薬草
笑顔のクラスメイトに迎えられた後で、アルマークたちはザップたちとの再会を喜び合い、彼らの帰り道の冒険談に耳を傾けた。
「何度も道を戻ったんだ」
ザップが言う。
「でも、ラドマールがちゃんと見てくれたおかげで、魔物には一回も会わなかった」
「そうか。さすがだな」
アルマークがそう言ってラドマールを見ると、赤毛の少年は肩をすくめる。
「別にこんなのは僕の力でもなんでもない。今だけの錯覚みたいなものだ」
「それでも、君の力が二人を救ったことに変わりはない」
アルマークはそう言ってラドマールに微笑んだ。
「ありがとう」
ラドマールは戸惑ったように顔をそらす。
「それで最後は、3年生が迎えに来てくれたの」
フィタの言葉に、ウェンディが目を丸くする。
「えっ、みんな森に戻ってきてくれたの」
「おう。俺たちが見付けたんだ」
ネルソンが後ろから口を挟んでくる。
「お前たちだけいつになっても出てこないから、みんな心配でいてもたってもいられなくてさ。セリア先生に2年を任せて3年だけで森に行ったんだ」
「そうなのか」
アルマークも驚いた。
「魔物はいなかったのかい」
「いたいた」
ネルソンはレイドーに声をかける。
「レイドー、魔物をどれくらい倒したんだっけ」
聞かれたレイドーはピルマンとの会話をやめて振り返る。
「僕たちのほうで一体、トルクとレイラの方で二体だね。あとウォリスもいくつか一人で倒したって言ってたと思うよ」
「みんなすごいな」
「まあ、これくらいはな」
ネルソンは得意気に胸を張る。
「魔法のいい練習になったぜ」
「よく言うよね」
後ろからそう混ぜっ返してきたのはやはりノリシュだ。
「ネルソンってば、魔物が出てきたら興奮しちゃって、もう大騒ぎして。最初、杖で殴りかかろうとしたんだから」
「ははは」
アルマークは笑う。
「ネルソン、杖は武器じゃないんだぞ」
「う、うるせえな。俺だって分かってるよ」
ネルソンが恥ずかしそうに顔をしかめる。
「まあでも、トルクもレイラも、お前らが帰ってきてないって聞いた瞬間に、探しに行こうって言い出したからな」
「そうなのかい」
「言ってねえよ」
後ろから声がして振り向くと、トルクが苦い顔をして立っていた。
「レイラは言ったかも知れねえが、俺はそんなことは言ってねえ」
「言っただろうが」
ネルソンが言い返す。
「俺は聞いたぞ」
「お前は頭だけじゃなくて耳もバカなんだ」
トルクはそう言って肩をすくめた。
「うるせえ」
ネルソンが言い返す。
「俺の耳はバカじゃねえ。もちろん頭もだ」
トルクは、ふん、と鼻で笑う。
「バカじゃねえ奴は杖で魔物に殴りかかったりしねえんだよ」
「てめえ、こっそり人の話聞いてんじゃねえよ」
「聞こえるんだよ。声もバカみてえにでけえから」
「ほら、二人ともやめなさいよ」
ノリシュが間に入ると、トルクは舌打ちして背を向けた。
「とにかく俺はそんなことは言ってねえからな」
「なんだ、あいつ」
ネルソンは去っていくトルクの背中を見て首を捻る。
「探しに行くぞって真っ先に言い出したくせに」
「照れてるんでしょ」
ノリシュの言葉にもネルソンはまだ不満顔だった。
「意味わかんねえな」
「アルマーク」
横から硬い声で名前を呼ばれて、アルマークが振り返ると、声同様、硬い表情の美しい顔があった。
レイラだった。
「やあ、レイラ。心配かけてごめん」
「別に」
そう言って首を振った後で、レイラは探るようにアルマークの顔を見た。
「大丈夫だった?」
「え?」
アルマークがきょとんとすると、レイラは気まずそうな顔をする。
「その……魂のずれは」
「ああ」
アルマークは微笑んだ。
「さっきイルミス先生にも話したんだけど、肝心なところでぶれそうになって。それは魂と肉体が近い瞬間だからだって」
「えっ」
レイラの顔が曇るのを見て、慌てて顔の前で手を振る。
「あ、でも本当に一瞬の話さ。先生も、薬湯の効果が出ているって」
「そう」
レイラはほっとしたように表情を緩めた。
「それならいいの」
「レイラ、君のほうも魔物に会ったりしたんだろ。大丈夫だったかい」
「あの時に比べたら何でもないわ」
「そうか、さすがだな」
「やめて」
