1節「突き付けられた設定」
1節「突き付けられた設定」
日差しが気持ちいい気温、空にはゆっくりと機械的な動きで雲が流れている。
ライトグリーン色の猫目をした長い白髪の女性、水着の様な露出度の高い暗い色の服に、黒の使い古されたデザイン、よく言えばビンテージ感あるマントを首から巻き、ベンチに浅く座わり、手足を女性とは思えいほど伸ばして大の字で空を見上げている。
隣には同じく、露出度の高い白を基調とした服に金髪のツイテールで幼さを感じさせる少女が一緒に座っていた。
2人の目の前には大きな噴水があり、高級感ある装飾が施され、緩やかに音を立てる。
近くでは鳥が見当たらないにも関わらず、何処からか囀りが聞こえ、今現状の平和を感じさせる。
そして、白髪の女性が言葉を漏らす。
「今日はまだロストゼロ……平和だな」
隣で呟きを聞いた金色の髪をしたツインテールの幼き女の子が言葉を返す。
「平和が助かるよ……俺、死にたく無いもん」
「……」
白髪の女性は幼き女の子の一人称の「俺」と言う言葉に違和感を抱かずにはいられず、沈黙する。
それを悟った金髪ツインテールの女の子が少し怒り口調で聞く。
「なんだよ」
「……え?……あ……」
白髪の女性は言うか言わないか迷いつつも、言う事にした。
「……や、やっぱりその姿で俺って言うと違和感しかないなぁって思って……」
それに対し、金髪の女の子は言葉を返す。
「俺だってこんな事なら今からでもキャラを男に変えたいよ! でも! 変えられないんだからしょうがないじゃん!」
「まぁ、そうなんだよなぁ……」
「為心も中身が男なのに私とか言うの結構キモいよ!」
「私は職業柄であって、丁寧語が染みついて抜けないんだよ! それに俺だってたまには俺って言うわっ!」
「でも、為心は私って言えるから確かに違和感ないよなぁ……急に私って言い換えられないよ」
「確かに、私って言える様に練習したわ」
「まぁ、それは良いんだけどさ……1番の問題は名前だよ……」
金髪ツインテールの女の子は肩を落とし、本当に深いため息をついた。
「まだ気にしてんの?」
「気にするよぉ……だって恥ずかしいじゃん?」
「うん……私もその名前を呼びたくない」
為心は苦笑いで言葉を続ける。
「その名前を呼ぶこっち側に影響が出る名前って、なんかもう……新しいセクハラだよね……」
「本当にそれね……」
金髪のツインテールの女の子は大きくため息をついて言葉を続けた。
「……『ちくび』なんてふざけた名前にした事をちゃんと後悔してるよ」
落ち込むちくびを見て為心は大笑いをし、目尻に涙を溜めながら話す。
「もしさ! 仮にちくちゃんのHP残量が後少しで、危機的状況だったとするじゃん?」
「うん」
「その時に危険を知らせる為に「ちくびぃぃぃ!」って呼ばなきゃいけないとか……結構やばくない?」
「呼ばれるこっちも死ぬに死ねないよ」
「その時、泣けるか私は心配だよ!」
「俺も死ぬ前に笑っちゃう気がする……」
「あ! そういえばこの間、パンツは投げるって名前のプレイヤーとすれ違ったよ!」
「うそ!? それはやばい! でも俺、その人と仲良くなれそう!」
2人は何かから気を晒す様に、楽しく振る舞い、笑った。
しかし、その時だった。
「あの……すいません。 お二方にお聞きしたい事があるんですがお時間いいですか?」
ちくびと同じ幼女タイプの姿をし、背丈には似合わない太刀を肩にかけ、青色の髪をしたプレイヤーが話しかけてきた。
それに為心が答える。
「いいですよ! どうかされました?」
「先ほど、アイテムボックスをあさっていたら、牙の結晶ってアイテムがあって、でも何に使えるのかが全くわからないんです。 いったいこれは何に使うんですか?」
その問にちくびが答える。
