第66話 略奪の勇者
5話……め
チャロが床にぶつからないように星羅が抱き抱える。
そして、
「どういう事かな?」
星羅は殺気と言霊で脅しにかかる。
が、アルテナとルミニカはどこ吹く風で少しも効いてない様子。
「そんな怖い顔をしないでください。私は特に何かをしたかった訳じゃ――――」
「――――嘘をつくなよ?」
星羅はニヤッと笑いアルテナの方を見る。
すると、チャロの持つ黒い石のペンダントが光輝き悪魔のような山羊が現れる。
「さぁ、裁きの時間だ」
「な、何を!」
「簡単な事だよ。チャロに降りかかる全ての災いを跳ね返す。ただそれだけの事。何をしたのか見せてもらうよ」
それを見たルミニカの行動は早く、ポケットに入っていた笛を吹いてから、
「下がって」
それだけ言って山羊を斬りつけるが、剣は宙を舞う。
「なら」
次に狙いをつけたのはチャロではなく星羅。
「“‘阿吽銀像’”」
星羅の魔力が寄り集まって白銀の門番がルミニカの剣を止める。
その隙に山羊は動きだし手に持つ鎌でアルテナの首を狙い動き出す。
「させない!」
「逃がすと思ってる?」
星羅が足で地面をトントンッと叩くと、ルミニカの行く手を阻むように地面が変形する。
「そこまでして守るほどか? そもそもアルテナが攻撃をしてきたのが悪いのに」
「うるさい」
「チッ。
“‘魔力回廊・形成 《magia andron-formation》’”」
「な、何を!」
「何ってお前の呼んだ仲間が来たから本気を出すだけ。ね?」
星羅は魔力を細工することなく塊としてルミニカに当てる。
「グハッ」
「大軍曹もそのくらいか。さて」
星羅はルミニカが気を失っていることを確認してからアルテナに目を向ける。
「く、来るな! 私が、私が悪かったから」
「お前だろ? ここにいる人たちを昏睡させたのは」
「そ、そうだ。私だ! 私が悪かったから、元に戻すから許してくれ」
「そんなことを言っても口だけの約束だろ?」
「じゃ、じゃあどうすれば!」
悪魔な山羊の振るう鎌をギリギリの所で避けながら何とか耐えている。
「そうだな……こんな魔法があるんだ。
“‘血の命約’”」
「なんだ?」
「契約者の血を使い、裏切ったら死も同然の苦痛を受ける。ただそれだけ」
そんな星羅の後ろには7つの噐晶石が決まった形に並んでいる。
「わかった。これで、これでいいだろ?」
アルテナは戸惑う事無く掌を切り血を星羅に飛ばしてきた。
「それだけの恐怖心があれば十分だ」
そう言いながらいつの間にか手に持っていた契約書にアルテナの血をつける。
「契約内容の確認。アルテナ・ルアーは――――」
「――――そういうのはいいから早く!」
「アルテナ・ルアーは俺の言うことを聞く」
星羅が強く言い切ると契約書は赤く輝き、
「契約完了だ」
「た、助かったー」
その時には悪魔な山羊は消え失せていた。
そして、
「何事だ!」
「大丈夫か!」
ルミニカが呼んだ援軍がやっとの事で到着した。
「これは、どういう」
兵士の1人がそう漏らす。
すると、兵士の中から一際豪華な鎧に身を包んだ男が現れた。
「フム。大賢者であるセイラ殿。色々と迷惑をかけたな」
「本気でそう思うのなら、少しは殺気を抑えてくださいよ」
星羅は放たれる殺気に怯える事なく男を煽る。
それだけで終ればいいものを、
「で? これは大軍曹全体の責任と見ていいんだよね?」
ダダ漏れの魔力を隠すことなく、笑顔で威圧する。
「あまり調子に乗るなよ、小僧」
「そっちこそ、仕掛けておいてただで済むと思うなよ?」
「ま、待ってください! これは私が、私が悪いんです!」
「黙れ」「黙ってろ」
星羅と対峙する男の声が重なる。
アルテナは溢れ出る魔力の乗った殺気と言霊に当てられて腰を抜かす。
それだけではなく、契約によって声が出せなくなる。
辺りの空気はビリビリと揺れて気温がグッと下がる。
「どっちにしろ、上司が責任を取るのは当たり前の事だよな?」
「そんな責任、お前さんを殺せば済むだけの話だ」
そんな言葉と光る手。
星羅は唇を噛み切り金色の盾を作り出す。
「これで殺せないとは……本気を出す必要がありそうだな」
「安心しな……本気なんて出させないから。
ネムレ」
そんな言葉。
去れど言葉。
星羅の声を聴いた全員がその場で眠りにつく。
そして星羅はその場に膝をつく。
「ッ。この力は辛いな。けど、もう少しだけ。
“‘我、星座喰い 《constellations eater》の天城星羅が命じる。星の導きに逆らいし彼の者たちを拘束する力を。力の縛鎖’”」
星羅の魔力が具現化され、周りの人をどんどん拘束していく。
「次に、
“‘命の雫石’”」
星羅は指を軽く切り、血をチャロの口元に垂らす。
すると、幾重にも重なった魔法陣がチャロの身体を包み込み回復させていく。
「さて、アルテナは何をしようとしてたのか。後は人間関係を見るために失礼するよ」
そう言いながらアルテナの頭に手を置いて、
「“‘記憶の廻廊’”」
星羅はアルテナの記憶を覗いていく。
すると、色々な事がわかった。
まず、アルテナは『勇者』だということ。
けれど勇者の力はまだ弱いようで、星羅の『五霊呪』も効いた。
アルテナは人から能力を、存在その者を奪うことによって強くなれるということ。
そして、奪ったら返さない限り目を覚まさないということ。
「勇者が略奪だなんて物騒だな」
星羅は対峙していた男を見る。
この男は大軍曹の中で1番偉く、名をヌール・アラームトと言う。
そして、勇者に強敵たちの力を奪わせていた張本人だ。
「あれ、私は」
「やっぱりと言うべきか、先に目を覚ましたのはお前か、アルテナ。さて、命令だ。チャロとここにいる人たちに能力を返せ」
「なんで損なこと……か、体が、力が言うことを聞かない?」
「そりゃそうだ。契約……しただろ?」
次の瞬間には、チャロや宿に泊まってる強い人たちが目を覚ましていく。
「さて、大軍曹たちがこんな事をしてましたって国民や他の国に言おうと思ってるんだけど、どう思う?」
「ダメ! そんな事は絶対にダメ」
「なんで?」
「それは――――」
「――――大軍曹という国民を守る立場の人間が無垢の人から存在その者を奪ったんだ。問題はないんじゃない?」
「それは……そうだけど」
「それに、俺みたいな魔法国家ユリエーエの大賢者や、フェルミニア王国の宮廷魔法師にてを出したんだ。この事を他の賢者やファイナ国王が聞いたらどう思うかな?」
星羅はアルテナの心が崩れる言葉や人物を言っていく。