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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第九章

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洞窟

 ……どこだ、ここは。

 闇の中で、アルマークは意識を取り戻した。

 目を開けたはずなのに、何も見えない。

 完全なる闇。

 感触からして、何か石か岩のような硬いものの上に、アルマークは倒れているようだ。

 ゆっくりと上体を起こしてみる。

 身体は動く。痛みもない。

 闇の中に気配を探る。

 獣や魔物の気配はない。

 魔力や強い敵意も感じない。

 声を出してもよさそうだ。

「アイン」

 アルマークは、一緒に本に引きずり込まれたはずの友人の名を、囁くように呼んでみる。

「アイン、いるのか」

「アルマークか」

 やや離れたところからアインの声がした。

「君もいるのなら、もう灯をつけてもよさそうだ」

 アインがそう言い様、灯の魔法を使った。

 小さな炎に照らし出されたのは、どうやらどこかの洞窟の中のようだった。

 天井は大人でも手が届かないくらいの高さがあり、足元は剥き出しの岩だ。

 二人はその洞窟の、狭い通路の行き止まりのような場所に倒れていたようだ。

 二人のほかには、誰もいない。

「怪我はないか」

 アインが尋ねてくる。

「ああ、ないよ。君は」

「僕もない」

「でも変な感じだ」

 アルマークは立ち上がった。

「自分の身体であって自分の身体でないような。なんだかふわふわとしている」

「……魂、か」

 アインが呟く。

「僕らの本当の肉体は、きっと図書館の床に倒れているんだろう。昨日のフィッケと同じようにね」

「つまり」

 アルマークは頷く。

「これはかりそめの身体というわけだね」

「おそらく」

「君の読みは正しかったわけだ、アイン」

「読みというほどのものじゃない」

 アインは首を振る。

「ただ、もし何かが原因で魂を抜かれるのなら、抜かれるその瞬間の自分のイメージというものが大切なんじゃないか、と思っただけさ」

「でも、君の読みのおかげだ。わざわざ寮に帰った甲斐があったよ」

 アルマークは言いながら、自分のローブの中に手を差し入れる。

 そして、ゆっくり取り出したのは、アルマークの相棒たる長剣。

「これがあるとないとでは全く違うからね」

 アルマークは長剣を鞘から抜き、異常がないことを確認する。

「やはり持ってこれたのか」

 アインはそう言って頷く。

「君の部屋でそれが目に付いたからな」

 言いながら、自分もローブに手を差し込み、杖を取り出す。

 万が一に備え、今日、二人はローブの中にそれぞれの得物を忍ばせて持ってきていた。

 それが自分の肉体のイメージとなって、着ていたローブなどと同様、魂となった今でも二人の手元に残ったのだ。

「君があの本を掴んだ時は驚いたが」

 言いながらアインは手の上の炎を杖の先に移す。

「あれは、操られたのか」

「うん、おそらく。すまない」

「いいさ。たまたま君だっただけで、僕が操られていたかもしれないんだ」

 アインの慰めに、アルマークは首を振る。

「いや。僕は仕組まれた気がする」

「仕組まれた?」

 アインが怪訝そうにアルマークを見た。

 アルマークの脳裏をよぎった、蛇の指輪。腐臭。

 銅貨と銀貨の魔術師。

 答のピースはもう全て手中にある気がするが、まだそれらがうまく結び付かない。

「詳しくは後で話すよ。それよりも、フィッケを探さないと」

「ああ。そうだな」

 アインは杖を持ち上げ、その灯で通路の先を照らす。

 光が届くところまで、まっすぐに通路が続いている。

 その先は、闇だ。

「ここは、あの本の中なんだろうか」

 アルマークが言うと、アインは首を捻る。

「さて。僕にもはっきりとしたことは分からないが……本の中だとすれば、何かあるのか」

「ここが本の中なら、手掛かりはある」

「ほう」

 アインが挑むような目でアルマークを見る。

「今度は、君の番か。何に気がついた」

 どこか面白がるその口調は、もう普段どおりのアインだ。

「僕たちが引き込まれる直前、本がひとりでに開いただろう」

「ああ」

「あそこに何が書いてあったか、読めたかい」

「いや」

 アインは即座に否定する。

「さすがにあの状況で文字まで読む余裕はなかった。……まさか、読めたのか」

 アインの言葉にアルマークは頷く。

「目に入った部分はね」

 アインは苦笑して首を振る。

「さすがだな。自分の身体が操られていたというのに。それが君の勇気というやつか」

「そんな大層なものじゃないよ」

 アルマークは、自分の目に入った文章をゆっくりと思い出す。

「魔物について書かれていた」

「魔物」

 アインが顔をしかめる。

「どんな」

「巨大な牛か犀のような外見。固い甲羅と鋭い角。何物も噛み砕く牙。四肢に充満する邪悪な力」

 アルマークは文章の断片を口にする。

 不吉な言葉が並んでいく。

「闇の魔獣だ。僕の知る限り、それは闇の魔獣エルデイン以外にない」

「エルデイン」

 アインは復唱する。

「本で読んだことはある。デリュガンやボラパと並ぶ闇の眷族だと」

「うん。僕は北で一度だけ出会ったことがある」

 その時は、倒せなかった。

「そうか。君の見た文章が間違いなければ」

 アインは通路の先の闇に目をやる。

「そいつがこの洞窟の中にいるのかもしれないな」

 新たな情報を得て、またアインの頭脳が回転を始める。

「そうすると、これは牢獄の術の応用なのかもしれない。あの本そのものを魔法の牢獄に見立てたんだ。とすれば、条件があるはずだ。牢獄の術で捕らわれたら、設定された条件を満たさなければ出ることはできない。ここにも何かそういう類の条件が」

 そうであれば、とアルマークを見る。

「君の言うそいつが条件か。そのエルデインを倒せば、ここから出られるのかもしれないな」

「倒せば、か」

 アルマークは浮かない顔をした。

「エルデインは闇の魔獣だ。モルドとかジャラノンみたいな普通の魔物とはわけが違う」

「強いということか」

 アインの言葉にアルマークは頷く。

「強い。ものすごくね。できれば戦いたくはない」

 そう言いながらも、淡々と続ける。

「でもそれしかないのなら、どうにかして倒すしかないね。いずれにせよ、エルデインなんかに出くわしたら、どうしたって生きるか死ぬかになるしかないんだ」

 その悲愴感のないさばさばとした口ぶりに、アインが少し戸惑った顔をした。

「生きるか死ぬか」

 アインはアルマークの言葉を口の中で繰り返してから、首を振る。

「こういう状況でそんな言葉をあっさりと言える。そして、実際にその覚悟ができている。君はそういう環境で育ったんだな」

 アルマークが答えないでいると、アインはちらりと笑顔を見せた。

「だが、今はそれが心強い」





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― 新着の感想 ―
アルマークは強いけど魔法の面ではアテにならないからアインが同行してるのは助かりますね どちらか一人づつだったら危険だったかも?いやまだ現在進行形ですが…
[良い点] 頭が良い同士の会話って、凄いな。 そして、その頭が良い同士の会話を書ける作者さんも、凄いな。
[良い点] アインの察しの良さが小気味いいですねー
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