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6☆LoSを知る者

誤字報告ありがとうございます!!

 ブザーのような音が鳴る。


 これは試合の始まりを予告する合図になっており、三度目のブザーが始まりを示す。


 今聞こえたのは一つ目のブザーで、残りは二つ。


「―――。」


 箒は目を閉じて、深くゆっくりと息を吐く。


 これは身体の昂った熱を追い出して、心を落ち着かせる為の箒のルーティン。

 冷静になり、視野を広く持ち、限界まで脳を冴え渡らせる。


「ちゃんと全部覚えてるよな?俺」


 二度目のブザーが響いた。


 箒は目を閉じたまま己の脳内を探り、LoSの全てのデータを思い出していく。


 キャラ、武器名、武器種、マガジン弾薬数、単発ダメージ、DPS、RPS、弾丸初速、弾丸重量、武器重量、反動強度、リコイルパターン、マズルエネルギー、フィールド、風力設定、空気抵抗、重力定数、オブジェクトの体力設定、嗅覚データ、音データ、大気振動速度、光度データ、天候設定、物理演算式――等。


「―――。完璧」


 箒はあらゆる武器、あらゆるキャラ、あらゆる状況、その全てを把握する。


 知識の確認を終えた箒は目を開き、空に流れる雲を見上げた。

 その雲すらも、箒が打ち込んだデータの一つでしかない。


 今回のフィールド設定は晴天だった。


「……ホント良い世界だ。自分で言うのはあれだが」


 自画自賛してみせる箒の表情には、僅かに微笑みが浮かんでいる。


 そして丁度そのタイミングで、まるで世界が箒に「調子に乗んな」と喝を入れるように、三度目のブザーを叩きつけた。


――試合開始。


 箒の周囲を囲んでいた透明の壁が消える。

 もう移動を拒む物はない。


「…っし、行くか」


 そう言うと、箒はスポーンエリアから飛び出した。


 今回のルール設定では、一切武器を持たない状態から試合は開始され、必要な装備を拾い集めながら敵を探すことになる。


 展開自体は一昔前に流行ったバトロワと同じであり、出来る限り強力な装備を集めた後に接敵を狙うことがこのルールのセオリーだ。


 4vs4の『クリスタルマッチ』でも、この部分に変わりはない。


「漁りはあの家からだな」


 箒は一番近い民家に走って行く。


 今回ランダムで選ばれたステージは「森林」。

 この「森林」ステージではそこらかしこに木が生い茂り、小さな民家がポツポツと点在する。


 木が切り開かれた箇所や、簡単には通れない川なども存在し、どこを戦場として選ぶかも重要となるのがこのステージの特徴だ。


 箒は民家の扉を開け、中に落ちているアイテムを確認する。


「ん、いきなりLv.2シールド。悪くない」


 そう言うと箒は部屋の中央に落ちている、青色に輝く水晶を手に取った。


 フィールドで見つけられるアイテムは大きく分けて、四種類ある。


 一つは今、箒が見つけた「シールド」。

 見た目はただの水晶なのだが、ストレージに仕舞うと全身を覆う光の膜を張り、鎧のように敵の銃撃を防いでくれる。

 Lv.1からLv.3まで存在し、それぞれ50、75、100までのダメージを弾くことが可能となる。

 またストレージにはどれか一つしか仕舞えない。