「あぁ! それはね! 心魂強化素材だよ! 武器の鍛錬以外にも強化あって、それで使うんだよ!」
続けて為心が補足を入れる。
「武器の鍛錬画面を出すと上にスキルってタブない? そこから心魂強化ってない? そこで使うアイテムだよ」
青髪の少女は言われるがままステータス画面から移動し確認する。
「あ! ありました! これですね! ちなみにこの心魂は2つのうちどっちかを鍛えればいいんですか?」
「ん?」
青髪少女の質問に、為心とちくびは顔を向き合わせ頭にハテナが出る。
疑問を抱いた為心が聞き返す。
「このゲームの中に心魂は1つしか無いはずだよ? 何と見間違えてる?」
「え?……あ……いや! 私の見間違えでした! すいません!」
青髪の少女は何かに気づいた様に言い直す。
「あ! でも、心魂を鍛えればいいんですよね! ありがとうございます!」
そのあまりに不自然な様子に為心は聞いた。
「初心者さん?」
「あ! はい! そうなんです! 興味本意でこの鬼説を始めたのですが……」
暗くなる少女に為心が言う。
「そうだよね……こんなことになるなんて、誰にも分からなかったからね」
「……でも! 私は頑張るって決めたんです! どうやら私が……いや、自分自身が頑張らないと何も始まらないし、何も終わらないって思えたんです! それに、病気の母と妹を残して来てしまったので、私は人一倍頑張って早くこの状況が進展するように頑張るんです!」
ひたむきなその青髪の少女を見て、ちくびの口から言葉が漏れる。
「な、なんていい子なんだ……か……可愛い……」
その言葉に為心の背筋が凍る。
「おいっ! お前のオタクスイッチを入れるんじゃない!!」
「いや! 為心もわかるだろ!? こんなに一生懸命に頑張るって宣言する可愛い子を応援したくならない方がおかしいだろぉ!」
2人の会話で使われる少し荒っぽい言葉に青髪の少女は違和感を抱いた為に聞く。
「あの……ちなみに失礼ですが、お二人の中身はいったい……」
ちくびが嫌らしい笑みを浮かべ質問を質問で返す。
「ふふ……どっちだと思う?」
「あ……えっと……キャラメイクがお上手なので、女性かな? て思って声をかけてみたのですが……」
それに為心が答える。
「あ……ごめん! どっちも男なんだ!」
「え? あ! ご、ごめんなさいっ! てっきり女性の方なのかと思ってしまってました!」
「気にしないで! 紛らわしい設定にしたこっちがいけないんだから!」
そして、ちくびが口を開く。
「でも確かに鬼説は見た目女性キャラの中身男が多いよね!」
「ちなみに、興味本位で聞きたいのですが、お二人は何故女性キャラを選ばれたのですか?」
先に為心が手を軽くあげて答える。
「あ! 私は職業が美容師だから女性のキャラメイクをしたかったんだ!」
「俺は可愛いアイドルが好きだから……」
「……。」
その場の空気が固まった。
そして、押し出すように少女が言葉を口にする。
「い、色々な理由がありますよね!? な、なんか変なことを伺ってしまってすいません!」
為心も苦笑いでその場の空気を取り持とうとする。
「そ、そうだよね!! 人それぞれだもんね!」
青髪少女と為心のあからさまな気の使いに、ちくびは少し不機嫌になる。
「はいはい! 人それぞれですよー」
青髪少女はこの雰囲気が楽しく、少し心が開けた気がした為に名前を伝えてなかった事に気づく。
「あ! 私、ユナって言います! 名前言い忘れてました! 是非よかったらですが、フレンド登録とかどうですか?」
「もちろんいいよ! 私は為心! こっちは……」
その時、為心はあからさまに彼の名を呼びたくなかった。
それを察してちくびは更に不貞腐れながら自分で名乗る。
「あ、俺はちくびって言います……」
ユナの時が止まった。
「え……」
