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3☆公平な世界

 そのままホームルームが終わり、一日が始まって、そして特に何も変わったこともなく全ての授業は終了した。


 放課後。


 クラスメイトが各々部活の準備か、帰り支度を行う中、箒もまた荷物を纏めて帰宅の準備をしていた。


 その箒の頭は既に、season 6の大型アプデで何仕込もうかなー、というLoSの内容で満たされており、周りの様子は全く見えていなかった。

 ちなみに今はseason 5が始まった直後である。


 しかし周りの見えていない箒を叩き起こすように、突如周囲が騒がしくなった。


「調子に乗んなよクソ女ァ!!」


 聞こえて来たのは、酷く荒れた男の声。

 まさに今、苛立ちが頂点に達した、とばかりの怒声だった。

 

 なんだ、喧嘩か?と周囲がざわつき始める。


 箒もまた目が覚めたように、声の方へと視線を向けた。


 するとそこでは、一人のクラスメイトの大男が、他所のクラスから来た女子に怒鳴りつけている、という様相が広げられていた。


 男の怒声に釣られてか、廊下から眺めているクラス外の人間も多く見える。


「あの男、確か前回のLoS日本トーナメントに参加してた鎧道(がいどう) (あきら)じゃね……?」


 箒はすぐ横の廊下から聞こえたその声に、反応する。

 声の主は、別のクラスの話したことも無い男だった。


 箒はその男に話し掛ける。


「日本トーナメントに出てんのか?あいつ」


「え?……あぁ、そうだよ。学校じゃ結構有名――てかお前同じクラスなのになんで知らないのさ」


「試合は見てるけど、プレイヤーの顔まで把握してねぇんだよ。興味ねぇからな」


 LoS日本トーナメント。


 それは日本のプレイヤー1200万人の頂点を決める、国全体を巻き込むほど大規模に行われた大会だ。

 

 その中でもガチ勢、と呼ばれる連中だけが参加を申し込み、それでも応募総数は10万人――2.5万チームを超えた。

 

 本来LoSのメインは4vs4の『クリスタルマッチ』にあるのだが、余りにも応募総数が多かった為、一次予選は4人1チームの1,000人同時対戦のバトロワ形式で行われることになる。

 それは広大なステージでの、不意打ち漁夫上等の圧倒的に自由なゲリラ戦だった。


 当然、運要素も含まれる。

 

