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Episode:5 常春の山地とギルド査定

 綿雪の森から離れた場所にある、常に温暖な気候にある『常春の山地』。

 その気候から数多くの種族が住み着いており、山地周辺の森には食料が豊富で綺麗な水が流れる川があるため、素材採取や経験積みを目的としたギルドや冒険者がよく訪れる場所でもある。

 そんな森にの入り口に、複数の人影があった。種族はバラバラで、重装備をしている者いれば軽装備の者もいる。全員が首に黄色のバンダナを巻いている。


「いいか、無理だけは絶対にしないように。危険はできる限り避けていくんだぞ」

「大丈夫だよノイさん!リトがいるんだもん!」

「いや、俺をあてにするなよ」


 その中に、イルナミルとリョートの姿もあった。2人も他の者達と同じように首にバンダナを巻いている。2人を不安そうに見ているのは、白に近い銀髪に青目の青年……ギルド『エスピモ』のメンバー、ノイ。


「つか、本当に金ランクギルドの査定にドラゴンの俺が出ていいのか?」

「エスピモと協力関係にあるラグナの推薦だと説明してあるから問題ない」


 そう、この場に集まった全員はこれから行われるギルドの査定を受ける参加者。黄色いバンダナは森の中での目印代わりで、布自体に術式が込められているので、参加者がどこにいるのか把握するためのもの。


「それに……」


 あまり乗り気でないリョートの姿を見て、ノイはうんうんと小さく頷く。


「今のリョートは、どこからどう見ても人間だからね」


 そう、今のリョートには翼も尾もなければ、頭に生えているはずの角もない。姿だけ見れば、少々薄着の青年と言ったところだろう。



 リョートがイルナミルと共に常春の山地を訪れることになったのは数日前の事。珍しく毎日吹雪いていた雪は静かだったため、ラグナとリョートはラグナの家とその周辺を雪かきしていた。

 そこへ、ノイが訪れた。なにか依頼の協力でもあるのだろうかと、話を聞くと


「近々、金ランクギルドの新人査定がある。場所は常春の山地で内容は山地周辺の森で採取、期間は3日間。各ギルドは新人のサポートをするために1名選出しないといけないのだが……」


 原則ギルドリーダーは選出できないため、それ以外がサポートをする。エスピモのメンバーはイルナミルを除いてノイとヴィ・レイユという女性の2人しかいないのだが、どちらもその日が納期の依頼があるため選出できる人員がいなかった。


「そこで、ラグナさんにサポートをお願いしたくて」

「すまない、俺もその期間は用事が入っていて……」

「そうか、となると……」


 ノイとラグナはリョートの方を見た。……が、本人は眉間に皺を寄せ口をへの字にしていた。


「俺はやらねえぞ。ドラゴンって知られた日には面倒なことになるし」

「完全な擬人化はできないのかい?」

「できるけど……」


 なんとかして断りたいリョートと、なんとかして受けてほしいノイ。このままではイルナミルが査定を受けられないだけではなく、エスピモの評価にもつながってしまうだろう。


「リト、俺の代わりにサポートをしてやってくれないか?」

「いやでも……」

「山地周辺の森は危険が少ないが、山へ近づくほど縄張り意識の強い種族が増えていく。リトはその辺りの境界ラインを瞬時に把握できるし、万が一の時イルを連れて逃げられる」


 俺では無理だ、と告げる。

 知識という面では十分なサポートになるだろうが、常春の山地では体力がものをいう。毛玉を出さなければ足手まといになる自分よりも、体力も十分で野生の勘に優れているリョートの方が適任だと、ラグナは説明する。


「それに、エスピモが降格して森周辺の管轄がよその得体のしれないギルドに移って困るのは……俺達だ」


 ギルドが変われば管轄方針も変わる。最悪、森を切り開こうと考える輩が出るかもしれない。


「ぬぐぐ…………わかったよ」





 こうして、エスピモの現状維持のためリョートはイルナミルとペアを組んで査定を受けることになった。

 開始30分前になると、査定官が全員にフィールドマップとリストを配り、査定内容を説明する。

 採取する物は全部で4つ。鉱石や薬草が主だが、その中には別種族の縄張り付近にあるものまである。その他、ギルドマスター直属のメンバーがマップに書かれている範囲を定期的に巡回していること、首に巻いているバンダナは査定終了まで身に着けていること、そして……


