攻防
観客席。
「おお、ロズフィリアだ」
フィッケが声をあげる。
「しかも相手はレイラだ。面白いな」
そう言ってアインを振り返る。
「アインのライバルの女二人の勝負だな」
「ライバル?」
聞き咎めたアインが片眉を上げる。
「だって休暇前の試験で、順位がアインの前後だった二人だろ?」
「ああ、そういうことか」
アインはつまらなそうに首を振る。
「悪いけど、僕は試験の順位にはそんなに興味ないんだ」
そう言って、試合場に目を戻す。
「でも、レイラに負けたことはないな。彼女はいつも4位か5位。ロズフィリアは3位か2位だ」
「今回はロズフィリアに負けたんだろ。アインは3位だったんだよな」
「まあ前回は勝ったけどね」
「やっぱり気にしてるじゃないか」
フィッケがにやにやと笑うのを見て、アインは右手を挙げ、フィッケの顔に向けて空中で中指を弾く。
指から放たれた空気の塊がフィッケの額を跳ね上げる。
「いてっ」
「気にしてないよ」
アインは澄ました顔だ。
「いや、気にしてるって。いてっ」
またアインが指を弾き、見えない塊がフィッケの額を打つ。
「気にしてない」
「いや、気にして、いてっ」
「気にしてない」
「いてっ。いてっ。いって」
「ほら。始まるぞ」
「……アインはどっちが勝つと思う?」
涙目で赤くなった額をさすりながらフィッケが尋ねる。
「まあどっちも強いけど……そうだな。8:2でロズフィリアの勝ちだな」
アインの答えに、フィッケは首を捻る。
「そんなに差があるかな。魔法や勉強はともかく、武術はレイラも強そうだけど」
「そうだな。レイラは強い」
アインが頷くのを見て、フィッケが訝しげな顔をする。
「なら、レイラにだって勝ち目が」
「レイラは強いんだ」
アインはそう呟いて、もうフィッケの問いにそれ以上答えようとはしなかった。
レイラとロズフィリアの試合が始まった。
レイラがまず打って出る。
それをロズフィリアが迎え撃つ。
素早い突き。軽やかな足捌き。
先程までの男子たちの戦いと違い、激しさの中にも華やかさがある。
剣と剣のぶつかり合う金属音までもどこか軽やかだ。
ロズフィリアが反撃に転じる。
その突きを、レイラがこれも華麗な足捌きでかわしながら剣で打ち払う。
攻守が目まぐるしく入れ替わる。
観客席から、感心したようにため息が漏れる。
二人の力は拮抗しているように見えた。
「ロズフィリアは、うちの学年の女子でナンバーワンだ」
ネルソンがアルマークに説明する。
「一年の時から女子は、ロズフィリアが一番でウェンディが二番。今はレイラが上がってきたけど、一番がロズフィリアなのはずっと変わらねえ」
「優秀なんだろうなってのは、見れば分かるよ」
アルマークは頷く。
「彼女も貴族?」
「ああ、フォレッタ王国の……苗字は忘れたけど、いい家の出さ。今回の五人のなかで、貴族じゃないのはレイドーの相手のルゴンだけじゃねえかな」
「そうか……」
「二人は今のところ互角に見えるよ」
モーゲンが言う。
「レイラはずっとウェンディと練習してきたんでしょ。ウェンディもあのエメリアに勝ったんだ。レイラだってきっと勝つよ」
そのモーゲンの目の前で、レイラの鋭い突きをロズフィリアが柔らかい身のこなしでかわして、反撃の突きを飛ばす。
「うわ……」
そのしなやかな動きに、ネルソンまでが感嘆の声を漏らす。
「レイラー!!」
レイラを応援する声に、アルマークたちは振り返る。
応援席のウェンディだ。険しい顔のトルクの横で、一生懸命声を出している。
「レイラとウェンディは仲いいよね」
ふとアルマークが言うと、ネルソンが頷く。
「ああ。というか、レイラは……」
「ウェンディとしか仲良くない、んだよね」
レイドーがネルソンの言葉の後を引き受ける。
「他の女子とも仲良くないよ。もちろん、今戦ってるロズフィリアとも」
「どうしてウェンディとだけは仲がいいんだろう」
「さて」
レイドーは首をかしげる。
「なんでかな。女子には色々あるからね。僕ら男子には分からないことが」
「二年生の時にはもう仲良かったよ、あの二人は」
モーゲンが思い出したように言う。
「ウェンディは誰とでも仲良くなれる子だから」
「そうだね」
アルマークは頷く。
僕も、それに助けられた。
不意に、ロズフィリアが攻防のリズムを変えた。
レイラの対応が一瞬遅れる。
「ああっ」
思わずモーゲンが声をあげる。
ロズフィリアはその一瞬のズレを見逃さなかった。
直前まで保たれていた均衡が一気に崩れ、勝敗の天秤がロズフィリアに大きく傾く。
「まずいよ、アルマーク」
「うん」
アルマークは厳しい顔で頷く。
「でも、レイラは強い」
自分に言い聞かせるように言う。
「レイラは強いんだ」
「そうだな。強いあいつが自分で勝つって言ったんだ。信じるしかねえだろ」
ネルソンが頷く。
「あいつの気が散らないように、静かに応援しようぜ」
「うん」
「そうだね」
四人は祈るように試合を見つめる。
「レイラ、頑張れ」
モーゲンの呟きが漏れた。