 その地獄のようなバトロワの、各グループのTOP3生存チーム、つまり約300チームだけが二次予選の『クリスタルマッチ』に参加する資格を得た。


 そして二次予選では、猛者中の猛者しか居ない300チームの中の、さらに九割近くを占めるチームが振るい落とされ――


――残った、32チームだけが『日本トーナメント』の舞台に立った。


「で、何。あいつその中の一人なの?凄いじゃん」


「いやだから凄いんだって」


 見知らぬ男子生徒は箒の顔を見ながら、なんなんだよコイツとドン引いた表情を浮かべる。


 しかし二人が話す間にも、その鎧道という男の熱は収まりきることはなく、未だに吠えていた。


 その怒りの的として、男の正面で立ち竦む少女は見るからにオドオドとした雰囲気を持っており、今にも涙を零しそうな様子だ。

 鎧道の威圧に耐えきれず、少女の身体は小刻みに震え、下を俯いてしまっている。


 イジメ、と評して差し支えない光景だった。


 止めに入りたそうな人間は多くいたが、鎧道の『日本トーナメント出場』という経歴に気圧されてか、足を踏み出せる者は一人も居ない。


 これはLoSが流行りすぎたせいで、スクールカーストに「LoSの実力」の要素が入ってしまった悪い例だ。

 事実、それだけの実力があれば既に賞金で数百万円は稼いでいるだろうと推測され、一高校生には大きすぎる影響力として存在していた。


 つまりこの後も誰も助けに入らないことは、容易に想像が出来た。


「まぁどうでもいいけどな」


 箒は鞄に纏めた荷物を手に取ると、廊下に向かって歩き出した。


「か、帰るの?」


「あ?別に俺が居たって何も変わらねぇし」


「そう、かもだけど……」


 箒は見知らぬ初対面の男に、引き止めるように声を掛けられるが、気にも止めずに既に開かれた扉に触れる。


 そしてふぁあと欠伸をしながら、教室の外へと足を踏み出した。

 その箒の表情に、後ろ髪を引かれるような色は一切なく、それに気付いた初対面の男は、悲しそうに口角を下げた。


 しかし結果から言うと、箒はこのまま帰らない。


 去り際、箒にまで聞こえた鎧道の一言―――


「女がやるようなゲームじゃねぇんだよ、LoSはよ!!!」


―――それだけは、聞き捨てならなかった。


「……今なんつったお前?」


 箒が、振り返る。


 シンっと全ての音が消えた。


 元々、鎧道の声だけが響いていた教室で、その鎧道が言葉を止めれば静寂が満ちるのは当然。


 その静かな教室で、唯一聞こえて来るのは、箒の足音だけだった。


 コッコッと響く音は鎧道に近付いていき、そして箒は鎧道を見上げるように、目の前で立ち止まった。

 全員の視線が、箒に集まる。


「お前らが何の話してたかなんて知らねぇ。そもそもどうでもいいし興味もねぇ。ただお前最後なんて言った?」


「?」


「最後だよ最後。LoSがどうとか偉そうに語ってよな?」


「…………。LoSは、女がやるようなゲームじゃないと言った」


 箒は身体に篭る怒りを逃すように、大きく息を吐く。


「――それだそれ。LoSは女のやるゲームじゃない。それ誰が言ってた?運営か?LoSの運営が男向けゲームだっつってたんか?」


「いや。……だが、これは事実だ。世界大会のステージに立つ者は――


 鎧道のセリフに被せるように、箒の身体が跳ねた。


「黙れ。死ね」


 そして全力で振りかぶられた箒の拳が、鎧道の頬に深く突き刺さった。


 鎧道の身体が倒れ込む。


 箒は、床に尻をついた鎧道を見下ろすようにして、言葉を続ける。


「LoSを、男共の為だけに作った覚えはねぇ。このゲームじゃ男と女は完全に公平だ。いや、性別だけじゃない、全部だ。例え現実で腕や脚がなかろうが、LoSじゃ全員同じステージなんだよ。俺がそう作ったんだ。――たかが『日本トップクラス』風情が、偉そうにLoSを語るな」


 言い切った箒の語尾は熱く、殴っても沈まりきらぬ怒りに燃えていた。


 だが、それは不意に殴られた鎧道もまた同じ。


「何、言ってんだか知らねぇけど……、テメェ人のことぶん殴っといて、タダで済むと思ってんじゃねぇだろうなぁ!!!」


 頬の痛みに怒りを高ぶらせながら、鎧道は立ち上がり叫ぶ。

 鎧道の馬鹿でかい拳が、箒の顔面に迫ろうとして――


「やめなさい!!!」


――不意に、切り裂くような女性の声が響いた。


 桜無先生の声だった。


「……貴方たち、何をしているの?現実で殴り合いなんて、いつの時代の人間よ。どうしてもやりたければ、痛覚をオンにして仮想現実でやりなさい」


 流石に教師の前で殴り掛かる気はなかったのか、鎧道は拳を下ろす。


 しかしその顔はニヤつき、悪意に染め上げられていた。


「そうだなぁ、確かにそうだ。やろうぜ、仮想現実で。痛覚マックスで銃撃戦だ。勿論LoSで良いよな?ルールはデスマッチだ」


「銃撃……、って鎧道くん、ダメに決まっているでしょう!そんなの後遺症が残る可能性が……っ」


「いいよ、それで。お前の大好きなLoSでやってやるよ。リアルじゃ百倍体力の少ねぇ俺がお前をボコせば、多少はその腐った思考回路もマシになんだろ」


「星屑くんまで……!」


 二人が了承した以上、仮想現実での出来事には教師であっても口出しは出来ない。


 それがこの世界のルールだった。


「……な、ならせめて私が立ち会います。やり過ぎたら、リアルから二人のVRカプセルの電源を切り落とすから覚悟しておきなさい」


(きゅう)先生、それ犯罪だけど……」


「知りません」


 むすっとした態度で、桜無先生は生徒の為なら犯罪など構うものかと宣言する。


 そして二人の、仮想の殺し合いが行われることが決定した。


「え、…わた、私は……?」


 そんな中、すっかり蚊帳の外に追い出された、紫色の髪の少女が一人いた。


【ゴースト】

 既に死した者の亡霊。その在り方は曖昧で、全てを透過する肉体を持つ。

 戦闘においては生存力が非常に高く、敵陣に突撃した後に逃げ帰ることも可能。


・パッシブスキル

 「《仮想の肉体》*被弾によるノックバックを受けない。また被弾した弾薬は貫通する」


・アクティブスキル

 「《幽体化》*3秒間無敵状態で移動可能。その間攻撃不可」


・イクシード

 「《浮遊》*15秒間、自由に空を飛ぶことが可能」

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