 二つ目は「武器」。

 スナイパー、サブマシンガン、アサルトライフル、ショットガン、ハンドガン、ナイフ、等など。

 それぞれ武器重量が決まっており、重さが嵩めば嵩む程に移動速度の低下を招くが、それを許容するなら二つの武器までを所持することが出来る。


 三つ目は「弾薬」。

 分類はそこまで多くはなくメインは一種類なのだが、スナイパー用、ショットガン用、ハンドガン用のみがそれぞれ別種の弾薬として扱われる。


 四つ目に「回復」。

 これはシールド用、治療用の二種がある。

 シールド用は「シールド」が失ったエネルギーを補充し、治療用は体に受けた傷を回復する。

 肉体が耐えられるダメージは100までで、それを超えるとデス扱いとなりアバターは消える。


 他にも武器アタッチメントなどのアイテムは存在するが、LoSでは取り敢えず「シールド」「武器」「弾薬」「回復」を集めれば十分に戦闘を行える仕様になっている。


 箒は「シールド」を含め、民家で見つけた武器やアイテムを一通り装備すると、次の建物に向かって歩き出した。


「漁りにはあんまり時間掛けたくねぇな……。あいつがアイテム揃える前に距離詰めたいし」


 早い段階での遭遇を望む箒だが、しかし自分のアイテムも不足しているため、真っ直ぐ突っ込む訳にもいかない。

 箒は徐々にフィールド中央に寄りながら、漁りを進めていくという戦法を選んだ。


 

☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡



「『コネクト』……ってどんなスキルだったかしら?いつも使われなすぎて、私ちょっと記憶が……」


「……た、確か空と交信する、とか宇宙と繋ぐ、みたいなキャラでした」


「あ、あ!それよそれ!空って単語で思い出したわ。パッシブスキルが弱すぎて使い物にならないのよね、あのキャラ」


 桜無先生に散々な言われようの『コネクト』だが、攻略サイトによる記述もまさにその通りで、何よりもパッシブスキルが不遇過ぎることで有名なキャラだった。


 『コネクト』のパッシブスキル、それは《空からの警告》と呼ばれる物だ。

 このスキルでは、銃口を向けられると身体に違和感を感じ、己の危機を知ることが出来る。

 その効果に限界距離はなく、例えスナイパーに1km先から狙われてもスキルは反応する。


「それだけなら良いのにねぇ……」


 ただし代わりに莫大なデメリットも存在し、それが『コネクト』が最弱と呼ばれる所以となっていた。


 それは――


「一定重量を超える武器が使えない、んですよね……」


 実質的な装備制限。


 制限重量を超える武器を所持すると、全身に激しい震えが走り、まともにエイムを合わせることすら出来なくなるのだ。


 重くて持てない、とかではなく。

 それはまるで何かに怯えるような震えで、《空からの警告》に恐怖する感覚が一番近い。


 人によっては武器を構えるまでは出来るが、震えをかき消すことだけはシステム的に絶対不可能。


 攻略サイトのコメント欄には「一体空にどんな化け物がいるんや……」とか「武器向けられてビビるのは分かるが、武器持つだけでもビビるのかお前」とか「『コネクト』さん、このゲーム向いてない」とかなんとか。


