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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第十二章

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ミキリハネクサ

 四つ目の薬草であるミキリハネクサは、ツタ植物で、そのツタは皮膚をかぶれさせる上に、肝心の薬効のある葉はだいたい巻き付いた木の上などにしか生えていないという、厄介な薬草だ。

「うわ。採りやすいのがもう残ってないよ」

 モーゲンが声をあげる。

 先ほど、この群生地に来る途中でトルクのグループとすれ違った。

 先頭を歩いていたトルクは、アルマークを見てにやりと笑って、

「遅かったな。もう、ろくなのが残ってねえぞ」

 と言い残していった。

 その言葉通り、比較的採りやすい場所に生えたミキリハネクサは、もう他のグループに採り尽くされてしまっていた。

「どこかに残ってると思うんだけど」

 モーゲンがそう言ってランプの灯を上に向ける。

 ザップやフィタも、一生懸命に頭上の木の枝に目を凝らす。

「ない筈はないんだ。もし僕たちが一番最後だったとしても、なくなるほど少ないわけがないよ」

 アルマークがそう言って、少し離れたところから木の枝を点検していく。

「向こうにも少し生えてるところがあるの。そっちに行ってみましょうか」

 ウェンディが提案し、アルマークが頷く。

「うん。それじゃ僕はザップとこっちを見る。ウェンディはラドマールとそっちを見てくれ」

「分かった」

 ウェンディはアルマークに向けてランプを振る。

「じゃあ、ラドマール。向こうから見ましょう」

「ああ」

 ラドマールは意外に素直にウェンディに付いていく。

 アルマークたちから離れた場所で木の枝を熱心に見上げるウェンディに、ラドマールが不意に言った。

「あのアルマークっていうやつ」

「え?」

 ウェンディがラドマールを見る。

「あいつ、ただの平民だろ」

「どういうこと?」

 突然のラドマールの言葉にウェンディは眉をひそめた。

「だから」

 ラドマールは焦れったそうに言う。

「あいつは偉そうにしてるけど、貴族でも何でもない、魔術師になれなかったら何にもなれないただの平民なんだろ」

「彼が貴族か平民か、という質問なら」

 ウェンディは首を振る。

「彼は平民だけど、『ただの平民』じゃないよ」

「何?」

 ラドマールが眉を上げる。

「どういう意味だ」

「彼は、この学院に来たのはたった半年前だけど、ここの誰よりも努力している。剣の腕はものすごいけれど、それを鼻にかけたりはしない。友達のことを誰よりも真剣に考えてくれる」

