに聞く。
「鬼は……どうなった?」
「ノネムさんが来て鬼を連れて離れてくれました。 今、回復させますね」
ナリムは回復スキル「水浄化」と回復アイテム「赤生水」を使ってリタを回復させた。
「サンキュー。 助かった」
「いえ……私も勝手なことをしてしまったので申し訳ないです」
「いや……俺が弱かっただけだ。 気にするな」
当初は10人以上は必要だった敵。
2回目は5人で討伐し、今回は2人だけで抑えていただけでも凄いはずだった。
しかし、今ではそれを1人で倒してしまう仲間達の現状がリタの劣等感を更に増幅させていた。
「クソ……鬼を追うぞ」
「はい」
その頃、ノーネームは会長が居る方向へと走っていた。
『恐らく会長の方へ行けば為心もいるだろう。 3人ならいける』
その時、後ろで重低音から高音へと唸る音が鳴り始めた。
「まさかっ?!」
振り向いた時には、鬼は走りながら左手の雷炎を溜め、そして放っていた。
「くっ!」
ノーネームは防御態勢だけとり雷炎と共に飛ばされ地面に転がり、鬼は跳躍し、転がるノーネーム目掛けて宙から伸ばした爪を突き刺そうとしていた。
「名無しが危ないっ!」
会長が気づいたと同時だった。
「神氣っ! 律加っ!! 脚力調律っ!!」
為心はスキルを使い、その場から凄まじいスピードで消えていた。
「うぉ……らぁっ!!」
気づいた時には突き刺そうとする鬼に向かって為心は斬りかかり、一太刀入れたその瞬間に為心はそのまま空中でスキルを発動する。
「閃光っ! 夢幻刹那っ!」
空中に磁場で作った足場を利用し、有りと有らゆる方向から斬り刻む。
しかし、鬼のHPの減り具合を見て為心は気づいた。
『1発目で雷炎を飛ばして無い分、決め手が足りない』
その時、斬り続けながら会長が視界に入る。
「止めは譲ってやるよっ! 会長っ!」
為心はそう口にし、最後の一撃で鬼を地面へと落とし、離脱する。
それと同時に会長が攻撃のモーションへと入っていた。
「有り難く頂戴させて貰うぞっ! 十火炎斬っ!!」
地面に叩きつけられて跳ね上がった鬼に会長は十連撃を浴びせる。
「止めじゃっ!! 心魂っ! 光剣っ!!」
最後の一撃に心魂を合わせて斬り抜き、早々に剣を鞘に収めて、ノーネームに振り向き会話を始める。
「リタは無事かのう?」
その後ろでは鬼がポリゴンになって弾けて消えた。
「すまない……助かった」
ノーネームは先に礼を言い言葉を続ける。
「リタもナリムも無事だ」
「そうか……それはよかったのう」
そこで、為心が先を促す。
「早く合流して先へ進もう。 もたもたしてられない」
会長が同意を口にする。
「為心の言う通りじゃ。 少し時間をここで食わされた。」
ノーネームが答える。
「そうだな。 少し急ぐとしよう」
5人は幾つかの鬼に邪魔をされつつも、ついにたどり着いた。
そこには赤い山と一体になった歪な城。
プレイヤーの体には似合わない大き過ぎる門があり、その扉の前でノーネームは仲間に確認する。
「ここまでの道のりで俺は少なからず、お前たちを知った。 だから俺から頼みたいことがある」
ノーネームは全員の目をそれぞれ見て言葉を続けた。
「国が危ないことも伝えた。 しかし、お前たちにとっては大き過ぎて危機感を感じられてないのはわかる。 だから俺は個人的にお前達に頼みたい」
ノーネームは沈黙の後に口を開く。
「俺の娘を救って欲しい……」
その言葉に全員が驚き、その中で会長がノーネームに聞いた。
「ちょっと待てどういうことじゃっ!?」
「俺が脳のデータ化に成功した実験体がいる話はしたな?」
それを聞いて全員が理解した。
「お主の娘か!?」
「そうだ。 その記憶データ共に研究データは重要機密だ。 それが日本政府のサーバーに保存されている。 そのサーバーにヴァイラスは入り、データを持っていかれている。 だから今は奴の手元にある」
ノーネームはその場で頭を下げ言う。
「お願いだ……もう時間がない。 俺の娘を助けて欲しい」
その状況にリタが冷たく答える。
「そんなもん。 自分で救え」
リタはそう言い、ノーネームの後ろに構える城の大き過ぎる扉に手をかけ、さらに言葉を続けた。
「俺は姉を救ってくれと誰にも頼んではいない」
リタはその言葉を残し、両手で扉を押し開け、中に1人で入っていった。