アルマークの言葉に首を振り、レイラは去っていった。
「なんだ、アルマーク。お前、魂がずれてんのか?」
ネルソンの雑な質問に、アルマークは曖昧に頷く。
「うん。ちょっとね」
「へえ。お前も色々やってんな」
ネルソンは雑にそうまとめた後で、レイラの背中を振り返る。
「あの時は、レイラもトルクにすぐに同意してたからな」
そう言ってにやりと笑う。
「癖の強い奴らが、お前のことになると団結するんだ。なんだかんだで、うちのクラスはお前のおかげでまとまってるぜ」
「いや、僕のおかげではないだろうけど」
アルマークは苦笑いする。
「みんな、頼りになるよ。今日はそれが本当によく分かった。ありがとう」
闇の魔物が来ると聞いたとき、アルマークはまず仲間たちを心配した。
みんな無事に帰れるだろうか、魔物に遭ったら大丈夫だろうか、と。
しかし彼らの方でもアルマークたちの心配をしてくれていた。
みんな、頼りになる仲間たちだ。
その時、ウォリスのよく通る声が響いた。
「みんな、聞いてくれ」
「みんな、聞いてくれ」
ウォリスの声に、笑いさざめいていた声が静まり、全員の視線が彼に集まる。
「確認したい。実習は途中で終わってしまったが、どの班も薬草は五種類きちんと採れただろうか」
ウォリスがそう言って全員の顔を見回すと、まずネルソンが手を挙げる。
「うちの班は全種類採ったぜ。な」
そう言って自分の班の2年生を振り返り、2年生たちも少し誇らしそうに頷く。
「うん。帰ってくるのも一番だったし」
「そうか、素晴らしいな。他の班は」
「俺たちは四種類だ」
トルクが答え、レイラも頷く。
「私たちも一種類足りないわ」
「モーゲン、私たちも四種類は採ったよね」
フィタに無邪気に尋ねられ、モーゲンはうろたえる。
「そ、それが実はね」
「うちはちょっと分からないんだ」
アルマークがウォリスに答える。
「一応、四種類は採ったんだけど、魔物との戦いでかなりダメになってしまっている」
「そうか」
ウォリスは頷く。
「え、そうなの?」
フィタが目を丸くしてモーゲンを見る。
「申し訳ない」
モーゲンはしゅんとする。
「あ、別にモーゲンを責めてるわけじゃ」
フィタが慌てて手を振ったとき、ウォリスの声が再び響いた。
「それでは薬草の足りなかった班には、我が班の誇る薬草博士、バイヤーを紹介しよう」
ウォリスに促され、恥ずかしそうにバイヤーがみんなの前に立つ。
「バイヤーは、指定された群生地以外の薬草の採取場所についても熟知していてね。そこもついでにまわったものだから、うちの班にはバイヤーのおかげで薬草の余裕がこれだけある」
ウォリスの言葉にあわせて、バイヤーが自分の背負い袋を開け、ぎゅうぎゅうに詰まった薬草を披露する。
おお、とどよめきが上がる。
「そういうわけで、薬草が足りなかった班も心配は要らない。四班分の薬湯を作れるだけの薬草は十分にあるからな」
ウォリスの言葉に、みんなから自然と歓声が上がり、拍手が起きた。
「いいぞ、バイヤー!」
ネルソンが叫んだ。
「さすが薬草博士! バイヤー、君は最高だよ。かっこいいよ!」
モーゲンも手を振り回しながら叫ぶ。
「ありがとう、バイヤー!」
ウェンディも口に両手を当てて叫んだ。
バイヤーが照れながら、それでも誇らしげに胸を張った。
「よかった。さすがバイヤーだ。フィタ、ザップ。僕たちも薬湯が作れるよ」
アルマークがそう言って振り返ると、二人は安心したように顔を見合わせて頷いた。
アルマークは横を向いているラドマールにも、そっと声をかけた。
「ラドマール。それとは別に、僕たちは明日から薬湯仲間だからな」
「わ、分かっている。飲むさ」
ラドマールがなぜか慌てて頷くのを、アルマークは不思議そうに見た。
ふと横を見ると、笑顔のウェンディと目が合った。
「二人とも毎日ちゃんと飲んでるか、私が責任を持って見張るからね」
「それは助かる」
「余計なことを」
そう憎まれ口を叩きながら、赤い顔でうつむくラドマールを見て、アルマークとウェンディは顔を見合わせて笑った。
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