もうたまらずちくびが言う。
「もうユナちゃん俺の事めっちゃ変な人って思ってるでしょ!」
「え!? いや! だってそもそも思わない方がおかしいですよ!」
「うんうん! ユナちゃんの言う通り!」
こればかりは為心も大いに納得していた。
その時、突如としてアナウンスが流れる。
「学院内中央広間にて時空の歪みを観測!! 第1種戦闘配備!! 学院の生徒は至急急行せよ!」
そのアナウンスに3人の楽しい時間は一瞬にして消え、穏やかだった表情は一変し、ひりついた。
「今日も……きちゃったか……」
アナウンスを聞き、為心は大きいため息をついてからそう呟いた。
そして、ユナに向けて言葉を続ける。
「うちのギルドは召集かかったらとりあえず向かわなきゃいけないんだけど、ユナちゃんの所はなんて言われてる?」
「私のギルドもとりあえず現場近くで集合と言われてます」
「そっか……なら、お互い気をつけようね」
「はい……」
「じゃ……また何か聞きたいことや、わからないことあったらメッセージでも何でも連絡してね!」
為心は穏やかさを装いそう言い、ユナもお礼を告げる。
「はい! 凄く楽しい時間をありがとうございます! 是非連絡させていただきますね!」
「うん! どっかでまた会おうね!」
「はい!」
そして、為心はちくびに体を向けて煽る。
「ほらほら! ちくちゃん行くよ!!」
「えぇ! まじで行くの!? てか、そんな軽いノリで行くよって言っていい事じゃないよ!?」
「それでも行くだけ行かなきゃ……ギルドの友達を1人や2人守れるなら行った甲斐があるじゃん!」
「……わかってるけど……わかったよ……」
ちくびは渋々承諾し、ユナに手を振って言う。
「じゃぁね! ユナちゃん! 必ず生きて次も会おうね!」
2人は衝撃に備えて跳躍する構えを取り、フィールド移動専用コマンドを唱える。
「行くよ! 飛行!!」
そう口にした瞬間、2人がいた足元のコンクリートが弾け飛ぶ。
2人の姿は消え、弾け飛んだコンクリートは見る見るうちに修復されていき、空高々に2人は飛んでいた。
そして、残されたユナは届いていたメッセージに気づいた。
「中央広場に集合」
参加しているギルドからの要請連絡だった。
「私の初めての戦い………怖い……」
あまりの恐怖にユナはしゃがみ込む。
『でも、私は逃げないって決めた……きっとこの心魂の下に表示されたこのもう一つ……これが出てきたのには何か意味がある。 私の決意と共に獲得したって事はきっと何か新しい力なんだ……なら、私がやらないでいったい誰がやるんだ!! ユナ!! 頑張れ!! うん!』
ユナは自分に言い聞かせて勇気を振り絞り、ガッツポーズと共に立ち上がり、決意を胸に視点誘導で要請転送コマンドを使用する。
ユナの足元で魔法陣が形成され、光が強くなり、ユナを包んで消える。
その頃、為心達も座標に向かっていた。
「ダメだ……まだうちのギルドの人、誰一人として現場に居ないや……転送使えねぇじゃんかよ」
転送は現地にギルドの人がいない限り使う事は出来ない。
ユナは現地近くに仲間がいた為、転送で移動し、為心、ちくびは自ら移動しなければならなかった。
そして、為心の言葉にちくびが返す。
「なら俺らまだいかなくて大丈夫じゃない?」
「いや! 普通に逆だろ! 誰もいないから行かなきゃじゃん! そうやってみんなが自己中だとずっとこのままだよ! 行くだけ行く! やれる事はやる! それが大事! それに、うちのギルド誰一人現場に向かってなかったら、うちの会長が責任取らなきゃいけないんだからやばいでしょ? どんなペナルティーがあるかわからないじゃん!」
2人は空を飛行しながら会話を続ける。
「わかってはいるんだけどなぁ……行きたくねぇよ……」
しかし、ちくびは言葉を漏らすばかりだった。
