表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第十二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/708

魔術師

 アルマークは一気に魔物たちとの間合いを詰めた。

 本気で行く。

 命を懸ける覚悟。

 それがアルマークの集中力をさらに研ぎ澄ます。

 とっさに爪を構えようとした先頭のジャラノンを、肩から斜めに斬り下げる。

 凄まじい速度の斬撃。

 ジャラノンは、自分が斬られたこともよく分からぬように地面にくずおれる。

 まず、一つ。

 身体と魂がしっかりと噛み合ってきているのを感じる。

 残ったジャラノンたちがアルマークに飛びかかる。

 突き出される爪を身体を捻ってかわしざまに、そのうちの一体の首を切り落とす。

 二つ。

 三体目のジャラノンに目をやった瞬間、黒い大きな影がその背を飛び越してきた。

 魔獣モルド。

 とっさに横っ飛びに身を投げるが、ローブの裾がその爪で引きちぎられる。

 着地したモルドが獲物が逃げた先に首を向けたときには、もうアルマークの姿は消えていた。

 次の瞬間モルドが目にしたのは、剣を逆手に構え、自分の上から降ってくる少年の姿だった。

 アルマークはモルドの首筋に深々と剣を突き刺すと、そのままぐい、とモルドの身体を引き起こす。

 アルマークを狙って突き出されたジャラノンの爪がモルドの腹を抉った。

 三つ。

 モルドの背中を強く蹴って剣を引き抜いたアルマークは、そのままジャラノンに飛び掛かった。

 一瞬の交錯の後、ジャラノンが血しぶきをあげて倒れる。

 これで、四つ。

「……すげえ」

 ザップが呟く。

「剣を持ったアルマークは、無敵なんだ」

 そう言いながらも、モーゲンもごくりと唾を飲み込む。

 アルマークの背中を黙って見つめているウェンディに、ラドマールが声をかける。

「あいつ、一体何者なんだ」

 しかしウェンディは答えず、首を振った。

 アルマークは沈黙した四体の魔物の中で、右手の反応の強さに驚愕していた。

 強い。それに、近い。

「モーゲン! ウェンディ!」

 アルマークは二人を振り返った。

「多分、これから本命の闇が来る。右手の反応が大きいんだ。その前に、3人を連れて別の道から逃げてくれ。僕が食い止める」

「また、そんなことを言って」

 ウェンディが悲痛な声をあげて首を振る。

「できるわけないでしょ」

「でも、ここで全員で戦うことこそ無理だ」

 アルマークは言った。

 闇の魔物。

 この反応の強さ。

 2年生を守りながら戦うのも、全員で森の外まで逃げ切るのも、おそらく不可能だ。

「イルミス先生から、2年生を守って校舎へ連れて帰れと言われたじゃないか」

「それはそうだけど」

 ウェンディが言葉に詰まる。

「だからってあなたを置いてはいけない」

「僕なら大丈夫だ。今、見たろう」

 アルマークは剣を掲げて見せる。

「魔物なんて物の数じゃない」

 しかしウェンディは首を振った。

「一人では無理よ。それはあなたが一番分かってる。分かってるくせに言ってる」

 本当に僕の心を読んでいるのか。

 今度はアルマークが言葉に詰まる番だった。

「それでも」

 アルマークは言った。

「誰かが食い止めなかったら逃げ切れない。それなら残るのは、僕だ。一緒には行けない」

「ダメだよ。ここで別れたら」

 もう会えない気がする。

 ウェンディはその言葉をかろうじて飲み込む。

「闇なら、どこにいるか分かる」

 突然の言葉に、全員が振り返った。

 声を発したのはラドマールだった。

「さっきも変な感じがしていた。僕の中に残る闇のせいだと思う。僕には闇がこの森のどこにいるのかが分かる。大きいのは向こうからだ」

 ラドマールは、アルマークの背後、これから進むはずだった道の先を指差した。

「他の小さいのもいくつか。今斬り倒したくらいのやつだ」

