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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第七章

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閉会式

 試合場を下り、全員で控え室に戻る。

「ちょっと休憩したらすぐに表彰式を兼ねた閉会式だ。どこか遠くに行くんじゃないぞ」

 ボーエンが顔を出してそう言い、慌ただしく試合場の方へ戻っていく。

 アルマークの足はずいぶん動くようになっていたが、それでもまだ本調子には程遠かった。

 先ほど飲んだセリア先生の薬の後味のひどさと相まって、アルマークは涼しいところへ出たくなっていた。

「少し、外の風に当たってくるよ」

 ネルソンにそう声をかけ、武術場の外に出る。

 閉会式を控え、人影はまばらだ。

 初秋の風が心地いい。

 一時はどうなることかと思ったけれど、どうにか試合を終えることができた。

 チームも勝ち、クラスも優勝。

 レイラやレイドーが負けてしまったのは残念だけれど、これは命のやり取りのない戦い。

 きっと二人とも、敗北を糧にもっと強くなるだろう。

 そんなことを考えていた時だった。


「ありがとう」


 背後から、聞き覚えのある声。

 アルマークは振り返った。

 白い肌に、黒い髪。アルマークと同い年くらいの少女。

 アルマークに警告してくれた、あの少女がそこに立っていた。

「ありがとう、アルマーク」

「君は……」

「怪我は大丈夫?」

 心配そうな瞳。

 アルマークが思わず頷くと、少女は真っ直ぐにアルマークの目を見つめた。

「命を懸けて守ってくれたんだね」

 少女は言った。

「みんなを」

「みんな……?」

 アルマークが反駁すると、少女は頷く。

「アルマークが守ってくれたんだよ。みんなの……」

 少女は、目を潤ませていた。

「何でもないただの、特別な一日を」

 何でもないただの特別な……

 その言葉は。

 その言葉を僕に教えてくれたのは。

 アルマークは目を見開いた。

「君は」

 アルマークは言った。

 そういえば。

 アルマークは思い当たる。

 彼女は試合の時も、ウェンディの応援をしていた。

「君は、ウェンディの何なんだい」

 しかし、少女は答えない。

 代わりに、少女は微笑む。どこか陰のある寂しそうな笑顔。

「あなたのことは知ってる。アルマーク。とっても強くてとっても優しい男の子」

 アルマークは戸惑って言葉に詰まる。

 少女が不意に、アルマークに頭を下げる。

「どうかウェンディのことを、お願いします」

 真摯な声。

 アルマークが答えようとしたとき、風が吹いた。

 強い風。

 思わずアルマークが目を閉じる。

 ごく一瞬のまばたき。

 目を開けたとき、もう少女はどこにもいなかった。

 控え室のほうから、ネルソンの声がする。

 アルマークを呼んでいるようだ。

 アルマークは振り返って一声、返事をすると、首を振って気持ちを切り替えた。

 それから、ゆっくりと控え室に向かって歩き出した。



 閉会式。

 開会式と同じように各クラスの選手たちが試合場に整列する。

 2組の先頭に立つアルマークの隣には、また1組のアインが立つ。

「優勝おめでとう」

 アインが前を向いたまま、アルマークにそっと声をかけてくる。

「ありがとう」

 アルマークも前を向いたまま答える。

「ごめん、君の試合は見られなかった」

「構わないさ。そんなことより」

 アインは口許にうっすらと笑みを浮かべた。

「優勝チームの代表は主賓からトロフィーを受け取るんだ」

 そう言って貴賓席を見上げる。

「ウォルフ王太子から今日トロフィーを受け取るのは、君だ」

 アルマークが横目で見ると、アインの笑みはやや皮肉めいたものに変わっていた。

「君、確かめてこいよ。王太子の顔の傷……噂が本当かどうか」

「趣味が悪いな」

 アルマークが小さく首を振ったとき、場内に表彰式の開始を告げる案内が響いた。


 まず、各クラスから一名ずつ優秀選手が選ばれる。

 1組からは、アイン。

 3組からは、ロズフィリア。

 そして2組からは、モーゲンだ。

 3人は前に呼ばれ、審判を務めたボーエンからメダルを授与される。

 大きな拍手が3人に送られる。

 そしていよいよ、優勝チームの発表。

 結果はすでに分かっているものの、皆が読み上げられるチームの名を待つ。

 総合優勝は2組、と告げられると2組の選手たちは一斉に喜びを爆発させ、観客席からも大きな拍手と歓声が上がった。

「やったぜ!!」

 ネルソンが両手を突き上げて叫ぶ。

 アルマークも笑顔でモーゲンたちと肩を叩きあったが、アインの先ほどの話のせいで、目は貴賓席から離せなかった。

 アルマークの視線の先で、ウォルフ王太子が立ち上がる。

 案内の女性に先導され、ゆっくりと階段を下りてくる。

 その姿に、観客席の歓声も徐々に収まっていく。

 王太子は落ち着いた足取りで、観客席と試合場の間に設えた表彰用の台に上がった。

「アルマーク」

 ボーエンに呼ばれ、アルマークも彼の先導で表彰台のもとへと歩く。

