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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第十四章

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合流

 二人で連れ立って医務室を出たところで、ちょうど様子を見に来たセリアと出くわした。

「あら、目が覚めたのね」

「はい」

 ウェンディは頭を下げる。

「先生、ご心配をおかけしました」

「いいのよ。よかったわ」

 そう言ってセリアはウェンディの顔を見る。

「少し赤みも戻ってきたわね。劇には出るの?」

「はい」

 ウェンディは元気に返事をする。

「そう」

 セリアは頷くと薬湯の小瓶を二つ取り出して、ウェンディとアルマークに一本ずつ手渡す。

「劇の演出で魔法も使うのでしょう。これを飲んでおきなさい」

 アルマークは一瞬、武術大会で自分が飲まされたのと同じあれかと疑ったが、どうやら違うようだ。

 瓶の中で透明な青い液体が揺れている。

 セリアは、二人が両手に抱えている食べ物を見て、くすりと笑う。

「たくさん食べるのね」

「え、あ、これは」

 ウェンディが顔を赤くする。

「モーゲンが持ってきてくれたんです」

 アルマークが代わりに答える。

「そう。しっかりと食べるのはいいことよ。食は生命の基本。モーゲンはそれをよく分かっているわ」

 セリアは微笑んで頷く。

「先生も一本いかがですか」

 アルマークが串を差し出すと、セリアは、あら、と目を見張る。

「いいの? それじゃあこれをもらおうかしら」

 嬉しそうに野菜の肉詰めの串を受け取るセリアに頭を下げて、二人は校舎を出た。

 校舎裏の水場で顔を洗って身なりを整えると、モーゲンの持ってきてくれた露店の食べ物をつまんで食事を取った。

 ウェンディはまだそんなに食欲が湧かないようで、冷めた豆のスープを半分くらい飲むと、あとは薬湯の小瓶を手の中で揺らしながらアルマークが食べるのを見ていた。

 アルマークも、相変わらずの速さである程度まで食べると、残りを包み紙に包み直す。

「それじゃあ、飲もうか」

「うん」

 二人で同時に瓶の蓋を開け、一息に薬湯を呷る。

 薬湯は、海の深い場所の水のような不思議な味がした。

 アルマークがウェンディを見ると、ウェンディも意外そうな顔で頷いた。

「これ、意外と飲めるね」

「それならよかった」

 アルマークは頷く。

「僕には薬湯とは思えなかった。ただの水みたいで」

「私は水とまでは言えないけど。でも今まで飲んだどの薬湯よりも飲みやすかった」

 ウェンディは不思議そうに空になった小瓶を見る。

「もちろん美味しいわけじゃないんだけど」

「そこはまあ仕方ないね」

 二人はその足で講堂に向かう。

 もう昼前だ。

 午前中の1、2年生の出し物はもう終わってしまうかもしれない。

 歩きながら、ふとウェンディがアルマークを振り返った。

「ありがとう、アルマーク」

「え?」

「昨日からずっと傍にいてくれたんでしょ。私、眠っていたけど、なんとなくアルマークがいてくれるのを感じてた」

「うん。心配だったんだ」

 アルマークは頷く。

「だから、帰りなさいって言われたんだけど君の傍に残ってしまった」

「なんだか安心感があったよ。一人じゃないっていう」

 ウェンディはそう言って微笑んだあとで、少し不思議そうに尋ねた。

「でも、そんなに心配だったの? セリア先生が私はもう大丈夫って言ってくれたんでしょ?」

 アルマークはどう答えていいか迷う。

「うん、心配したのはそっちじゃなくて。あ、いや、もちろん君の体調も心配だったけど」

 アルマークは慌てて手を振る。

「君が目を覚ましたとき、誰もいなかったら寂しいかもしれないって、それが一番心配だった」

 ウェンディは驚いた顔をして、それから嬉しそうな、辛そうな、複雑な表情をした。

「ありがとう」

 講堂は校舎のすぐ脇だ。そんなことを話しているうちに、すぐに二人は講堂の入口の大扉にたどり着いた。

「そういえば」

 アルマークはふと、あらたまった顔でウェンディを見た。

 ウェンディがどきり、と足を止める。

「僕たち、まだちゃんと」

 話をしていなかったね、という言葉をアルマークは言いかけて飲み込んだ。

 内側から大扉が開け放たれ、観客がどっと外に溢れ出してきたからだ。

 午前中の部が終わってしまった。

「大変」

 ウェンディが口に手を当てる。

「早くみんなのところに行かないと」

 そう言って、通路の端を人の流れに逆らって中に入っていく。

 結局、言えずじまいになってしまった。

 仕方ない。

 アルマークもそれに続いた。



「アルマーク、ウェンディ! 来たのか!」

 二人を真っ先に見つけたのは、やはりネルソンだった。

 舞台裏にクラス全員が集まって、台本を片手に演出の確認をしていたところだったようだ。

「大丈夫かよ」

 ネルソンの大声に、全員が二人を振り向く。

「心配かけてごめん」

 アルマークが言い、それに続いてウェンディも頭を下げる。

「みんな、ごめんなさい。二人とも劇には出られるわ」

「よし」

 みんなの中心にいたウォリスが、音を立てて台本を閉じた。

「みんな、さっきまでの僕の話は忘れてくれ。本番はもともとの練習どおりでいく」

 わっと歓声が上がった。

 トルクは舌打ちして台本をその辺に投げ捨てて離れていったが、それ以外の仲間たちは笑顔で二人のもとに駆け寄ってきた。

「ウェンディ、本当に大丈夫なの?」

 ノリシュとリルティに心配そうに声をかけられ、ウェンディは申し訳なさそうに頷く。

「うん。みんな、本当にごめんね」

「アルマーク、あまり寝てないみたいな顔だね」

 察しのいいレイドーがアルマークの顔色を見て眉をひそめる。

「本番までもう少し休んでいたらどうだい」

「いや」

 アルマークは首を振る。

「ありがとう、レイドー。でも大丈夫。問題ないよ、ちゃんとやる」

「じゃあ二人とも出るってことで間違いないんだな」

 ネルソンが念を押す。

「ああ」

 アルマークが頷くと、ネルソンは嬉しそうに笑った。

「よし。やっぱり全員揃わなきゃダメだよな。だって俺達のクラスの劇は全員でやるって決めてたんだからよ」

 その笑顔を見て、アルマークはもう余計なことを考えるのはやめた。

 余計なことなら昨日一晩、さんざん考えた。

 今は、目の前の劇に集中しよう。

 ウェンディを見ると、ウェンディも同じことを思っていたようだ。

 アルマークの目を見て、笑顔で小さく頷いた。





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― 新着の感想 ―
[一言] さあ、本番だ。 なんだかいい芝居になりそうですね。
[一言] 頑張れよ アルマーク!
[気になる点] ここに来てぶっつけ本番かあ。 練習の時の様に長くなってしまわないかが心配だが、余計なことを考えない分素直な演技になるのを期待。
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