「そこまで分かるのか」

 アルマークが目を見開く。

「分かる。大きいのが来るまでにはもう少しある。だが、確かに森の外までは逃げ切れなそうだ」

 ラドマールは肩をすくめた。

「どうせ、今だけの能力だ。それに僕にはこの森の道が分からない」

 自嘲気味なラドマールの言葉に、ザップの声が重なる。

「道なら僕が分かる」

 ザップは青い顔で、それでも、強い瞳でラドマールとフィタを見た。

「魔物の場所が分かるなら、他の道を通っていくらでも帰れるよ」

「それなら私たちだけで帰れるね」

 そう言って頷いたのは、フィタだ。

「そうすれば、3年生の足手まといにならない」

 突然の2年生たちの言葉に、アルマークたちが呆気に取られていると、フィタが叫んだ。

「行こう。ザップ、ラドマール」

 その言葉に、二人が頷く。

「待って、だめだめ!」

 我に返ったウェンディが慌てて声をあげた。

「2年生だけで帰るなんて、絶対ダメ」

「そうだよ、万が一魔物に出くわしたら」

 アルマークも首を振る。

「危険すぎる」

「私たちは戦えない。でも、足手まといになりたくないの」

 フィタが訴えるように言う。

「私たちを守るために誰かが危ない目にあうなんて嫌だよ」

「違うんだ」

 アルマークが首を振る。

「今、詳しく話す時間はないけれど、闇の狙いは僕なんだ。闇は僕を追ってくる。だからこそ逃げ切れないんだ。君たちのことを足手まといだなんて思ってはいない」

「闇がアルマークを?」

 フィタは一瞬目を丸くしたが、すぐに、でも、と言葉を続ける。

「それならなおさら、私たちがここにいたんじゃ3年生の邪魔になっちゃう」

 フィタが振り返ると、意外にもラドマールがそれに頷く。

「さっきも言ったように、魔物の位置なら僕が分かる」

 ラドマールは言った。

「森の道なら、ザップが知っている。もしも二人が僕を信じてくれるというのなら」

 そこでやはり自嘲めいた口調が混じる。

「僕たちだけで帰れる」

「信じるさ」

 ザップが即答した。

「だからラドマール。君も僕らを信じろ。もうそんな言い方をするなよ」

「分かった」

 ぎこちなくラドマールが頷き、フィタが「決まりだね」と頷く。

「待って、待って」

 ウェンディが首を振る。

「やっぱりダメ。無茶よ」

「ウェンディ」

 ザップがしっかりとした口調で言った。

「僕らにはイルミス先生の話はよく聞こえなかったけど、最後の言葉は聞こえたよ」

 そう言ってウェンディを見上げるザップは、もう覚悟を決めた目をしていた。

「アルマークを頼む。先生はそう言ってたじゃないか」

 ウェンディが目を見開く。

「だからウェンディとモーゲンはアルマークの傍にいてあげてよ。僕たちは僕たちで戦うよ。大丈夫、ウェンディがかけてくれた飛び足の術はまだ効いてる」

「みんな、忘れてるんじゃないのかな」

 フィタが笑顔を見せた。

「私たちだって、同じ魔術師なんだよ」

「魔術師……」

 ウェンディが呟く。

「よし、分かったよ」

 そう言って頷いたのは、モーゲンだった。

「君たちを信じるよ」

「モーゲン」

 ウェンディがモーゲンを見る。

「どっちにしてもこんなことを言い合っている時間がもったいない」

 そう言うモーゲンの声は震えていた。

 けれど、はっきりとモーゲンは言った。

「ごめん、ウェンディ。でも僕はアルマークの傍を離れたくない。アルマークと一緒に戦いたい。だから、わがままかもしれないけど、2年生の力を信じるよ」

「そんな」

 ウェンディは目を伏せる。

「そんなの、私だって……」

 ウェンディの声が震えた。

 アルマークは、そのやり取りを胸が詰まる思いで見ていた。

 自分たちが守ろうと思っていた2年生たちの強さに、以前のウェンディとモーゲンの姿を重ねていた。

 危なかった。2年生に気付かされた。

 アルマークは自分を恥じた。

 また僕は、強くもないのに強いふりをして間違えるところだった。

