グループ分け
秋は、実りの季節だ。
畑の作物が実るのと同じように、冬を前に薬効を充実させる植物も多い。
秋の月には魔力を活性化させる力があると言われているが、その言葉通り、秋の夜に月明かりを浴びることで咲く花や、穂を垂らす植物も、学院の森にはたくさん生えている。
それらはさまざまな薬湯の格好の材料となる。
それを採取に行くのが秋の学院行事、夜間薬草採取実習。通称、夜の薬草狩りだ。
休みの前日、日が沈むのを待って、学生たちは小グループを組んで、森に入る。
それぞれのグループごとにルートを指定され、その順番通りに薬草の生えている場所を巡り、最後に学院の校舎へ戻って、その夜摘んだ薬草を提出する。
寮に戻る頃にはもう深夜に近い時間になっている。
翌週は、それぞれに摘んだ薬草を使って薬湯を作る実習が待っている。
この行事の一番の特徴は、上級生が下級生を引率することだ。
3年生が、2年生を連れて夜の森を歩く。
そして、その翌年は進級した新3年生たちが同じように新2年生を引率して森を歩く。
前回の休日の前にはアインたち3年1組と2年1組が実施した。
今回はアルマークたち3年2組と2年2組の番だった。
アルマークたち3年生は、3人ずつで5つのグループに分かれる。
そこに、同数の2年生が合流することになっていた。
薬草狩りを三日後に控えた日の放課後、2組では実習のグループ分けをした。
アルマークは、モーゲン、ウェンディと3人グループになった。
「なんだか、この3人って久しぶりだね」
ウェンディがそう言って嬉しそうに微笑む。
「実は夏の休暇以来じゃないかしら」
「そうだね」
モーゲンが頷く。
「最近、アルマークはアインやレイラと忙しかったもんね」
「いやいや」
アルマークは苦笑いする。
モーゲンにも、泉の洞穴での出来事を簡単に話してあった。
モーゲンは、
「それでレイラが変わったんだね」
と納得したように頷いたものだ。
「でも、確かに久しぶりだ」
アルマークもそう言って、二人の顔を見る。
「なんだか、ほっとするな」
「そうだね。ピクニックに行きたくなる」
モーゲンもにこりと笑って頷く。
「セダルさんの料理が懐かしいよ」
冬の屋敷のコック長の名前を出して、本当に懐かしそうに窓の外を眺めるモーゲンに、アルマークとウェンディは顔を見合わせて笑う。
「モーゲンの記憶はいつも食べ物と結び付いてるのね」
ウェンディの言葉に、モーゲンは澄ました顔で頷く。
「僕の場合、脳よりも胃の方が記憶力があるからね」
笑い合う3人のところに、そっとウォリスが歩み寄った。
「アルマーク」
「ああ」
アルマークは立ち上がる。
「どうしたんだい」
「ちょうどいい機会だからな。薬草狩りの時にリルティに話をしておく」
アルマークには、ウォリスの言っているのが劇の歌の件だとすぐに分かった。
「ありがとう。そういえば、ウォリスはリルティと同じグループだったね」
「ああ」
ウォリスは頷く。
「バイヤーが張り切ってる」
「薬草博士だからね」
アルマークは微笑んだ。
ウォリスのグループのあと二人は、リルティとバイヤーだ。
バイヤーの薬草知識はクラスでも一番で、治癒術の授業でセリアが、
「バイヤー、あなたは薬草博士ね」
と賞賛したときに、顔を真っ赤にしてそれはもう嬉しそうだったので、みんなが時々そのあだ名で呼ぶようになった。
「君はまだ森には不案内だろう。二人からはぐれないようにしろよ」
ウォリスはそう言って、アルマークから離れていった。
椅子に座り直しながら、アルマークはちらりとレイラを見る。
あれからレイラは、毎日アルマークに薬湯を飲んだかどうかを確認に来ていた。
アルマークが、飲んだよ、と答えると黙って頷いて去っていく。
正直、セリアの作ってくれた薬湯はものすごい味と臭いで、朝、それを飲んだ直後のアルマークは、モーゲンに「朝からどぶにでも落ちたのかい」と真顔で聞かれたほどだ。
一回二回なら我慢もするが、毎日は辛い。確かに、学院長たちが罰になると言うだけのことはある。
それだけに、毎日確認に来てくれるレイラのことを思い出すことは、苦い液体をなんとか飲み下す励みになった。
ここ最近、レイラはクラスメイトとよく言葉を交わすようになっていた。
もともと魔法の実力もあるし、美人で賢い彼女のことだ。たちまち周りには人が集まるようになった。
レイラが変わったという噂は、クラスの男子たちだけに留まらず、どうも学年中の男子に広まっているようだった。
それだけ、今までは美人のレイラに近付きたくても近付けない男子が多かったということだろう。
それでも時折、レイラはやはり以前の彼女のように一人きりで窓の外を見て何かをじっと考え込んでいることがあった。
そういう時のレイラは、やはり人を寄せ付けない硬さをまとっていて、クラスメイトたちも声をかけるのを遠慮するのだった。
レイラは今回は、ガレインとレイドーと同じグループになっていた。
ガレインは相変わらず無口で何を考えているかよく分からないが、レイドーは穏やかにレイラと話している。
レイドーと一緒なら安心だ、とアルマークは思った。
アルマークには、レイラがまだどこか無理をしているように見えたが、レイドーならうまくやってくれそうな気がした。
その向こうでは、ネルソンとノリシュが相変わらず仲良くケンカをしている。二人と同じグループになったのはキュリメとピルマン。アルマークが転入してきた影響で、ここだけは4人グループだ。
二人はネルソンたちのやり取りを、また始まった、とばかりに笑顔で見守っているが、特にキュリメの二人を見る興味深そうな目は、まるで劇の題材にでもしようとしているかのように見えた。
いつもの通いなれた森に行くとはいえ、仲間と一緒に、子供だけで夜歩くというのはやはり特別なものだ。
みんなどことなく華やいだ雰囲気になっていた。
「セラハが嬉しそう」
ウェンディが微笑む。
「そうだね」
アルマークもウェンディの見ている方を見やって、頷く。
セラハが笑顔で話している相手は、トルクだ。
アルマークは数日前に、ウェンディから
「セラハがね、最近のトルクってちょっといいよねって言ってたんだよ」
と聞かされていた。
その時は、アルマークは首を捻って「僕はトルクから女子の話を聞いたことはないな」と答えたものだが。
今、セラハが一生懸命トルクに話しかけるのに対して、トルクは笑顔も見せずに淡々と何か答えているが、どういう感情なのかは今一つ分からない。
「トルクよりもデグの方が嬉しそうだね」
とアルマークが言うと、その隣で話を聞いているデグの笑顔を見て、ウェンディもおかしそうに頷いた。
「ほんとだね」