 ウェンディはまるでそこにアルマークがいるかのように、優しい目で微笑んだ。

「彼は『ただの平民』なんかじゃない。とっても素敵な魔術師だよ」

 そこまで言って、自分でも照れたように下を向き、ウェンディは、それに、と続ける。

「アルマークだけじゃないよ。モーゲンも、ザップやフィタだって『ただの平民』なんかじゃない」

 ウェンディは顔を上げて木の枝に目を戻した。

「みんなそれぞれが別々の素敵な人間だもの。ただの平民なんて人はいないと思うな」

「僕は王族だ」

 ラドマールは硬い声で言う。

「お前も貴族なら、分かるだろう。王族はその血筋にこそ価値があるんだ。僕は僕でいさえすればそれでいいんだ。ここの連中にはそれが分かっていない」

「私も貴族だけど」

 ウェンディは穏やかに言う。

「貴族とか平民とかって言う前に、僕らは魔術師だってアルマークが言ってくれたから。私もそう思うことにしてるの。私たちは同じ魔術師だって」

「また、あいつか」

 ラドマールの声が憎々しげに歪んだ。

「どうしてそんな言い方するの? アルマークは素敵な人だよ」

 ウェンディは不思議そうにラドマールを見る。

「僕を見ろ」

 ラドマールが険しい顔でウェンディを見つめる。

 その目には切実な感情が渦巻いていた。

「僕は王族だ」

 しかし、ウェンディは首を振る。

「確かにあなたは王族なのかもしれないけど、でもあなただって魔術師になるんでしょ? 選ばれてこの学院に来たんでしょ?」

「僕は……来たくなどなかった。こんなところに」

 ラドマールがそう言った時、モーゲンの弾んだ声が道の先から聞こえてきた。

「アルマーク! ウェンディ! 見付けたよ!」



 モーゲンの見付けてくれた、道からだいぶ外れた木の上のミキリハネクサを、アルマークが手袋をはめて木に登り、切り落とす。

 その手際のよさに、ザップとフィタが歓声をあげる。

「これで四つ」

 モーゲンが安心したように言う。

「あとは最後のアンチュウマソウだけだ」

「あと少しだね」

 アルマークも頷く。

「ラドマール、足は大丈夫かい」

 そう尋ねはするが、もう返事は期待していない。

 案の定、返事は返ってこなかったが、見たところまだそれなりに元気そうだ。

「さあ行こう」

 そう言ったアルマークのところにウェンディがそっと近付いて、耳元で囁く。

「ラドマールが、なんだかあなたのことをライバル視しているみたい」

「え? どうして?」

 アルマークはきょとんとする。

「分からない」

 ウェンディも困ったように首を振る。

「でもきっと彼もいろいろと複雑なんだと思う」

 アルマークはラドマールを見た。

 ラドマールはランプも持たず、闇の中でアルマークの方を窺っているような、いないような。


 気を付けろよ。下級生の動きというのは意外と読めないものだぞ。


 アルマークは、不意にアインの言葉を思い出す。

「分かった。彼から目を離さないようにしよう」

 アルマークが言うと、ウェンディは不安そうな顔で頷いた。



 もう夜もだいぶ更けた。

 ずっと歩き詰めなのだ。2年生のザップとフィタの顔にもさすがに疲労の色が濃くなってきた。

 ウェンディが飛び足の術をかけようかと提案したが、二人は、あと少しだから自分の力で歩く、と言い張った。

「その気持ちを尊重しよう」

 アルマークがそう言って肩を叩くと、ウェンディも頷いて飛び足の術の布をしまう。

 歩き始めてしばらくした時だった。

 不意にラドマールが振り向いた。

「アルマーク」

 そう名前を呼ばれて、アルマークは一瞬戸惑う。

 ラドマールがウェンディ以外の人間に話しかけるのは、森に入ってから初めてだった。

「あ、ああ。なんだい」

「僕の荷物を貸してくれ」

 ラドマールがそう言って手を伸ばす。

「ああ、荷物か。いいよ」

 アルマークはずっとラドマールの荷物を代わりに背負っていた。

 水も、ラドマールはアルマークの持ってきた予備も一人でほとんど飲み尽くしていて、次からはアルマーク自身の分を分け与えるつもりでいた。

「また水かい? それなら僕のを」

「いや。僕の荷物が欲しいんだ」

 急に素直にそう答えるラドマールに戸惑いながらも、アルマークは彼の荷物を手渡す。

「なんだい、おやつでも出てくるのかな」

 モーゲンがそう言って足を止める。

「いや、違うよ。もっといい物だ」

 ラドマールはモーゲンにも素直に答える。

 ウェンディが急に軟化したその態度に、ほっとしたようにアルマークを見る。

 急に、どういう風の吹き回しだろう。

 アルマークもウェンディを見て首をかしげる。

「君たちに、僕の本当の力を見せようと思ってね」

 ラドマールはそう言いながら鞄をまさぐって、小さな箱を取り出した。

 黒い、金属の小箱。

 ラドマールの片手にすっぽりと入るくらいの大きさだ。

 その蓋にラドマールが手をかけると、不意にアルマークの右手がざわりと動いた。

「待て。ラドマール、それは何だ」

 アルマークが鋭い声をあげ、ウェンディとモーゲンがはっと身を硬くする。

「ウェンディ。お前はこれを見ても、僕よりもそこのただの平民の方が素敵だと思うかな」

 言いながら、ラドマールが小箱を開けた。

 アルマークの右手がそれに一瞬反応する。

 箱を開けた瞬間に漂う、腐臭。

 くそ。こんなところで。

 アルマークは反射的に剣の柄に手を伸ばす。

 小箱から、黒い何かが飛び出した。




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― 新着の感想 ―
ラドマール、このままだとこの学園で君は平民未満の価値になっちゃうよぉ...
おいラドマール!!役立たない上になんてもの持ってきやがる!!
蛇の罠を持った来たくもなかった王族と鉢合わせとかやっぱり出来すぎてる… これは運命なんかじゃない何者かの悪意。
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