「他の参加者への攻撃、殺人行為は禁止だ。違反者はその場で失格、ギルドの査定にも大きく影響すると思え」


 一通りの説明が終わり、準備完了した参加者から森の中へ出発していく。

 イルナミルも持ち込む荷物をチェックし、採取したものを保管する容器をリョートの鞄の中へ詰めていく。


「イル、査定に響くからって無茶だけはしないようにね」

「分かってるよ!」

「リョート、イルをよろしく頼む」

「はいよ」

 ノイの心配をよそに、イルナミルとリョートは出発していった。


 常春の山地周辺の森の中は、綿雪の森に比べると簡易的な道があるので歩きやすく、巨木の根が遮ることもなく、上を向けば太陽の位置が把握できる。それなりに歩いた地点でフィールドマップを広げる。


「なあ、最初何をゲットしようとしてんの?」

「『やかましキノコ』」

「……は?」


 なんだその名前と思うが、イルナミルが見せてきたリストにも同じ名前が記載されている。


「聞いたことないぞ、そんなもの」

「正式名は『ノイジーファンガス』って言うキノコだから。実物見ると納得するよ」

「そうか?」


 名前から想像つかないようで、リョートは首を傾げる。その横で周囲を注意深く見ていくイルナミル。すると、突然甲高い叫び声が森の中に響き渡り、鳥たちが一斉に飛び立った。

あまりのうるささにリョートもイルナミルも耳を塞ぐ。


「なんだよこの声!?」

「やかましキノコの声だよ!」

「はぁ!?」


 叫び声がする方へ移動すると、そこには叫び声を直接食らった参加者とそのパートナーが倒れていて、手が延ばされた先には小さなキノコが大量に生えていた。


「もしかして、あれか?」

「そう、あれだよ」


 叫び声が止んだ頃、イルは太ももに装着しているポーチから手袋を取り出し、キノコを優しく収穫して袋に詰めた。


「やかましキノコはね、優しく収穫しないとさっきみたいに叫び声をあげるし、素手で触ると腐るデリケート食材なんだって」


 査定前、イルナミルはノイから常春の山地と周囲の森で収穫でき、査定内容に出てきそうな収穫物について学んでいた。金ランク査定で簡単な素材だけがでてくるはずがなく、素材の知識と共に適切な収穫方法と必要な道具を教えられていた。


「多分、サポートの人が言う前に引き抜こうとしたんだろうね」

「とんだ災難ってわけか」


 倒れている2人に手を合わせる。そして、やかましキノコをリョートに渡しその場を離れた。

 後に、再度やかましキノコが大声を上げ金ランクと言っても、優秀な人材ばかりが揃うわけではないのだなとリョートは思った。



 次の採取場所は洞窟の中。やかましキノコのポイントから離れた場所にあるため、洞窟近くについた時には夕方になっていた。が、その途中偶然にも狙っていたポイント以外でリストに記載された素材『お疲れ草』を発見することができた。


「また奇妙な名前……ってことは、正式名あるだろ」

「うん。『グロッキーハーブ』だよ」

「あ、聞かなくても意味わかったわ」

 

 目の前にある薬草を見れば、その呼び名の由来がすぐ理解できた。他の草花は真っ直ぐ上を向いているのに対し、『お疲れ草』だけは首が下を向いていた。


「グロッキーハーブって夕方くらいになると下を向くから面白いよね」

「名前に反して、効果は疲労回復だけどな」


 根元を傷付けないよう葉だけ採取し、リョートは密封袋に詰めていく。

 採取が終わった頃、周囲はかなり暗くなってきていた。リョートはこの辺りで野営をしようと言う。

 洞窟周辺を散策し、開けた場所でイルナミルはテントを貼った。太陽が完全に沈み、森の中は暗闇に包まれたので、慌ててランタンに明かりを灯す。


「適当に食う物探してくるから、早めに火おこししろよ」

「はーい」


 リョートは暗闇の森の中に入っていった。イルナミルはランタンを片手にたき火用の枝を集めた。空気が入るようにたき火を並べ……小声で詠唱を始め


「ファイア!」


 手の甲から小さな火の玉がうまれ、それを枝へ放つ。枝は少しずつ燃えていき、やがてたき火となった。


「やった!上手に発動できた!」


 ラグナから教わっていた火属性の魔術。練習中は上手に火の玉を作れずあっという間に消滅してしまっていたが、それが今初めて火の玉ができたので、興奮を隠しきれないままランタンを消し、笑顔でたき火を見つめている。

