1☆運営の正体
仮想現実を作り出すゲームが世に出回ってから、既に十年が経った。
己の身体を操るように冒険を――、という謳い文句で始まったVRゲーム。
発売当初はその特異性で一世を風靡したものの、今ではもう当たり前の技術として存在していた。
ゲームといえばVRという認識が定着し、コントローラーやマウスといった単語は、とうの昔に死語として扱われるようになった。
そんな現在、世界中で流行っている一つのゲームがある。
それは、かつてFPSと呼ばれていたリアル戦争志向のゲームをモチーフに、SF要素を混ぜ込んで生まれた超大作。
当然VR技術は存分に盛り込まれ、殺し殺されは自身に降り掛かるように作られる。
――その名も、Law of Stars。通称LoS。
「星の法条」と銘打たれた、銃撃戦主体の殺し合いゲームだ。
対戦モードは多岐に渡り、バトロワ、デスマッチなど様々あるが、その中でも特に主流とされるのが「クリスタルマッチ」と呼ばれるもの。
四人vs四人で互いに銃撃戦を繰り返し、敵を押し込んで敵陣のクリスタルを破壊するか、もしくは敵を全滅させるかの二つだけが勝利条件の、単純なルール。
その分かりやすいルール、戦闘の派手さ、そして奥深い戦略性が反響を呼び、既に世界大会が開かれるほどの規模になっている。
前大会の総賞金額が210億円、優勝チームには32億円渡された、といえばLoSが如何に世界に浸透しているか伝わるか。
しかしそこまで流行しているLoSの一番の特徴は、ゲーム自体ではない。
最大の特徴、それは「運営が不明」であること。
LoSのクオリティは尋常ではなく、数百人規模が稼働し続けなければ立ち行かない、と推測されているのだが、制作陣の正体が誰一人として分からないのだ。
五億を超えるプレイヤー達が、こぞってSNSを探りネットの海を駆けたにも関わらず、何一つとして情報が現れなかった。
誰が、何処で運営をしているのかを、誰も知らない。
唯一分かるのは、ゲーム開始時に映る「SlagStar」という運営名だけだった。
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暗闇に染まる部屋の中、一人の少年が空中に浮かぶ映像――ホログラムを見つめる。
「んー……、次のアプデは『Qロッド』の弱体化がメインで……。あとキャラバランスを少し弄る感じだな」
その画面に映るのは、Twitterと呼ばれるSNSサイトのウィンドウと、キャラ毎の使用率や勝率が纏められたデータの数々。
見ればTwitterの検索欄には「Law of Stars」と打ち込まれていた。
「他は特に苦情も入ってねーし、問題ないだろ」
少年はTwitterの画面をスクロールし、書き込まれたコメントを眺めていく。
しかしその中で、一つの呟きが目に入った。
「あ?……『フォートレスが強すぎ勝てるわけねーだろ。はよナーフしろやクソ運営』……――んだとコラ。どうせテメェが下手すぎるだけだろボケが」
少年は舌打ちと共に苛立つ。
何故運営に対しての暴言に腹を立てるのか、という疑問への答えは至極明解。
それは、暴言に対して露骨に怒りを現したこの少年の正体こそが――
――LoS、唯一の運営者だからだ。
運営は大勢のチームだ、と考えているからこそ彼の正体に誰も気付かない。
高校生が作るレベルのゲームじゃないからこそ、誰も信じない。
その天才的な頭脳とセンスで、たった一人でゲームを回しているというのが、このLoS運営の謎の真相だった。
少年は頭を掻きながら、不機嫌そうな顔を浮かべる。
「あーくそ、『フォートレス』ねぇ……。めんどくせぇ、一応チェックだけはしとくか……」
そして少年は、馬鹿真面目だった。
【フォートレス】(使用可能キャラ)
自身の高い防御力と、固定の位置に壁や武器を設置する能力で、擬似的に「要塞」を作り上げるキャラクター。味方を守る壁として活躍し、個としての火力も十分に持つ。
・パッシブスキル
「《要塞》*全被ダメージが20%減少」
・アクティブスキル
「《ドームシールド》*30秒間、ドーム型のシールドを展開する。敵味方の攻撃を完全に遮断する」
・イクシード(必殺技)
「《固定砲台》*固定型の強力な重機関銃を設置する」