第37話 『星座喰い』の魔術師の贈り物
本日21話目!
ガガギが『苦悩の梨』と呼ばれる拷問器具を持ってチャロに1歩ずつ近づく。
星羅は苦悩の梨がどういう物かを知っている事もあり、必死に抵抗を試みるが、十字架からは中々解放されない。
それどころか、指が潰れて感覚が無くなり気持ち悪い気分になってくる。
「ッ ッ」
「クヒッ、クヒッ」
とうとうガガギは、チャロにいつでも触れられる距離まで到達した、してしまった。
口に苦悩の梨が入れられる。
そしてそれは延びに延びて体の中の臓器という臓器に行き渡る。
少しずつ、少しずつ開いていく。
開くと共に体の内側から耐えがたい苦痛が全身を襲う。
それから逃れようと自然に体が動くと、有刺鉄線によって体が、皮膚が抉られていく。
そして、その後ろには山羊のような悪魔のような者が存在する。
「?」
次の瞬間、星羅は直感で喋れるようになった事を悟る。
「“‘ギロチン 《acubens》’”」
5つの噐晶石が式句と反応して魔術が発動する。
星羅を縛る物と十字架を蟹のハサミで切断する。
「チャロ、大丈夫」
「は、はい。大丈夫です。でも何が?」
「俺があげた贈り物」
「あっ! あのペンダント……」
黒い魔晶石は粉々に壊れてしまっている。
が、ちゃんと魔術が発動した証拠だ。
「な、何をした! 体が、体が痛いぞ」
口の中に苦悩の梨を入れたのはガガギだ。
ガガギが自分自身に攻撃をした事になる。
それは何故か。
星羅の固有魔術の1つ、『屠殺者の幸運』の力。
これは霊的存在に効果を強く発揮する魔術で、精霊を魔道具に閉じ込めたり、相手と自分を入れ換えて幻影を見せたり、と。
「チャロ、あの強く光ってる星があるよね」
ガガギは十字架に磔にされて動けない状態。
だからこそ、星羅は全身全霊を持って相手を倒すために準備をする。
「それからあの星。後はアレとアレとアレとアレ。そして最後にあの星を繋げると壺に見えない?」
星羅が選んだ7の星を全て繋げると壺の形になっている。
「はい。言われてみればそう見えますが」
「だよね? 見えるよね? あれを“蠱毒の壺座”と言おう」
「蠱毒の壺? 何ですか?」
「簡単な話、蠱毒って言うのは最後に生き残った虫の事を言うんだよ。戦わせて戦わせて最後に生き残った最強の虫こそが蠱毒。そして、
“‘蠱毒の壺’”」
星羅がそう言うと、7の噐晶石が式句と反応して魔術が発動する準備が整う。
「“‘鉄の処女’”」
7個の噐晶石の内の1つが強い光を放ち魔術が発動する。
内側に棘のついたアイアンメイデンが虚無から現れて、十字架に磔にされたガガギを閉じ込める。
ツーと中から気持ち悪い色の血が流れでる。
「これが、お前の望んだかわからないが、拷問の結果だ」
魔力的にも死んだ事を確認してから、星羅は魔術を解く。
それと同時に、どっと体を疲れが襲う。
「チャロ、よかった」
「へっ」
星羅はチャロを抱き締めて安堵の言葉を漏らす。
「せ、セイラ殿?」
「あっ、ごめん。でもよかった。怪我は? 大丈夫? 治すからすぐに言ってね」
「だ、大丈夫です。体の怪我もいつの間にか治ってましたから」
「そっかぁ、よかった」
星羅は寝そべって星を見る。
咄嗟に作った魔術が成功したことの喜びと、チャロが無事だったということの喜びが重なって、テンションはおかしな方向に向いている。
「この世界の星を使えば威力は格段に違うのか」
星羅は頭の中で今後の方針をたてる。
そんな星羅の顔をチャロは覗き込んで、
「せ、セイラ。そろそろ戻らないと入学式に間に合わないよ」
「そっか。そういえばそうだったね」
星羅は体を起こしてから、魔術を発動する。
「“‘天をかける力、空を夢見る心。その願いを叶え、時を跨ぎ受け継がれる。幻獣フェンリル……リル’”」
魔力が固まっていき、1つの形を作る。
それは大きな犬。
人が3人から4人は乗れるほどだ。
このフェンリルは星羅が現世にいた時に魔力で作った生き物で、星羅の中に住み着いてるから、何処にいても、魔力で呼び出すことが出来るのだ。
「さ、触っても良いですか?」
「うん。いいよ」
――――ワフッ
リルはチャロに触られて気持ち良さそうにしている。
「リル、元気にしてたか?」
――――ワフッワフ!
「うん。わかんないけど、元気そうだな。リル、街まで連れてってほしいんだけど」
星羅がそう言うと、リルは体勢を屈めて、乗りやすくしてくれた。
星羅は未だに気を失ってるミーニャを乗せてから、チャロを乗せて最後に星羅が乗る。
「リル、ゴー!」
――――ワフフッ
リルは天を駆けて、魔法国家ユリエーエまで一直線で向かっていく。
夜風は冷たいが、星羅には目の前にチャロという温もりがある。
「好きなのかな」
「んー? 今、セイラは何かいいましたかー?」
星羅のボソッと言った独り言にチャロが反応したが星羅は、
「何でもない」
「そうですかー?」
そうこうしている内に、魔法国家ユリエーエに到着した。
「リル、ありがと」
――――ワフッ
リルは魔力を散らして消える。
星羅はミーニャをおぶって、入国手続きを済ませる。
そして冒険者ギルドに行って、
「ミーニャの事をお願いします」
「えっと、怪我が見当たらないんですが、どうしたんですか?」
「魔族に傷だらけにされていたので治しました。そのまま、起きないんです」
「わかりました」
受付嬢はミーニャを運ぶように指示を出す。
そして、
「帰って来てくれてよかったです。命あってこその冒険者ですからね」
「はい、そうですね。依頼を完了しました」
「そうなんですね……そうなんですか!」
「はい。ここだとアレなので」
「わかりました」
受付嬢に連れられて、星羅とチャロは移動する。
色々な魔物が解体される場所。
広く血の臭いがして、居心地の良い所ではない。
「“‘呑み込む者 《albari》’”」
10の噐晶石が反応して、魔術が発動する。
5mを優に越える魔族の、十二魔将の1人である『拷問』のガガギの死体を出す。
「これ、が」
「はい。十二魔将と名乗っていました」
「じゅ、十二魔将ですか! それは凄いです。まさか、勝ててしまうとは。これは一気に金だとやり過ぎと言われるので銀ランクまで上げますね」
「いや、良いです。行動しずらくなるので」
「そうですか? でも、1ランクら上げさせてもらいます」
星羅はそのくらいなら、と許可を出す。
そして、そのガガギが本当に十二魔将なのかを調べる事になった。
ブクマをぉぉぉ