2☆流行は果てしなく
LoS唯一の運営者である少年――星屑 箒は、いつものように学校へ向かっていた。
箒は基本的に学校を休むことはせず、毎日登校を続ける優良生徒の一人だ。
しかし彼は毎日のように、俺は学校に来る意味があるのだろうか、と自問自答していた。
箒は既に、高校履修内容は勿論、大学での学業内容も殆どを修め、更にはゲーム製作に関わる分野であれば、専門職の人間を遥かに凌駕する知識を蓄えている。
高校に通う時間などあれば、ゲームの運営に手を掛けた方が賢い、とは誰もが思うことであり、箒もまた理解してはいた。
だがそれでも、彼が学校生活との両立を行うのには理由があった。
「流石に勿体ねぇもんなぁ……。貴重なレビュアー捨てんのは」
それは箒にとって、学校はLoSの評判を調べる情報源の一つとなっている為だ。
廊下を歩けば、そこら中からプレイの感想が聞こえて来る。
ある意味では最高効率の情報収集。
画面を介さない生の声は、LoSのゲームバランス調整の重要なファクターになり得ていた。
箒は扉を開け、教室に入る。
途端に、大量のLoSの会話が箒の耳に届いた。
「次のアプデ情報見た?信じらんねぇ、『Qロッド』弱体化だってさ。マジでシンドい、俺のメイン武器……」
「いや、ゆーてアレは強すぎた説はあるよ。あんな遠距離からガンガンHP削られたら、回復もたないもん」
「まぁなー……。正直強いから使ってたってのはマジだし。発射レート低下がどのくらいになるかによるけど、ワンチャンメイン武器変えるかな」
早速聞こえて来るのは、昨日の夜に公開した次回の更新情報について。
基本的に誰もが納得している様子を見るに、適正な調整だったようだ、と箒は思う。
「―――」
周囲に耳を傾けながら、箒は席へ歩いていく。
今回のアプデではキャラ性能も少し弄った筈だが、聞こえて来る声は『Qロッド・セシリア』というスナイパー武器の話題ばかりだった。
つまりは、この通称『Qロッド』を使っているプレイヤーが相当多かった、ということなのだろう。
そして箒が席につくと同時に、予鈴が鳴る。
同時に話し声が収まり、代わりに皆が席につく音が響いた。
それから少しすると、このクラスの教師が教室に入って来る。
「はい、皆ー……。おはよー」
まだ若く、新人のように思われる女性教師だ。
名前は楼無 久。
優しそうな瞳を持つ、大人らしい雰囲気の女性である。
桜無先生のアダルトな魅力に惚れた!などと抜かす男子学生が数知れず撃沈する程に、その肌は白く顔立ちも整っているのだが、それを打ち消すように彼女の表情は暗く浮かばない様子だった。
「せ、先生?どうしたんですか?」
前列に座る女子生徒が、不安げに問う。
桜無先生は沈んだ顔を持ち上げると、その女子生徒に顔を合わせて口を開いた。
「だってぇ……。『Qロッド』のナーフよ……?まだ信じられないわ……、私あの武器お気に入りだったのに……」
「いやLoSの話かい」
その女子生徒はツッコミを入れるように、言葉を返す。
「ち、違うの!そこらの強武器厨と一緒にしないで!私はね、リリース当初からずっと『Qロッド』一筋で頑張ってきたの……っ!!そして前々回のアプデから、やっと私の時代が来たーって喜んでたのに……。こ、こんなことってないわよもう死にたいぃぃ……」
桜無先生は肘を机に立てて頭を抱える。
ちなみに彼女の言葉は、例の『Qロッド』を使っていた強武器厨の男子生徒を深く傷つけ、また箒を「……死にたいぃぃって、これで本当に死なれた場合は俺は自殺教唆罪になんのか……?」と不安させていた。
「まぁこんなこと、みんなに言っても仕方ないもんね……。さっさと朝のホームルーム始めましょうか」
桜無先生はそう言うと、姿勢を正して黒板に向かった。
その様子を見ながら、箒はぼそりと呟く。
「別に『言っても仕方ない』――ってことはないけどな」
だがその声は、誰にも聞こえなかった。
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