その時、為心は朗報を思い出す。
「あ! でも、最近ランキング1位のノーネームさんが毎回いるから、加勢するだけで大丈夫な気はするよ!」
「あ! 確かに! あの人って本当に化け物だよね? 何をどうしたらあんなに強いステータスになれるのよ? ボスを一撃で倒せるとか何かチート行為やってるでしょ!? もうあの人 1人で大丈夫なんじゃない?」
「それは確かに思うところ! あ! そろそろ座標だ! ちくちゃん降下するよ!」
「はーい!」
2人は降下し、雲をかき分け抜けたその先の途中で鬼を目視で確認した。
「グヴァアァァァァアアアア!!!!」
それは全長7メートルはありそうな大きさ、石でできた歪な装甲、隙間からは赤く輝く筋肉が見て伺え、アンバランスな角を生やし、鋭く尖った爪、そして牙、長い尻尾を地面に叩きつけ、体が震えるほどの咆哮を放っていた。
「ま、まじ怖すぎるって!」
そして、2人は着地と同時に恐怖を肌で感じた。
周りには数十人の生徒が大きく円を描くように鬼を囲い、配置につき、安心が伺えるほどに人数がどんどんと増えていく。
着々とレイドの様に多数で連携を取る為、各役職で整列し、準備が行われていた。
しかし、その時だった。
「私がやらなきゃ……私がやらなきゃ……私がやらなきゃ」
人間は5メートルを超える肉食の生き物に対峙した事などない。
その感じる恐怖は足がすくみ、体は震え、立っているさえもままならない程の恐怖感である。
更に地震のような、体の中の内臓に振動する程の鬼の咆哮は戦意を喪失させる程だった。
そんな状況にもかかわらず、心と頭、そして体が行動を一致できないまま、恐怖感に耐えられず、先走った1人の少女が雄叫びを上げながら体に見合わない太刀を振りかざし、鬼に向かって走っていった。
『私がやらなきゃ!私がやらなきゃ!強くならなきゃ……この! ゲームを! 私がっ! 終わらせる為にっ!』
「うぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
それを見て周りでは一瞬でも勇気づけられる者も確かにいた。
しかし、まともなゲームプレイヤー達は同時にもう助けられないと悟る。
鬼もそれに気付き右手の長い爪をさらに伸ばして少女めがけ振り下ろそうとしていた。
「ユナちゃんが危ないっ!!」
ちくびがそう叫んだとほぼ同時だった。
「閃光!!」
『言ってる場合じゃねぇ!!』
為心は誰よりも先に体が動いていた。
為心の姿が瞬間的に発光し、その場から消え、そして鬼の爪が少女に触れそうになったその瞬間、少女の姿が消え、鬼より数メートル先にユナを抱える為心が移動していた。
「……ま、まじかよ……」
為心は驚きを隠せなかった。
そして、抱えるユナの状態に叫ぶ。
「だ、誰かっ!? た、助けてくれぇ! ユナを助けて!」
そこにいた誰もが間一髪で回避できていると思っていた。
しかし、ユナの脇腹半分は抉られて無くなり、体の中にはキャラクターを構成する赤く細かい数字の羅列のデータが剥き出しになっていた。
「い……いやああああああああ!!!!!!」
周りから悲鳴が上がり、恐怖が伝播していく。
「この状況はやばい……」
そして、ふと気づくと為心に影が覆い被さり、振り向いた時には爪を振り上げた鬼がそこにはいた。
「クッソっ!?」
助ける事に必死で鬼の存在を意識から外していた。
為心は思わず腕をクロスにさせて防御を取り、目を瞑る。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
カーテンの隙間から入る日差しが部屋を明るく照らし、ワンルームのベットに横たわる男性がスマホを手に一言呟いた。
「やっと来たか!!」
この日は待ちに待っていたMMO RPGアプリケーション「鬼説」のリリース日だった。
