集合
「もうみんな来てるのかい」
道すがら、アルマークはネルソンに尋ねた。
「来てるよ。お前らで最後だ」
ネルソンは答えて、ため息をつく。
「迷ってるかもしれないから探してこいってノリシュがうるさくてよ」
「それはすまなかった」
「ネルソンはね」
レイドーがにこやかに言う。
「ノリシュに誘われたのが相当嬉しかったから、今日はノリシュに逆らえないんだ」
「ばか、そういうんじゃねえよ」
ネルソンが慌てて否定する。
「レイドーは油断してると何を言い出すかわからねえな」
「照れることないと思うけどな」
そう言って爽やかに笑うレイドーはすっかりいつもの調子だ。
「そういうレイドーこそ、どうなんだよ」
ネルソンが赤い顔で反撃に転じる。
「好きな女子とかいないのかよ」
「僕はみんな好きだよ」
レイドーはさらりと言った。
「みんなそれぞれの良さがあるからね」
「そういうのはずるいぞ」
ネルソンは顔をしかめる。
「アルマークは、ウェンディだもんな」
「えっ」
急に話を振られてアルマークは驚いた。
「もちろんウェンディは可愛いし、好きだけど」
そう言って頭をかく。
「僕のその気持ちが、みんなの言う好きっていうのと同じかどうか分からない」
「めんどくせえな。同じだよ、同じ」
ネルソンが雑に答える。
「あんまり難しく考えていると、誰かに取られちゃうよ」
レイドーも爽やかに厳しいことを言う。
「恋は早い者勝ちだからね」
「うーん」
アルマークは唸った。
剣と違って、まだアルマークにはよく分からない。魔法も、恋も。
「モーゲンはどうなんだい」
アルマークはモーゲンを見る。
モーゲンはいつも通りの笑顔で答える。
「僕は、飛び魚亭の奥さんみたいな人と結婚したいな。料理上手で優しいし」
「言うと思ったぜ」
ネルソンが笑った。
「それじゃモーゲンも飛び魚亭のご主人くらい料理上手にならないとね」
レイドーが優しく言い、ネルソンが
「真面目にアドバイスするなよ」
と笑う。
「ほら、着いたぜ」
ネルソンが指差した。
音楽堂の前に、賑やかに笑いさざめく子供の一団があって、アルマークにもすぐにそれがクラスメイトたちだと分かる。
「おーい」
ネルソンが声を張り上げて手を振る。
「アルマークたちを見付けたぞ」
その声に、仲間たちが一斉に振り返った。
「どこにいたの」
ノリシュの声に、ネルソンが
「さざなみ通りの屋台で、二人で飯食ってた」
と答えると、どっと笑い声が上がる。
「モーゲンはともかく、アルマークもなの」
ノリシュが呆れ顔でネルソンと同じことを言っている。
四人が仲間に合流すると、ノリシュがリルティに
「これで全員だね」
と声をかけた。
リルティが頷いて、アルマークとモーゲンにチケットを差し出す。
「これ、二人の分」
「ありがとう」
アルマークは笑顔でそれを受け取ると、クラスメイトたちの顔をぐるりと見回す。
ピルマンやキュリメ、セラハ。向こうにはウォリスもいる。
「遅いぞ、モーゲン」
バイヤーが向こうで手を振っている。
「間に合ったじゃないか」
そう言いながらモーゲンがバイヤーの方へと歩いていく。
「主役は遅れて登場だな」
その意外な声に、アルマークは驚いて振り返った。
「アイン。君も来てたのか」
「ご招待にあずかってね」
アインはそう言ってリルティにウインクする。
リルティは顔を赤くして、
「レイラやトルクたちが来ないでしょ。チケットが余ってももったいないと思って、ノリシュが他のクラスの人にも声をかけてくれたの」
と説明してくれる。
「そうなんだ」
アルマークは笑顔で頷いてアインに向き直った。
「フィッケも来てるのかい」
アインはそれを聞いてにやりと笑う。
「来ると思うかい、フィッケが演奏会に」
「いいや」
アルマークは首を振り、アインと顔を見合わせて笑う。
「仲がいいんだね、クラスが違うのに」
リルティが驚いたように言った。
「少し意外」
「彼とはいろいろあってね」
アインが笑う。
「二人で一緒に意識を失った仲なんだ」
「え?」
リルティが戸惑った顔をする。
「アイン、変な言い方はやめてくれ」
アルマークは苦笑いする。
「リルティ、ちょっといい?」
ノリシュの声。
「あ、うん」
リルティが振り向いて返事をした。
「じゃあまた後で」
リルティがそう言って名残惜しそうに離れていく。
