↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】アルマーク ~北の剣、南の杖~  作者: やまだのぼる
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/710

その日の朝

 武術大会の朝が来た。

 正門から校舎まで、道に多くの衛士が立ち、入場客の案内をしている。

 入場客は、次から次へと、引きも切らない。

 地元であるノルクの街の住民たちを始め、この日のためにわざわざ海を渡ってきた本土の人たちも多く、老若男女、大変な盛況だ。

 この大会を当て込んだ商売人たちが、学院までの道々で露店を開き、お祭りのような騒ぎになっている。

 とはいえ、正門ではその賑やかさとは対照的に厳重な所持品検査が行われている。

 国王を始めとする多数の来賓の訪れる行事だ。万が一の事態があってはならない。

 ジードたち通常の衛士のほかに、魔術師である学院の教師たちも交代で正門に立ち、魔術的な危険物品が持ち込まれていないか目を光らせていた。

 少しでも不審な物品があれば、容赦なく没収か入場拒否かの二択を迫られる。

 一般客が入場を終える頃には、来賓たちがやってくる。

 来賓の多くは学院内の貴賓用施設で一泊するが、多忙を極める国王は、大会終了後、他の王族とともに王家専用の船で今日のうちに島を発つという。

 そうまでして、国王自らが臨席する大会。

 無論、この一大イベントを通じて国民の人気を集めるという国王側の思惑も多少はある。

 しかし、国王の臨席によってガライ王国がいかにこの魔法学院を重要視しているのかということを内外に示す効果が最も大きいといえるだろう。

 数多の優秀な魔術師を輩出してきたノルク魔法学院が、ガライ王国によって運営管理されているという事実の確認。

 魔法先進国たるガライの力の誇示の一環。

 同時にそれは、この学院の権威の維持向上にも一役買っていた。

 とはいえ、そういった上の事情はアルマークたちには何の関係もないことだ。

 アルマークはいつものように寮を出て、前を歩くウェンディの姿を認めて、今日は幸先がいいぞ、とほくそ笑んだ。

「ウェンディ」

 声をかけると、ウェンディが振り返る。

 声の主がアルマークであることが分かった途端、こぼれんばかりの笑顔に変わる。

「おはよう、アルマーク」

 自分を見てウェンディが笑顔になる。

 それが、最近のアルマークにとっては最も嬉しく、幸せを感じられる時だ。

「おはよう。いよいよだね」

 言いながらアルマークはウェンディの隣に並ぶ。

「うん。昨日は緊張してあんまり眠れなかった」

 ウェンディがそう言って微笑む。

「アルマークは?」

「僕は、まあいつもどおり」

「さすがだなぁ」

「夜、モーゲンが相談に来たよ。緊張して眠れないって」

「えっ。大丈夫かなモーゲン」

「横になって、瞑想の要領で心の中を空っぽにしてみたらって言ってはみたんだけど。朝食の時にやっぱりあんまり冴えない顔してたなぁ」

「そうなんだ。ちょっと心配だね」

「うん、でもモーゲンは本番に強いから。僕は心配してないよ」

「すごい信頼感」

「まあね」

 そんな他愛もないことを話しながら歩く。

 こういう日々が、これからも続けばいいな。

 そんなことを考える。

「今日もいい天気だね」

 ウェンディの言葉に空を振り仰ぐ。

「そうだね。いつもどおりのいい天気だ」

 いつもどおりの青空。

「今日が武術大会だとか、空には関係ないんだね。当たり前だけど」

 アルマークが言うと、ウェンディは頷いて、呟くように言う。

「今日は、なんでもないただの特別な一日」

「なんだい、それ」

「私の大切な人が昔言ってた言葉」

 ウェンディは、ふふ、と笑う。

「なんでもない毎日が、実は特別な日っていう意味なのかな。だから逆に言えば、特別に見える今日も、実はただの一日」

「そうだね。なら、特別緊張する必要はないってことだ」

「うん、そうだね」

 ウェンディはアルマークを見て、にこりと笑う。

「そう考えたら気が楽になってきた」

 やがて、武術場が見えてきた。

 正面の入口はすでに押し寄せる観客の列ができている。学生たちは裏口から入ることになっていた。

「初等部でこの人数のお客さんが来るなら、中等部とか高等部はもっとすごいことになってるんだろうね」

 アルマークの言葉にウェンディは首を捻る。

「私も見たことないの。初等部の一、二年生は校舎で普通に授業だから」

「あ、そうなんだ」

「うん。だから私に聞かれても、分からないことばっかりだよ」

「そうか。僕、分からないことは大抵君に聞けば解決すると思ってるからなぁ」

 話しながら裏口に回ると、入口の前にネルソンが立っているのが見えた。

 その隣には、モーゲンやレイドーもいる。

 トルクチームの姿は見えないので、もう中に入ってしまっているのかもしれない。

 ネルソンが二人に気付き、手を振ってくる。

「ネルソンたちだ。ずいぶん早く来てたんだな」

「やっぱりみんなも緊張してるんじゃない?」

 ウェンディの言葉に、アルマークはいたずらっぽく笑った。

「なら言ってあげないとね。今日は」

 アルマークの声に、笑いを含んだウェンディの声が重なる。

「なんでもないただの特別な一日」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「なんでもないただの特別な一日」 いい言葉ですね。特別な日でも肩の力が抜けるし、普通の1日も大切にしようと思える。
なんでもない毎日が特別…なんだか身につまされる言葉ですね。 普通に過ぎ去ったなんとも思わなかったただの毎日も特別だったのだなと 今振り返ってしみじみと思い返してしまいます。
[良い点] うん面白い、しっかり内容が練られてて読んでて飽きない最近これのせいで睡眠不足気味ですw これからもお体には気をつけてください。 [気になる点] ない。なんにもない [一言] いいぞ〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。