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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第十三章

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アンチュウマソウ

 休日が明けると、実習で採集した薬草を使って薬湯を作る作業が始まった。

 実習のグループに分かれ、治癒術教師のセリアの指示に従って、薬草を刻み、煮詰めていく。

「イリビノタルホグサは穂に注意が行きがちなんだけど、根本近くの薬効も強いから捨てちゃダメだよ」

 そう説明しながら、ウェンディがナイフで薬草を下処理していく。

 ウェンディの手際のよさに、フィタが尊敬の眼差しを向ける。

「すごい。私もウェンディみたいになりたい」

「ありがとう」

 ウェンディが微笑む。

「でもきっと1年生の時の私を見たら、がっかりすると思う」

「1年生のとき苦手だったからこそ、すごいんだよ」

 アルマークがナイフを器用に操りながら、穏やかに補足する。

「この学院に来てからの君の努力の結晶だ」

「それならアルマークの灯の術も一緒だね」

 ウェンディに言われて、アルマークは誇らしげに笑う。

「そうさ。あの小さな炎に僕の努力が詰まってるんだよ」

 笑い合う二人をフィタが羨ましそうに見る。

「二人はなんだかすごく大人みたい」

「え?」

「そうかな」

 二人を見て、フィタが頷く。

「私も来年、下級生にそう思われるように頑張るんだ」

 フィタの言葉に、アルマークとウェンディは顔を見合わせて笑う。

「モーゲン、それはいけません」

 珍しくセリアの厳しい声がして、アルマークたちは手を止めて振り返った。

 後ろの鍋で、モーゲンがセリアにたしなめられている。

「勝手に調味料を入れてはいけないわ。薬効が変わってしまう」

「少しでも飲みやすくしようと思ったんですけど」

 モーゲンが頭をかく。

「ほら、やっぱり怒られるって言ったじゃないか」

 隣にいたザップが呆れたようにモーゲンを見る。

「薬湯はスープではないのよ」

 セリアは整った眉をひそめる。

「調味料の成分が薬草に作用することで、薬にも毒にもなってしまうの」

「はい。すみません」

 モーゲンがしょんぼりと謝る。

「モーゲンったら、一昨日飲まされた薬湯の味がよっぽど衝撃的だったのね」

 ウェンディがアルマークにそっと囁く。

「薬湯をおいしくしようとしてるのか。でも飲みやすくしてもらえれば助かるけどね」

「うーん。繊細な薬湯ほど苦くて不味いって言うし」

 ウェンディは首をかしげる。

「繊細なだけに、少しでもほかの成分が入ってしまうと効果も変わってしまうんだろうね」

「不味い薬湯ほど、味は変えられないのか。なかなかうまくいかないものだね」

 アルマークは苦笑した。

 今日の実習には、ラドマールは来ていない。

 闇を体内に取り込んだことについて、昨日から引き続き、治療と聞き取りの調査をされているのだという。

 フィタは、ところどころで手を止めて、一生懸命作り方をメモしている。

「フィタ、あなたたちは来年また作るから」

 ウェンディが言う。

「その時に授業もあるし、そこで覚えれば大丈夫だよ。2年生の時はおおまかな作り方のイメージができれば」

「ううん」

 フィタは首を振る。

「メモして、後でラドマールに教えてあげるの」

「ああ」

 ウェンディは微笑んだ。

「そうね。それはいい考えだと思う」

「そうだね。ラドマールもきっと喜ぶと思うよ」

 アルマークにもそう言われ、フィタは恥ずかしそうにうつむく。

「さて、と」

 ウェンディが濃い紫色の薬草を手に取った。

「フィタ。それにザップも」

 二人でミキリハネクサのすりつぶしたものを指先に付けて味見して、顔を見合わせて不味そうな表情をしていたモーゲンとザップが振り向く。

「なんだい、ウェンディ。……ああ、アンチュウマソウだね」

 モーゲンがウェンディの持つ薬草を見て言う。

「バイヤーに分けてもらったやつだ」

「そう。実習のときに採れなかった最後の薬草がこれ」

 ウェンディがフィタとザップの前にアンチュウマソウの葉を置く。

「ほかの薬草は秋の月に照らされて魔力を蓄えるけれど、アンチュウマソウだけは決して日の光も月明かりも差さない暗い場所に生えるの」

「だからこんな闇みたいな色をしているのか」

 ザップの言葉に、ウェンディは頷く。

「そうね。いいところに気付いたわね」

「アンチュウマソウは北でもよく見るな」

 アルマークが一枚手に取る。

「北のは、もっと色が濃い。ほとんど黒に近いんだ」

「大抵の植物は日の光を浴びるとどんどん色が濃くなるんだけど」

 ウェンディの説明にザップがすぐに頷く。

「分かるよ。日当たりの悪い畑の野菜は、色が薄くて味も悪いんだ」

「そうね。それは日の光を浴びて植物が魔力を蓄えている証なんだけど、でもアンチュウマソウは逆なの。日の光を浴びると、色が薄くなる」

「薄くなる?」

 ザップが目を見開く。

「野菜と逆だ」

「じゃあ、これは」

 フィタがアンチュウマソウの葉を持ち上げて、透かして見る。

「少し光に当たっちゃったってこと?」

「そうね。本当に暗い場所で育ったアンチュウマソウは、アルマークの言うとおりほとんど黒に近いんですって。でも、南ではなかなか見付からないわね」

「じゃあ逆にどんどん日に当たっていたら、薄くなって最後は透明になっちゃうのかな」

 フィタの言葉に、ウェンディは首を振る。

「いいえ。その前に枯れてしまうわ」

「闇を好む草か」

 アルマークが興味深そうに言う。

「確かに、北はこっちに比べて日の光が弱いからな」

「それに、闇も多い」

 不意に後ろからそう声をかけられた。

 振り返ると、ウォリスが立っていた。

「ウェンディの解説は見事だが、一点抜けがあるな」

 ウォリスはそう言って、アルマークの手からアンチュウマソウを抜き取る。

「アンチュウマソウには暗いところを好むだけでなく、闇の力そのものを好む性質もあると言われている」

 そう言って、意味ありげにアルマークを見る。

「だから、相対的に闇の力の強い北では、多少日に当たろうが真っ黒なアンチュウマソウが育つというわけさ」

「なるほどね」

 アルマークは頷く。

 北は闇の力が強い。

 それは中原、南と旅をしてきたアルマークにはよく分かっていた。

「さすがウォリス。詳しいな」

「なあに」

 ウォリスはアンチュウマソウを再びアルマークに握らせると、微笑んだ。

「僕の地元にも真っ黒なのが生えるのでね」

 そう言って、自分の班に戻っていく。

「ウォリスの地元ってガライでもだいぶ北の方だもんね」

 モーゲンがその背中を見送りながら言う。

「そうだね」

 アルマークは頷いた。

 ガライの辺境、モズヴィル家領。

 だが、きっとそれだけではないのだろう。

「それじゃあ説明は終わり。作業を続けましょう」

 ウェンディが手を叩き、アルマークたちはめいめいが自分の作業に戻った。





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― 新着の感想 ―
[一言] 闇の力をたっぷり湛えた人が近くにいればねぇ……
[良い点] ウォリスが随分と距離を詰めてきたような。 そのうち、「闇」って言えば召喚できてしまいそう
[良い点] ここの感想欄も含めて、読んでいて楽しい
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