「うん。ありがとう、リルティ」
アルマークとアインは並んでリルティに手を振った。
アルマークは改めてアインに尋ねてみる。
「1組はほかに誰か来てるのかい」
「うちのクラスは僕と彼女だけだ」
アインがそう言ってアルマークの背後を顎で示す。
振り向くと、ウェンディが笑顔で歩み寄ってくるところだった。
その隣には、ウェンディのルームメイトのカラーがいる。
そういえば、彼女も1組だった。
「やあ、ウェンディ」
アルマークが手を振ると、ウェンディも嬉しそうに手を振り返す。
「よかった。間に合ったんだね」
「うん。演奏会、一緒に聴こう」
「もちろん」
「こんばんは、アルマーク」
ウェンディの隣から、カラーが意味ありげに笑いながら挨拶してくる。
「やあ、カラー。街で会うのは初めてだね」
「ええ、そうね。あなたはいつもウェンディと仲良さそうで何よりだわ」
「えっ」
「本当は今日の演奏会もウェンディと二人っきりの方が良かったのかもしれないけど、私も誘われたからお邪魔しちゃった」
「ちょっと、カラー」
ウェンディが慌てた声を出す。
「カラー、外野は余計なことを言うな」
アインがぴしゃりと言った。
カラーは肩をすくめて、はいはい、と返事をする。
「アインは自分のクラスメイトには厳しいのよ。独裁者だから」
カラーが大袈裟に顔をしかめてアルマークにこぼすが、アインはどこ吹く風だ。
「僕はクラス全員の幸せのために独裁しているからな。後ろめたいことは何もない」
「ほら。これだもの」
カラーの言葉に全員で笑う。
「もしかして3組の子も来てるのかい」
アルマークが尋ねると、ウェンディが頷く。
「ええ。クラス委員のルクスと、ロズフィリアが来てるわよ」
「へえ」
「ほら、あそこでウォリスと話してる」
ウェンディが指差す方を見ると、確かに背の高い誠実そうな少年がウォリスと話している。その隣にはロズフィリアの姿もあった。
「ほら、あなたが行けばクラス委員三人が勢揃いよ。会合してきなさいよ」
カラーがそう言ってアインの背中を押す。
「うん。行ってくるか」
アインはそう言って、
「君も行くぞ」
とカラーの手を掴んだ。
「えっ、何で私が。いやよ、クラス委員じゃないもの」
「ロズフィリアもいるじゃないか。それに、ここに残していくと際限なく二人の邪魔をしそうだからな。クラス委員としてそれは見過ごせない」
「えー、ちょっと!」
カラーがアインに引きずられるようにして去っていくと、アルマークはウェンディと顔を見合わせて笑う。
「賑やかだね」
アルマークは言った。
「他のクラスの子もいて、面白いよ」
「そうだね。ちょっと新鮮だね」
ウェンディも笑顔で頷く。
今日のウェンディは手の込んだ髪の結び方をしていて、アルマークは、お姫様みたいだな、などと思う。
アルマークの視線に気付いたウェンディが、少し顔を赤らめる。
「髪型、変?」
「いや。変じゃないよ」
アルマークは首を振る。
「すごくきれいだ。いつもそれにすればいいのに」
「ありがとう」
ウェンディは嬉しそうに笑う。
「でも、いつもは無理。大変だから」
「そうなのか」
アルマークの残念そうな顔に、またウェンディが笑う。
しばらく他愛もない話をしていると、ふとウェンディが真面目な顔になった。
「アルマーク、大丈夫?」
「え、何が?」
「疲れてるでしょう。昼間、何かあった?」
「ああ、うん」
ウェンディにも見抜かれていた。
仲間の慧眼に、アルマークはいつも驚く。
「危ないことがあったの?」
ウェンディの瞳が心配そうに揺れる。
「危ないこと……そうだね」
どう言おうか。アルマークは悩んだ。
その時、音楽堂の入口でノリシュが声を張り上げた。
「それじゃ入るわよー!」
それを合図に、全員がぞろぞろと音楽堂の中に移動を始める。
「時間みたいだね」
アルマークは言った。
「演奏会が終わったら話すよ」
「うん」
頷きはしたが、それでも心配そうな顔のウェンディに、アルマークは安心させるように微笑んでみせた。
「大丈夫だよ。今、僕はここにいるんだから」
「そうだね」
その言葉にウェンディはようやく笑顔を見せる。
「演奏会、楽しみだね」
笑顔のままで、ウェンディがアルマークに言う。
街の灯りでその瞳がきらきらと輝いていた。
「うん」
アルマークも笑顔で頷いた。




