第35話 噛んでしまった影響が!
本日19話目!
星羅は交渉に交渉を重ねてどうにかOKを貰った。
冒険者ギルドとしては、強い魔術師である星羅を無惨に死なせる事はしたくないのだ。
「では、くれぐれもお気を付けて。命は1番大事ですからね? 帰ってきても罰則金は発生しませんので」
「別に大丈夫ですって」
「それと……」
「ん?」
「セイラさんの前に1人だけで行った方がいまして、出来たら助けてあげてください」
「それは……わかりました」
星羅はお願いをされたら断れない……断れない性格のはず。
そのお願いを承諾してしまったからには完璧にこなす。
星羅が心配なのは、チャロを守りながら戦えるか、という事。
なので、移動しながらある事を教える。
「チャロにも魔力回廊を教えようと思ってるんだけど」
「ほ、本当ですか!」
「あのね、嬉しそうだけど、これ、人間辞めると同義だからね」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。魔力を無理矢理、循環させて、1ヶ月は眠らない事も可能になるんだよ? そんなの人間とは呼ばないでしょ」
「そ、それもそうですね」
チャロは少し悩んでから、
「それでも教えてください。足手まといにはなりたくないので」
「わかった。背中をちょっと失礼するね」
星羅はチャロの背中に手を当てて魔力を流す。
「んッッ」
「……“‘魔力回廊・形成 《magia andron-formation》’”」
星羅は何事も無かったかのように、魔力を流し続ける。
街のど真ん中で、歩きながらだった事もあるが、周りから変な目で見られているのは言うまでもない。
「“‘同調 《tuning》’”」
星羅の魔力とチャロの魔力とが1つに繋がる。
「さて、後は馴れるまで循環させれば大丈夫だよ」
「な、なんか体がポカポカします」
「チャロ。この状態でごめんね」
今は魔族を討伐しに行く途中。
という事もあり、背中を触り続けるのもアレだと思い、星羅は手を繋ぐという方法をとった。
星羅の中の魔力がチャロに流れて、チャロの中の魔力が星羅に流れる。
周りから見れば初々しいカップルかな、と思われる事、間違い無し。
魔法国家ユリエーエを出る。
そして、十二魔将の1人がいるとされているダルキマス山脈に向かう。
「セイラ殿、雪が降ってるみたいです!」
「そうだね。チャロはそろそろ馴染んだ?」
「はい。特に体の不調は感じません。むしろ良いです!」
「じゃあ、体の中を流れる魔力を一瞬止めようか」
「わかりました。フンッ」
可愛らしい掛け声で、チャロの魔力回廊は止まった。
それを確認してから手を離す……離そうとする。
が、
「チャロ?」
「あっ、ごめんなさい」
チャロは驚いた様子で手を離す。
ちょっとだけ名残惜しそうにしていたのは星羅でも気がつく。
それがどんな感情からくるものかを理解していた。
※
2日ほど休憩をとりながら歩いて、やっとの思いでダルキマス山脈の麓までやって来た。
「その、セイラ殿?」
「どうした?」
「セイラ殿は特に準備をしていない様子でしたが大丈夫何ですか?」
「うん、大丈夫だよ。収納魔道袋があるからね」
星羅がこの世界に来て作った魔道具の1つだ。
これにある程度の物が入っている。
ちなみに、これに入れる物を揃える為に国王から貰ったお金を使ってしまったのだ。
「す、凄いです。そんな魔道具は見たことありません!」
「帰ったら作ってあげるよ」
星羅は約束をした。
そしてコートを出して着る。
チャロも持ってきたコートを着る。
「よし、じゃあ行くか」
「大丈夫ですか?」
「何が?」
「えっと、ここまで3日かかりました。そして帰りも3日かかる物と考えます」
「うん」
「そうすると残りは1日です。残りの1日で魔族を倒せますか?」
「何で?」
「魔法大学の入学式です」
星羅はその存在をすっかり忘れていた。
「なら、急ぐか。
“‘魔力回廊・形成 《magia andron-formation》’”」
「“‘魔力回廊、魔力循環装置起動’”」
星羅とチャロは手を胸に当てて魔力を流す。
そして2人の魔力がどんどんと脹れ上がる。
夜の雪の中を走ること数分。
魔族は目に入るが、どれも死体。
首や手、足などが斬り落とされてる事から、
「剣士か」
「の様ですね」
歩きにくい山と雪。
それを感じさせないほど速く走る。
ここまで強い剣士なら、心配は必要ないかもしれないが、もしもを考えてしまう。
「“‘魔法陣・展開 《circulus magicae-deployment》’”」
星羅を中心として魔法陣が展開される。
そして死んだ魔族の状況や、索敵を行う。
「チャロ、魔族の体温はまだ温かいからもうそろそろ追い付くと思う」
「わかりました」
ここまで、普通に歩けば2日かかる所を1時間で来た。
月と、光輝く星々。
星羅とチャロは肉体的な疲れは一切ない。
が、チャロは馴れない魔力回廊に精神的な疲れが出始める。
「チャロ。もしアレだったら離脱してもいいんだよ?」
「いえ、ついていきます」
その答えを聞いて、星羅は少しペースをあげる。
反応があったからだ。
魔族以外の精霊に愛された者の反応が。
「ミーニャか」
そこには、傷だらけになりながらも、魔族を殺して殺して殺しまくるミーニャの姿があった。
「むっ、知り合いですか?」
「一応ね。ユリエーエまで一緒に来た冒険者の1人。
“‘2つの腕 《castor》’”」
8つの噐晶石と式句が反応して魔術が発動する。
雷で出来た2本の腕は、ミーニャに近づいていた魔族を一掃する。
「セ、イラ?」
「ミーニャ!」
星羅は、こっちに気がついて倒れたミーニャを見て駆け出す。
風を巻き起こし雪を散らせる。
「“‘療法・天雨’”」
降る雪が魔力を帯びた雨に変わり、ミーニャの体の傷を癒していく。
「おっ! 騒がしいと思って見に来たら人間が3人もいるじゃないか! クヒッ。可哀想に、私の子たちは全員やられて。クヒッ」
軍隊と言っても差し支えないほどの魔物や魔族を引き連れた1人の魔族。
見た目はヒョロヒョロで痩せこけているが、その身長が5mは優に越えてるのもあり、不気味さが増している。
「それに1人は知ってるぞ。クヒッ、クヒッ。私の子を殺したやつだな。死んだ子は何と言っていたかな……そう。魔じゅちゅ師といったか」
ユリエーエに来る途中の倒した魔族は、このヒョロヒョロの子で、更には星羅の情報が報告されていた、と。
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