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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第十二章

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出発

 普段は昼食しか食べない食堂で、早めの夕食を食べてから出発することになっていた。

 そのくらいの時間にはラドマールもちゃんと帰ってきた。

 食堂へ行く途中、すれ違ったアインから、

「今日は君たちか」

 と声をかけられる。

「ああ。アインたちは前回済ませたんだよね」

「ちょうど演奏会の前の日だったな」

 アインは頷く。

「君たちも気を付けろよ」

「気を付ける?」

 アインの意味深な言葉にアルマークが眉をあげると、アインは頷く。

「去年はフィッケが、女子にいいところを見せようと高い木に登って落ちて怪我をした。下級生の動きというのは意外と読めないものだぞ」

「ああ。そういう……」

 アルマークが頷くと、アインはメンバーの顔を一瞥した。

「ふむ」

「アルマーク、先に食堂に行ってるね」

「あ、うん」

 手を振って歩いていくウェンディに、アルマークは手を振り返す。

「ラドマール・トレイホルムか」

 ウェンディたちが去った後、アインが呟いた。

「知っているのかい。王子様って聞いたけど」

 アルマークが尋ね返すと、アインは頷く。

「彼だけじゃない。僕は初等部なら全員のことを知っている。彼はヴォルカド王国の現国王の姉の子の一人だ。まあ王族には違いないが、王子とは呼べないな。低いとはいえ王位継承権はあるのだろうが」