 僕は弱い。

 一人で全部を引き受けられるほど強くはない。

 それをいつも認められずに、仲間を見ずに前に出ようとしてしまう。

「分かった。リーダーの僕が決める」

 アルマークは言った。

「ウェンディ。モーゲン」

 名前を呼ばれた二人が、アルマークを見る。

「君たちの助けが要るんだ。一緒に残ってほしい」

 その言葉に、二人が顔を見合わせた。

「うん」

 モーゲンが頷く。

「そう言ってほしかったんだ」

「……あなたが、私の助けが要ると言ってくれるなら」

 ウェンディも頷いた。

「一緒に残るわ」

 そう言ってアルマークを見返す強い瞳には、もう迷いがなかった。

「ありがとう」

 アルマークはそう言って微笑むと、2年生たちの名前を呼ぶ。

「ザップ、フィタ、ラドマール。闇を倒したら、僕たちもすぐに追いかける。だから、ここから先は」

 アルマークは祈るような気持ちで3人を見つめた。

「君たちを信じる。君たち3人の魔術師を。どうか、無事で」

「心配しないで」

 フィタが微笑んだ。

「行こう!」

 ザップが声をあげる。

「魔術師、か」

 ラドマールは思い出したように、そう言った。

「そういえば僕は、それになるんだったな」



 2年生3人はもと来た道を歩き出した。

 フィタが一度だけ振り向いて手を振ったが、あとはもう誰も振り返らなかった。

「無事を祈ろう」

 三つのランプの灯りが揺れながら見えなくなると、モーゲンが言った。

「どうせ、祈ってあげられるのも今のうちなんでしょ」

 そう言って闇が来るであろう道の先を見やる。

「ああ」

 アルマークは頷いた。

 勇敢なる者たちに、どうかご加護のあらんことを。

 北の神々に心から3人の無事を祈った。

「二人とも、すまない。巻き込んでしまって」

「もう言わないで」

 ウェンディがアルマークの言葉を遮る。

「私たちは、自分で残ると決めたんだから」

「うん」

「2年生を信じると決めた。もうあとは信じましょう」

 ウェンディは自分に言い聞かせるように言った。

 しばらくの、沈黙。

 その時だった。

 奇妙な声が聞こえてきた。

 前方からだ。

 強い腐臭。

 声は一つではない。

 重なりあって聞こえる、奇妙な声。

 まるで二羽の怪鳥が囀ずり合っているような。


 ああ、こいつは……


 アルマークの背中を冷たい汗が流れる。

 森の闇の中からゆっくりと現れたその姿。

 ウェンディが息を呑むのが分かった。

 モーゲンの吐息が震えている。

 それは、ひょろりとした背の高い男だった。

 だが普通の人間ではないことは一目で分かった。

 手足が奇妙に長い。

 身にまとったローブのようなものから覗く身体は、びっしりと黒い熊のような毛で覆われている。

 そして何よりも、その首。

 身体とはまるで不釣り合いの、端正な、だが表情のない男の顔が、二つ生えていた。

 それぞれの口が絶え間なく動き、奇妙な言葉のような音を発している。


「ボラパ」


 アルマークはその名を呟く。

 闇を操る双頭の魔人。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ウェンディはうっすらアルマークの正体に気づいてそう。でも信じたくないのか、見ないふりしてる気がする。
もしかしてラドマールにアルマークの事聞かれてウェンディが言葉をださなかったのは どこかで彼が北の傭兵である事に気づいているんだろうか… アインは既に気づいているし聡明なウェンディなら剣の腕と夏の館襲撃…
ボラパ、もう見るからにヤバい。皆さんおっしゃる通り、キモい。 よくこんな生理的嫌悪感をもよおす形態を考えつきますね‥‥(褒め言葉です) もし実写化したら、ボラパはモザイク処理しないと、失禁失神者続出で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