アルマーク
飯炊き女たちが忙しく立ち働くその傍らに、その子はぼんやりと座っていた。
焚き火の炎が彼の顔を赤く照らしている。
アルマーク、とレイズが声をかけると、彼は顔を挙げた。
思いがけず利発そうな顔立ちであった。
だが弱々しい目の光が彼の気の弱さを物語っていた。
父の姿を認め、少年は嬉しそうに駆け寄ってきた。
だが、父の隣にいるのが見知らぬ老人であることに気付くとびくりと足を止めた。
「大丈夫だ、アルマーク。このおじちゃんはいい人だ」
レイズが言ったが、アルマークは父に駆け寄るとその影にさっと隠れてしまった。
「人見知りするんだ」
レイズはそう言ってため息をついた。
「全く情けねぇ」
「いえ、とても利発そうな顔立ちだ。警戒心が強いのもその賢さゆえでしょう」
ヨーログは言いながらアルマークに近付き、どれ、と言って腰を屈めた。
アルマークはレイズの脚にしがみついて出てこようとしなかったがレイズが無理矢理引きずり出した。
その頭にヨーログがそっと左手を伸ばす。
アルマークがびくりと震え、今にも泣きそうな顔になった。
怖くねぇぞアルマーク、とレイズが怒鳴る。
アルマークの頭にヨーログの手が触れたその瞬間、パチッと電流のようなものが走った。
ヨーログは不意をつかれたような顔をして慌てて手を引っ込めた。
「どうしたんだ」
レイズが尋ねた。
ヨーログは目を丸くして、アルマークの顔をまじまじと見た。
「……驚きましたな」
ヨーログは手をさすりながら、この少年が信じられないほどの魔法の才能を秘めていることを父親に伝えた。
「私も多くの才能ある子供を見てきましたが……これほどの可能性を秘めた子供に出会ったのは初めてです」
「ほんとうかよ」
レイズは素直に喜んだ。
魔法の才能とやらがどんなものかは彼にはわからなかった。
しかしとにかく、息子はこの老人に認められたのだ。
「おそらく剣の才能もあるでしょう。きっと傭兵としても立派に成長しますよ」
「剣の才能なんて大したことじゃねえんだ」
レイズは即答した。
「傭兵には誰にも頼らねえで生きていける心の強さが必要なんだ。強いか弱いかなんて二の次さ。こいつには多分それがねえ」
「……そういうことでしたら」
ヨーログは学院の詳しい行き方をレイズに教えた。
「この子が9歳になったら学院に連れてきてください。必ず超一流の魔術師にしてみせましょう」
「ああ、分かった。必ず連れていくよ。……よかったな、アルマーク」
レイズは息子を抱き締めた。
アルマークは何も分からず、ただ汗くさい父に抱かれていた。
ヨーログはその後国境まで一緒に旅したあと、何度も頭を下げて去っていった。