「粗相のないようにな」

「はい」

 ボーエンの短い指示に頷く。

 アルマークは表彰台の前に達すると、素早くひざまずいた。

 先導していた女性が、王太子にトロフィーを差し出す。

「構わぬ。立って近くに寄れ」

 囁くように、王太子が言った。

 やはりアルマークたちと同い年らしい、少年の声だった。

 アルマークは立ち上がって、王太子の前に立つ。

 台上にいる分、王太子の背はアルマークより頭一つ分以上高い。

 アルマークの目の前にあるのは、王太子のローブの胸の、ガライ王家の紋章だ。

 アイン、これでは王太子の顔は見えないよ。

 アルマークは心の中で呟く。

 しかし、王太子から意外な言葉が発せられた。

「面を上げよ」

 その命令に従い、アルマークは、ゆっくりと顔を上げた。

 穏やかに微笑む王太子と目が合った。

「良い試合であった」

 王太子はそう言って、アルマークにトロフィーを差し出す。

「励め。なおいっそう、な」

「ありがとうございます」

 アルマークはトロフィーを両手で押し戴いた。

 王太子はそれを見届けると、身を翻してまた主賓席へと戻っていく。

 アルマークはトロフィーを押し戴いたまま、王太子が去るまで顔を上げなかった。


 僕の動揺は、顔に出なかっただろうか。


 アルマークのトロフィーを持つ手に汗が滲んでいた。

 王太子の顔を見た瞬間、声を上げそうになった。

 アインの言葉通りだった。

 王太子の口許には、噂通り引き攣れたような傷跡が残っていた。

 しかし、そんなことよりも。

 フードの内側に覗く艶やかな金髪と、整った顔立ち。

 涼しげな目元。

 その顔は。


 ウォルフ王太子の顔は、ウォリスと瓜二つだった。



「どうだった」

 列に戻ると、アインがすぐに囁いてきた。

「傷は」

「あった。口許に」

 アルマークは短く答える。

「本当にあったのか」

 アインは意外そうな声を出す。

「どんな顔だった」

「よく見えなかった」

 アルマークはとっさに嘘をついた。

 なぜか、今見たことは軽々しく人に話してはいけない気がした。

「王太子は台の上だから。口許しか見えなかったよ」

「そうか」

 アインは残念そうに答える。

「仕方ない。来年、僕がトロフィーを受け取るしかないか」

「そうしてくれ」

 アルマークは言いながら、貴賓席の最上段のウォルフ王太子を見上げた。

 閉会式が終わり、王太子はゆっくりと立ち上がるところだった。



 武術場から正門へと至る道すがら。

 王太子とその従者の一行が静かに歩いている。

 今、賑やかな武術大会を見終えたばかりだというのに、誰一人声を出す者もいない。

 一行はこのままノルクの港に停泊している王家専用の船に乗り込み、今夜中にはこの島を離れることになっていた。

「どうであった」

 不意にウォルフ王太子が、後ろを振り返りもせずに、そう言った。

「成果はあったのか」

 その口調にはほとんど何の感情も込められていない。

「なかなかに難しゅうございました」

 王太子の呼び掛けに応えたのは、その斜め後ろに付き従う白ローブの男。

 宮廷魔術師のライヌルだ。

「そう簡単に、万事うまくは参りません。銀貨と銅貨を何枚か、失いました」

 言葉とは裏腹に、その口調には楽しげな響きが混じる。

「とはいえ、収穫もないではありません」

「ほう」

 王太子の口調に変化はない。

「余を満足させられるほどの収穫か」

「そこまではなかなか」

 ライヌルの口調はどこまでも楽しげだ。

「ですが、お約束いたします。近いうちに必ずや、殿下のお望みを叶えてご覧に入れましょう」

「ライヌル」

 その声に、初めて感情のようなものが籠った。

「思い上がるな。貴様ごときに余の何が分かる」

「これは……失礼いたしました」

 ライヌルは王太子の背後で頭を下げる。

「不肖ライヌル、殿下の命ぜられるままに働くのみでございます」

「その言葉、忘れるな」

 王太子は、ライヌルを振り返った。

 ライヌルの目にも、その口許の傷跡がはっきりと見えた。

 王太子は、厳かにライヌルに告げた。

「励め。なおいっそう、な」







長々と続いてきた武術大会編もこれで終わりとなります。

ここまでお付き合いいただいた読者の皆さま、ありがとうございました。

アルマークの物語を先に進めるために、書籍版アルマークのご購入を、どうかお願いいたします。



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― 新着の感想 ―
武術大会、堪能しました。どの試合も見応え十分だったうえに、イルミス先生やウォリス、マイア先生、王太子などなど試合以外の要素までたっぷりで、もう豪華三段重ねのおせちをいただいたように(不適切な例え)満足…
ウェンディの代わりに毒殺されちゃった子なのかな?あなたさまって間違えてたのは王太子だったのか...闇が深い...
やはり、か。 不分明なのはアルマークに見せた称賛と笑顔を見せた王太子が裏ではアルマークを殺しかけたという事実…その心底は奈辺にあるのか? そしてウェンディに関係していると判明した不思議な少女…謎だらけ…
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