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【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第七章

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レイラ

 

「15歳までだ」


 父の怒りに震えた声が、今でもレイラの耳に残っている。

「15歳まで待ってやる」

 クーガン家の復興。

 自分では何一つできはしない父。

 父祖の責務を果たせぬまま、それを自分に押し付けようとしている、情けない男。その自覚もないくせに。

 私はあなたの所有物ではない。

 残念ながら、あなたの娘はそういう従順なご令嬢には生まれなかった。御愁傷様。

 私は自分の足で歩く。自分の道は自分の力で切り拓くと決めたのだ。

 あなたの引いた汚泥まみれの道など、誰が歩くものか。


 それでも、親は親だ。

 血族という名の見えない鎖は、レイラの頸にしっかりと巻き付いていて、レイラに残る猶予時間を告げる。

 あと三年。

 だから、レイラは常にこう思っている。

 私には、時間がない。



 やっぱり、うまい。

 レイラはロズフィリアの攻撃を防ぎながら思った。

 こちらが見せた隙は一瞬だけだった。

 ロズフィリアが突然攻撃のテンポを変えたのに対応しきれなかった。

 だがその一瞬のズレをロズフィリアは見逃さなかった。

 小さな穴から堤防が決壊するように、ロズフィリアはその一瞬の差を巧みに大きな差に変えていった。

 気付けば、レイラは防戦一方になっていた。

 ロズフィリアの笑みを含んだような優雅な表情は変わらない。

 だが、その表情とは裏腹に、繰り出してくる一撃一撃には全て、レイラを倒そうという強い意思が宿っている。

 意思だけではない。一撃一撃に、獲物を追い詰める老練な狩人のような意図が込められている。

 自分の選択肢がどんどん狭められていくのが分かる。

 さすがは、ロズフィリア。

 悔しいが、レイラも認めざるを得ない。

 学年2位は伊達ではない。

 ロズフィリアの剣がレイラの胴を掠める。

 ロズフィリアは勝利を確信している。その顔を見れば分かる。

 取り澄ましていても、内心は私を倒せるのが嬉しくてしょうがないんでしょう。

 レイラは思った。

 でもね。

 レイラの続く一撃が、ロズフィリアの表情を凍りつかせた。

 男子もかくやと思わせる、強烈な打ち払い。

 ロズフィリアの剣が弾かれる鈍い金属音が響く。

 これまで隠していた。

 ロズフィリアの計算を崩すために。

 その一撃が、全ての流れを変えた。

 レイラのその狙い澄ました強力な打ち払いで、ロズフィリアが体勢を崩す。

 そこをレイラが一気に畳み掛けた。

 流れるようなレイラの連続の突きを、それでも防いだロズフィリアはさすがだった。

 だが、そこまでだった。

 レイラの突きが、ロズフィリアの胴を掠める。

 私には、時間がない。

 レイラは心の中で叫ぶ。

 私は、あなたたちとは違う。

 レイラの突きを、ロズフィリアが先程までの余裕をかなぐり捨てて防ぐ。よける。

 ロズフィリア。

 あなたもフォレッタの貴族だけれど、あなたには兄弟がいる。

 立派な両親がいる。

 だからあなたはのんびりと学院の生活を楽しみ、へらへらとしていられる。

 私にしてみれば、あなたもただの甘ちゃんだ。

 あなたたちはこの狭い世界で勝った負けたを繰り返していればいい。

 私が見ているのは、そんなところじゃない。

 レイラは攻撃の手を緩めない。

 まるで怒りをぶつけるように、ロズフィリアに剣を叩きつける。

 ついに受け損ねて、ロズフィリアの体勢が崩れる。

 胴ががら空きになる。

 別に、2位でも1位でもあなたが勝手に取ればいい。

 レイラが右腕に力を込める。

 そして、ロズフィリアの胴に必殺の突きを放つ。

 私は、その先へ行く。



 しかし、その突きがロズフィリアの胴を捉えることはなかった。

 ロズフィリアの姿がいきなりレイラの視界から消え、レイラの剣が虚しく空を切る。

 と思ったときには、ロズフィリアはレイラの脇にいた。その顔には、さっきまでの余裕が戻っている。

 どうして。

 驚愕に目を見開くレイラの胴を、ロズフィリアの剣が優しく突いた。

「そこまで!」

 ボーエンの声が無情に響く。



「最初に2組の男子たちを見たときは、ちょっと危ないかもと思っていた」

 立ち尽くすレイラに、ロズフィリアは言った。

 優雅に汗を拭うその顔には、微笑みが戻っている。

「でも、さっき話してみて安心した。あなたが今までのレイラのままだったから」

 レイラは何も言わない。ただ、荒い息をつきながらロズフィリアの顔を見ている。

「あなたはいつも通り一人で戦っていたから。それなら悪いけど私の敵じゃない」

 ロズフィリアは3組の応援席を振り返る。エストンたちが手を叩いて喜んでいるのが見える。

「私の練習相手はずっとエストンやポロイスだったのよ。だから、あなたの打ち払い。あの程度のパワーじゃ驚かない」

「……最後、体勢を崩したくせに」

 レイラが呟く。

「ああ」

 ロズフィリアが声を出して笑う。

「崩したように見えたでしょ? あれをやると男子もころっと騙されるのよね」

「……騙された? 私が?」

「あなたも自分の見たいものしか見ないのね。そういう人は騙しやすい」

 ロズフィリアはそう言ってから、笑顔を引っ込め、表情を改めた。

「ウェンディとずっと練習していたのかしら? それならそれで、彼女から何か吸収すべきだったわね。あなたがあなたのままで挑んでくるのなら、何度来ても」

 ロズフィリアはレイラの目を覗き込んで囁く。

「私は、負けない」

 レイラの顔が、屈辱に歪む。

「上ばかり見て、自分の足元に何があるのか見えていない。たまには自分の周りを見てみたらどう?」

 あんなに素敵な仲間がいるのに、と言ってロズフィリアは2組の応援席を見た。

「みんな、黙っちゃってるわ。あなたを信じてたのね」

 レイラは振り返らない。ロズフィリアの顔を見ている。

 ロズフィリアは呆れたように笑う。

「……あなたは? 彼らがあなたを信じていたようにあなたも彼らを信じていたのかしら」

 その問いにも、レイラは答えない。

 ぎりっ、という歯軋りの音がロズフィリアの耳まで届いた。

 ロズフィリアは、こくん、と頷く。

「あなたに力があるのは認める。あなたは強い。とても強いわ」

 青ざめた顔のレイラを見るロズフィリアの顔は、どこか悲しそうに見えた。

「だから、あなたを口だけのレイラとは呼ばないわ。あなたは、そう」

 ロズフィリアは最後にそっとレイラに囁いた。

「ひとりぼっちの、レイラ」





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― 新着の感想 ―
この負けからレイラが学びを得られるといいんだけど… 3年しかないというけれど学院で過ごす残りの時間はとても濃密なものだろうから。
個性的でカッコ良い子ばかりなんだけど11歳なんだよなー。
[良い点] 口だけのレイラと言わずに、ひとりぼっちのレイラと言うあたりにロズフィリアの個性が映えていると感じました。ロズフィリアが悪い印象だけではないことを見せてくれたいい話でした(`・ω・)b
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