「大まかなストーリーの予習しておこう!」
動画サイトでモデルユーザー達が宣伝する広告動画を見ながら予習する。
他国では既にリリースされ、ランキング1位を何ヶ月も記録し、大人気のゲームだった。
MMO RPG鬼説の大まかなストーリーとは。
遥かなる歴史の中、世界を支配してきたのは鬼族だった。
長きにわたり君臨し続けてはいたが、人類の中にも自らの痕跡を残し、生存をしていた者達がまだ存在していた。
そして、更に鬼族と対抗する事が出来る鬼と人間の間に生まれた者を鬼人と呼び、鬼人は普通の人間よりも強大な力と自分だけの心魂を持っている。
彼らの最終的な使命は、鬼を殺し、人類を守ることだった。
そして、鬼人達にとって鬼血の比重が大きければ大きいほど、能力が強くなるが、しかし、その比重が50%を超えると、彼らは鬼寄りとなり、最終的には自分の意思を失ってしまい、鬼絶王の命令だけで動く「亜鬼人」になってしまう。
その為、鬼人を管理するべく学院が作られた。
訓練した生徒を任務に出し、鬼族から世界を守る物語りである。
「やっぱり面白そうだな! お! リリースが始まった! ダウンロード! ダウンロード!」
ダウンロード中にとても綺麗なグラフィックで映像が流れている。
そして、ゲーム内の説明もされ、役職の選択の内容が開示された。
陽刀 太刀使い。
炎系を自由に操ることができ、刀身に炎をまとい、防御力、攻撃力ともに高い、炎属性の役職。
双月 双剣使い。
雷系を自由に操れ、体に雷をまとい、スピード、回避、攻撃力に特化した雷属性の役職。
皇矢 弓使い。
風系を自由に操ることができ、矢に風を起こし、攻撃力を上げ、さらに操作でき、広範囲、遠距離からの攻撃に特化した風属性の役職。
魔氣 杖使い。
水系を自由に操ることができ、回復、増強、広範囲、サポートに特化した水属性の役職。
そして、ダウンロードが終了し選択へと移る。
「えっと……役職はと……」
そこには太刀、双剣、弓、杖が選べるようになっていた。
「どれも魅力的だな……うわ! 悩むなぁ……でも、基本的にはプレイヤースキルが生きるフットワークが軽い役職が好きなんだよなぁ……ってなると双月かな!」
役職が決まり、キャラクターメイキング設定へと移動する。
「キャラメイクか……少女と、男児と、男性と、女性か……お? 眉毛の形まで変えられるって細かいな!? でも設定は美容師にとっては燃えるな!」
顔の形、髪型、腕の長さ、手足の大きさまでありとあらゆる設定が可能だった。
「メイクまだ出来るんだ!? なら女性をメイキングしたい!!」
キャラクターの顔を2時間かけて完成させ、ボディメイクへと移った。
「体型はわからん! とりあえず身長だけ高く設定して、あとはランダムにしちゃお!」
そして、キャラメイクを終え、名前の選択へ移動した。
「名前か……どうしよう……」
悩みあぐねいていた時、ふと昔の事を思い出した。
「あ! 確か! 学生時代にもし子供が女の子だったらって考えてた名前があったな! それにしよう!」
名前は為心と入力し、ようやくストーリーがスタートし、チュートリアルが始まった。
「おお! めっちゃ映像綺麗!! 凄いリアル!」
その時、画面上でメッセージのアイコンが点滅していた。
「なんだこれ?」
早速に開いてみる。
『小学生の頃、友人が虐められていました。あなたは次のうちどれを選びますか?』
そう記されていた。
そしてそこには4択の回答を選べる様になっていた。
1.助ける
2.先生に報告する
3.友達に相談する
4.無視する
「ん? 心理テストかな?」
男性は少し考えてから答えた。
「為心なら助ける人になってほしい!!」
1番を選択し、すぐに次の質問が来る。
