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第2話:父との再会

<前回のあらすじ>

夢から目覚めた、公爵令嬢のエリーゼは、大会に参加するため、腹ごしらえを済ませて会場へと向かう。

会場へと向かう際、大家のティアーネの激励を受け気を良くしたエリーゼは、受付けの近くまで行くとならず者達に道を塞がれてしまう。

大会の規定で、出場者には開催中の揉め事は御法度とされている為、ならず者達を閃光で目眩ましをしたエリーゼは、受付を済ませ会場内へと進むのだった。

 エリーゼが女性の係員による所持品検査を受けている間、建物の奥からは何やらざわめきが聞こえてきた。出場選手たちは、遠くからエリーゼについての噂を囁き合っている。

「おい、あいつが例の…」

「あぁ、ルバートの娘らしい」

 エリーゼが有名なのは、そもそも父親が世界的に有名だというのが起因してはいる。

 ただ実際の所、ギルドに所属している数少ない女性メンバーだという事と、エリーゼ自身も実力が確かなものであり、親子共々実力が非常に高いからと言うのが本来の理由である。

 "持参した武器が使えないという事は、主催者側で代わりの武器を用意してくれているのかしら。それだけが心配だわ"

 所持品検査を受けながら、エリーゼは周囲で自分のことが噂されていることに、もはや驚きもせず、当然のように受け入れていた。彼女の心はすでに試合に向けた準備を始めており、そのための集中力を高めているのだ。

「お待たせしましたー。それでは此方の番号札をお持ち下さい。あちらから奥に進んで頂けると、左手に出場選手の控え室がございますので、其方で番号が呼ばれるまでお待ち下さい」

 そう言うと、係員は束ねられたカードの中から、マークの付いた番号札を抜き出して手渡す。エリーゼに渡ったその番号札には”176”と書かれていた。

「176?」

 前回の大会では1000人を遥かに超える参加数だったという。

 大会が毎年開催されるたびに、上位入賞者に贈られる特典がますます豪華になっていることから、参加者の数も年々増加しているはずだった。

 しかし、そんな中でも自分が受け付けの締め切りギリギリにやって来て、その番号が驚くべきことに176番だと知ると、エリーゼはどんな作為的なものがあるのかと考え出す。

「えーっと、それはですねぇ…」

 係員が訳を話そうかどうかと迷っていたその時である。

「どうしたエリーゼ。後ろが控えているんだ。さっさと奥に進むんだ」

 野太い声と共に群青ぐんじょう色の光沢を帯びた全身鎧プレートアーマーを身にまとった、たくましい体つきの男が、ひょっこりと姿を現した。

 その鎧は重厚で、まるで彼の力強さを象徴しているかのようだった。

「父さん…」

 その男は、エリーゼの父親であるルバートだった。


 *********


 それは、エリーゼがギルドの依頼を達成して、ギルドマスターに報告をしに行こうとした昨年の事である。

「……ない」

「………か」

 エリーゼが冒険者ギルドの集会所に足を踏み入れようとしたその瞬間、建物内でマスターであるルイスと彼女の父親であるルバートが、椅子に腰を落ち着けて語り合っている光景が目に飛び込んできた。

 "あの2人の組み合わせは最近だと珍しいわね。昔コンビを組んでいたっていうのは知っているけど"

 エリーゼは、その場で立ち止まり、興味津々に耳を傾け始めた。

 エリーゼがまだ幼い頃、ルイスと父親がコンビを組んで世界中を飛び回っていた時代。ルイスと父親が組んで世界中を駆け巡っていた時代を思い起こす。彼女は泣きじゃくる自分を見送り、彼らが冒険の旅に出発する姿を、鮮明に思い出した。

 そんな彼らも、数年前に前任のマスターが正式に引退し、現在のマスターであるルイスが就任した際に、コンビは解消された。以来、ルバートは単独でありとあらゆる任務をこなす。

 彼女が知る父親は、孤高のギルド員であり、単独行動を好む傾向があった。一方で、マスターのルイスはコンビ時代から周囲を纏める役割を果たしており、コンビが組まれていた頃でも、集会所では2人が別々の席に座るのが常であった。そのため、普段は酒場でもない限り、2人が長々と話し込む様子を見かけることはまずなかった。

 最近は父親に会う機会が減り、彼の仕事の詳細について尋ねても、何も答えてくれなかった。そのため、彼がどこに行っているのか、どのような任務に従事しているのかが気になっていた。今回の出来事は、その疑問がいよいよピークに達した時に起こったのだ。

「と言う事は…ギルドを脱退するんだな?」

「あぁ、そうしようと思う。今の俺にとって、この肩書はかえって邪魔でしかない」

 エリーゼが昔のことを思い出しているその時、マスターが承諾する声と、父親の決意に満ちた言葉が彼女の耳に届いた。

 どうして!?

 エリーゼにとって、父親であるルバートは憧れの存在だった。彼女がギルドに所属する決意をしたのも、彼の影響が大きかった。だが、その父親がギルドの脱退を決意したというのだから、エリーゼにとっては、心の中で渦巻く感情を抑えることができなかった。

「父さん! 今の話ってどういう事? 何でギルドを脱退するのよ!」

 エリーゼは2人の間に割って入り、半ば怒鳴るように父に問い詰める。

「何だ。話を聞いていたのか」とルバートは堂々としている一方で、ルイスはばつが悪そうに対照的な雰囲気が漂っている。

「あ、いや。これはだね…」

 とルイスが言いかけた瞬間。

「お前には関係の無い事だ」とルバートが割り込み、エリーゼの事をぞんざいに扱ったルバートは、その場を早々に去ると、今の今まで行方知れずとなっていた。


 *********


 "ちょっと痩せたみたいだけど、元気そうで何よりだわ"

 久しぶりに父親を見たエリーゼは、元気そうな彼の姿を見て、心からほっとした。

 普段から何となく疲れた表情をしている父親を見て、彼女は常に心配していた。父親が遠征から生傷を負って帰ってくるのは日常茶飯事であり、そのたびに彼女の心が揺れ動いていた事もある。

 それでも令嬢という立場の自分が、敢えて父親と同じ茨の道を進んだのは、武人として多大なる功績で、父親が国王から表彰されていたその姿に憧れたからである。

 そんな偉大な父親を前に、再会したら言おうとしていた言葉も、いざ目の前に立つと口ごもり発する事が出来ないでいると。

「何をボケっと突っ立っている。さっさと奥へ進めと言うのが分からないのか」

「も、申し訳ありません。先へ進みます」

 立ち止まる事さえ許されず、何も言わず仕舞いとなるのだった。

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