「へえ」

「まあ、そっちにも気を付けたまえ。王族なんてものは大抵口だけだからな」

 アインはアルマークの肩を叩いて去っていこうとする。

「アイン。君らしくない言葉だな」

 アルマークの言葉に、アインは少し虚を衝かれたような顔で振り返る。

「……そうだな」

 小さく頷いてその言葉を認めた後で、アインは一言だけ付け加えた。

「まあ彼は実際に落第ぎりぎりのところにいるらしい。手が掛かるのは確かだろうな」

「そうなのか」

 それではあの立ち居振る舞いも、自信のなさの現れかもしれないな、とアルマークは思う。

 それにしても、とアインの去っていく背中を見て考える。

 アインは、王族にあまり良い感情を持っていないように見える。

 武術大会でのウォルフ王太子に対する反応も冷淡だった。

 アインにも色々あるんだろうな。

 みんな、それぞれに何かを背負っている。

 それは、僕も同じだ。

 アルマークは踵を返してウェンディ達を追った。


 食堂で簡素な夕食を受け取ってテーブルへ行くと、フィタとザップがすでにウェンディの両端を固めていた。

「すっかりウェンディになついちゃったよ」

 モーゲンが囁く通り、二人は最初の気まずそうな顔はどこへやら、ウェンディに満面の笑顔で話しかけている。

 ウェンディがそれにいちいち丁寧に反応してくれるのが、また嬉しいのだろう。

「それで、ラドマールは?」

 アルマークはそれを微笑ましく見やった後でモーゲンに尋ねた。

「あっち」

 モーゲンが指差す先で、ラドマールが一人、誰からも離れた席に座り食事をしていた。

「一人がいいんだって」

「そうか。困ったな」

 アルマークは苦笑いした。

「食事くらいなら一人でもいいけど、道を一緒に歩きたくないとか言い出さないといいな」

「そうしたら、お菓子分けてあげないよ」

 モーゲンが顔をしかめてそう言いながら、食事を口に運ぶ。

「それは困る」

 笑って応じて、アルマークは他のテーブルを見回す。

 他の班は、どこも概ね和気あいあいと食事しているように見える。

 レイラの笑顔はぎこちない気もするが、レイドーがうまく下級生の面倒を見ている。

 ウォリスのそつのなさは言うまでもないし、トルクの班は班長が無愛想な分セラハが頑張っているようだ。

 一番盛り上がっているのは、やはりネルソンとノリシュの班で、まるでもう馴染みのグループのような遠慮のない笑い声が下級生からも上がっている。

「他はどこも楽しそうだね」

 モーゲンの声はどことなく羨ましそうだ。

「僕たちだけはわがまま王子様のお守りだ」

「まあそう言うなよ、モーゲン」

 アルマークはモーゲンの言い草に思わず笑う。

 アインによれば、彼を王子と呼ぶのは適切ではないようだが、まあ、そこはいい。

「夜は長いからね。じっくり打ち解ければいいさ」

「打ち解ける、ねえ」

 モーゲンはため息をついた。

「打ち解けるより先にお日様が顔を出すと思うけどね」



 森の入り口に集合したときには、日はすっかり沈んでいた。

 2年生たちがめいめい手に持つランプの灯が、それぞれの顔を照らし出している。

 この後で、各グループごとに出発することになる。

 薬草の採取地は全部で五ヶ所だが、それを巡る順番がグループごとに異なっている。

 途中ですれ違うことはあっても、違うグループ同士で一緒には行動できないようになっているのだ。

「僕たちはモガツキバナの採取からだね」

 モーゲンが行程表を見ながら言う。

「最初から割と歩くんだよね」

 ウェンディがそう言って頷く。

 フィタとザップはもうウェンディの両脇にくっついて離れない。

 ラドマールは一人離れたところに立って、足元の石を蹴っている。

「アルマークたちはモガツキバナからか」

 声をかけてきたのはネルソンだ。

「俺たちはミキリハネクサからだ」

「そうか。かぶれないように気を付けて」

「おう」

 ネルソンは笑顔で手を挙げてから、不思議そうにアルマークの背を見る。

「お前、なんでそんな物騒な物を背負ってるんだ」

「ああ、これ」

 アルマークは背中の長剣を振り返る。

「万が一のために、クラスで一人だけは持っておけと先生が」

 アルマークは聞かれたときのために前もって用意していた答えを返す。

「そうか。まあ夜の森だしな。万が一魔物が出ないとも限らねえか」

 ネルソンはそう言って頷く。

「ちぇ。それなら俺も武術場から剣を持ってくるんだったぜ」

 つまらなそうに杖を振るネルソンを見て、アルマークは笑う。

「君は本当に武術が好きだな」

「俺は騎士になるために魔術師になる男だからな」

 ネルソンはそう言い返して笑うと、自分の班員に向かって、おし、お前ら行くぞ! と声をかける。

 ノリシュの、ネルソン偉そうにしないでよ、などと混ぜっ返す声がして、楽しそうな笑い声と共にネルソンのグループが森の中に消えていく。

「楽しそうだなぁ」

 モーゲンが羨ましそうに言う。

「よそはよそ。うちはうち」

 アルマークの言葉にモーゲンは、

「お母さんみたいなこと言うね」

 と、じと目でアルマークを見る。

「まあ、たくさん歩けばお菓子がおいしくなるからね」

 モーゲンはそう言って気を取り直したように伸びをした。

「さあ、僕らも行こうか」

「うん」

 アルマークはウェンディたちに声をかける。

「みんな、行けるかい」

 ウェンディが頷き、フィタとザップが、はい、と元気に返事をする。

 いい子達だ。アルマークは頷き返す。

「ラドマール、行くよ」

 アルマークの言葉が聞こえているのかいないのか、ラドマールは顔を上げない。

「ラドマール」

 ウェンディが呼び掛けた。

「行くわよ」

「分かっている」

 ラドマールの不機嫌そうな声が返ってきた。

 一応ついてくる気はあるようだ。

 アルマークは夜の森を見上げた。

 さあ、どんな夜になるのか。

「行こう」

 もう一度言って、アルマークは歩き出した。




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― 新着の感想 ―
ふむ、アインにも何やら事情が…? ほんとこの学院に来る人物は何かしら抱えてる人ばかりだなぁ
「よそはよそ。うちはうち」 お母さんだ!w アルマーク、どこで覚えた(笑)
[一言] 安定のモーゲンと書かれた方がいらっしゃって同じ意見の人がいると驚きました。 モーゲンも雰囲気作り出すの上手ですよね
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