「物事を行なうにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか」
また1から4の解答欄を使って質問に答えていく。
およそ、10個ぐらいの質問を回答しようやく終わりを迎えた。
「やべ……為心っぽくより自分の回答しちゃった……まぁ、いっか!」
そして、鬼説を始めて数ヶ月が経ち、レベルもかなり上がった。
鬼説ではギルド機能が存在し、クラン名、結晶華に入り、沢山の仲間や友達もできた。
その中で1番いつもの仲のいいメンバーがいた。
双月の為心、魔氣のちくび、陽刀の佐藤、陽刀のリタ、皇矢のちゃま、の5人で今までより難易度が高い任務に出発し、鬼と戦ってる最中だった。
「やばい! 超吹っ飛ばされた!」
ゲーム内で、鬼の攻撃に飛ばされ、距離が空いてしまう。
「佐藤さんのところに向かってる! 佐藤さん死んだら全滅するって! やばいっ! あともうちょいで倒せるのにっ!」
クランの中でも上位ランカーの男性キャラクター佐藤は全員のカバーに周り、HPゲージがレッドに染まり瀕死の状態だった。
「閃光! 早く早く!」
スキル閃光のコマンドを何度も何度も入力する。
しかし、ゲーム画面が歪み、ラグが発生し、思うように操作できない状況に陥った。
「こんな時にラグかよ! この距離ならギリ届くのに! 助けないとやばいんだって!」
何度も何度もコマンドを入力する度に画面の歪みは増していく。
「なんで動かないんだよっ!」
更に画面は歪み、苛立ちに耐えられなかった。
「くそっ! どうなってんだよ!」
怒鳴り声を上げたその時だった。
画面が真っ白になり、直視出来ないほどの眩しい光へと変わり、光は部屋や全てを包み込んだ。
「うぉぉぉぁぁぁぁぁああぁぁ……え?」
自分がなぜか激声を発していることに気づく。
「…………え?」
その数秒後、背後で大きい岩が倒れる音がし、振り向いた。
「………お、鬼?」
そして、クリアの文字が自分の視界に表示された。
「なにこれ?……たしかさっきまでゲームを……してたんだよな? そ、それから……鬼が倒せなくて光が……」
そして周りを確認する。
そこにはいつものゲーム仲間のキャラクターが同じ様に混乱している状態と誰かが倒れているのに気づく。
「お、おい! だ、大丈夫かぁ!?」
自分から発せられた女の声に驚きつつも、今はそれどころではなかった。
全員が走って駆け寄り、倒れていたのは佐藤だと理解する。
「うっ!?」
そして、その佐藤の状態に驚きを隠せなかった。
佐藤は上半身と下半身が真っ二つに分かれていた。
「お、おい! さ、佐藤さん! 大丈夫かぁ!?」
「な、なに……こ、この状況……?」
「お、俺にもわからない!」
そしてその時。
HP表示でグリーンからレッドゾーンまでしかなかった表示がバイオレット色のHP表示が増えていることに気づき更に困惑する。
「な、何だよこれ……紫色のHP表示?」
その時、隣にいる金髪少女が心配する。
「い、為心……佐藤さん助かるよね……?」
「ちくちゃん……と、とりあえず回復を……」
違和感のない会話、すごく自然に動くアバター。
この事から中身は人間なのだと、ちくちゃん本人が中にいることは何となく理解出来る。
そして、この情報量の多さに戸惑いながらも思考を巡らせる。
「為心! だめだ! スキルの水浄化じゃ回復しない!」
焦りを見せるちくちゃんにHP表示を確認し、確かにバイオレット色のHPは徐々に減り続けていた。
「と、とりあえず……い、いろいろ試すしかない! あ、アイテムボックス.……これどうやって開くんだっ?!」
思考はそこの解に辿り着いたが、しかしコマンド入力する物もなければコントローラーなども存在しない。
その時、後ろでポニーテールをした黒髪の女性アバターの皇矢の職業「ちゃま」が声をかける。
