努力
ザップとフィタが苦しそうに薬湯を飲み干すと、アルマークたちは拍手をしてその努力を讃えた。
「すごいよ。よく飲めたね」
モーゲンがザップの肩を叩くと、ザップは腹を押さえて「うぐ」とうめく。
「モーゲン、今は触らないでよ」
「ああ、ごめんごめん」
モーゲンは慌てて謝る。
「フィタも頑張ったね」
ウェンディに誉められ、フィタは涙目で頷く。
何か答えようとしたが、口を押さえてやめた。
「さあ次は僕たちの番だね」
モーゲンがウェンディに薬湯を渡す。
「うん。フィタたちも頑張ったんだから、私たちもしっかり飲まないとね」
「え? あ、まだ飲まないほうがよかったかい」
アルマークの言葉に、ウェンディは首を振る。
「アルマークはさっき二杯飲んだでしょ。見てたから大丈夫よ」
「そうか。すまない、少し喉が渇いていたから」
「いいのよ。本当に水がわりに飲むのね」
アルマークは、ウェンディとモーゲンが薬湯を飲み干すのを黙って見守った。
二人ともさすがに下級生の手前、この前のように無様な声は出さなかった。
「うん、飲めた」
「飲んだね」
そう言って二人で頷く。
「これで、実習は本当に終わり」
言いながら、ウェンディが小瓶に薬湯の残りを注いだ。
「じゃあこれをラドマールに渡してもらえる?」
「うん」
フィタが頷いてそれを大事そうに受け取る。
薬湯を瓶越しにじっと見て、フィタは言った。
「色々あったけど、私、このグループでよかった」
ザップもそれに頷く。
「うん、僕も。きっとラドマールもそう思ってるよ」
「ありがとう。僕も君たちと一緒でよかったよ」
アルマークは感謝を込めてそう答えた。
ザップたちの勇気に、たくさんのことを気づかせてもらえた。
「二人もそう思うだろ」
ウェンディとモーゲンを振り返ると、二人も笑顔で頷く。
「ええ。また一緒に森に行きましょうね」
「今度は昼間に、ゆっくりね」
二人の言葉にフィタとザップは、はにかみながら嬉しそうに頷いた。
「アルマーク」
実習で使った道具の片付けをしていると、アルマークはレイラに呼び止められた。
「やあ、レイラ」
アルマークは振り向いて微笑む。
「声をかけられなかったから、てっきり薬湯作りは失敗したのかと思っていた」
「成功したと胸を張って言えるわけではないけど」
レイラは言いながら、手に持った小瓶をアルマークの目の前で振って見せた。
「うまく鍋全体に魔力が行き渡らなくて。良さそうなところだけ瓶に詰めて残りは捨てたの」
「なるほど」
アルマークは瓶を受け取って、同じように振ってみる。
「全然中身が揺れないな」
「粘性が強く出たのよね」
レイラは顔をしかめた。
「イッセンビカリグサに魔力を通すと粘性が出るのは知っていたんだけど。予想以上に出ちゃった感じなの。魔力の入れ方が強すぎたのかしら」
「それは僕には分からないけど……これはもう薬湯というか、薬塊?」
「飲んでくれる?」
レイラが少し自信なさげにアルマークを見る。
「飲む、という表現が当てはまるかは分からないけど」
アルマークは頷いた。
「君がせっかく作ってくれたんだ。飲むよ」
「ありがとう」
レイラはわずかに口許を緩める。
「飲んでもらえば、きっと効果はあると思うの」
「効果、か」
アルマークは思い出した。
「そういえば、それを聞いてなかったな。この薬湯、どんな効果があるんだい」
「闇への耐性」
レイラは答えた。
「闇への?」
「ええ」
頷いて、真剣な目でアルマークを見る。
「あなた、今回もだいぶ危ない目に遭ったって聞いたわよ。きっと森にあんなに魔物が出たのもあなたの例の呪いが関係してるんでしょう」
「ああ、うん」
アルマークは頷く。
「そのせいでみんなには迷惑をかけたと思っている」
「そんなことはいいのよ。別にあなたのせいじゃないし、むしろみんな喜んでたわよ。スリルがあったって」
レイラは淡々と言う。
「でも夜の森や泉の洞穴であったようなことが、まだこれからもあなたの身に起きるのなら、きっと飲んでおいた方がいいと思うの」
レイラはそう言ってアルマークの手の中の瓶を見る。
「闇に対抗する力を養う薬湯よ」
「そんなものがあるんだね」
アルマークは意外な効果に目を瞬かせる。
「僕のために。ありがとう」
「別に」
レイラは照れたように横を向く。
「私もあなたの話を聞いてしまったから。一緒に闇とも戦ってるし、もう他人事とも思えない」
「それでわざわざ作ってくれたのかい」
「わざわざ、ではないわ」
レイラが律儀に訂正する。
「さっきも言ったけど、前から作ってみたいと思っていたの。それで今日は材料が揃ったから」
「ああ、そうだったね」
アルマークは頷く。
「さっきそう言っていたね」
そう言いながら瓶の蓋を開ける。
「ありがたくいただくよ」
そう言うと、中の泥のようなものを、息を止めて一気に飲み込んだ。
味云々よりも、その粘性で喉が詰まって窒息しそうになり、アルマークは「ぐっ」とうめく。
「やっぱり水がいるわね」
レイラはいつの間にか水の入ったコップを持っていた。
「これで飲み下して」
声を出せず、こくこくと頷いて、アルマークは受け取った水を呷った。
泉の洞穴で扉に擬態していた例の魔物のような、ぶよぶよとした触感のものが喉をずるずると滑り落ちていく。
アルマークは飲み込んだあともしばらく胸をさすり、それからようやく息を吐いた。
「飲めたよ。ありがとう」
味はともかく、今までで最も飲みづらい薬湯だった。
「やっぱり飲みづらそうね」
レイラは悪びれるでもなく、そう言った。
「まだ材料の薬草はあるから、今度はもう少し飲みやすくなるように作るわ」
「えっ、また作ってくれるのかい」
「ええ」
レイラは頷く。
「だって、薬湯は継続して飲まないと効果が出ないでしょ」
「それはそうだけど」
「私もまだ練習したいし」
レイラは微笑んだ。
「それに、自分の作ったものを人に飲んでもらえるのって、なんだか悪い気がしないわ」
「そうか」
頷くアルマークに、レイラは残念そうな、それでいて少し嬉しそうな、複雑な表情で付け加える。
「あれじゃあやっぱり、あなたにしか飲めなそうだしね」
確かに、これは僕以外には飲めないだろうな。
そう思いながら、アルマークは頷いた。
「そうかもしれない。でも、わざわざ僕のために作ってくれるのは嬉しいよ」
「だから、別にあなたのためじゃないって言ってるでしょう。ただ、飲めるのがあなたしかいないだけ」
レイラはもう一度律儀にそう訂正した。




