5☆最弱
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箒がVR室に着くと、鎧道は既にカプセルの中で目を閉じていた。
鎧道以外にカプセルを使用している人間は一人もおらず、箒はこのVR室が自分と鎧道の貸切状態であることを理解する。
箒は鎧道の入ったカプセルに近付き、上から見下ろした。
「こいつが日本トーナメント出場ね……。普通そんなのが俺のクラスに居るとは思わねぇよ」
もう少し周りのことを気にした方が、LoSを運営する上でも都合が良いかもな、と箒は思う。
鎧道の顔をよく見ると、右の頬が腫れているのが分かる。
考えるまでもなく、箒の一撃による怪我だった。
それは箒の思っていた以上に酷い状態で、一目で殴られた箇所がハッキリする程に青く染まっていた。
割と冗談ではなく、酷い状態だった。
「いや……まぁ冷静になれば殴る必要までは無かったかもな。…………後で謝ろ」
箒は本気でキレていたし、陰雪のことを考えると殴らねば収まらぬ空気であったのは事実だが、とはいえ先に手を出したら負けという言葉もある。
想像を遥か上を行く鎧道の頬の惨劇を見て、頭が冷えた箒だった。
「…にしても、痛覚有りでLoSか。弾丸ぶち込まれる痛みって相当だよな。知らねぇけど」
箒は想像するように目を閉じる。
うんやっぱ痛そう、と箒。
「……これはせめて、一撃で殺してやらなくちゃな。ぶん殴ったお詫びにさ」
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桜無先生と陰雪は、誰もいない教室で机にうつ伏せになりながら、VRへと意識を飛ばしていた。
二人の意識の行先は、荒れ果てた近未来の世界観で彩られた大きな街。
彼女らはその隅に置かれた、金属のベンチに腰掛けて試合開始を待っていた。
箒がVR室で準備を終えるまでの、ほんの短い時間が二人に残される。
短時間とはいえ何も無い時間に耐えきれなかったのか、桜無先生は横に座る陰雪に話し掛けた。
「ねぇねぇ陰雪さん、二人はどのキャラを使うと思う?鎧道くんはきっと大会と同じで『フォートレス』を選ぶんだろうけど、箒くんが想像つかないのよね、私」
箒と鎧道には色々と言っていたが、それでもやはり試合は楽しみなのか桜無先生の声は明るげだ。
桜無先生の質問に対して陰雪は、空を見上げて考えるような仕草をしながら答える。
「……鎧道さんが『フォートレス』使い、なのは有名なので……。箒さんはそのメタを選ぶ、と思います」
「『フォートレス』のメタ?『スカンク』とか?」
「はい」
『フォートレス』が一箇所に留まり要塞を作るようなキャラであるのに比べ、『スカンク』は毒ガスをばら撒き、強引に敵を移動させるタイプのキャラだ。
特定の場所で撃ち合い続けたい『フォートレス』にとって、『スカンク』は相性最悪のキャラと言える。
「確かに『スカンク』をピックするなら、箒くんにもチャンスはあるかも。……むしろ『フォートレス』を相手にするなら、それ以外だと厳しいわね」
「はい。…『フォートレス』、強いですもんね……」
「そうねー。ホントに強いわよねあのキャラ。最近なんて必須ピックとか言われてたし」
「分かります。……マジでさっさとナーフしろよクソ運営……」
「え?」
「いえ……なんでもない、です」
聞き間違いかしら…?と桜無先生の頭上にハテナが浮かぶが、深く考える前に丁度ステージへの転移が始まったため、その思考は完成することなくこの世から消滅した。
転移によって二人の姿が街角から消え――そして同時に試合フィールドの上にある観客席に現れる。
着いたのは数十万人規模を収容できる、巨大なドームだ。
ここは箒と鎧道の為だけに用意されたワールドである為、当然ではあるが席についているアバターは彼女らを除いて一つも無い。
観客席から下を覗くと、縦1000m横700mの広大な戦場が広がっているのが分かる。
「やっぱり何度来ても壮観ね。広すぎて向かい側の観客席すらぼやけちゃうもの。なんかこう……倍率の高いスコープが欲しくなるわ」
「先生……、スナイパー?」
「そうよ。お気に入りの武器は『Qロッド』なの。……次、弱体化くるけどね」
「……ドンマイ、です」
思い出したくないことを思い出した……、と桜無先生は自滅する。
「…って、そんなこと話してる場合じゃなかったわ。もう始まるもの」
「はい。多分もう……、あ、先生」
そう言って陰雪が指を向けた先――ドームの中央には、巨大なホログラムの映像が映し出されていた。
そこにあるのは二枚の映像だ。
一枚は箒を、もう一枚は鎧道を映し出す。
それぞれが長方形型のフィールドの端に立ち、開始のタイミングを待っていた。
箒と鎧道はまだ、お互いがどのキャラをピックしたのかを判断する術はないが、桜無先生と陰雪の二人はこのタイミングで彼らの選択したキャラを知る。
このゲーム、LoSではキャラを使用することを「キャラを宿す」といい、自らのアバターの姿は変わらず、服装のみがキャラクターの物に変わるのだ。
つまり二人の服装を見たことにより、選択されたキャラが分かった。
鎧道のピックは、予想通り『フォートレス』。
そして箒の選んだキャラは――
「いや……箒くん、なんでそのキャラなのよ……」
「……?確か、あの衣装は……」
それは誰にも使われなすぎて、陰雪が即座に名前が思い出せない程の、雑魚中の雑魚。
――『コネクト』と呼ばれる、正真正銘の最弱キャラだった。
【スカンク】
特殊なマスクで顔を覆い、素顔を隠す天才科学者。強力な毒ガスを用いて強引にフィールドを制圧する。
・パッシブスキル
「《特殊マスク》*スモークやガスに隠れた敵を強調表示で視認出来る。さらに毒ガスによる効果を無効。ただし嗅覚が機能しなくなる」
・アクティブスキル
「《瘴気の素》*毒ガスを放つ小型の爆弾を放り投げる。(毒ガス…ガス範囲内のキャラに継続ダメージ。30秒間連続で吸い続けると、残り体力に関わらず即死する)」
・イクシード
「《環境汚染》*濃縮された毒液を投げ込み、その地点から半径30mのフィールドを汚染する。汚染されたフィールドでは常に毒ガスが充満し、歩く度に足元から毒ガスが吹き出す」