「為心! 視点誘導で視界にある宝箱のアイコンを見て開けるって思ってみて!」
言われるがままにやってみる。
アイテムボックスのアイコンに視点誘導し、アイテムボックスが開いた。
その間にも佐藤のHPは減っていく。
「為心! やばいよ! 佐藤さんが死んじゃう!!」
ちくちゃんは焦りで叫けんだ。
「どうしたらいいのか俺にだってわかんないんだよっ!」
思わず為心は怒鳴り返してしまった。
しかし、今は佐藤さんを助けられる方法を探す事で精一杯だった。
「普通の回復薬じゃだめだ……もっと上位の高回復薬……どこだよ……赤生水……赤生水」
無数にあるアイテムの中から緊急時用のレアリティが高い高回復薬の赤生水を探す。
為心は佐藤さんのHPの残り残量に焦りが増し急ぐ。
しかし、見落としはできない。
その現状が更に為心を焦らせる。
「や、やばいよっ! 為心! は、早くっ! なんとかしてっ!」
「あ、あった!」
鬼説での回復アイテム赤生水、それを手元に具現化し、その使用コマンドを見つけたその時だった。
「みんな……な、なんか……ごめん」
佐藤はその一言を残し、赤のポリゴンになって弾けて消えた。
「……う、嘘だろ……」
その場にしばらく沈黙が流れた。
残された4人、為心、ちくちゃん、ちゃま、そしてもう1人のメンバーリタはそれぞれ思考を巡らせる。
アバターが死ねば現実世界の自分はどうなっているのか、ここでのアバターの消失はどんな意味を持つのか、それは誰にもわからなかった。
そのわからない現状が更に恐怖を加速させ、その状況に耐えられないちくびが口を開く。
「ね、ねぇ……為心……さ、佐藤さん本当に死んだのかな……?」
答えはわからないだった。
何か励ましてあげられる、前向きになる様なそんな言葉をかける事が正解だと誰もがわかっているはずなのに、この状況、この現実、今この瞬間で為心が出た言葉は。
「わかるわけないだろっ!」
誰もがこの状況に困惑していた。
この状況を受け入れられなかった。
いや、信じたくはなかった。
そして、情報の処理が誰も追いついていなかった。
「ごめん……」
為心は当たる相手の違いに謝罪を入れ、佐藤の死を憂いた。
「間に合わなかった……くっそ……」
しかし、赤生水を使えば救えたのか、間に合えば助かったのか、それは誰にもわからない。
そして、また沈黙が続き、鈍くなった思考で為心が気付く。
「……ろ、ログアウト……ログアウトすれば元に戻れるんじゃないか!?」
為心がそう口にしつつログアウトコマンドを探す。
その時。
「もうとっくに探したよ! もちろん! そんなものはなかったよ!」
小さい体に似合わない太刀を肩にかけ、自分の洋装を楽しむかのように確認していたグレーの髪色で少年アバターのリタが答えた。
しかし、そのあまりにも場に似合わない口調、そして態度などに耐えきれずちくちゃんが言葉を漏らす。
「こんな状況なのに、リタくんは楽しそうだね……」
「え? すっごく楽しんでるよ! 正直こういうの憧れてたし! それに佐藤さんが死んだとは限らないでしょ?」
その軽率な発言にちゃまが言う。
「リタ……謝りなさい! さすがにその態度はダメ!」
「……ちぇ……わかったよ……ごめん」
更にちゃまは為心とちくびに向かって謝罪を入れる。
「……2人とも……弟がごめん」
それに為心が答える。
「大丈夫だよ……リタの言うことも一理ある……」
リタを除いて3人は今の状況を整理するのでいっぱいだった。
そこからまた少し沈黙がつづき、そして為心が口を開く。
「ここで話しててもしょうがない。 一旦学院に戻ってギルドの結晶華のみんなと合流しよう。 それに佐藤さんのことを会長に伝えないと」
4人はシステム転移を使って移動した。