 たき火でお湯を沸かしていると、食材を探しに行ったリョートが戻ってきた。手には果物と捕獲したウサギが握られている。果物をイルナミルに渡すと、リョートはまた森の中へ行き、再び帰ってきた時にはウサギは綺麗に捌かれた肉になっていた。


「毛皮はダンナへの土産な」


 一口サイズに切ってから肉を焼き、綺麗にした葉の上に置く。別の葉には同じように果物を並べていく。


「まさかお肉が食べられるなんて!」

「たまたまだから、明日も食えるなんて思うなよ」


 食事ととりながら、明日の行動を話し合う。


「白魔石ってあれだろ、レア度が高い代わりに壊れやすい石」

「そうなんだ。叩くと発光するくらいしか知らないんだよね」


 洞窟で採掘できる『白魔石』は石そのものに魔力が含まれ、サイズが大きければ大きいほど高価で取引される。しかし、石自体が脆く壊れやすい。査定で高評価をとりたければより大きいサイズを狙うべきだろう。


「ピッケルみたいなのを作った方が良いかな?」

「いや、小型ナイフみたいので削るように採った方が良い」

「小型ナイフか……刃こぼれとかしないかが心配だな」

「刃こぼれするほどの強度はねえよ」

「それって、とんでもなく軟な鉱石ってこと!?」


 食事を済ませ、たき火に土をかけて消す。火を点けといた方が良いのでは?とイルナミルは言うも、火の明かりに誘われて何が来るか分からないからとリョートが寝床に選んだ木の上から言うので、イルナミルは念のため軽く水をかけた後、テントに入り眠りについた。


 翌朝、イルナミルが目を覚ますと、リョートはまだ木の上で眠っていた。土でかき消したたき火の上に枝を並べ、昨日と同じように詠唱をする。……が、不発に終わりマッチで火をつけ、お茶用のお湯を沸かしながら、軽くて腹持ちが良いとノイに渡された冒険者御用達の保存食を食べる。


「それ、美味い?」


 目を覚ましたのか、リョートが木の上で欠伸をしていた。


「ふつうかな。……食べる?」

「朝は食わないからいらねー」


 朝食を終え、身支度を整える。洞窟へ入る時に必要のない荷物は隠しておく。

 洞窟の中を覗くと、奥の方で白魔石が小さい光を発している。


「結構な数があるみたい」

「でも、発光が弱いのが多いな。大きさ指定はあるのか?」


 イルナミルはリストを確認する。白魔石のサイズまでは書かれていないようなので、持てるだけの量を確保すればいいのだろう。

 ランタンに明かりをつけ、ゆっくりと洞窟の中へと入っていく。

 内部はリョートでも余裕で歩ける高さと広さで、危険種族が住み着いていることはなかった。

 奥へ進むにつれ砕けた白魔石が転がっている。他の参加者が採掘した形跡があるが、リョートが言うに洞窟の中には誰もいないらしい。


「あ、リョート!あれなんかどうかな?」


 イルナミルが指さす方には、小さな白魔石だが他よりも強く発光しているものがあった。近づいて白魔石の状態や大きさを見ると、綺麗に採掘できれば持ち運びするに丁度良いサイズ。


「おー良いんじゃねえ。あとは上手く取り出せれば完了だな」


 リョートはイルナミルからランタンを受け取り、手元が見えるように照らす。

 ポーチから小型ナイフを取り出し、白魔石の周りを壊れないよう慎重に削っていく。聞いていた通り、白魔石は脆く、軽く当たっただけで表面がポロポロと欠けていった。ようやく削り取れた時には、見つけた時の半分くらいになってしまった。


「小さくなっちゃった……」

「欠片にならなかっただけ上出来だろ」


 採掘した白魔石を綿に包み、箱の中で動かないようしっかりと固定する。


「リト、これ絶対衝撃を与え……」


 梱包した白魔石をゆっくりと持ち上げると、リョートが手の甲でイルナミルが採掘したのより大きめの白魔石を氷の塊でコーティングしていた。


「なにそれ!?」

「前に、ダンナが白魔石欲しいって言っていたから」

「アタシより上手に彫れるならもっとアドバイスくれてもよかったのにー!」

「失敗も大切な経験ってダンナも言っていただろ」


 氷の塊を袋に詰め、洞窟から出て行った。イルナミルはその後をずるいー!と叫びながら追いかけた。



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