「しかもその重量制限が本当に厳しくて、スナイパー武器どころかサブマシンガンすら使えないのよ。ちゃんと使えるのは「刃物」と「ハンドガン」だけ。流石に論外だわ……」


 『コネクト』が使える「刃物」と「ハンドガン」という二つの武器種、それは開幕で持つのが精々で、終盤に持ち込むなど絶対に有り得ない弱武器だ。

 何か普通の武器を見つけたら速攻で捨てられる序盤専用武器、それが「刃物」と「ハンドガン」。


「箒くんはそんなキャラでどうやって戦うつもりなの……?まさかをLoS初めてプレイする訳じゃないわよね」


 桜無先生は大き過ぎる不安を抱えながら、アイテムを漁る箒の姿が映されたホログラムに視線を送る。


「……」


 陰雪もまた先生と同じように不安を感じているようで、複雑そうな表情でフィールドを見つめていた。


 陰雪はこの試合で、箒の言った「男も女も公平だ」という一言の重みが、どの程度なのかを見定めるつもりでいる。

 それがLoSを大して知らずに洩らしただけの言葉なのか、もしくは誰よりも深く理解しているが故の言葉なのか。


 もしもあっさりと負けるようなら――


「……それはただの、口だけ野郎」


「え?」


「いえ、なんでも……」


 声はオドオドしているにも関わらず、陰雪の態度は「え、何か?どうかしましたか?」と言わんばかり。

 あまりの堂々とした反応に、桜無先生は気のせいかしら…と忘れることにした。


 桜無先生は再び映像に目を見やる。

 今度確認するのは箒ではなく、鎧道の様子。


 しかしその鎧道の行動を見て、桜無先生は驚きに染まる。


「え、もう……っ!?」


 鎧道は既に漁りを中断し、自陣の高台から狙撃銃のスコープを覗き込んでいたのだ。

 鎧道のシールドのレベルがまだ2であることから、まだ完璧に装備が揃った訳では無いようだが、箒よりも一足先に攻撃に移っていた。


「ほ、箒さんは、……まだ、漁っています」


 陰雪の言葉の通り、箒はフィールド中央手前付近で装備を集めている。

 周囲を警戒してはいるが戦闘の構えはまるで取れておらず、鎧道の位置も全く把握出来ていない様子だ。


「しかもこのステージの中央は木が全く無いから、もし箒くんがこのまま進むと……」


「思いきり……、が、鎧道さんの射線に……入ってしまいます、よね」


 これは完全に鎧道の想定通りの展開だった。


 一対一の場合、互いにフィールド中央に向かいながら漁って進み、そのまま中央で戦闘が始まることが多い。

 そして始まるのは建物を利用し合う中距離戦だ。


 しかしこのステージの場合、フィールド中央が開けており遮蔽物が少ない為、超遠距離からも射線が通るのだ。


 そこに目を付けた鎧道は、ノコノコと中央に顔を出した箒をスナイプで撃ち抜くという戦略を選んだ。


 その思惑は成功しつつあり、箒は今にも森から顔を出そうとしていた。


「ダメ、箒くん……っ!止まって…!」


 桜無先生は祈るように呟くが、その願いは届かない。


 虚しくも箒はあっさりと森から顔を出してしまう。


 大きなホログラムに映された、鎧道の口元がニヤリと歪んだ。


 鎧道の構える武器は『Qロッド・セシリア』という狙撃銃。

 単発のダメージは90で、HS(ヘッドショット)倍率は二倍――つまり頭に弾丸が入れば180のダメージが出る。


 箒のシールドはLv.2であるため合計体力は175しかなく、『Qロッド・セシリア』のHSの一撃でアバターは沈む。

 もし頭部を逃れたとしてもシールドは貫通してしまい、死ぬほどの激痛は避けられない。


 文字通り、絶体絶命。


「―――!」


 陰雪が切迫した声を漏らす。


 鎧道はトリガーに掛けた指に力を込めて、その即死の弾丸を撃ち放った。


 響く銃声。


 LoS最強のスナイパー武器と呼ばれる『Qロッド・セシリア』が鳴らす音は凄まじく、それだけで威力の程が窺えた。


 鎧道の放った弾丸は、逸れることなく箒の頭部へと一直線に進み、二人は箒の負けを確信する。


「…………っ」


 しかし。


 試合終了の合図は流れなかった。


 不審に思った二人は、箒の姿に目を向ける。


「いや……、え?箒さん……?」


「なんで消えていないの?あの子……」


――箒はナイフを振り下ろした姿勢で、立っていた。


「……ナイフ?」


 理解できない光景に、陰雪は呆然と呟く。


 そして映像越しに見える箒は、酷く極悪な笑みを貼り付けながら――


――その口元は「見つけたぞ」と、間違いなくそう動いていた。


【コネクト】

 空との交信者、宇宙と繋がる者。空からの情報で周囲の情報を知り、ときには星をその身に宿す。


・パッシブスキル

 「《空からの警告》*銃口を向けられると違和感を感じ取る。一定重量を超える武器を持つと全身に震えが走る」


・アクティブスキル

 「《星見の言伝》*自身を中央に、半径75m以内の敵を感知する。(CT(クールタイム)30秒)」


・イクシード

 「《???》???????????」

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